源氏物語 第52帖 蜻蛉(14)
匂宮と侍従の夜
匂宮が浮舟の様子を詳しくお尋ねになると、侍従は「日頃お嘆きになっていた様子、あの夜お泣きになった様子、不思議なほど言葉少なで、ぼんやりとばかりしていらして、つらいとお思いになることも人に打ち明けなさることは難しく、遠慮ばかりなさったせいか、言い残しなさることもございませんでした。夢にもこのように気丈なことをお思い立ちになろうとは存じませんでした」などと詳しく申し上げるので、宮はましてひどく、然るべき運命でどうにかなったのよりも、どれほど物を思い立って、あのような水に溺れたのだろうとお思いやりになると、これを見つけてせき止めていたらと、沸き返る心地がなさるが甲斐もない。「お手紙を焼き失いなさった時などに、どうして目を留めなかったのでしょう」などと、一晩中語り合いなさるのに、語り明かす。あの巻数に書きつけなさった母君への返事なども申し上げる。宮は、何ほどの者ともご覧にならなかった侍従も親しく哀れにお思いになるので、「私のもとにいなさい。あちら(中の君)も縁遠いわけでもあるまい」とおっしゃると、侍従は「そうしてお仕えするにつけても、ただ悲しいばかりでしょうと存じますので、そのうちこの御法事などが済んでから」と申し上げる。「また参れ」などと、この人まで名残惜しくお思いになる。明け方に帰る時、あの浮舟のためにと用意させなさった櫛の箱一揃い、衣箱一揃いを贈り物になさる。さまざまにおさせになることは多かったが、大げさになりそうなので、ただこの人に仰せた程度だった。何心もなく参ってこのような物があるのを、人はどう見るだろう、わけもなく厄介なことだと思い悩むが、どうしてお返しできよう。右近と二人で忍んで見ながら、所在ないままに、細やかに当世風にこしらえ集めた品々を見てもひどく泣く。装束もたいそう立派にこしらえ集めた物どもなので、このような喪中にこれをどうして隠そうなどと持て余した。大将殿も、やはりたいそう気がかりなので、思い余って宇治においでになった。
- 1ありありありけむけむけんさまさまさまなどなどなど委委くわしうしうしゅう問問とはははせせせ給給たまふふうににに「「「日日ひ比比ごろおぼしおぼしおぼしなげきなげきなげきしししさまさまさまそのそのその夜夜よ泣泣なききき給給たまひひいしししさまさまさまあやしきあやしきあやしきまでまでまでことことことずくなずくなずくなにににおぼおぼおぼおぼおぼおぼとととのみのみのみ物物ものししし給給たまひひいててていみじいみじいみじとととおぼすおぼすおぼす事事ことをををももも人人ひとにににうちうちうちいでいでいで給給たまふふうことことことはははかたくかたくかたく物物ものづゝみづゝみずつみをををのみのみのみししし給給たまひひいしししけけけにににやややのたまひのたまひのたまいおくおくおくとととももも侍侍はべらららずずず。。。夢夢ゆめにににもももかくかくかく心心こころ强强つよきききさまさまさまにににおぼしおぼしおぼしかくらむかくらむかくらむとととははは思思おもひひい給給たまへへえずずずなむなむなん侍侍はべりりりししし」」」などなどなど委委くわしうしうしゅう聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、ましてましてましていといといといみじういみじういみじゅうさるべきさるべきさるべきにてにてにてともともともかくかくかくもももあらあらあらましましましよりよりよりももも、、、いかいかいかばかりばかりばかり物物ものををを思思おもひひいたちたちたちてててさるさるさる水水みずににに溺溺おぼれれれけむけむけんとととおぼしおぼしおぼしやるやるやるににに、、、これこれこれををを見見みつけつけつけてててせきせきせきとめとめとめたらたらたらましかましかましかばばばとととわきわきわきかへるかへるかえる心心こころちちここちししし給給たまへへえどどどかひかひかいなしなしなし。。。「「「御御おん文文ふみををを燒燒やききき失失うしなひひい給給たまひひいしししなどなどなどににになどなどなどてててめめめをををたてたてたて侍侍はべらららざりざりざりけむけむけん」」」などなどなど夜夜よ一一ひと夜夜よ語語かたらひらひらい給給たまふふうににに聞聞きこえええあかすあかすあかす。。。かのかのかのくわんくわんかんじゆじゆかんじゅににに書書かきききつけつけつけ給給たまへへえりりりししし母母はは君君ぎみののの返返かえり事事ごとなどなどなどををを聞聞きこゆゆゆ。。。何何なにばかりばかりばかりのののものものものとととももも御御ご覽覽らんぜぜぜざりざりざりししし人人ひともももむつましくむつましくむつましく哀哀あわれにににおぼさおぼさおぼさるれるれるればばば「「「我我わがががもともともとにににあれあれあれかしかしかし。。。あなたあなたあなたももももてもてもてはなるはなるはなるべくべくべくやはやはやは」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば「「「さてさてさてさぶらさぶらさぶらむむんにににつけつけつけてててももも物物もののみのみのみ悲悲かなしからしからしからむむんををを思思おもひひい給給たまへへえれれればばば今今いまこのこのこの御御おんはてはてはてなどなどなど過過すぐしぐしぐしててて」」」ととと聞聞きこゆゆゆ。。。「「「又又またもももまゐれまゐれまいれ」」」などなどなどこのこのこの人人ひとをををさへさへさへ飽飽あかかかずずずおぼすおぼすおぼす。。。
- 2曉曉あかつき歸歸かえるるるにににかのかのかの御御おん料料りょうにににとてとてとて設設もうけけけさせさせさせ給給たまへへえりりりけるけるける櫛櫛くしののの箱箱はこ一一ひとよろひよろひよろい衣衣ころも箱箱ばこ一一ひとよろひよろひよろい贈贈おくり物物ものにににせせせさせさせさせ給給たまふふう。。。さまざまさまざまさまざまにににせせせさせさせさせ給給たまふふうことことことははは多多おおかりかりかりけれけれけれどどど、、、おどろおどろしかりおどろおどろしかりおどろおどろしかりぬぬぬべけれべけれべければばば、、、唯唯ただこのこのこの人人ひとににに仰仰おおせせせたるたるたる程程ほどなりなりなりけりけりけり。。。何何なに心心こころもももなくなくなく參參まいりりりてててかゝるかゝるかかるとととどもどもどものののあるあるあるををを人人ひとはははいかゞいかゞいかが見見みむむんすゞろすゞろすずろにににむつかしきむつかしきむつかしきわざわざわざかなかなかなととと思思おもひひいわぶれわぶれわぶれどどどいかゞいかゞいかがははは聞聞きこえええかへさかへさかえさむむん。。。右右う近近こんととと二二ふた人人り忍忍しのびびびててて見見みつゝつゝつつ、、、つれづれつれづれつれずれなるなるなるまゝまゝままにににこまかこまかこまかににに今今いまめかしうめかしうめかしゅうしししあつめあつめあつめたるたるたる事事ことどもどもどもををを見見みてててもももいみじういみじういみじゅうなくなくなく。。。そうぞくそうぞくそうぞくもももいといといとうるはしううるはしううるわしゅうしししあつめあつめあつめたるたるたる物物ものどもどもどもなれなれなればばば、、、かゝるかゝるかかる御御おん服服ぶくにににこれこれこれをををいかでいかでいかでかかかかくさかくさかくさむむんなどなどなどもてもてもてぞぞぞわづらひわづらひわずらいけるけるける。。。大大たい將將しょう殿殿どのももも猶猶なおいといといと覺束覺束おぼつかなきなきなきにににおぼしおぼしおぼしあまりあまりあまりててておはしおはしおわしたりたりたり。。。
現代語訳
生前の様子などを詳しくお尋ねになると、「日頃お嘆きになっていた様子、あの夜お泣きになった様子、不思議なほど言葉少なで、ぼんやりとばかりしていらして、つらいとお思いになることも人に打ち明けなさることは難しく、遠慮ばかりなさったせいか、言い残しなさることもございませんでした。夢にもこのように気丈なことをお思い立ちになろうとは存じませんでした」などと詳しく申し上げるので、ましてひどく、然るべき運命でどうにかなったのよりも、どれほど物を思い立って、あのような水に溺れたのだろうとお思いやりになると、これを見つけてせき止めていたらと、沸き返る心地がなさるが甲斐もない。「お手紙を焼き失いなさった時などに、どうして目を留めなかったのでしょう」などと、一晩中語り合いなさるのに、語り明かす。あの巻数に書きつけなさった母君への返事なども申し上げる。何ほどの者ともご覧にならなかった人も親しく哀れにお思いになるので、「私のもとにいなさい。あちらも縁遠いわけでもあるまい」とおっしゃると、「そうしてお仕えするにつけても、ただ悲しいばかりでしょうと存じますので、そのうちこの御法事などが済んでから」と申し上げる。「また参れ」などと、この人まで名残惜しくお思いになる。
明け方に帰る時、あの方のためにと用意させなさった櫛の箱一揃い、衣箱一揃いを贈り物になさる。さまざまにおさせになることは多かったが、大げさになりそうなので、ただこの人に仰せた程度だった。何心もなく参ってこのような物があるのを、人はどう見るだろう、わけもなく厄介なことだと思い悩むが、どうしてお返しできよう。右近と二人で忍んで見ながら、所在ないままに、細やかに当世風にこしらえ集めた品々を見てもひどく泣く。装束もたいそう立派にこしらえ集めた物どもなので、このような喪中にこれをどうして隠そうなどと持て余した。大将殿も、やはりたいそう気がかりなので、思い余っておいでになった。
意訳
匂宮は侍従から、浮舟が言葉少なに悩み、誰にも打ち明けずに入水したことを聞き、止められなかったことを悔やむ。二人は一晩中語り明かし、侍従は浮舟の最後の歌も伝える。匂宮は侍従を自分に仕えるよう誘うが、侍従は法事が済んでからと断る。匂宮は浮舟のために用意していた櫛箱と衣箱を侍従に贈り、宇治に戻った侍従と右近は、その品々を見て泣く。やがて薫も宇治を訪れる。
語釈・文法注
文法
- 「物づゝみ」(物づゝみをのみし給ひしけにや)
- 物慎み。遠慮、気兼ね。
- 「わきかへる」(せきとめたらましかばとわきかへる心ちし給へど)
- 沸き返る。激しく心が乱れる。
- 「御はて」(今この御はてなど過ぐして)
- 御果て。四十九日の法事。
解説
匂宮は浮舟の最期を詳しく聞き、止められたかもしれないと悔やむ。侍従の語る浮舟の沈黙は、自分の苦しみを誰にも打ち明けられなかった浮舟の孤独を伝えている。
浮舟のために用意された櫛箱と衣箱は、もはや使われることのない品々である。女房たちがその美しい品々を見て泣く場面は、失われた未来の象徴として哀切である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1166–1169頁(コマ294–295)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日