源氏物語 第52帖 蜻蛉(4)
母の到着
侍従は「呆れたことに、ご自分から身を亡くしなさったようなので、このように心の惑いからひがみっぽく言い続けられるのでしょう」と、さすがにはっきりとはせずほのめかす。時方は合点がいかないと思って、「それではゆっくり参りましょう。立ったままでおりますのもたいそう簡略なようです。そのうち宮ご自身もおいでになるでしょう」と言うと、侍従は「まあもったいない。今さら人が知り申し上げるのも、亡き方のためにはかえってすばらしいご宿縁と見えることでございますが、お忍びになったことなので、また漏らしなさらずにお済ませになるのが、お志でございましょう」と言う。ここではこのように世間並みでなくお亡くなりになったことを人に聞かせまいと、万事紛らわすので、自然と事の様子も見えてしまうだろうと思うので、あれこれと促して帰した。雨のひどかった紛れに、母君がおいでになった。全く言いようもなく、目の前で亡くなったような悲しさは、ひどくとも世の常で例のあることである。これはどうしたことなのかと惑う。このような紛らわしいことがあって、ひどく物思いをしていらっしゃったとも知らないので、身を投げなさったとも思い寄らない。鬼が食ったのだろうか、狐めいたものが取っていったのだろうか、昔物語の妙な物の事のたとえにか、そのようなことも言うそうだと思い出す。それとも、あの恐ろしいとお思い申し上げるあたり(女二の宮方)に、心などの悪い御乳母のような者が、このように迎えなさると聞いて、心外に思って企んだ人でもいるのだろうかと下衆などを疑って、「新参の者で事情を知らない者はいるか」と問うと、「たいそう世間離れしているといって、住み慣れない人はここではちょっとしたこともできず、すぐに参りましょうと言いながら、皆その急ぐべきことなどを取りまとめて帰っていきました」と言って、もとからいる人さえ一部はいなくて、たいそう人の少ない折だった。
- 1あさましうあさましうあさましゅうててて心心こころととと身身みをををなくなくなくなしなしなし給給たまへへえるるるやうやうようなれなれなればばば、、、かくかくかく心心こころのののまどひまどひまどいにににひがひがしくひがひがしくひがひがしく言言いひひい續續つづけけけらるゝらるゝらるるなななめりめりめり」」」とととさすがさすがさすがにににまほまほまほならならならずずずほのめかすほのめかすほのめかす。。。心心こころ得得えがたくがたくがたく思思おもひひいててて「「「さらばさらばさらばのどかのどかのどかににに參參まいらららむむん。。。立立たちちちながらながらながら侍侍はべるるるもももいといといとことことことそぎそぎそぎたるたるたるやうやうようなりなりなり。。。今今いま御御おんみづからみづからみずからもももおはしましおはしましおわしましなななむむん」」」ととといへいへいえばばば、、、「「「あなあなあなかたじけなかたじけなかたじけな。。。今今いまさらさらさら人人ひとののの知知しりりり聞聞きこえええさせさせさせむむんもももなきなきなき御御おんためためためはははなかなかなかなかなかなかめでたきめでたきめでたき御御おん宿宿すく世世せ見見みゆゆゆべきべきべき事事ことなれなれなれどどど忍忍しのびびび給給たまひひいしししことことことなれなれなればばばまたまたまたもらさもらさもらさせせせ給給たまははわでででやまやまやませせせ給給たまははわむむんなむなむなん御御おん志志こころざしににに侍侍はべるるるべきべきべき。。。こゝこゝここにににはははかくかくかく世世よづかづかずかずずずうせうせうせ給給たまへへえるるるよしよしよしををを人人ひとににに聞聞きかかかせせせじじじ」」」とととよろづよろづよろずにににまぎらはすまぎらはすまぎらわすををを、、、しねんしねんしねんににに事事ことどもどもどもののの氣色氣色けしきもももこそこそこそ見見みゆれゆれゆれととと思思おもへへえばばばとかくとかくとかくそゝのかしそゝのかしそそのかしやりやりやりつつつ。。。雨雨あめのののいみじかりいみじかりいみじかりつるつるつるまぎれまぎれまぎれににに母母はは君君ぎみののの渡渡わたりりり給給たまへへえりりり。。。更更さらにににいはいはいわむむん方方かたもももなくなくなく目目めののの前前まえににになくなくなくなしなしなしたらたらたらむむん悲悲かなしさしさしさはははいみじくいみじくいみじくともともとも世世よののの常常つねにてにてにてたぐひたぐひたぐいあるあるあることことことなりなりなり。。。これこれこれはははいかにいかにいかにしししつるつるつる事事ことぞぞぞととと惑惑まどふふう。。。
- 2かゝるかゝるかかる事事ことどもどもどものののまぎれまぎれまぎれありありありててていみじういみじういみじゅう物物もの思思おもひひい給給たまふふうらむらむらんとととももも知知しらららねねねばばば身身みをををなげなげなげ給給たまへへえらららむむんとととももも思思おもひひいもももよらよらよらずずず。。。鬼鬼おにややや食食くひひいつつつらむらむらん、、、狐狐きつねめくめくめくものものものややや取取とりりりもてもてもていぬいぬいぬらむらむらん、、、昔昔むかし物物もの語語がたりののの怪怪あやしきしきしき物物ものののの事事ことのののたとひたとひたといにににかかか、、、さやうさやうさようなるなるなる事事こともももいふいふいうなりなりなりしししととと思思おもひひいいづいづいず。。。さてはさてはさてわかのかのかのおそろしおそろしおそろしととと思思おもひひい聞聞きこゆるゆるゆるあたりあたりあたりににに心心こころなどなどなど惡惡あしきしきしき御御おん乳乳めの母母とやうやうようのののものものものやややかうかうこう迎迎むかへへえ給給たまへへえしししととと聞聞ききききててて、、、めざましがりめざましがりめざましがりてててたばかりたばかりたばかりたるたるたる人人ひともももやややあらあらあらむむんとととげすげすげすなどなどなどををを疑疑うたがひひい「「「今今いままゐりまゐりまいりののの心心こころ知知しらららぬぬぬやややあるあるある」」」ととと問問とへへへばばば「「「いといといと世世よばなればなればなれたりたりたりとてとてとて、、、ありありありならはならはならわぬぬぬ人人ひとはははこゝこゝここにてにてにてはかなきはかなきはかなき事事こともももえええせせせずずず、、、今今いま疾疾とくくく參參まいらららむむんととといひいひいいつゝつゝつつなむなむなん、、、みなみなみなそのそのその急急いそぐぐぐべきべきべき事事ことどもどもどもなどなどなど取取とりりり具具ぐしししつゝつゝつつかへりかへりかえり出出いででで侍侍はべりりりにににししし」」」とてとてとて、、、もともともとよりよりよりあるあるある人人ひとだにだにだにかたへかたへかたえはははなくなくなくててていといといと人人ひとずくなずくなずくななるなるなる折折おりににになむなむなんありありありけるけるける。。。
現代語訳
「呆れたことに、ご自分から身を亡くしなさったようなので、このように心の惑いからひがみっぽく言い続けられるのでしょう」と、さすがにはっきりとはせずほのめかす。合点がいかないと思って、「それではゆっくり参りましょう。立ったままでおりますのもたいそう簡略なようです。そのうち宮ご自身もおいでになるでしょう」と言うと、「まあもったいない。今さら人が知り申し上げるのも、亡き方のためにはかえってすばらしいご宿縁と見えることでございますが、お忍びになったことなので、また漏らしなさらずにお済ませになるのが、お志でございましょう。ここではこのように世間並みでなくお亡くなりになったことを人に聞かせまい」と、万事紛らわすので、自然と事の様子も見えてしまうだろうと思うので、あれこれと促して帰した。雨のひどかった紛れに、母君がおいでになった。全く言いようもなく、目の前で亡くなったような悲しさは、ひどくとも世の常で例のあることである。これはどうしたことなのかと惑う。
このような紛らわしいことがあって、ひどく物思いをしていらっしゃったとも知らないので、身を投げなさったとも思い寄らない。鬼が食ったのだろうか、狐めいたものが取っていったのだろうか、昔物語の妙な物の事のたとえにか、そのようなことも言うそうだと思い出す。それとも、あの恐ろしいとお思い申し上げるあたりに、心などの悪い御乳母のような者が、このように迎えなさると聞いて、心外に思って企んだ人でもいるのだろうかと下衆などを疑って、「新参の者で事情を知らない者はいるか」と問うと、「たいそう世間離れしているといって、住み慣れない人はここではちょっとしたこともできず、すぐに参りましょうと言いながら、皆その急ぐべきことなどを取りまとめて帰っていきました」と言って、もとからいる人さえ一部はいなくて、たいそう人の少ない折だった。
意訳
侍従は浮舟が自ら命を絶ったとほのめかし、匂宮のことは漏らさないでほしいと頼んで時方を帰す。雨の中、母の中将の君が駆けつけるが、浮舟が二人の男の間で苦しんでいたことを知らないので、入水とは思いも寄らない。母は鬼か狐に取られたのか、それとも女二の宮方の者が企んだのかと疑い、新参の女房を問うが、皆京へ帰っていて人が少ない折だった。
語釈・文法注
文法
- 「心と身をなくなし給へる」(心と身をなくなし給へるやうなれば)
- 自分の心から身を亡くす。自殺したこと。
- 「狐めくもの」(狐めくものや取りもていぬらむ)
- 狐のような妖しいもの。人をさらうと信じられた。
- 「めざましがりて」(めざましがりてたばかりたる人もやあらむ)
- 心外に思って、気に食わなく思って。
解説
母は浮舟の苦悩を知らないため、鬼や狐、あるいは女二の宮方の陰謀を疑う。最も近い肉親が真相から最も遠いという皮肉が、悲劇を深めている。
侍従は匂宮との関係を隠し通そうとする。浮舟の死後も、女房たちは主人の名誉を守るために嘘を重ねていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1158–1159頁(コマ290)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日