源氏物語 第51帖 浮舟(36)
右近の姉の話
浮舟は、自分の心から始めたことではないけれども、情けない宿縁だなと思い込んで寝ていると、右近は侍従と二人で、「右近の姉が常陸で男を二人持っておりましたが、身分身分に応じて、ただこのようなことなのです。こちらも劣らぬ愛情で思い惑っておりましたうちに、女は新しい方に少し心が寄っていたのでした。それを妬んで、ついに新しい男を殺してしまったのですよ。そして自分もそこに住まなくなりました。国でもたいそう惜しい武士を一人失いました。またこの過ちをした者も良い家来でしたが、このような過ちをした者をどうして使えようかといって、国の中からも追い払われました。すべて女がふしだらだからといって、館の中にも置いてくださらなかったので、東国の人になって、乳母も今に恋い泣いておりますのは罪深く拝見しております。不吉なたとえのようでございますが、身分の上も下も、このような筋のことは、お思い乱れになるのはたいそう悪いことです。お命までにはならなくとも、人のご身分に応じてあることです。死ぬのにまさる恥となることも、身分の高い方の御身にはかえってございます。一方にお決めなさいませ。宮もご愛情がまさって、本気でさえおっしゃるならば、そちらにも靡きなさって、ひどくお嘆きなさいますな。痩せ衰えなさるのもたいそうつまらないことです。あれほど母上が大切にお世話申し上げなさるのに、乳母がこのお支度に心を入れて騒いでおりますにつけても、それより先にと宮が申し上げなさることこそ、いっそう苦しくお気の毒です」と言うと、もう一人の侍従は「いやな恐ろしいほどに申し上げなさいますな。何事もご宿縁でしょう。ただお心の中で少しお靡きになる方を、然るべき縁とお思いになりなさいませ。いやもう、たいそうもったいなくすばらしいご様子でしたから、殿がこのようにお急ぎのらしい方には心も寄せず、しばらくは隠れてでも、お思いのまさりなさる方にお寄りなさいませと思います」と、宮をたいそうお慕い申し上げる心なので、ひたすらに言う。
- 1我我わががが心心こころもてもてもてありありありそめそめそめしししことことことならならならねねねどもどもども心憂心憂うききき宿宿すく世世せかなかなかなととと思思おもひひい入入いりりりててて寢寢ねたるたるたるににに、、、侍侍じ從從じゅうととと二二ふた人人りしししててて、、、「「「右右う近近こんががが姊姊あねののの、、、常常ひた陸陸ちにてにてにて人人ひとふたりふたりふたり見見み侍侍はべりりりしししををを、、、ほどほどほどほどほどほどにににつけつけつけてててははは、、、たゞたゞただかくかくかくぞぞぞかしかしかし。。。これこれこれももも劣劣おとらららぬぬぬ志志こころざしにてにてにて思思おもひひい惑惑まどひひいててて侍侍はべりりりしししほどほどほどににに、、、女女おんなははは今今いまののの方方かたににに少少すこししし心心こころよせよせよせまさりまさりまさりてててぞぞぞ侍侍はべりりりけるけるける。。。それそれそれにににねたみねたみねたみててて遂遂ついににに今今いまのののをををばばば殺殺ころしししてててしししぞぞぞかしかしかし。。。さてさてさて我我わももも住住すみみみ侍侍はべらららずずずなりなりなりにににききき。。。國國くににににもももいみじきいみじきいみじきあたらあたらあたらつはものつはものつわもの一一ひと人人り失失うしなひひいつつつ。。。又又またこのこのこのあやまちあやまちあやまちしししたるたるたるももも善善よきききらうどうらうどうろうどうなれなれなれどどど、、、かゝるかゝるかかるあやまちあやまちあやまちしししたるたるたるものものものををを、、、いかでいかでいかでかかかつかはつかはつかわむむんとてとてとて國國くにののの內內うちをををももも追追おひひい拂拂はらははわれれれぬぬぬ。。。すべてすべてすべて女女おんなのののたいだいしきたいだいしきたいだいしきぞぞぞとてとてとて、、、たちたちたちのののうちうちうちにににももも置置おいいい給給たまへへえらららざりざりざりしかしかしかばばば、、、あづまあづまあずまののの人人ひとににになりなりなりててて、、、まゝまゝままももも今今いまににに戀戀こひひい泣泣なききき侍侍はべるるるははは罪罪つみ深深ふかくくくこそこそこそ見見み給給たまふれふれうれ。。。ゆゝしきゆゝしきゆゆしき序序ついでのののやうやうようににに侍侍はべれれれどどど、、、かみかみかみももも下下しももももかゝるかゝるかかるすぢすぢすじのののことことことははは、、、おぼしおぼしおぼし亂亂みだるゝるゝるるはははいといといと惡惡あしきしきしきわざわざわざなりなりなり。。。御御おん命命いのちまでまでまでにににはははあらあらあらずずずともともとも人人ひとののの御御おんほどほどほどほどほどほどにににつけつけつけててて侍侍はべるるることことことなりなりなり。。。死死しぬるぬるぬるにににまさるまさるまさる恥恥はじなるなるなることことことももも善善よききき人人ひとののの御御おん身身みにににはははなかなかなかなかなかなか侍侍はべるるるなりなりなり。。。
- 2ひとひとひとかたかたかたにににおぼしおぼしおぼし定定さだめめめてててよよよ。。。宮宮みやももも御御おん志志こころざし勝勝まさりりりててて、、、まめやかまめやかまめやかにににだにだにだに聞聞きこえええさせさせさせ給給たまははわゞゞば、、、そなたそなたそなたざまざまざまにににもももなびかなびかなびかせせせ給給たまひひいててて物物ものななないたくいたくいたく歎歎なげかかかせせせ給給たまひひいそそそ。。。瘠瘠やせせせ衰衰おとろへへえさせさせさせ給給たまふふうももも、、、いといといとやくなしやくなしやくなし。。。さばかりさばかりさばかりうへうへうえののの思思おもひひいいたづきいたづきいたずき聞聞きこえええさせさせさせ給給たまふふうものものものををを、、、まゝまゝままがががこのこのこの御御おんいそぎいそぎいそぎににに心心こころををを入入いれれれててて惑惑まどひひいゐゐいててて侍侍はべるるるにににつけつけつけてててももも、、、それそれそれよりよりよりこなたこなたこなたにににととと聞聞きこえええさせさせさせ給給たまふふう御御おん事事ことこそこそこそ、、、いとゞいとゞいとど苦苦くるしくしくしくいとほしけれいとほしけれいとおしけれ」」」ととといふいふいうににに、、、今今いま一一ひと人人り「「「うたてうたてうたて恐恐おそろしきしきしきまでまでまでななな聞聞きこえええさせさせさせ給給たまひひいそそそ。。。何何なに事事ことももも御御おん宿宿すく世世せにてにてにてこそこそこそあらあらあらめめめ。。。唯唯ただ御心御心みこころののの中中うちににに少少すこしししおぼしおぼしおぼしなびかなびかなびかむむん方方かたををを、、、さるべきさるべきさるべきにににおぼしおぼしおぼしならならならせせせ給給たまへへえ。。。いでいでいでやややいといといとかたじけなくかたじけなくかたじけなくいみじきいみじきいみじき御御おん氣色氣色けしきなりなりなりしかしかしかばばば、、、人人ひとのののかくかくかくおぼしおぼしおぼし急急いそぐぐぐめりめりめりししし方方かたににに心心こころもももよらよらよらずずずしばししばししばしはははかくろへかくろへかくろえてててももも御御おん思思おもひひいのののまさらまさらまさらせせせ給給たまははわむむんににによらよらよらせせせ給給たまひひいねねねとととぞぞぞ思思おもひひい侍侍はべるるる」」」ととと、、、宮宮みやをををいみじくいみじくいみじくめでめでめで聞聞きこゆるゆるゆる心心こころなれなれなればばば、、、ひたひたひたみちみちみちにににいふいふいう。。。
現代語訳
自分の心から始めたことではないけれども、情けない宿縁だなと思い込んで寝ていると、侍従と二人で、「右近の姉が常陸で男を二人持っておりましたが、身分身分に応じて、ただこのようなことなのです。こちらも劣らぬ愛情で思い惑っておりましたうちに、女は新しい方に少し心が寄っていたのでした。それを妬んで、ついに新しい男を殺してしまったのですよ。そして自分もそこに住まなくなりました。国でもたいそう惜しい武士を一人失いました。またこの過ちをした者も良い家来でしたが、このような過ちをした者をどうして使えようかといって、国の中からも追い払われました。すべて女がふしだらだからといって、館の中にも置いてくださらなかったので、東国の人になって、乳母も今に恋い泣いておりますのは、罪深く拝見しております。不吉なたとえのようでございますが、身分の上も下も、このような筋のことは、お思い乱れになるのはたいそう悪いことです。お命までにはならなくとも、人のご身分に応じてあることです。死ぬのにまさる恥となることも、身分の高い方の御身にはかえってございます。
一方にお決めなさいませ。宮もご愛情がまさって、本気でさえおっしゃるならば、そちらにも靡きなさって、ひどくお嘆きなさいますな。痩せ衰えなさるのもたいそうつまらないことです。あれほど母上が大切にお世話申し上げなさるのに、乳母がこのお支度に心を入れて騒いでおりますにつけても、それより先にとおっしゃる御事こそ、いっそう苦しくお気の毒です」と言うと、もう一人が「いやな恐ろしいほどに申し上げなさいますな。何事もご宿縁でしょう。ただお心の中で少しお靡きになる方を、然るべき縁とお思いになりなさいませ。いやもう、たいそうもったいなくすばらしいご様子でしたから、あの方がこのようにお急ぎのらしい方には心も寄せず、しばらくは隠れてでも、お思いのまさりなさる方にお寄りなさいませと思います」と、宮をたいそうお慕い申し上げる心なので、ひたすらに言う。
意訳
浮舟が思い沈んで臥していると、右近は、常陸で二人の男に通われた姉の話をする。姉が新しい男に心を寄せたため、前の男が嫉妬して殺し、殺した男も国を追われ、姉も館を追い出されたという。右近は、二人の男の間で思い乱れるのは悪いことで、どちらかに決めるべきだと言い、匂宮が本気ならそちらに靡けばよいと勧める。侍従は、匂宮のすばらしさを思って、しばらく隠れてでも匂宮に従えばよいとひたすら言う。
語釈・文法注
文法
- 「らうどう」(又このあやまちしたるも善きらうどうなれど)
- 郎等。家来。
- 「たいだいしき」(すべて女のたいだいしきぞとて)
- 怠々し。ふしだらな、不届きな。
- 「やくなし」(瘠せ衰へさせ給ふも、いとやくなし)
- 益無し。つまらない、無駄だ。
解説
右近の語る常陸の悲劇は、二人の男の間で揺れる女の末路を示す。殺人と追放という凄惨な結末は、浮舟の未来への恐ろしい予告となる。
右近と侍従はそれぞれ浮舟に助言するが、その言葉は浮舟を救わない。「ひとかたにおぼし定めよ」という右近の言葉は、決断できない浮舟をさらに追い詰めていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1144–1147頁(コマ283–284)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日