源氏物語 第51帖 浮舟(38)
内舎人の警告
乳母は新参の女童などで見苦しくない者を呼び寄せては、「このような人をご覧なさいませ。妙にばかり臥していらっしゃるのは、物の怪などがお妨げ申し上げようとしているのでしょう」と嘆く。殿(薫)からは、あの先日の返事のことさえおっしゃらないまま日数がたった。この恐ろしいと話に出た内舎人という者が来た。本当にたいそう荒々しく、無骨な様子をした老人の声だな。さすがにわけありの様子で、女房に申し上げたいことがあると言わせたので、右近が会った。「殿に召されましたので、今朝参りまして、ただ今帰ってまいりました。雑事を仰せになったついでに、こうしていらっしゃる間、夜中や明け方のことにも、私どもがこうしてお仕えしているとお思いになって、宿直人を特別にお差し向けになることもないのに、この頃お聞きになると、女房のもとに知らない所の人が通うようにお聞きになることがある、ふしだらなことだ、宿直に仕える者どもは、その事情を尋ね聞いているだろう、知らないでどうして仕えていられようかとお尋ねになったので、承っておりませんことなので、私は身の病が重うございまして、宿直をお勤めすることは何か月も怠っておりますので、事情も存じません、然るべき男どもは怠りなく督促してお仕えさせておりますので、そのような非常のことがございますのを、どうして承らないことがございましょうと申し上げました。用心してお仕えせよ、不都合なことがあったら重く処罰なさるとの仰せ言がございましたので、どのような仰せ言かと恐れ申しております」と言うのを聞くと、梟が鳴くよりもたいそう恐ろしい。右近は返事もできず、浮舟に「それごらんなさい。申し上げたことと違わないことをお聞きなさいませ。殿は事情をご覧になったようです。お便りもございませんよ」などと嘆く。乳母はかすかに聞いて、「たいそううれしく仰せられました。盗人の多いあたりで、宿直人も初めのようではありません。
- 1今今いままゐりまゐりまいりわらはわらはわらわなどなどなどののの、、、めやすきめやすきめやすきををを呼呼よびびびとりとりとりつゝつゝつつ、、、「「「かゝるかゝるかかる人人ひと御御ご覽覽らんぜぜぜよよよ。。。あやしくあやしくあやしくてててのみのみのみ臥臥ふさささせせせ給給たまへへえるるるははは、、、ものものものゝゝのけけけなどなどなどののの妨妨さまたげげげ聞聞きこえええさせさせさせむむんとととするするするにににこそこそこそ」」」とととなげくなげくなげく。。。殿殿とのよりよりよりははは、、、かのかのかのありありありししし返返かえり事事ごとをををだにだにだにのたまはのたまはのたまわででで日日ひ頃頃ごろ經經へぬぬぬ。。。このこのこのおどしおどしおどしゝゝしうどうどうどねりねりねりととといふいふいうものものものぞぞぞ來來きたるたるたるげにげにげにいといといとあらあらしくあらあらしくあらあらしく、、、ふつゝかふつゝかふつつかなるなるなるさまさまさましししたるたるたるおきなおきなおきなののの聲聲こえかなかなかな。。。さすがさすがさすがににに氣色氣色けしきあるあるある、、、女房女房にょうぼうにににものものものとりとりとり申申もうさささむむんととといはいはいわせせせたれたれたればばば、、、右右う近近こんしもしもしも逢逢あひひいたりたりたり。。。「「「殿殿とのににに召召めししし侍侍はべりりりしかしかしかばばば、、、けさけさけさ參參まいりりり侍侍はべりりりててて只只ただ今今いまなむなむなん罷罷まかりりり歸歸かえりりり侍侍はべりりりつるつるつる。。。さふじさふじぞうじどもどもども仰仰おおせせせられられられつるつるつる序序ついでににに、、、かくかくかくててておはしますおはしますおわします程程ほどににに、、、夜夜よ中中なか曉曉あかつきのののことことことにににももも、、、なにがしなにがしなにがしらららかくかくかくててて侍侍さぶらふふうととと思思おもほしほしおしててて、、、とのとのとのゐゐいびとびとびとわざとわざとわざとさしさしさし奉奉たてまつらららせせせ給給たまふふうことことこともももなきなきなきををを、、、このこのこの頃頃ごろ聞聞きこししし召召めせせせばばば、、、女房女房にょうぼうののの御御おん許許もとににに知知しらららぬぬぬ所所ところののの人人ひと通通かよふふうやうやうようににになむなむなん聞聞きこししし召召めすすすことことことあるあるある、、、たいたいしきたいたいしきたいたいしきとととなりなりなり。。。とのとのとのゐゐいににに侍侍さぶらふふうものものものどもどもどもははは、、、そのそのそのあないあないあない問問とひひい聞聞ききききたらたらたらむむん、、、知知しらららででではははいかゞいかゞいかが侍侍さぶらふふうべきべきべきととと問問とはははせせせ給給たまへへえるるるににに、、、
- 2承承うけたまわらららぬぬぬとととなれなれなればばば、、、なにがしなにがしなにがしははは身身みののの病病やまい重重おもくくく侍侍はべりりりててて、、、とのとのとのゐゐい仕仕つこうううまつるまつるまつることことことははは月月つき頃頃ごろ怠怠おこたりりりててて侍侍はべれれればばばあないあないあないももも得得え知知しりりり侍侍はべらららずずず。。。さるべきさるべきさるべきをのこをのこおのこどもどもどもははは、、、けだいけだいけだいなくなくなくもよほしもよほしもよおし侍侍さぶらははわせせせ侍侍はべるるるををを、、、さささのののごときごときごとき非非ひ常常じょうののの事事ことののの侍侍はべらららはははむむんをををばばば、、、いかでいかでいかでかかか承承うけたまわらららぬぬぬやうやうようははは侍侍はべらららむむんとととなむなむなん申申もうさささせせせ侍侍はべりりりつるつるつる。。。用用よう意意いしししてててさぶらへさぶらへさぶらえ。。。びんなきびんなきびんなき事事こともももあらあらあらばばば重重おもくくく勘勘こう當當どうせせせしめしめしめ給給たまふふうべきべきべきよしよしよしなむなむなん仰仰おおせせせ言言ごと侍侍はべりりりつれつれつればばば、、、いかいかいかなるなるなる仰仰おおせせせ言言ごとにににかかかととと、、、恐恐おそれれれ申申もうしししはべるはべるはべる」」」ととといふいふいうををを聞聞きくくくににに、、、ふくろふふくろふふくろうののの鳴鳴なかかかむむんよりよりよりももも、、、いといといとものものものおそろしおそろしおそろし。。。いらへいらへいらえもももやらやらやらででで、、、「「「さりさりさりややや聞聞きこえええさせさせさせしししににに違違たがははわぬぬぬ事事ことどもどもどもををを聞聞きこしししめせめせめせ。。。物物ものののの氣色氣色けしき御御ご覽覽らんじじじたるたるたるなななめりめりめり。。。御御おんせうそこせうそこしょうそこももも侍侍はべらららぬぬぬよよよ」」」などなどなどなげくなげくなげく。。。めのとめのとめのとはははほのほのほのうちうちうち聞聞ききききててて「「「いといといと嬉嬉うれしくしくしく仰仰おおせせせられられられたりたりたり。。。ぬすびとぬすびとぬすびと多多おおかかかなるなるなるわたりわたりわたりにににとのとのとのゐゐい人人ひとももも始始はじめのののやうやうようにににもももあらあらあらずずず。。。
現代語訳
新参の女童などで見苦しくない者を呼び寄せては、「このような人をご覧なさいませ。妙にばかり臥していらっしゃるのは、物の怪などがお妨げ申し上げようとしているのでしょう」と嘆く。殿からは、あの先日の返事のことさえおっしゃらないまま日数がたった。この恐ろしいと話に出た内舎人という者が来た。本当にたいそう荒々しく、無骨な様子をした老人の声だな。さすがにわけありの様子で、女房に申し上げたいことがあると言わせたので、右近が会った。「殿に召されましたので、今朝参りまして、ただ今帰ってまいりました。雑事を仰せになったついでに、こうしていらっしゃる間、夜中や明け方のことにも、私どもがこうしてお仕えしているとお思いになって、宿直人を特別にお差し向けになることもないのに、この頃お聞きになると、女房のもとに知らない所の人が通うようにお聞きになることがある、ふしだらなことだ、宿直に仕える者どもは、その事情を尋ね聞いているだろう、知らないでどうして仕えていられようかとお尋ねになったので、
承っておりませんことなので、私は身の病が重うございまして、宿直をお勤めすることは何か月も怠っておりますので、事情も存じません、然るべき男どもは怠りなく督促してお仕えさせておりますので、そのような非常のことがございますのを、どうして承らないことがございましょうと申し上げました。用心してお仕えせよ、不都合なことがあったら重く処罰なさるとの仰せ言がございましたので、どのような仰せ言かと恐れ申しております」と言うのを聞くと、梟が鳴くよりもたいそう恐ろしい。返事もできず、「それごらんなさい。申し上げたことと違わないことをお聞きなさいませ。事情をご覧になったようです。お便りもございませんよ」などと嘆く。乳母はかすかに聞いて、「たいそううれしく仰せられました。盗人の多いあたりで、宿直人も初めのようではありません。
意訳
乳母は浮舟が臥せっているのを物の怪のせいだと嘆く。薫からは返事のことにも触れないまま日が過ぎる。荘園の内舎人が来て右近に、薫から、女房のもとに見知らぬ者が通っているとの噂を聞いたので厳重に警戒せよ、不都合があれば重く処罰すると命じられたと伝える。右近は恐れおののき、薫は事情を知ったのだと浮舟に嘆く。何も知らない乳母は、警備が厳しくなると喜ぶ。
語釈・文法注
文法
- 「さふじ」(さふじども仰せられつる序に)
- 雑事。さまざまな用事。
- 「たいたいしき」(たいたいしきとなり)
- 怠々し。ふしだらな、不届きな。
- 「勘當」(重く勘當せしめ給ふべきよし)
- 罪を問い、処罰すること。
解説
薫は浮舟を直接責めず、宇治の警備を厳しくすることで匂宮を阻もうとする。薫の静かな怒りは、浮舟を宇治の邸に閉じ込める檻となる。
「ふくろふの鳴かむよりも」という表現は、不吉な予感を強調する。内舎人の来訪が、浮舟の逃げ場を完全に奪っていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1146–1149頁(コマ284–285)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日