源氏物語 第51帖 浮舟(40)
匂宮の迎えの約束
浮舟は「後に残って、あの方のためにもお気の毒でしょう。差し出がましくこれを取っておいたのだろうよなどと、漏れ聞きなさるのこそ恥ずかしい」などとおっしゃる。心細いことを思いつめていくと、やはりまだ思い立てないことだった。親を残して死ぬ人はたいそう罪深くなるそうなのになどと、さすがにほのかに聞いたことも思う。二十日過ぎにもなった。あの家の主(匂宮の乳母)は二十八日に下るという。宮は「その夜必ず迎えよう。下人などに、決して様子を気取られないように気をつけなさい。こちらからは夢にも漏れることはあるまい。疑いなさるな」などとおっしゃる。浮舟は、それにしても、あってはならない様子でおいでになったのに、もう一度お話もせず、気がかりなままお帰し申し上げることよ、またわずかの間でも、どうしてここにお寄せ申し上げられよう、甲斐もなく恨んでお帰りになる様子などを思いやると、いつものように面影が離れず、絶えず悲しくて、このお手紙を顔に押し当てて、しばらくはこらえているが、たいそうひどくお泣きになる。右近は「わが君、このようなご様子では、ついには人が拝見してしまうでしょう。だんだん妙だなどと思う人もいるようです。このように思い悩まないで、然るべきようにお返事申し上げなさいませ。右近がおりましたら、大それたことでも工夫して出しましたら、これほど小さなお身体一つは、空からでもお連れ申し上げなさるでしょう」と言う。浮舟はしばらくためらって、「このようにばかり言うのがたいそう情けない。そうあってもよいことと思っているならともかく、あってはならないことと皆わかっているのに、無理に、このようにばかり頼みにしているようにおっしゃるので、どんなことをしでかしなさるつもりかなどと思うにつけて、身がたいそう情けないのです」と言って、返事も申し上げなさらなくなった。宮は、このようにやはり承知する様子もなくて、返事さえ途絶えがちになるのは、あの人(薫)がしかるべきように言い含めて、少し安心できる方に思い定まってしまったのだろう、もっともだとお思いになるものの、たいそう残念で妬ましく、それでも私を哀れとお思いだったのに、会わない間に女房たちが言い聞かせる方に寄ったのだろうなどと物思いにふけりなさると、行く方もなく、むなしい空に満ちてしまう心地がなさるので、いつものようにひどく思い立っておいでになった。
- 1おちおちおちとゞまりとゞまりとどまりててて、、、人人ひとののの御御おんためためためもももいとほしからいとほしからいとおしからむむん、、、さかしらさかしらさかしらにににこれこれこれををを取取とりりり置置おきききけむけむけんよよよなどなどなど、、、漏漏もりりり聞聞きききき給給たまははわむむんこそこそこそ恥恥はずかしけれしけれしけれ」」」などなどなどのたまふのたまふのたまう。。。心心こころ細細ぼそききき事事ことををを思思おもひひいもてもてもて行行ゆくくくにににははは、、、まだまだまだえええ思思おもひひい立立たつつつまじきまじきまじきわざわざわざなりなりなりけりけりけり。。。親親おやをををおきおきおきてててなくなくなくなるなるなる人人ひとははは、、、いといといと罪罪つみ深深ふかくくくなるなるなるものものものをををなどなどなど、、、さすがさすがさすがにににほのほのほの聞聞ききききたるたるたることことことをををももも思思おもふふう。。。廿廿はつ日日かあまりあまりあまりにににもももなりなりなりぬぬぬ。。。かのかのかの家家いえあるじあるじあるじ、、、廿廿にじゅう八八はち日日にちにににくだるくだるくだるべしべしべし。。。宮宮みやははは「「「そのそのその夜夜よ必必かならずずず迎迎むかへへえむむん。。。しもしもしもびとびとびとなどなどなどににに、、、よくよくよく氣色氣色けしき見見みゆゆゆまじきまじきまじき心心こころづかひづかひずかいししし給給たまへへえ。。。こなたこなたこなたざまざまざまよりよりよりははは夢夢ゆめにににももも聞聞きこえええあるあるあるまじまじまじ。。。疑疑うたがひひい給給たまふふうななな」」」などなどなどのたまふのたまふのたまう。。。さてさてさてあるあるあるまじきまじきまじきさまさまさまにてにてにて、、、おはしおはしおわしたらたらたらむむんににに、、、今今いま一一ひとたびたびたび物物ものをををももも聞聞きこえええずずず、、、おぼつかなくおぼつかなくおぼつかなくててて返返かえししし奉奉たてまつらららむむんことことことよよよ、、、又又また時時ときのののまままにてにてにてももも、、、いかでいかでいかでこゝこゝここにににははは寄寄よせせせ奉奉たてまつらららむむんとととするするする、、、かひかひかいなくなくなく恨恨うらみみみててて歸歸かえりりり給給たまははわむむんさまさまさまなどなどなどををを思思おもひひいやるやるやるににに、、、例例れいのののおもかげおもかげおもかげ離離はなれれれずずず、、、絕絕たえええずずず悲悲かなしくしくしくててて、、、このこのこの御御おん文文ふみををを顏顏かおにににおしおしおしあてあてあてゝゝて、、、しばししばししばしはははつゝめつゝめつつめどもどもども、、、いといといといみじくいみじくいみじくなきなきなき給給たまふふう。。。右右う近近こん「「「あがあがあが君君きみ、、、かゝるかゝるかかる御御おん氣色氣色けしき遂遂ついににに人人ひと見見み奉奉たてまつりりりつつつべしべしべし。。。やうやうやうやうようよう怪怪あやしししなどなどなど思思おもふふう人人ひとももも侍侍はべるるるべかべかべかめりめりめり。。。かうかうこうかゝづらひかゝづらひかかずらい思思おもほさほさおさででで、、、さるべきさるべきさるべきさまさまさまににに聞聞きこえええさせさせさせ給給たまひひいてててよよよ。。。右右う近近こん侍侍はべらららばばば、、、おほけなきおほけなきおおけなきことことことももも、、、たばかりたばかりたばかり出出いだししし侍侍はべらららばばば、、、かばかりかばかりかばかり小小ちいさききき御御おん身身みひとつひとつひとつははは、、、空空そらよりよりよりもももゐゐいててて奉奉たてまつらららせせせ給給たまひひいなななむむん」」」ととといふいふいう。。。
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現代語訳
「後に残って、あの方のためにもお気の毒でしょう。差し出がましくこれを取っておいたのだろうよなどと、漏れ聞きなさるのこそ恥ずかしい」などとおっしゃる。心細いことを思いつめていくと、やはりまだ思い立てないことだった。親を残して死ぬ人はたいそう罪深くなるそうなのになどと、さすがにほのかに聞いたことも思う。二十日過ぎにもなった。あの家の主は二十八日に下るという。宮は「その夜必ず迎えよう。下人などに、決して様子を気取られないように気をつけなさい。こちらからは夢にも漏れることはあるまい。疑いなさるな」などとおっしゃる。それにしても、あってはならない様子でおいでになったのに、もう一度お話もせず、気がかりなままお帰し申し上げることよ、またわずかの間でも、どうしてここにお寄せ申し上げられよう、甲斐もなく恨んでお帰りになる様子などを思いやると、いつものように面影が離れず、絶えず悲しくて、このお手紙を顔に押し当てて、しばらくはこらえているが、たいそうひどくお泣きになる。右近は「わが君、このようなご様子では、ついには人が拝見してしまうでしょう。だんだん妙だなどと思う人もいるようです。このように思い悩まないで、然るべきようにお返事申し上げなさいませ。右近がおりましたら、大それたことでも工夫して出しましたら、これほど小さなお身体一つは、空からでもお連れ申し上げなさるでしょう」と言う。
しばらくためらって、「このようにばかり言うのがたいそう情けない。そうあってもよいことと思っているならともかく、あってはならないことと皆わかっているのに、無理に、このようにばかり頼みにしているようにおっしゃるので、どんなことをしでかしなさるつもりかなどと思うにつけて、身がたいそう情けないのです」と言って、返事も申し上げなさらなくなった。宮は、このようにやはり承知する様子もなくて、返事さえ途絶えがちになるのは、あの人がしかるべきように言い含めて、少し安心できる方に思い定まってしまったのだろう、もっともだとお思いになるものの、たいそう残念で妬ましく、それでも私を哀れとお思いだったのに、会わない間に女房たちが言い聞かせる方に寄ったのだろうなどと物思いにふけりなさると、行く方もなく、むなしい空に満ちてしまう心地がなさるので、いつものようにひどく思い立っておいでになった。
意訳
浮舟は、手紙が死後に残って匂宮に迷惑がかかるのを恐れて始末する。死を思いつめても、親を残して死ぬ罪深さを思うとまだ決心がつかない。三月二十日過ぎ、匂宮は二十八日の夜に必ず迎えに行くと言ってくる。浮舟は匂宮を思って手紙に顔を押し当てて泣き、右近は匂宮に従えばよいと言うが、浮舟はそんな話は情けないと返事も書かなくなる。返事の途絶えに、匂宮は薫に言い含められたのだと思い、思い余って宇治へ向かう。
語釈・文法注
文法
- 「おちとゞまりて」(おちとゞまりて、人の御ためもいとほしからむ)
- 落ち留まる。後に残る。
- 「親をおきてなくなる人は」(親をおきてなくなる人は、いと罪深くなるものを)
- 親より先に死ぬことは、仏教で罪深いとされた。
- 「うけひく」(猶うけひく氣色もなくて)
- 承知する、同意する。
解説
浮舟は死を決意しながらも、親を残す罪を思ってためらう。その揺れ動く心の描写は、浮舟の人間らしさを伝えている。
匂宮の手紙を顔に押し当てて泣く浮舟。死を選ぼうとしながらも、匂宮への思いは消えない。この矛盾こそが浮舟の苦悩の本質である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1148–1151頁(コマ285–286)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日