源氏物語 第51帖 浮舟(33)
秘密を知る薫
匂宮が手紙を引き隠しなさったところに、大臣がのぞきなさった。驚いて御紐をお締めになる。大臣も膝をついてお座りになって、「退出いたしましょう。いつもの御物の怪が久しく起こらなかったのに、恐ろしいことですね。山の座主を今すぐ迎えに遣わしましょう」と、忙しそうにお立ちになった。夜が更けて皆退出なさった。大臣は宮を先にお立て申し上げなさって、大勢のご子息の上達部や公達を引き連れて、あちらにお移りになった。この殿(薫)は遅れてお出になる。随身が様子ありげだったのを妙だとお思いになったので、御前駆などが降りて灯火をともす頃に随身を召し寄せる。「申したことは何事か」とお尋ねになる。随身は「今朝あの宇治で、出雲権守時方朝臣のもとにおります男が、紫の薄様で桜に付けた手紙を、西の妻戸に寄って女房に渡しておりましたのを見つけまして、これこれと尋ねましたところ、言うことが食い違って嘘のように申しましたので、どう申すのかと思って、童に後をつけさせましたところ、兵部卿宮に参りまして、式部少輔道定朝臣にその返事を渡したのでございます」と申し上げる。君は妙だとお思いになって、「その返事はどのようにして出したのか」。「それは見ておりません。別の方から出しましたのを、下人が申しましたのは、赤い色紙のたいそう美しいものだと申しておりました」と申し上げる。お思い合わせになると違うところがない。それほどまで見届けさせたのを気が利いているとお思いになるが、人々が近いので詳しくもおっしゃらない。道すがら、やはりたいそう恐ろしく抜け目のない宮だな、どういう機会にそのような人がいるとお聞きになったのだろう、どうやって言い寄りなさったのだろう、田舎びたあたりで、このような筋の紛れはまさかあるまいと思っていたのは幼稚だった、それにしても知らないあたりでこそ、そのような色事もおっしゃればよいのに、昔から隔てがなく、不思議なほど手引きをしてお連れ歩き申し上げた身に対して、後ろめたいことを思い寄りなさってよいものかと思うと、たいそう気に入らない。
- 1ひきひきひき隱隱かくししし給給たまへへえるるるにににぞぞぞ、、、おとゞおとゞおとどさしさしさしのぞきのぞきのぞき給給たまへへえるるる。。。驚驚おどろきききててて御御おんひもひもひもさしさしさし給給たまふふう。。。殿殿とのもももついついついゐゐい給給たまひひいててて「「「まかでまかでまかで侍侍はべりりりぬぬぬべしべしべし。。。例例れいののの御御おんじやけじやけじやけののの久久ひさしくしくしく起起おこらららせせせ給給たまははわざりざりざりつるつるつるををを、、、恐恐おそろしきしきしきわざわざわざなりなりなりややや。。。山山やまのののざすざすざす只只ただ今今いまさうじさうじそうじににに遣遣つかはさはさわさむむん」」」ととと、、、いそがしげいそがしげいそがしげにてにてにて立立たちちち給給たまひひいぬぬぬ。。。夜夜よ更更ふけけけててて皆皆みな出出いででで給給たまひひいぬぬぬ。。。おとゞおとゞおとどははは宮宮みやをををさきさきさきににに立立たててて奉奉たてまつりりり給給たまひひいててて、、、あまたあまたあまたののの御御おん子子こどもどもどもののの上上かん達達だち部部め君君きん達達だちひきひきひきつゞけつゞけつづけてててあなたあなたあなたににに渡渡わたりりり給給たまひひいぬぬぬ。。。このこのこの殿殿とのははは後後おくれれれててて出出いででで給給たまふふう。。。隨隨ずい身身じん氣氣け色色しきばみばみばみつるつるつる、、、あやしあやしあやしとととおぼしおぼしおぼしけれけれければばば、、、ごごごぜんぜんぜんなどなどなどおりおりおりててて火火ひともともともすすすほどほどほどににに隨隨ずい身身じん召召めしししよすよすよす。。。「「「申申もうしししつるつるつることことことははは何何なに事事ことぞぞぞととと問問とひひい給給たまふふう。。。「「「けさけさけさかのかのかの宇宇う治治じににに、、、出出いず雲雲もののの權權ごん守守のかみ、、、時時とき方方かたのののあそんあそんあそんのののもともともとににに侍侍はべるるるをのこをのこおのこののの紫紫むらさきののの薄薄うすえふえふようにてにてにて、、、櫻櫻さくらにににつけつけつけたるたるたる文文ふみををを西西にしののの妻妻つま戶戶どににによりよりよりててて女房女房にょうぼうにににとらとらとらせせせ侍侍はべりりりつるつるつる見見み給給たまへへえつけつけつけててて、、、しかしかしかしかしかしか問問とひひい侍侍はべりりりつれつれつればばば、、、ことことことたがひたがひたがいつゝつゝつつ、、、そらそらそらごとごとごとのののやうやうようににに申申もうししし侍侍はべりりりつるつるつるををを、、、いかにいかにいかに申申もうすすすぞぞぞとてとてとて、、、わらはべわらはべわらわべしししててて見見みせせせ侍侍はべりりりつれつれつればばば、、、兵兵ひょう部部ぶ卿卿きょうののの宮宮みやににに參參まいりりり侍侍はべりりりててて式式しき部部ぶ少少しょう輔輔ふ道道みち定定さだののの朝朝あ臣臣そんににになんなんなんそのそのその返返かえり事事ごとはははとらとらとらせせせ侍侍はべりりりけるけるける」」」ととと申申もうすすす。。。
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現代語訳
引き隠しなさったところに、大臣がのぞきなさった。驚いて御紐をお締めになる。殿も膝をついてお座りになって、「退出いたしましょう。いつもの御物の怪が久しく起こらなかったのに、恐ろしいことですね。山の座主を今すぐ迎えに遣わしましょう」と、忙しそうにお立ちになった。夜が更けて皆退出なさった。大臣は宮を先にお立て申し上げなさって、大勢のご子息の上達部や公達を引き連れて、あちらにお移りになった。この殿は遅れてお出になる。随身が様子ありげだったのを妙だとお思いになったので、御前駆などが降りて灯火をともす頃に随身を召し寄せる。「申したことは何事か」とお尋ねになる。「今朝あの宇治で、出雲権守時方朝臣のもとにおります男が、紫の薄様で桜に付けた手紙を、西の妻戸に寄って女房に渡しておりましたのを見つけまして、これこれと尋ねましたところ、言うことが食い違って嘘のように申しましたので、どう申すのかと思って、童に後をつけさせましたところ、兵部卿宮に参りまして、式部少輔道定朝臣にその返事を渡したのでございます」と申し上げる。
君は妙だとお思いになって、「その返事はどのようにして出したのか」。「それは見ておりません。別の方から出しましたのを、下人が申しましたのは、赤い色紙のたいそう美しいものだと申しておりました」と申し上げる。お思い合わせになると違うところがない。それほどまで見届けさせたのを気が利いているとお思いになるが、人々が近いので詳しくもおっしゃらない。道すがら、やはりたいそう恐ろしく抜け目のない宮だな、どういう機会にそのような人がいるとお聞きになったのだろう、どうやって言い寄りなさったのだろう、田舎びたあたりで、このような筋の紛れはまさかあるまいと思っていたのは幼稚だった、それにしても知らないあたりでこそ、そのような色事もおっしゃればよいのに、昔から隔てがなく、不思議なほど手引きをしてお連れ歩き申し上げた身に対して、後ろめたいことを思い寄りなさってよいものかと思うと、たいそう気に入らない。
意訳
夕霧が来たので匂宮は手紙を隠し、夕霧は中宮の物の怪を心配して座主を呼ぼうと言う。帰り道、薫は随身から、宇治で時方の家来が浮舟の女房に手紙を渡し、その返事が匂宮邸の道定に届けられたこと、返事は赤い色紙だったことを聞く。薫は匂宮が読んでいた手紙と符合することに気づき、宇治の浮舟に匂宮が通じていたと悟る。かつて宇治へ手引きした自分を裏切ったと、薫は匂宮を恨む。
語釈・文法注
文法
- 「御じやけ」(例の御じやけの久しく起らせ給はざりつるを)
- 御邪気。物の怪による病。
- 「山のざす」(山のざす只今さうじに遣はさむ)
- 比叡山延暦寺の座主。天台宗の長。
- 「隈なく」(猶いと恐しく隈なくおはする宮なりや)
- 抜け目なく、何事も見逃さない。
解説
薫はついに匂宮と浮舟の関係を知る。友情を裏切られた怒りと、浮舟を守れなかった悔しさが、薫の心に渦巻く。
薫が見た紅の薄様の手紙は、浮舟から匂宮への返事であった。何も知らずにおもしろがって見ていた手紙の正体を知った時、薫の衝撃は計り知れない。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1142–1143頁(コマ282)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日