源氏物語 第52帖 蜻蛉(23)
氷を持つ女一の宮
五日目の朝座で八講が終わって、御堂の飾りを取り払い、御しつらいを改めるので、北の廂も障子などを取り外してあったので、皆が入り立って整える間、西の渡殿に姫宮(女一の宮)がいらっしゃった。説法を聞き疲れて女房もそれぞれ局にいて、御前はたいそう人の少ない夕暮に、大将殿は直衣に着替えて、今日退出する僧の中に必ず言うべきことがあるので、釣殿の方においでになったが、皆退出してしまったので、池の方で涼みなさって人の少ない頃、この宰相の君などが仮に几帳などだけを隔てて休む上局にしていた。ここにいるのだろうか、人の衣の音がするとお思いになって、馬道の方の障子が細く開いているところから、そっとご覧になると、いつもそのような人のいる様子には似ず、晴れ晴れしくしつらえてあるので、かえって几帳どもの立て違えてある間から見通されてあらわである。氷を物の蓋に置いて割ろうとして騒ぐ人々が、大人三人ほどと女童とでいる。唐衣も汗衫も着ず、皆くつろいでいるので、御前とはご覧にならないが、白い薄物のお召し物を着ていらっしゃる方が、手に氷を持ちながら、このように争うのを少し微笑んでいらっしゃるお顔は、言いようもなく美しい。たいそう暑さの堪えがたい日なので、多い御髪が苦しくお思いになるのだろうか、少しこちらに靡かせて引かれている様子はたとえようもない。多くの美しい人を見てきたが、似るはずもないと思われる。御前にいる人は本当に土などのような心地がするが、気を静めて見ると、黄色の生絹の単衣に薄紫の裳を着た人が扇を使っているのなど、心づかいがありそうだとふと見えて、かえって氷の扱いにたいそう苦しそうである。「ただそのままご覧なさいよ」と言って笑っている目もとに愛嬌がある。声を聞いて、この思いを寄せる人(小宰相)だとわかった。気強く氷を割って、それぞれ手に持った。頭に置いたり胸に当てたりなど、見苦しくする人もいるようだ。
- 1五五いつ日日かととといふいふいうあさあさあさ座座ざにににはてはてはてゝゝて御御み堂堂どうののの飾飾かざりとりとりとりさけさけさけ御御おんしつらひしつらひしつらいあらたむるあらたむるあらたむるににに、、、北北きたののの廂廂ひさしもももさうじさうじそうじどもどもども放放はなちちちたりたりたりしかしかしかばばば皆皆みな入入いりりりたちたちたちてててつくろふつくろふつくろう程程ほど、、、西西にしののの渡渡わた殿殿どのににに姫姫ひめ宮宮みやおはしましおはしましおわしましけりけりけり物物ものきゝきゝききこうじこうじこうじててて女房女房にょうぼうもももおのおのおのおのおのおの局局つぼねにににありありありつゝつゝつつ御御お前前まえはははいといといと人人ひと少少すくなななゝゝなるるる夕夕ゆう暮暮ぐれににに、、、大大たい將將しょう殿殿どの直直なお衣衣し着着きかへかへかえててて、、、今日今日きょうまかづるまかづるまかずる僧僧そうののの中中なかににに必必かならずのたまふのたまふのたまうべきべきべき事事ことあるあるあるににによりよりより釣釣つり殿殿どのののの方方かたにににおはしおはしおわしたるたるたるににに、、、皆皆みなまかでまかでまかでぬれぬれぬればばば池池いけののの方方かたにににすゞみすゞみすずみ給給たまひひいててて人人ひと少少すくなななゝゝなるるるににに、、、かくかくかくいふいふいう宰宰さい相相しょうののの君君きみなどなどなどかりそめかりそめかりそめににに几几き帳帳ちょうなどなどなどばかりばかりばかり隔隔へだてててゝゝてうちうちうちやすむやすむやすむうへうへうえつぼねつぼねつぼねしししたりたりたり。。。こゝこゝここにににやややあらあらあらむむん人人ひとのののきぬきぬきぬののの音音おとするするするとととおぼしおぼしおぼしてててめめめだうだうどうののの方方かたのののさうじさうじそうじののの細細ほそくくく明明あきききたるたるたるよりよりよりやをらやをらやおら見見み給給たまへへえばばば、、、例例れいさやうさやうさようののの人人ひとののの居居いたるたるたるけはひけはひけはいにににははは似似にずずずはればれしくはればれしくはればれしくしつらひしつらひしつらいたれたれたればばば、、、なかなかなかなかなかなか几几き帳帳ちょうどもどもどもののの立立たてててちがへちがへちがえたるたるたるあはひあはひあわいよりよりより見見みとほさとほさとおされれれてててあらはあらはあらわなりなりなり。。。ひひひををを物物ものののの蓋蓋ふたににに置置おきききてててわるわるわるとてとてとてもてもてもてさわぐさわぐさわぐ人々人々ひとびとおとなおとなおとな三三み人人たりばかりばかりばかり童童わらわととと居居いたりたりたり。。。
- 2唐唐からぎぬぎぬぎぬももも汗汗かざ袗袗みももも着着きずずず皆皆みなうちうちうちとけとけとけたれたれたればばば御御お前前まえとととははは見見み給給たまははわぬぬぬににに白白しろきききうすものうすものうすものゝゝの御御おんぞぞぞ着着き給給たまへへえるるる人人ひとののの手手てにににひひひををを持持もちちちながらながらながらかくかくかく爭爭あらそふふうををを少少すこしししゑみゑみえみ給給たまへへえるるる御御おん顏顏かおいはいはいわむむん方方かたなくなくなく美美うつくしげしげしげなりなりなり。。。いといといとあつさあつさあつさののの堪堪たへへえがたきがたきがたき日日ひなれなれなればばばこちたきこちたきこちたき御御おん髮髮ぐしののの苦苦くるしうしうしゅうおぼさおぼさおぼさるゝるゝるるにににやややあらあらあらむむん、、、少少すこしししこなたこなたこなたににになびかしなびかしなびかしてててひかひかひかれれれたるたるたる程程ほどたとへたとへたとえむむんものものものなしなしなし。。。こゝらこゝらここらよきよきよき人人ひとををを見見み集集あつむれむれむれどどど似似にるるるべくべくべくもももあらあらあらざりざりざりけりけりけりととと覺覺おぼゆゆゆ、、、御御お前前まえなるなるなる人人ひとははは誠誠まことににに土土つちなどなどなどののの心地心地ここちぞぞぞするするするををを、、、思思おもひひいしづめしづめしずめててて見見みれれればばば黄黄きなるなるなるすゞしすゞしすずしのののひとへひとへひとえ薄薄うす色色いろなるなるなる裳裳も着着きたるたるたる人人ひとののの扇扇おうぎうちうちうちつかひつかひつかいたるたるたるなどなどなど用用よう意意いあらあらあらむむんはははやややとととふとふとふと見見みえええてててなかなかなかなかなかなか物物ものあつかひあつかひあつかいにににいといといと苦苦くるしげしげしげなりなりなり。。。「「「唯唯たださながらさながらさながら見見み給給たまへへえかしかしかし」」」とてとてとて笑笑わらひひいたるたるたるまみまみまみ愛愛あい敬敬ぎょうづきづきずきたりたりたり。。。聲聲こえ聞聞きくくくにににぞぞぞこのこのこの志志こころざしののの人人ひととととはははしりしりしりぬるぬるぬる。。。心心こころづよくづよくずよくわりわりわりててて手手て每每ごとにににもたりもたりもたり。。。かしらかしらかしらにににうちうちうち置置おききき胸胸むねにににさしさしさしあてあてあてなどなどなどさまさまさまあしうあしうあしゅうするするする人人ひともももあるあるあるべしべしべし。。。
現代語訳
五日目の朝座で終わって、御堂の飾りを取り払い、御しつらいを改めるので、北の廂も障子などを取り外してあったので、皆が入り立って整える間、西の渡殿に姫宮がいらっしゃった。説法を聞き疲れて女房もそれぞれ局にいて、御前はたいそう人の少ない夕暮に、大将殿は直衣に着替えて、今日退出する僧の中に必ず言うべきことがあるので、釣殿の方においでになったが、皆退出してしまったので、池の方で涼みなさって人の少ない頃、この宰相の君などが仮に几帳などだけを隔てて休む上局にしていた。ここにいるのだろうか、人の衣の音がするとお思いになって、馬道の方の障子が細く開いているところから、そっとご覧になると、いつもそのような人のいる様子には似ず、晴れ晴れしくしつらえてあるので、かえって几帳どもの立て違えてある間から見通されてあらわである。氷を物の蓋に置いて割ろうとして騒ぐ人々が、大人三人ほどと女童とでいる。
唐衣も汗衫も着ず、皆くつろいでいるので、御前とはご覧にならないが、白い薄物のお召し物を着ていらっしゃる方が、手に氷を持ちながら、このように争うのを少し微笑んでいらっしゃるお顔は、言いようもなく美しい。たいそう暑さの堪えがたい日なので、多い御髪が苦しくお思いになるのだろうか、少しこちらに靡かせて引かれている様子はたとえようもない。多くの美しい人を見てきたが、似るはずもないと思われる。御前にいる人は本当に土などのような心地がするが、気を静めて見ると、黄色の生絹の単衣に薄紫の裳を着た人が扇を使っているのなど、心づかいがありそうだとふと見えて、かえって氷の扱いにたいそう苦しそうである。「ただそのままご覧なさいよ」と言って笑っている目もとに愛嬌がある。声を聞いて、この思いを寄せる人だとわかった。気強く割って、それぞれ手に持った。頭に置いたり胸に当てたりなど、見苦しくする人もいるようだ。
意訳
法華八講の最終日の夕暮れ、薫は釣殿の方へ行き、小宰相の局を訪ねようとして、馬道の障子の隙間から中をのぞく。そこでは女一の宮が白い薄物を着て、女房たちが氷を割って騒ぐのを微笑んで見ていた。その美しさは比類なく、ほかの女房たちは土くれのように見える。氷を手に持つよう勧める女房の声で、薫はそれが小宰相だと気づく。
語釈・文法注
文法
- 「あさ座」(五日といふあさ座にはてゝ)
- 朝座。法会で朝に行う講座。
- 「めだう」(めだうの方のさうじの細く明きたるより)
- 馬道。建物の間を通る板敷きの通路。
- 「すゞし」(黄なるすゞしのひとへ)
- 生絹。練っていない絹。夏の衣に用いた。
解説
薫が女一の宮をのぞき見る場面は、宇治十帖の垣間見の系譜に連なる。氷を手にした高貴な美女の姿は、夏の暑さの中で鮮烈な印象を与える。
浮舟を失った悲しみの中で、薫は女一の宮の美しさに心を奪われる。満たされない思いを新たな女性に向ける薫の姿は、物語の主題である「求めて得られぬもの」の連鎖を示している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1176–1179頁(コマ299–300)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日