源氏物語 第51帖 浮舟(43)
死を決める浮舟
浮舟は、親に先立つ罪を消してくださいとばかり思う。あの絵を取り出して見て、描きなさった手つきや顔の美しさなどが、向かい合い申し上げているように思われるので、昨夜一言さえ申し上げられなかったのは、やはりもう一段とつらいと思う。あののどかな様子で暮らそうと、行く末長いことを言い続けていらっしゃる人(薫)も、どうお思いになるだろうと気の毒で、つらい様子に言いなす人もいるだろうことこそ思いやると恥ずかしいが、浅はかでけしからぬ物笑いになるのを聞かれ申し上げるよりはと思い続けて、「歎きわび身をば捨つともなきかげにうき名流さむことをこそ思へ」。親もたいそう恋しく、いつもは特に思い出さない兄弟の醜い者も恋しい。宮の上(中の君)を思い出し申し上げるにつけても、すべてもう一度会いたい人が多い。女房たちは皆それぞれ染め物を急ぎ、何やかやと言うが耳にも入らない。夜になると、人に見つけられずに出ていく方法を考えつつ、眠れないままに気分も悪く、すっかり常とは違ってしまった。夜が明けると、川の方を見やりつつ、屠所に引かれる羊の歩みよりも残り少ない気がする。宮はひどく恋しいことなどをおっしゃった。今さら人が見るかもしれないと思うので、このお返事さえ思うままにも書かない。「からをだにうき世の中にとどめずばいづこをはかと君もうらみむ」とだけ書いて出した。あの殿にも最期の様子をお見せ申し上げたいが、あちこちに書き置いて、離れない間柄なので、ついにはお聞き合わせになることはたいそうつらいだろう、すべてどうなったのだろうと、誰にもわからないままで終わろうと思い返す。京から母のお手紙を持ってきた。「昨夜の夢に、たいそう騒がしくお見えになったので、誦経をあちこちでさせなどしております。そのまま夢の後、眠れなかったせいか、ただ今昼寝をしました夢に、人が忌むということがお見えになったので、驚いて差し上げます。よくお慎みなさいませ。
- 1親親おやにににさきさきさきだちだちだちなななむむん罪罪つみ失失うしなひひい給給たまへへえとととのみのみのみ思思おもふふう。。。ありありありししし繪繪えををを取取とりりり出出いでででゝゝて見見みててて、、、書書かききき給給たまひひいししし手手てつきつきつき、、、顏顏かおのののにほひにほひにおいなどなどなどのののむかひむかひむかい聞聞きこえええたらたらたらむむんやうやうようににに覺覺おぼゆれゆれゆればばば、、、よべよべよべ一一ひと言言ことをををだにだにだに聞聞きこえええずずずなりなりなりにににしししははは、、、猶猶なお今今いまひとへひとへひとえまさりまさりまさりててていみじいみじいみじととと思思おもふふう。。。かのかのかの心心こころのどかのどかのどかなるなるなるさまさまさまにてにてにて見見みむむんととと、、、行行ゆくくく末末すえ遠遠とおかるかるかるべきべきべき事事ことをををのたまひのたまひのたまいわたるわたるわたる人人ひとももも、、、いかゞいかゞいかがおぼさおぼさおぼさむむんととといとほしういとほしういとおしゅう、、、憂憂うきききさまさまさまにににいひいひいいなすなすなす人人ひともももあらあらあらむむんこそこそこそ、、、思思おもひひいやりやりやり恥恥はずかしけれしけれしけれどどど、、、心心こころ淺淺あさくくくけしからずけしからずけしからず人人ひとわらへわらへわらえならならならむむんををを聞聞きかかかれれれ奉奉たてまつらららむむんよりよりよりはははととと思思おもひひいつゞけつゞけつづけててて、、、「「「歎歎なげきききわびわびわび身身みをををばばば捨捨すつつつともともともなきなきなきかげかげかげにににうきうきうき名名な流流ながさささむむんことことことをををこそこそこそ思思おもへへえ」」」。。。親親おやもももいといといと戀戀こいしくしくしく、、、例例れいはははことことことににに思思おもひひい出出いでででぬぬぬはらからはらからはらからのののみにくやかみにくやかみにくやかなるなるなるもももこひしこひしこいし。。。宮宮みやのののうへうへうえををを思思おもひひい出出いででで聞聞きこゆるゆるゆるにににももも、、、すべてすべてすべて今今いま一一ひとたびたびたびゆかしきゆかしきゆかしき人人ひと多多おおかりかりかり。。。人人ひとははは皆皆みなおのおのおのおのおのおのものものものそめそめそめ急急いそぎぎぎ、、、何何なにやややかやかやかやととといへいへいえどどど耳耳みみにににももも入入いらららずずず。。。よるよるよるとととなれなれなればばば人人ひとににに見見みつけつけつけられられられずずず出出いでででゝゝて行行ゆくくくべきべきべき方方かたををを思思おもひひいまうけまうけもうけつゝつゝつつ、、、寢寢ねられられられぬぬぬまゝまゝままににに心地心地ここちももも惡惡あしくしくしく皆皆みなたがひたがひたがいにににたりたりたり。。。明明あけけけたてたてたてばばば、、、川川かわののの方方かたををを見見みやりやりやりつゝつゝつつ羊羊ひつじのののあゆみあゆみあゆみよりよりよりももも程程ほどなきなきなき心心こころちちここちすすす。。。
- 2宮宮みやはははいみじきいみじきいみじき事事ことどもどもどもをををのたまへのたまへのたまえりりり、、、今今いまさらさらさらににに人人ひとややや見見みむむんととと思思おもへへえばばば、、、このこのこの御御おん返返かえり事事ごとをををだにだにだに思思おもふふうまゝまゝままにににももも書書かかかかずずず。。。「「「からからからをををだにだにだにうきうきうき世世よののの中中なかにににとゞめとゞめとどめずずずばばばいづこいづこいずこをををはかはかはかととと君君きみもももうらみうらみうらみむむん」」」とととのみのみのみ書書かきききててて出出いだしししかのかのかの殿殿とのにににももも、、、いまいまいまはははののの氣色氣色けしき見見みせせせ奉奉たてまつらららまほしけれまほしけれまほしけれどどど、、、ところどころところどころところどころににに書書かきききおきおきおきててて、、、離離はなれれれぬぬぬ御御おん中中なかなれなれなればばば遂遂ついににに聞聞きききき合合あわせせせ給給たまははわむむん事事こといといといと憂憂うかるかるかるべしべしべし、、、すべてすべてすべていかにいかにいかになりなりなりけむけむけんととと、、、誰誰たれにににももも覺束覺束おぼつかなくなくなくててて止止やみみみなななむむんととと思思おもひひい返返かえすすす。。。京京きょうよりよりより母母ははののの御御おん文文ふみ持持もててて來來きたりたりたり。。。「「「寢寢ねぬるぬるぬる夜夜よののの夢夢ゆめににに、、、いといといとさわがしくさわがしくさわがしくててて見見みえええ給給たまひひいつれつれつればばば、、、ずきやうずきやうずきょう所所ところ々々どころにににせせせさせさせさせなどなどなどししし侍侍はべるるる。。。やがてやがてやがてそのそのその夢夢ゆめののの後後のち、、、寢寢ねられられられざりざりざりつるつるつるけけけにににややや、、、只只ただ今今いま晝晝ひる寢寢ねしししててて侍侍はべるるる夢夢ゆめににに、、、人人ひとのののいむいむいむととといふいふいうことことことなむなむなん見見みえええ給給たまひひいつれつれつればばば驚驚おどろきききながらながらながら奉奉たてまつるるる。。。能能よくくくつゝしまつゝしまつつしませせせ給給たまへへえ。。。
現代語訳
親に先立つ罪を消してくださいとばかり思う。あの絵を取り出して見て、描きなさった手つきや顔の美しさなどが、向かい合い申し上げているように思われるので、昨夜一言さえ申し上げられなかったのは、やはりもう一段とつらいと思う。あののどかな様子で暮らそうと、行く末長いことを言い続けていらっしゃる人も、どうお思いになるだろうと気の毒で、つらい様子に言いなす人もいるだろうことこそ思いやると恥ずかしいが、浅はかでけしからぬ物笑いになるのを聞かれ申し上げるよりはと思い続けて、「嘆きわびて身を捨てても、亡き後に浮き名を流すことこそ気がかりです」。親もたいそう恋しく、いつもは特に思い出さない兄弟の醜い者も恋しい。宮の上を思い出し申し上げるにつけても、すべてもう一度会いたい人が多い。人々は皆それぞれ染め物を急ぎ、何やかやと言うが耳にも入らない。夜になると、人に見つけられずに出ていく方法を考えつつ、眠れないままに気分も悪く、すっかり常とは違ってしまった。夜が明けると、川の方を見やりつつ、屠所に引かれる羊の歩みよりも残り少ない気がする。
宮はひどく恋しいことなどをおっしゃった。今さら人が見るかもしれないと思うので、このお返事さえ思うままにも書かない。「亡骸さえこのつらい世の中にとどめなかったら、どこを墓所としてあなたも恨むことでしょう」とだけ書いて出した。あの殿にも最期の様子をお見せ申し上げたいが、あちこちに書き置いて、離れない間柄なので、ついにはお聞き合わせになることはたいそうつらいだろう、すべてどうなったのだろうと、誰にもわからないままで終わろうと思い返す。京から母のお手紙を持ってきた。「昨夜の夢に、たいそう騒がしくお見えになったので、誦経をあちこちでさせなどしております。そのまま夢の後、眠れなかったせいか、ただ今昼寝をしました夢に、人が忌むということがお見えになったので、驚いて差し上げます。よくお慎みなさいませ。
意訳
浮舟は親に先立つ罪の許しを祈り、匂宮の絵を見て、昨夜一言も話せなかったことを悲しむ。薫がどう思うかを気にしつつも、物笑いになるよりはと、亡き後の浮き名を案じる歌を詠む。母や兄弟、中の君にもう一度会いたいと思う。女房たちが支度に騒ぐ中、浮舟は夜に抜け出す方法を考え、川を見やって死が近いことを感じる。匂宮には亡骸も残さないという歌を返し、薫には何も書き残さないと決める。母からは不吉な夢を見たので慎めという手紙が届く。
語釈・文法注
文法
- 「羊のあゆみ」(羊のあゆみよりも程なき心ちす)
- 屠所に引かれる羊の歩み。死が刻々と近づくことのたとえ(涅槃経)。
- 「からをだに」(からをだにうき世の中にとゞめずば)
- 亡骸だけでも。
- 「いづこをはかと」(いづこをはかと君もうらみむ)
- どこを墓所として。「はか」に「墓」と「はか(目当て)」を掛ける。
解説
浮舟は、母や兄弟、中の君など、もう一度会いたい人々を思う。死を前にして、平凡な家族への愛情があふれ出る場面は、読者の胸を打つ。
匂宮には亡骸も残さないと告げる歌を送り、薫には何も書かない。浮舟の二人への態度の違いは、それぞれへの思いの違いを映している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1152–1153頁(コマ287)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日