源氏物語 第51帖 浮舟(41)
拒まれる匂宮
時方が葦垣の方を見ると、いつもと違って「あれは誰だ」と言う声々が寝ぼけていない。立ち退いて、事情を知っている男を中に入れると、その者まで問いただす。以前の様子にも似ず厄介で、「京から急ぎのお手紙があるのです」と言う。右近の従者の名を呼んで会った。たいそう厄介にいっそう思われる。「全く今夜は無用です。たいそうもったいないことですが」と言わせた。宮は、どうしてこのように拒むのだろうとお思いになると、どうしようもなくて、「まず時方が入って侍従に会って、然るべきように工夫せよ」と言って遣わす。気の利く人で、あれこれ言い繕って、尋ねて侍従に会った。侍従は「どういうわけでしょうか、あの殿(薫)が仰せになることがあるといって、宿直にいる者どもが賢ぶっている頃で、たいそうどうしようもないのです。御前(浮舟)もひどく物思いばかりなさっているようなのは、このようなお志のもったいないのをお思い乱れになっているのだと、お気の毒に拝見しております。全く今夜は、人が様子を見てしまったら、かえってたいそう悪いことになりましょう。そのうちそのようにお心づもりなさる夜に、こちらでも人知れず計画して申し上げることになりましょう」と、乳母の目ざといことなども語る。大夫は「おいでになる道が並々でなく、無理なご様子なのに、あっけなくお伝え申し上げることはとんでもないことだ。それならさあ、一緒に詳しく申し上げなさい」と誘う。「たいそう無理でしょう」と言い争っているうちに、夜もたいそう更けていく。宮は御馬で少し遠くに立っていらっしゃるところに、田舎びた犬どもが出てきて吠えるのもたいそう恐ろしく、人少なでたいそう妙なお出歩きなので、わけのわからない者が走り出てきたらどうしようと、お仕えする者は皆心を惑わした。「やはり早く早く参ろう」と言い騒いで、この侍従を連れて参る。髪を脇から前に掻き越して、姿のたいそう美しい人である。馬に乗せようとするが全く聞かないので、衣の裾を取って付き添って行く。
- 1あしあしあしがきがきがきのののかたかたかたををを見見みるるるににに、、、例例れいならならならずずず、、、「「「あれあれあれはははたたたぞぞぞ」」」ととといふいふいう聲聲こえ々々ごえいざとげいざとげいざとげなりなりなり。。。たちたちたちのきのきのきててて、、、心心こころしりしりしりのののをのこをのこおのこををを入入いれれれたれたれたればばば、、、それそれそれをををさへさへさへ問問とふふう。。。さきざきさきざきさきざきのののけはひけはひけはいにににももも似似にずずずわづらはしくわづらはしくわずらわしくててて「「「京京きょうよりよりよりとみとみとみののの御御おん文文ふみあるあるあるなりなりなり」」」ととといふいふいう。。。右右う近近こんがががずさずさずさののの名名なををを呼呼よびびびててて逢逢あひひいたりたりたり。。。いといといと煩煩わずらしくしくしくいとゞいとゞいとどおぼゆおぼゆおぼゆ。。。「「「更更さらにににこよひこよひこよいははは不不ふ用用ようなりなりなり、、、いみじくいみじくいみじく忝忝かたじけなきききことことこと」」」ととといはいはいわせせせたりたりたり、、、宮宮みや、、、などなどなどかくかくかくもてもてもてはなるはなるはなるらむらむらんとととおぼすおぼすおぼすにににわりなくわりなくわりなくててて「「「まづまづまず時時とき方方かた入入いりりりててて侍侍じ從從じゅうににに逢逢あひひいててて、、、さるべきさるべきさるべきさまさまさまにににたばかれたばかれたばかれ」」」とてとてとて遣遣つかわすすす。。。かどかどかどかどしきかどしきかどしき人人ひとにてにてにて、、、とかくとかくとかくいひいひいいかまへかまへかまえててて、、、尋尋たずねねねててて逢逢あひひいたりたりたり。。。「「「いかいかいかなるなるなるにににかかかあらあらあらむむん、、、かのかのかの殿殿とのののののたまはするのたまはするのたまわすることことことありありありとてとてとて、、、とのとのとのゐゐいにににあるあるあるものものものどもどもどものののさかしがりさかしがりさかしがりたちたちたちたるたるたる頃頃ころにてにてにて、、、いといといとわりなきわりなきわりなきなりなりなり。。。おおお前前まえにににもももものものものをををのみのみのみいみじくいみじくいみじくおぼしおぼしおぼしたたためるめるめるははは、、、かゝるかゝるかかる御御おん事事ことののの忝忝かたじけなきなきなきをををおぼしおぼしおぼし亂亂みだるゝるゝるるにににこそこそこそはははととと心苦心苦こころぐるしくしくしくなむなむなん見見み奉奉たてまつるるる。。。更更さらにににこよひこよひこよいははは人人ひとげしきげしきげしき見見み侍侍はべりりりなななばばば、、、なかなかなかなかなかなかにににいといといと惡惡あしかりしかりしかりなななむむん。。。やがてやがてやがてさささももも御心御心みこころづかひづかひずかいせせせさせさせさせ給給たまふふうべからべからべからむむん夜夜よ、、、こゝこゝここにににももも人人ひと知知しれれれずずず思思おもひひいかまへかまへかまえてててなむなむなん聞聞きこえええさすさすさすべかべかべかめるめるめる」」」めのとめのとめのとのののいざときいざときいざとき事事ことなどなどなどももも語語かたるるる。。。
- 2大大たい夫夫ふ「「「おはしますおはしますおわします道道みちのののおぼろけおぼろけおぼろけならならならずずず、、、あながちあながちあながちなるなるなる御御おん氣色氣色けしきににに、、、あへなくあへなくあえなく聞聞きこえええさせさせさせむむんことことことなむなむなんたいだいしきたいだいしきたいだいしき。。。さらばさらばさらばいざいざいざ給給たまへへえ共共ともににに委委くわしくしくしく聞聞きこえええさせさせさせ給給たまへへえ」」」ととといざなふいざなふいざなう。。。「「「いといといとわりなからわりなからわりなからむむん」」」ととといひいひいいしろふしろふしろう程程ほどににに、、、夜夜よもももいたくいたくいたく更更ふけけけ行行ゆくくく宮宮みやははは御御おん馬馬うまにてにてにて少少すこししし遠遠とおくくく立立たちちち給給たまへへえるるるににに、、、さとさとさとびたるびたるびたる犬犬いぬどもどもどもののの出出いででで來來きてててのゝしるのゝしるののしるもももいといといとおそろしくおそろしくおそろしく、、、人人ひとずくなずくなずくなにににいといといと怪怪あやしきしきしき御御おんありきありきありきなれなれなればばば、、、すゞろすゞろすずろならならならむむんものものものゝゝの走走はしりりり出出いででで來來きたらたらたらむむんももも、、、いかいかいかさまさまさまにににかかかととと侍侍さぶらふふうかぎりかぎりかぎり心心こころをををぞぞぞ惑惑まどはしはしわしけるけるける。。。「「「猶猶なお疾疾とくくく疾疾とくくく參參まいりりりなななむむん」」」ととといひいひいいさわがしさわがしさわがしてててこのこのこの侍侍じ從從じゅうをををゐゐいててて參參まいるるる。。。かみかみかみわきわきわきよりよりよりかいかいかいこしこしこしててて、、、やうだいやうだいようだいいといといとをかしきをかしきおかしき人人ひとなりなりなり。。。馬馬うまににに乘乘のせせせむむんとととすれすれすれどどど更更さらにににきかきかきかねねねばばば、、、きぬきぬきぬののの裾裾すそをををとりとりとりててて立立たちちちそひそひそいててて行行ゆくくく。。。
現代語訳
葦垣の方を見ると、いつもと違って、「あれは誰だ」と言う声々が寝ぼけていない。立ち退いて、事情を知っている男を中に入れると、それまで問いただす。以前の様子にも似ず厄介で、「京から急ぎのお手紙があるのです」と言う。右近の従者の名を呼んで会った。たいそう厄介にいっそう思われる。「全く今夜は無用です。たいそうもったいないことですが」と言わせた。宮は、どうしてこのように拒むのだろうとお思いになると、どうしようもなくて、「まず時方が入って侍従に会って、然るべきように工夫せよ」と言って遣わす。気の利く人で、あれこれ言い繕って、尋ねて会った。「どういうわけでしょうか、あの殿が仰せになることがあるといって、宿直にいる者どもが賢ぶっている頃で、たいそうどうしようもないのです。御前もひどく物思いばかりなさっているようなのは、このようなお志のもったいないのをお思い乱れになっているのだと、お気の毒に拝見しております。全く今夜は、人が様子を見てしまったら、かえってたいそう悪いことになりましょう。そのうちそのようにお心づもりなさる夜に、こちらでも人知れず計画して申し上げることになりましょう」と、乳母の目ざといことなども語る。
大夫は「おいでになる道が並々でなく、無理なご様子なのに、あっけなくお伝え申し上げることはとんでもないことだ。それならさあ、一緒に詳しく申し上げなさい」と誘う。「たいそう無理でしょう」と言い争っているうちに、夜もたいそう更けていく。宮は御馬で少し遠くに立っていらっしゃるところに、田舎びた犬どもが出てきて吠えるのもたいそう恐ろしく、人少なでたいそう妙なお出歩きなので、わけのわからない者が走り出てきたらどうしようと、お仕えする者は皆心を惑わした。「やはり早く早く参ろう」と言い騒いで、この侍従を連れて参る。髪を脇から前に掻き越して、姿のたいそう美しい人である。馬に乗せようとするが全く聞かないので、衣の裾を取って付き添って行く。
意訳
匂宮が宇治に来ると、宿直人たちが厳しく警戒しており、時方は中に入れない。右近は今夜は無理だと伝える。匂宮の命で時方が侍従に会うと、侍従は薫の命令で警戒が厳しく、浮舟も思い乱れていると話す。時方は侍従に直接匂宮に説明するよう求める。夜更け、馬上で遠くに待つ匂宮のもとに、犬が吠える中、時方は侍従を連れて行く。
語釈・文法注
文法
- 「いざとげ」(「あれはたぞ」といふ聲々いざとげなり)
- 寝聡し。目ざとい、すぐ目を覚ます。
- 「いひしろふ」(「いとわりなからむ」といひしろふ程に)
- 言い争う。
- 「かいこして」(かみわきよりかいこして)
- 掻い越す。髪を脇から前へ掻き寄せる。
解説
薫の命令で厳重になった警備が、匂宮の行く手を阻む。かつて自由に出入りできた宇治の邸は、今や匂宮を拒む砦となっている。
犬の吠える夜道、皇子が馬上で待つ姿は哀れである。身分も体面も捨てた匂宮の情熱が、ここで限界に突き当たる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1150–1151頁(コマ286)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日