源氏物語 第51帖 浮舟(31)
母との別れ
親が万事に思って言う様子を、浮舟は寝たふりをしてつくづくと思い乱れる。母君は、浮舟が苦しそうで痩せていらっしゃるのを乳母にも言って、「然るべきご祈祷などをおさせなさい。祭や祓えなどもすべきように」などと言う。御手洗川で禊をしたいような思いでいるのを、そうとも知らずに万事言い騒ぐ。「女房が少ないようだ。よく然るべき所を探して、新参の者は留めておきなさい。高貴な方々のご関係は、ご本人こそ何事もおおらかにお思いになるだろうが、よくない仲となった人の周りでは厄介なこともあるだろう。ひっそりと用心していなさい」など、思い至らないことなく言い置いて、あちらで出産する人も気がかりだと言って帰るのを、浮舟はたいそう物思わしく万事心細いので、また会えないかもしれないと思うので、「気分が悪くございますにつけても、お目にかからないのがたいそう気がかりに思われますので、しばらくでも参りたいのです」と慕う。母君は「そう思いますが、あちらもたいそう騒がしゅうございます。この女房たちもちょっとしたことなどもできないほど狭いので。武生の国府にお移りになっても、忍んで参りましょう。平凡な身の程は、このようなお方のためにはたいそうお気の毒でございます」などと泣きながらおっしゃる。殿のお手紙は今日もある。気分が悪いと申し上げたのを、どうかとお見舞いなさった。「自分でと思いますが、やむを得ない差し障りが多くて。この頃の待ち遠しさがかえって苦しい」などとある。宮は「昨日のお返事もなかったが、どう迷っていらっしゃるのか。風の靡く方も気がかりだ。いっそうぼんやりして物思いにふけっております」など、こちらは多くお書きになった。雨の降った日に行き合ったお使いたちが今日も来ていた。殿の御随身は、あの少輔の家で時々見る男なので、「お前は何をしにここにたびたび参るのか」と問う。「私的に訪ねるべき人のもとに参るのだ」と言う。
- 1親親おやのののよろづよろづよろずににに思思おもひひいいふいふいう有有あり樣樣さまををを、、、寢寢ねたるたるたるやうやうようにてにてにてつくづくつくづくつくずくととと思思おもひひい亂亂みだるるる。。。惱惱なやましげましげましげにてにてにて瘠瘠やせせせ給給たまへへえるるるををを、、、めのとめのとめのとにににもももいひいひいいててて、、、「「「さるべきさるべきさるべき御御おんいのりいのりいのりなどなどなどをををせせせさせさせさせ給給たまへへえ祭祭まつり祓祓はらへへえなどなどなどもももすすすべきべきべきやうやうよう」」」などなどなどいふいふいう。。。みたらしみたらしみたらし川川がわにににみそぎみそぎみそぎせせせまほしげまほしげまほしげなるなるなるををを、、、かくかくかくももも知知しらららでででよろづよろづよろずにににいひいひいいさわぐさわぐさわぐ。。。人人ひとずくなずくなずくなゝゝなめりめりめり、、、よくよくよくさるべからさるべからさるべからむむんあたりあたりあたりををを尋尋たずねねねててて今今いままゐりまゐりまいりはははとゞめとゞめとどめ給給たまへへえ。。。やんごとなきやんごとなきやんごとなき御御おんなからひなからひなからいははは、、、さうじみさうじみそうじみこそこそこそ何何なに事事こともももおいらかおいらかおいらかにににおぼさおぼさおぼさめめめ。。。よからよからよからぬぬぬなかなかなかとととなりなりなりぬるぬるぬるあたりあたりあたりははは煩煩わずらしきしきしきことことこともももありありありぬぬぬべしべしべし。。。かいかいかいひそめひそめひそめててて、、、さるさるさる心心こころししし給給たまへへえ」」」などなどなど、、、思思おもひひい至至いたらららぬぬぬ事事ことなくなくなくいひいひいい置置おきききててて、、、かしこかしこかしこにににわづらひわづらひわずらい侍侍はべるるる人人ひとももも覺束覺束おぼつかなしなしなしとてとてとてかへるかへるかえるををを、、、いといといと物物もの思思おもははわしくしくしくよろづよろづよろず心心こころぼそけれぼそけれぼそければばば又又またあひあひあい見見みでででもももこそこそこそととと思思おもへへえばばば心地心地ここちののの惡惡あしくしくしく侍侍はべるるるにににももも見見み奉奉たてまつらららぬぬぬがががいといといとおぼつかなくおぼつかなくおぼつかなく覺覺おぼえええ侍侍はべるるるををを、、、しばししばししばしももも參參まいりりりこここまほしくまほしくまほしくこそこそこそととと慕慕したふふう。。。「「「さささなむなむなん思思おもひひい侍侍はべれれれどどど、、、かしこかしこかしこもももいといといと物物ものさわがしくさわがしくさわがしく侍侍はべりりり。。。このこのこの人々人々ひとびともももはかなきはかなきはかなき事事ことなどなどなどえええしししやるやるやるまじくまじくまじく、、、せばくせばくせばくなどなどなど侍侍はべれれればばばなむなむなん。。。たけふたけふたけふのののこふこふこうにににうつろひうつろひうつろい給給たまふふうともともとも忍忍しのびびびてててははは參參まいりりり來來きなななむむんををを。。。なほなほしきなほなほしきなおなおしき身身みのののほどほどほどははは、、、かゝるかゝるかかる御御おんためためためこそこそこそいとほしくいとほしくいとおしく侍侍はべれれれ」」」などなどなど、、、うちうちうち泣泣なきききつゝつゝつつののの給給たまふふう。。。
- 2殿殿とのののの御御おん文文ふみはははけふけふきょうもももありありあり、、、惱惱なやましましましととと聞聞きこえええたりたりたりしししををを、、、いかゞいかゞいかがととととぶらひとぶらひとぶらい給給たまへへえりりり。。。「「「みづからみづからみずからととと思思おもひひい侍侍はべるるるををを、、、わりなきわりなきわりなきさはりさはりさわり多多おおくくくてててなむなむなん。。。このこのこの程程ほどのののくらしくらしくらし難難がたさささこそこそこそ、、、なかなかなかなかなかなか苦苦くるししし」」」などなどなどありありあり宮宮みやははは「「「きのふきのふきのうののの御御おん返返かえりりりもももなかりなかりなかりしししををを、、、いかにいかにいかにおぼしおぼしおぼしたゞよふたゞよふただようぞぞぞ。。。風風かぜのののなびかなびかなびかむむん方方かたもももうしろめたくうしろめたくうしろめたくなむなむなん。。。いとゞいとゞいとどほれほれほれまさりまさりまさりてててながめながめながめ侍侍はべるるる」」」などなどなど、、、これこれこれははは多多おおくくく書書かききき給給たまへへえりりり。。。雨雨あめ降降ふりりりししし日日ひ、、、きききあひあひあいたりたりたりししし御御おん使使つかいどもどもどもぞぞぞけふけふきょうももも來來きたりたりたりけるけるける。。。殿殿とののののみみみ隨隨ずい身身じん、、、かのかのかの少少しょう輔輔ふががが家家いえにてにてにて時々時々ときどき見見みるるるをのこをのこおのこなれなれなればばば、、、「「「まうどまうどもうどははは何何なにしししにににこゝこゝここにににはははたびたびたびたびたびたび參參まいるるるぞぞぞ」」」ととと問問とふふう。。。「「「わたくしわたくしわたくしにににとぶらふとぶらふとぶらうべきべきべき人人ひとのののもともともとにににまうでまうでもうでくるくるくるなりなりなり」」」ととといふいふいう。。。
現代語訳
親が万事に思って言う様子を、寝たふりをしてつくづくと思い乱れる。苦しそうで痩せていらっしゃるのを、乳母にも言って、「然るべきご祈祷などをおさせなさい。祭や祓えなどもすべきように」などと言う。御手洗川で禊をしたいような思いでいるのを、そうとも知らずに万事言い騒ぐ。「女房が少ないようだ。よく然るべき所を探して、新参の者は留めておきなさい。高貴な方々のご関係は、ご本人こそ何事もおおらかにお思いになるだろうが、よくない仲となった人の周りでは厄介なこともあるだろう。ひっそりと用心していなさい」など、思い至らないことなく言い置いて、あちらで患っている人も気がかりだと言って帰るのを、たいそう物思わしく万事心細いので、また会えないかもしれないと思うので、「気分が悪くございますにつけても、お目にかからないのがたいそう気がかりに思われますので、しばらくでも参りたいのです」と慕う。「そう思いますが、あちらもたいそう騒がしゅうございます。この女房たちもちょっとしたことなどもできないほど狭いので。武生の国府にお移りになっても、忍んで参りましょう。平凡な身の程は、このようなお方のためにはたいそうお気の毒でございます」などと泣きながらおっしゃる。
殿のお手紙は今日もある。気分が悪いと申し上げたのを、どうかとお見舞いなさった。「自分でと思いますが、やむを得ない差し障りが多くて。この頃の待ち遠しさがかえって苦しい」などとある。宮は「昨日のお返事もなかったが、どう迷っていらっしゃるのか。風の靡く方も気がかりだ。いっそうぼんやりして物思いにふけっております」など、こちらは多くお書きになった。雨の降った日に行き合ったお使いたちが、今日も来ていた。殿の御随身は、あの少輔の家で時々見る男なので、「お前は何をしにここにたびたび参るのか」と問う。「私的に訪ねるべき人のもとに参るのだ」と言う。
意訳
母は浮舟のやつれを心配して祈祷や祓えを勧め、匂宮の北の方側との争いに巻き込まれないよう用心せよと言い置いて帰ろうとする。浮舟は母と離れがたく、しばらく母のもとに行きたいと慕うが、母はそちらも騒がしいと断り、泣きながら帰る。その日、薫と匂宮からそれぞれ手紙が届き、薫の随身は、少輔の家で見かける匂宮の使いが宇治に出入りしているのを見咎めて問いただす。
語釈・文法注
文法
- 「みたらし川にみそぎ」(みたらし川にみそぎせまほしげなるを)
- 「恋せじと御手洗川にせし禊神は受けずぞなりにけらしも」(伊勢物語)による。恋を断つための禊。
- 「たけふのこふ」(たけふのこふにうつろひ給ふとも)
- 武生の国府。越前の国府。催馬楽「道の口」による。遠い所に移っても、の意。
- 「まうど」(まうどは何しにこゝにはたびたび參るぞ)
- 真人。相手を呼ぶ語。お前。
解説
浮舟は母に別れがたく、「又あひ見でもこそ」と思う。母との最後の別れになるかもしれないという予感が、浮舟の心を締めつける。
薫の随身が匂宮の使いを見咎める。二人の男の手紙が同じ日に届くという偶然が、秘密の露見の端緒となる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1138–1141頁(コマ280–281)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
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