源氏物語 第52帖 蜻蛉(13)
侍従を迎える
右近は「心ならずも命がございましたら、少し思いが静まった折に、仰せ言がなくても参って、本当に夢のようだったことどもも語り申し上げたいのです」と言って、今日は動けそうにもない。大夫も泣いて、「全くこのお二人の仲のことは詳しく存じ上げておりません。物の道理も知りませんながら、類のないお志を拝見しましたので、そなたたちにも何も急いでお近づき申し上げることもあるまい、ついにはお仕えすべきあたりなのだと思っておりましたが、言いようもなく悲しいことの後は、私自身の志もかえって深さがまさりまして」と語る。「わざわざお車などをお思いめぐらしになって差し向けなさったのを、空しく帰るのはたいそうお気の毒です。せめてもう一人だけでも参りなさい」と言うので、右近は侍従の君を呼び出して「それなら参りなさい」と言うと、侍従は「まして何を申し上げましょう。それにしてもこの御忌みの間に、どうしてお出かけにならないのですか」と言うと、大夫は「宮はご病気の騒ぎでさまざまのお慎みがあるようですが、忌みもお避けになれそうにないご様子です。またこのように深いご縁では、お籠もりになってもよいでしょうに。残りの日数もいくらもありません」と言う。「やはりお一人参りなさい」と責めるので、侍従は、生前のご様子もたいそう恋しくお思い申し上げているので、いつの世にまたお目にかかれよう、このような折にと思いなして参った。黒い衣などを着て身づくろいした姿もたいそう清らかである。裳は、今は自分より上の人がいないので気を緩めて色も変えなかったので、薄色のものを持たせて参る。浮舟が生きていらっしゃったら、この道を忍んでお出かけになったろうに、人知れず心を寄せ申し上げていたのになどと思うにつけても哀れである。道すがら泣く泣く来た。宮はこの人が参ったとお聞きになるのも哀れである。女君(中の君)にはあまりに気の毒なのでお知らせにならない。寝殿においでになって、渡殿に侍従を下ろしなさった。
- 1心心こころよりよりより外外ほかののの命命いのち侍侍はべらららばばばいさゝかいさゝかいささか思思おもひひい靜靜しずまらまらまらむむん折折おりににになむなむなん仰仰おおせ言言ごとなくなくなくともともとも參參まいりりりてててげにげにげにいといといと夢夢ゆめのののやうやうようなりなりなりししし事事ことどもどもどもゝゝも語語かたりりり聞聞きこえええまほしきまほしきまほしき」」」ととといひいひいいててて今日今日きょうははは動動うごくくくべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。大大たい夫夫ふもももなきなきなきててて「「「更更さらにににこのこのこの御御おん中中なかののの事事ことこまかこまかこまかににに知知しりりり聞聞きこえええさせさせさせ侍侍はべらららずずず、、、物物ものののの心心こころももも知知しりりり侍侍はべらららずずずながらながらながらたぐひたぐひたぐいなきなきなき御御おん志志こころざしををを見見み奉奉たてまつりりり侍侍はべりりりしかしかしかばばば君君きん達達だちをををももも何何なにかかかははは急急いそぎぎぎてててしもしもしも聞聞きこえええうけうけうけ給給たまはらはらわらむむん。。。遂遂ついにににははは仕仕つこうううまつるまつるまつるべきべきべきあたりあたりあたりにににこそこそこそととと思思おもひひい給給たまへへえしししををを、、、いふかひいふかひいうかいなくなくなく悲悲かなしきしきしき御御おん事事ことののの後後のちはははわたくしわたくしわたくしののの御御おん志志こころざしもももなかなかなかなかなかなか深深ふかさささまさりまさりまさりてててなむなむなん」」」ととと語語かたらふらふらう。。。「「「わざとわざとわざと御御おん車車くるまなどなどなどおぼしおぼしおぼしめぐらしめぐらしめぐらしててて奉奉たてまつれれれ給給たまへへえるるるををを空空むなしくしくしくてててはははいといといといとほしういとほしういとおしゅうなむなむなん。。。今今いま一一ひと所所ところにてにてにてももも參參まいりりり給給たまへへえ」」」ととといへいへいえばばば侍侍じ從從じゅうののの君君きみよびよびよび出出いでででゝゝて「「「さささばばば參參まいりりり給給たまへへえ」」」ととといへいへいえばばば「「「ましてましてまして何何なに事事ことをををかかかははは聞聞きこえええさせさせさせむむん。。。さてさてさてもももこのこのこの御御おん忌忌いみののの程程ほどにににはははいかでいかでいかでかかかいまいまいませせせ給給たまははわぬぬぬかかか」」」ととといへいへいえばばば「「「なやまなやまなやませせせ給給たまふふう御御おんひゞきひゞきひびきにににさまざまさまざまさまざまののの御御おんつゝしみつゝしみつつしみどもどもども侍侍はべるるるめれめれめれどどど忌忌いみあへあへあえさへさへさへ給給たまふふうまじきまじきまじき御御おん氣色氣色けしきににになむなむなん。。。又又またかくかくかく深深ふかききき御御おん契契ちぎりにてにてにてははは籠籠こもらららせせせ給給たまひひいてててもももこそこそこそおはしまさおはしまさおわしまさめめめ。。。のこりのこりのこりののの日日ひいくばくいくばくいくばくならならならずずず。。。
- 2「「「猶猶なお一一ひと所所ところ參參まいりりり給給たまへへえ」」」とととせむれせむれせむればばば、、、侍侍じ從從じゅうぞぞぞ、、、ありありありししし御御おんさまさまさまもももいといといと戀戀こいしうしうしゅう思思おもひひい聞聞きこゆるゆるゆるにににいかいかいかならならならむむん世世よにににかかかははは見見み奉奉たてまつらららむむん、、、かゝるかゝるかかる折折おりにににととと思思おもひひいなしなしなしててて參參まいりりりけるけるける。。。黑黑くろききききぬきぬきぬどもどもども着着きててて引引ひきききつくろひつくろひつくろいたるたるたるかたちかたちかたちもももいといといと淸淸きよげげげなりなりなり。。。裳裳もははは只只ただ今今いま我我われれれよりよりより上上かみなるなるなる人人ひとなきなきなきにににうちうちうちたゆみたゆみたゆみててて色色いろもももかへかへかへざりざりざりけれけれければばば薄薄うす色色いろなるなるなるををを持持もたせせせててて參參まいるるる。。。おはせおはせおわせましかましかましかばばばかのかのかの道道みちにににぞぞぞ忍忍しのびびびててて出出いででで給給たまははわましましまし、、、人人ひと知知しれれれずずず心心こころよせよせよせ聞聞きこえええしししものものものをををなどなどなど思思おもふふうにににももも哀哀あわれなりなりなり。。。道道みちすがらすがらすがら泣泣なくくくなくなくなくなむなむなん來來きけるけるける。。。宮宮みやはははこのこのこの人人ひと參參まいれれれりりりととと聞聞きこしししめすめすめすももも哀哀あわれなりなりなり。。。女女おんな君君きみにににはははあまりあまりあまりうたてうたてうたてあれあれあればばば聞聞きこえええ給給たまははわずずず。。。寢寢しん殿殿でんにににおはしましおはしましおわしましてててわたわたわたどのどのどのにににおろしおろしおろし給給たまへへえりりり。。。
現代語訳
「心ならずも命がございましたら、少し思いが静まった折に、仰せ言がなくても参って、本当に夢のようだったことどもも語り申し上げたいのです」と言って、今日は動けそうにもない。大夫も泣いて、「全くこのお二人の仲のことは詳しく存じ上げておりません。物の道理も知りませんながら、類のないお志を拝見しましたので、そなたたちにも何も急いでお近づき申し上げることもあるまい、ついにはお仕えすべきあたりなのだと思っておりましたが、言いようもなく悲しいことの後は、私自身の志もかえって深さがまさりまして」と語る。「わざわざお車などをお思いめぐらしになって差し向けなさったのを、空しく帰るのはたいそうお気の毒です。せめてもう一人だけでも参りなさい」と言うので、侍従の君を呼び出して「それなら参りなさい」と言うと、「まして何を申し上げましょう。それにしてもこの御忌みの間に、どうしてお出かけにならないのですか」と言うと、「ご病気の騒ぎでさまざまのお慎みがあるようですが、忌みもお避けになれそうにないご様子です。またこのように深いご縁では、お籠もりになってもよいでしょうに。残りの日数もいくらもありません。
やはりお一人参りなさい」と責めるので、侍従は、生前のご様子もたいそう恋しくお思い申し上げているので、いつの世にまたお目にかかれよう、このような折にと思いなして参った。黒い衣などを着て身づくろいした姿もたいそう清らかである。裳は、今は自分より上の人がいないので気を緩めて色も変えなかったので、薄色のものを持たせて参る。生きていらっしゃったら、この道を忍んでお出かけになったろうに、人知れず心を寄せ申し上げていたのになどと思うにつけても哀れである。道すがら泣く泣く来た。宮はこの人が参ったとお聞きになるのも哀れである。女君にはあまりに気の毒なのでお知らせにならない。寝殿においでになって、渡殿に下ろしなさった。
意訳
右近は今は動けないと断り、時方は匂宮の浮舟への深い志を語って、せめて一人でもと頼む。右近に促された侍従は、匂宮にもう一度会いたい思いもあって、喪服を着て京へ向かう。浮舟が生きていれば匂宮のもとへ忍んで行ったであろう道を、侍従は泣く泣く行く。匂宮は中の君に知らせず、寝殿の渡殿で侍従を迎える。
語釈・文法注
文法
- 「聞えうけ給はらむ」(君達をも何かは急ぎてしも聞えうけ給はらむ)
- お近づきになってお話を伺う。
- 「忌あへさへ」(忌あへさへ給ふまじき御氣色になむ)
- 忌みを避けきれない、喪に服しそうな様子。
- 「薄色」(薄色なるを持せて參る)
- 薄紫色。喪中の色に改めなかった裳。
解説
侍従は、浮舟が生きていれば匂宮のもとへ向かったであろう道を、喪服を着て進む。生と死の対比が、この旅路に深い哀愁を与えている。
匂宮は中の君に知らせずに侍従を迎える。浮舟をめぐる秘密は、中の君との間にもなお隔てを残している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1166–1167頁(コマ294)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日