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源氏物語 第52帖 蜻蛉(15)

薫の宇治訪問

登場人物:薫・右近・浮舟・匂宮・八の宮

薫は道の途中から昔のことどもを思い集めつつ、どういう宿縁で、この父親王(八の宮)のもとに通い始めたのだろう、このような思いがけない最後まで世話を焼き、この縁につけては物思いばかりすることよ、たいそう尊くいらした方のあたりに、仏を導き手として後世のことばかりを約束したのに、心の汚い後の違い目に思い知らせようというのだろうと思われる。右近を召し出して、「生前の様子も、はっきりとは聞いていない。やはり尽きることなく呆れるほどはかないので、忌みの残りも少なくなった。過ごしてからと思ったが、心を静めきれずに来たのだ。どういう気持ちで急に亡くなってしまわれたのか」とお尋ねになると、右近は、尼君なども事情を見ていたので、ついにはお聞き合わせになるだろうに、かえって隠しても、違ったことに聞こえてしまったら損なわれるだろう、妙なことの筋でこそ嘘も思いめぐらしながら言い慣れたが、このように真剣なご様子に向かい合い申し上げては、前もってああ言おうこう言おうと用意していた言葉も忘れ、厄介に思われたので、あった様子のことどもを申し上げた。薫は呆れるほど思いも寄らない筋なので、しばらく何もおっしゃらない。全くそんなはずはないと思われる、世間の人が思い言うことにも、この上なく言葉少なでおっとりしていた人が、どうしてそのような恐ろしいことを思い立つだろうか、どのような様子にこの女房たちが取りつくろって言うのだろうかと、お心もいっそう乱れなさるが、宮もお嘆きになっている様子はたいそうはっきりしている。ここの有様も、そのように平然と作り事をしているような気配は自然と見えるはずなのに、このようにおいでになったにつけても、悲しくつらいことを上下の人が集まって泣き騒ぐのをお聞きになると、「御供として一緒にいなくなった人はいるか。やはりあった様子を確かに言え。私をいいかげんだと思って背きなさることはまさかあるまいと思う。どのような、急に言いようのないことがあって、そのようなことをなさったのだろう。

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引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

道の途中から昔のことどもを思い集めつつ、どういう宿縁で、この父親王のもとに通い始めたのだろう、このような思いがけない最後まで世話を焼き、この縁につけては物思いばかりすることよ、たいそう尊くいらした方のあたりに、仏を導き手として後世のことばかりを約束したのに、心の汚い後の違い目に思い知らせようというのだろうと思われる。右近を召し出して、「生前の様子も、はっきりとは聞いていない。やはり尽きることなく呆れるほどはかないので、忌みの残りも少なくなった。過ごしてからと思ったが、心を静めきれずに来たのだ。どういう気持ちで急に亡くなってしまわれたのか」とお尋ねになると、尼君なども事情を見ていたので、ついにはお聞き合わせになるだろうに、かえって隠しても、違ったことに聞こえてしまったら損なわれるだろう、妙なことの筋でこそ嘘も思いめぐらしながら言い慣れたが、このように真剣なご様子に向かい合い申し上げては、前もってああ言おうこう言おうと用意していた言葉も忘れ、厄介に思われたので、あった様子のことどもを申し上げた。

呆れるほど思いも寄らない筋なので、しばらく何もおっしゃらない。全くそんなはずはないと思われる、世間の人が思い言うことにも、この上なく言葉少なでおっとりしていた人が、どうしてそのような恐ろしいことを思い立つだろうか、どのような様子にこの女房たちが取りつくろって言うのだろうかと、お心もいっそう乱れなさるが、宮もお嘆きになっている様子はたいそうはっきりしている。ここの有様も、そのように平然と作り事をしているような気配は自然と見えるはずなのに、このようにおいでになったにつけても、悲しくつらいことを上下の人が集まって泣き騒ぐのをお聞きになると、「御供として一緒にいなくなった人はいるか。やはりあった様子を確かに言え。私をいいかげんだと思って背きなさることはまさかあるまいと思う。どのような、急に言いようのないことがあって、そのようなことをなさったのだろう。

意訳

宇治への道で薫は、八の宮のもとに通い始めた昔を思い、仏道を志しながら女のことで物思いばかりする自分への仏の戒めかと思う。薫は右近に浮舟の死の様子を問う。右近は、隠しても後で知られるだろうと思い、薫の真剣な様子に、用意していた嘘も忘れて真相を話す。薫はおっとりした浮舟が入水するとは信じられず、女房たちが何か隠しているのではと疑いつつ、誰か一緒にいなくなった者はいないか、確かなことを言えと問い詰める。

語釈・文法注

文法

「心ぎたなき」(心ぎたなき末のたがひめに)
心汚し。心が清くない、未練がましい。
「つれなしつくりたらむ」(しかつれなしつくりたらむけはひは)
平然と作り事をしている。
「いひしらぬ」(たちまちにいひしらぬことありてか)
言いようのない、何とも言えない。

解説

薫は浮舟の死を、仏道を志しながら俗世に執着した自分への戒めと受け止める。宗教的な内省は、薫の悲しみの表し方の特徴である。

右近は薫の真剣さに押されて、ついに真相を語る。嘘を重ねてきた右近が真実を語る場面は、緊張感に満ちている。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1168–1171頁(コマ295–296)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日