源氏物語 第51帖 浮舟(39)
文を焼く浮舟
乳母は「皆、身代わりだと言いながら、妙な下衆ばかりを参らせるので、夜回りさえしないのに」と喜ぶ。浮舟は、本当に今にもひどいことになりそうな身だとお思いになるのに、宮からは、どうかどうかと、苔の乱れるような思いのやるせなさをおっしゃってくる。たいそう厄介なことで、どちらにしても、どちらか一方につけて、たいそういやなことはきっと起こるだろう、我が身一つがなくなってしまうことこそ見苦しくないだろう、昔は懸想する人の有様がどちらとも決めかねて思い悩んだだけでさえ、身を投げる例もあったのだ、生き長らえたら必ずつらいことを見るに違いない身が、なくなるのは何が惜しかろう、親もしばらくは嘆きなさるだろうが、大勢の子どもの世話に、自然と忘れ草を摘むだろう、生きていながら身を損ない、物笑いになる様子でさすらうのは、まさる物思いだろうなどと思うようになる。子どもっぽくおっとりとして、なよなよと見えるが、気高く世の有様を知ることも少なく育てられた人なので、少し気の強いことを思い寄ったのだろう。厄介な反故などを破って、仰々しく一度に始末もせず、灯台の火で焼いたり、水に投げ入れさせたりなどして、だんだん失う。事情を知らない女房たちは、どこかへお移りになるので、所在ない月日を経て、ちょっと書き集めなさった手習などを破りなさるのだろうと思う。侍従などが見つけた時は、「どうしてこのようになさるのですか。愛し合うお仲で、お心を留めて書き交わしなさったお手紙は、人にこそお見せにならないでしょうが、物の底にお置きになってご覧になるのこそ、身分相応にたいそうしみじみとしたことです。あれほどすばらしい紙づかいで、もったいないお言葉を尽くしなさったのを、こうしてばかり破りなさるのは、情けないことです」と言う。浮舟は「何の。厄介で、長くはなさそうな身のようですから。
- 1皆皆みな身身みのののかはりかはりかわりぞぞぞととといひいひいいつゝつゝつつ、、、あやしきあやしきあやしきげすげすげすをををのみのみのみ參參まいらららすれすれすればばば、、、やぎやうやぎやうやぎょうをををだにだにだにせせせぬぬぬににに」」」とととよろこぶよろこぶよろこぶ。。。君君きみはははげにげにげに只只ただ今今いまいといといと惡惡あしくしくしくなりなりなりぬぬぬべきべきべき身身みなななめりめりめりとととおぼすおぼすおぼすににに、、、宮宮みやよりよりよりはははいかにいかにいかにいかにいかにいかにととと苔苔こけののの亂亂みだるゝるゝるるわりなさわりなさわりなさをををのたまふのたまふのたまう。。。いといといとわづらはしくわづらはしくわずらわしくなむなむなん、、、とてもとてもとてもかくかくかくてててももも、、、ひとひとひとかたかたかたひとひとひとかたかたかたにににつけつけつけててて、、、いといといとうたてうたてうたてあるあるあることことことははは出出いででできききなななむむん、、、わがわがわが身身みひとつひとつひとつのののなくなくなくなりなりなりなななむむんのみのみのみこそこそこそめやすからめやすからめやすからめめめ、、、昔昔むかしははは懸懸け想想そうずるずるずる人人ひとののの有有あり樣樣さまののの、、、いづれいづれいずれとととなきなきなきににに思思おもひひい煩煩わずらひひいてててだにだにだにこそこそこそ身身みををを投投なぐるぐるぐるためしためしためしもももありありありけれけれけれ、、、ながらへながらへながらへばばば、、、必必かならずずずうきうきうきことことこと見見みえええぬぬぬべきべきべき身身みののの、、、なくなくなくならならならむむんははは何何なにかかか惜惜おしかるしかるしかるべきべきべき、、、親親おやももも暫暫しばしししこそこそこそ歎歎なげききき給給たまははわめめめ、、、あまたあまたあまたののの子子こどもどもどもあつかひあつかひあつかいににに、、、おのづからおのづからおのずから忘忘わすれ草草ぐさつみつみつみてててむむん、、、ありありありながらながらながらもてもてもてそこなひそこなひそこない、、、人人ひとわらへわらへわらえなるなるなるさまさまさまにてにてにてさすらへさすらへさすらえむむんははは、、、まさるまさるまさる物物もの思思おもひひいなるなるなるべしべしべしなどなどなど思思おもひひいなるなるなる。。。こめきこめきこめきおほどかおほどかおおどかににに、、、たをたをたをたをたおたおととと見見みゆれゆれゆれどどど、、、けだかうけだかうけだこう世世よののの有有あり樣樣さまをををももも知知しるるる方方かたすくなくすくなくすくなくててて、、、おふしおふしおうしたてたてたてたるたるたる人人ひとにににしししあれあれあればばば、、、少少すこしししおずかるおずかるおずかるべきべきべきとととををを思思おもひひいよるよるよるなりなりなりけむけむけんかしかしかし。。。
- 2むつかしきむつかしきむつかしきほぐほぐほぐなどなどなどやりやりやりててて、、、おどろおどろしくおどろおどろしくおどろおどろしく一一ひとたびたびたびにににもももしたゝめしたゝめしたためずずず、、、とうだいとうだいとうだいののの火火ひににに燒燒やききき、、、水水みずににに投投なげげげ入入いれれれさせさせさせなどなどなど、、、やうやうやうやうようよう失失うしなふふう。。。心心こころ知知しらららぬぬぬごごごだちだちだちははは、、、物物ものへへへ渡渡わたりりり給給たまふふうべけれべけれべければばば、、、つれづれつれづれつれずれなるなるなる月月つき日日ひををを經經へててて、、、はかなくはかなくはかなくししし集集あつめめめ給給たまへへえるるる手手て習習ならいなどなどなどをををやりやりやり給給たまふふうなななめりめりめりととと思思おもふふう。。。侍侍じ從從じゅうなどなどなどぞぞぞ見見みつくるつくるつくる時時ときははは、、、「「「などなどなどかくかくかくはははせせせさせさせさせ給給たまふふう。。。哀哀あわれなるなるなる御御おん中中なかににに、、、御心御心みこころ留留とめめめててて書書かきききかはしかはしかわし給給たまへへえるるる文文ふみははは人人ひとにににこそこそこそ見見みせせせさせさせさせ給給たまははわざらざらざらめめめ、、、物物ものののの底底そこにににおかおかおかせせせ給給たまひひいててて御御ご覽覽らんずるずるずるなむなむなん、、、ほどほどほどほどほどほどにににつけつけつけてててはははいといといと哀哀あわれにににはべるはべるはべる。。。さばかりさばかりさばかりめでたきめでたきめでたき御御おん紙紙かみつかひつかひつかい、、、かたじけなきかたじけなきかたじけなき御御おん言言ことののの葉葉はををを盡盡つくさささせせせ給給たまへへえるるるををを、、、かくかくかくのみのみのみやらやらやらせせせ給給たまふふう、、、なさけなさけなさけなきなきなきことことこと」」」ととといふいふいう。。。「「「何何なにかかか、、、むつかしくむつかしくむつかしく長長ながかるかるかるまじきまじきまじき身身みにににこそこそこそあああめれめれめれ。。。
現代語訳
「皆、身代わりだと言いながら、妙な下衆ばかりを参らせるので、夜回りさえしないのに」と喜ぶ。君は、本当に今にもひどいことになりそうな身だとお思いになるのに、宮からは、どうかどうかと、苔の乱れるような思いのやるせなさをおっしゃってくる。たいそう厄介なことで、どちらにしても、どちらか一方につけて、たいそういやなことはきっと起こるだろう、我が身一つがなくなってしまうことこそ見苦しくないだろう、昔は懸想する人の有様がどちらとも決めかねて思い悩んだだけでさえ、身を投げる例もあったのだ、生き長らえたら必ずつらいことを見るに違いない身が、なくなるのは何が惜しかろう、親もしばらくは嘆きなさるだろうが、大勢の子どもの世話に、自然と忘れ草を摘むだろう、生きていながら身を損ない、物笑いになる様子でさすらうのは、まさる物思いだろうなどと思うようになる。子どもっぽくおっとりとして、なよなよと見えるが、気高く世の有様を知ることも少なく育てられた人なので、少し気の強いことを思い寄ったのだろう。
厄介な反故などを破って、仰々しく一度に始末もせず、灯台の火で焼いたり、水に投げ入れさせたりなどして、だんだん失う。事情を知らない女房たちは、どこかへお移りになるので、所在ない月日を経て、ちょっと書き集めなさった手習などを破りなさるのだろうと思う。侍従などが見つけた時は、「どうしてこのようになさるのですか。愛し合うお仲で、お心を留めて書き交わしなさったお手紙は、人にこそお見せにならないでしょうが、物の底にお置きになってご覧になるのこそ、身分相応にたいそうしみじみとしたことです。あれほどすばらしい紙づかいで、もったいないお言葉を尽くしなさったのを、こうしてばかり破りなさるのは、情けないことです」と言う。「何の。厄介で、長くはなさそうな身のようですから。
意訳
浮舟は、薫と匂宮のどちらを選んでも不幸が起こると思い、自分が死ぬことこそ最もよいと考えるようになる。昔も二人の男に求婚されて身を投げた女の例があり、母も一時は嘆いても他の子の世話で忘れるだろうと思う。浮舟は匂宮からの手紙を少しずつ焼いたり水に投げ入れたりして始末する。侍従はそれを見て、大切な手紙を破るのは情けないと言うが、浮舟は長くない身だからと答える。
語釈・文法注
文法
- 「苔の亂るゝ」(いかにいかにと苔の亂るゝわりなさを)
- 「逢ふことの君にたゆたふ苔の上の乱れて思ふ心苦しさ」などの歌による。思い乱れること。
- 「身を投ぐるためし」(身を投ぐるためしもありけれ)
- 『万葉集』の菟原処女の伝説など。二人の男に求婚されて身を投げた女の話。
- 「ほぐ」(むつかしきほぐなどやりて)
- 反故。書き損じた紙、不要な手紙。
解説
浮舟は入水を決意する。二人の男に求婚されて身を投げた昔の女の例を思う浮舟は、自らを伝説の悲劇の女に重ねていく。
浮舟は匂宮の手紙を焼き、水に流す。死後に残る証拠を消そうとするこの行為は、浮舟の死への決意の固さを示している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1148–1149頁(コマ285)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日