源氏物語 第51帖 浮舟(32)
見咎められた文
随身は「私用の人に、優美な手紙を差し出させるのか。わけありの奴だな。隠し事はなぜだ」と言う。使いは「実はこの守の君のお手紙を、女房に差し上げなさるのだ」と言うので、言うことが食い違うので妙だと思うが、ここで問いただすのも異様だろうから、それぞれ参った。随身は気の利く者で、一緒にいた童を、「この男にさりげなく目をつけよ。左衛門大夫の家に入るか」と見張らせたところ、童は「宮に参って、式部少輔にお手紙を渡しました」と言う。そこまで突き止めようとは、劣った下衆は思わず、事の事情も深く知らなかったので、舎人に見破られてしまったのは残念なことよ。随身は殿に参って、今お出かけになろうとする時にお手紙を差し上げさせる。直衣姿で、六条院に后の宮が退出していらっしゃる頃なので参られるのだった。仰々しく御前駆なども大勢ではない。随身が「お手紙を差し上げる者に妙なことがございました。見定めようとして今まで控えておりました」と言うのを、ほのかにお聞きになって、歩み出しなさりながら「何事だ」とお尋ねになる。随身はこの取り次ぎの人が聞くのも気が引けると思って畏まっているので、殿もそうとお察しになってお出かけになった。后の宮がいつもと違ってご気分が悪くいらっしゃるというので、宮たちも皆参られた。上達部なども大勢参り集まって騒がしいが、格別のこともいらっしゃらない。あの内記は太政官の役人なので遅れて参った。このお手紙も差し上げるのを、宮は台盤所にいらして、戸口に召し寄せてお取りになるのを、大将は御前の方からお出になって、横目に見通しなさって、切実にお思いのような手紙の様子だなと、おもしろさに立ち止まりなさった。宮は引き開けてご覧になる。紅の薄様に、細やかに書いてあるようだと見える。手紙に心を奪われてすぐにも振り向きなさらないうちに、大臣(夕霧)も立って外の方においでになるので、この君(薫)は曹司からお出になるといって、大臣がお出になると咳払いをして、宮にお知らせ申し上げなさる。
- 1「「「私私わたくしののの人人ひとにににややや、、、えんえんえんなるなるなる文文ふみはははさしさしさしとらとらとらするするする。。。氣色氣色けしきあるあるあるまうどまうどもうどかなかなかな。。。物物ものがくしがくしがくしはははなぞなぞなぞ」」」ととといふいふいう。。。「「「まことまことまことはははこのこのこのかうかうこうののの君君きみののの御御おん文文ふみ、、、女房女房にょうぼうににに奉奉たてまつりりり給給たまふふう」」」ととといへいへいえばばば、、、ことことこと違違たがひひいつゝつゝつつあやしあやしあやしととと思思おもへへえどどど、、、此所此所ここにてにてにて定定さだめめめいはいはいわむむんもももことことことやうやうようなるなるなるべけれべけれべければばば、、、おのおのおのおのおのおの參參まいりりりぬぬぬかどかどかどかどしきかどしきかどしきものものものにてにてにて共共ともにににあるあるあるわらはわらはわらわををを、、、「「「このこのこのをのこをのこおのこにににさりげなくさりげなくさりげなくててて目目めつけつけつけよよよ。。。左左さ衞衞え門門もんののの大大たい夫夫ふののの家家いえにににややや入入いるるる」」」ととと見見みせせせけれけれければばば、、、「「「宮宮みやににに參參まいりりりててて式式しき部部ぶののの少少しょう輔輔ふににになむなむなん御御おん文文ふみはははとらとらとらせせせ侍侍はべりりりつるつるつる」」」ととといふいふいう。。。さささまでまでまで尋尋たずねねねむむんものものものととともももおとりおとりおとりのののげすげすげすははは思思おもははわずずず、、、事事ことののの心心こころをををももも深深ふこううう知知しらららざりざりざりけれけれければばば舍舍とね人人りののの人人ひとににに見見み顯顯あらははわささされれれにににけむけむけんぞぞぞ口口くち惜惜おしきしきしきややや。。。殿殿とのににに參參まいりりりててて、、、今今いま出出いででで給給たまははわむむんとととするするするほどほどほどににに御御おん文文ふみ奉奉たてまつらららすすす。。。なほしなほしなおしにてにてにて、、、六六ろく條條じょう院院いんにににきさいきさいきさいののの宮宮みや出出いでででさせさせさせ給給たまへへえるるる頃頃ころなれなれなればばば參參まいりりり給給たまふふうなりなりなりけりけりけり。。。ことごとしくことごとしくことごとしく御御お前前まえなどなどなどもももあまたあまたあまたもももなしなしなし。。。「「「御御おん文文ふみ參參まいらららするするする人人ひとにににあやしきあやしきあやしき事事ことののの侍侍はべりりりつるつるつる。。。見見み給給たまへへえ定定さだめめめむむんとてとてとて今今いままでまでまで侍侍さぶらひひいつるつるつる」」」ととといふいふいうををを、、、ほのほのほの聞聞きききき給給たまひひいててて步步あゆみみみ出出いででで給給たまふふうまゝまゝままににに、、、「「「何何なに事事ことぞぞぞ」」」ととと問問とひひい給給たまふふう。。。
- 2このこのこの人人ひとののの聞聞きかかかむむんもももつゝましつゝましつつましととと思思おもひひいててて、、、かしこまりかしこまりかしこまりててて居居いるるる、、、殿殿とのもももしかしかしか見見み知知しりりり給給たまひひいててて出出いででで給給たまひひいぬぬぬ。。。宮宮みや例例れいならならならずずず惱惱なやましげましげましげににに坐坐おわすすすとてとてとて宮宮みや達達たちももも皆皆みな參參まいりりり給給たまへへえりりり。。。上上かん達達だち部部めなどなどなど多多おおくくく參參まいりりりつどひつどひつどいててて、、、さわがしけれさわがしけれさわがしけれどどど異異ことなるなるなる事事こともももおはしまさおはしまさおわしまさずずず。。。かのかのかの內內ない記記きはははじやうじやうじょうぐわんぐわんじょうがんなれなれなればばば後後おくれれれてててぞぞぞ參參まいれれれるるる。。。このこのこの御御おん文文ふみももも奉奉たてまつるるるををを宮宮みや、、、臺臺だい盤盤ばん所所どころにににおはしましおはしましおわしましててて戶戶と口口ぐちににに召召めししし寄寄よせせせてててとりとりとり給給たまふふうををを、、、大大たい將將しょう御御お前前まえののの方方かたよりよりより出出いででで給給たまひひい、、、そばそばそばめめめににに見見み通通とおししし給給たまひひいててて、、、せちせちせちにににおぼすおぼすおぼすべかべかべかめるめるめる文文ふみののの氣色氣色けしきかなかなかなととと、、、をかしさをかしさおかしさににに立立たちちちとゞまりとゞまりとどまり給給たまへへえりりり。。。引引ひきてててあけあけあけててて見見み給給たまふふう。。。くれなゐくれなゐくれないのののうすうすうすえふえふようににに、、、こまやかこまやかこまやかににに書書かきききたるたるたるべしべしべしととと見見みゆゆゆ。。。文文ふみににに心心こころ入入いれれれてててとみとみとみにににももも向向むききき給給たまははわぬぬぬににに、、、おとゞおとゞおとどももも立立たちちちててて、、、とととざまざまざまにににおはすれおはすれおわすればばば、、、このこのこの君君きみはははざうしざうしぞうしよりよりより出出いででで給給たまふふうとてとてとて、、、おとゞおとゞおとど出出いででで給給たまふふうとととうちうちうちしはぶきしはぶきしわぶきててて、、、おどろかいおどろかいおどろかい奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。
現代語訳
「私用の人に、優美な手紙を差し出させるのか。わけありの奴だな。隠し事はなぜだ」と言う。「実はこの守の君のお手紙を、女房に差し上げなさるのだ」と言うので、言うことが食い違うので妙だと思うが、ここで問いただすのも異様だろうから、それぞれ参った。気の利く者で、一緒にいた童を、「この男にさりげなく目をつけよ。左衛門大夫の家に入るか」と見張らせたところ、「宮に参って、式部少輔にお手紙を渡しました」と言う。そこまで突き止めようとは、劣った下衆は思わず、事の事情も深く知らなかったので、舎人に見破られてしまったのは残念なことよ。殿に参って、今お出かけになろうとする時にお手紙を差し上げさせる。直衣姿で、六条院に后の宮が退出していらっしゃる頃なので参られるのだった。仰々しく御前駆なども大勢ではない。「お手紙を差し上げる者に妙なことがございました。見定めようとして今まで控えておりました」と言うのを、ほのかにお聞きになって、歩み出しなさりながら、「何事だ」とお尋ねになる。
この人が聞くのも気が引けると思って、畏まっているので、殿もそうとお察しになってお出かけになった。宮がいつもと違ってご気分が悪くいらっしゃるというので、宮たちも皆参られた。上達部なども大勢参り集まって騒がしいが、格別のこともいらっしゃらない。あの内記は太政官の役人なので遅れて参った。このお手紙も差し上げるのを、宮は台盤所にいらして、戸口に召し寄せてお取りになるのを、大将は御前の方からお出になって、横目に見通しなさって、切実にお思いのような手紙の様子だなと、おもしろさに立ち止まりなさった。引き開けてご覧になる。紅の薄様に、細やかに書いてあるようだと見える。手紙に心を奪われてすぐにも振り向きなさらないうちに、大臣も立って外の方においでになるので、この君は曹司からお出になるといって、大臣がお出になると咳払いをして、お知らせ申し上げなさる。
意訳
薫の随身は、匂宮の使いの言い分が食い違うのを怪しみ、童に後をつけさせ、使いが匂宮邸で式部少輔(大内記)に手紙を渡したことを突き止める。随身は薫に報告しようとするが、人目を憚って言いよどむ。六条院で明石の中宮の病を見舞う宮たちが集まる中、匂宮は大内記から受け取った紅の薄様の手紙に夢中になる。薫はそれを横目で見て、熱心な恋文だなとおもしろがり、夕霧が来るのを咳払いで匂宮に知らせる。
語釈・文法注
文法
- 「かどかどしき」(かどかどしきものにて共にあるわらはを)
- 気が利く、才気がある。
- 「じやうぐわん」(かの內記はじやうぐわんなれば)
- 諸官。太政官の役人。
- 「臺盤所」(臺盤所におはしまして)
- 台盤(食器を載せる台)を置く部屋。女房の詰所。
解説
薫の随身の機転によって、浮舟と匂宮の秘密が明るみに出ようとしている。身分の低い者たちの行動が、主人たちの運命を左右する。
薫は匂宮の熱心な手紙を、何も知らずにおもしろがって眺める。その手紙が浮舟からのものであることを知らない薫の姿は、悲劇的な皮肉に満ちている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1140–1143頁(コマ281–282)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日