源氏物語 第51帖 浮舟(26)
揺れる浮舟の心
匂宮は尽きない思いを書きなさって、「ながめやるそなたの雲も見えぬまで空さへくるるころのわびしさ」。筆に任せて書き乱しなさったのがかえって見どころがあり、趣深い。特にたいそう重々しくなどはない若い心には、たいそうこのような心にも思いがまさりそうだが、初めから約束なさった様子も、さすがにあの方(薫)はやはりたいそう思慮深く、人柄のすばらしいことなども、男女の仲を知った初めの人だからだろうか、このようなつらいことを聞きつけて疎みなさるような世には、どうして生きていられよう、早く京へと待ち焦がれる母にも、思いがけず気に入らないことと持て余されるだろう。このように焦れていらっしゃる人(匂宮)はまた、浮気なご性分とばかり聞いていたので、今のうちこそこうだろうが、またこのまま京に隠し据えなさり、長く人数に入れてくださるにつけても、あの上(中の君)がどうお思いになるだろう、万事隠れのない世なので、妙だった夕暮れの手がかりだけでさえ、こうして尋ね出しなさったようだ、まして私の有様がどうなっても、お聞きにならないことはあるまいと考えをたどると、自分の心にも傷があって、あの人(薫)に疎まれ申し上げるのはやはりつらいだろうと思い乱れているちょうどその時、あの殿から御使いがある。あれこれと見るのもたいそういやなので、やはり言葉の多かった宮の手紙を見ながら臥していらっしゃると、侍従と右近は顔を見合わせて、「やはり心が移ってしまったのね」と、言わないふりをして言う。「無理もないわ。殿のご容貌を比べる人はいらっしゃるまいと見ていたけれど、この宮のご様子はすばらしかった。打ち解けていらっしゃる時の愛嬌よ。私なら、これほどのご愛情を見ながら、とてもこうしてはいられない。后の宮に参ってでも、いつもお目にかかりたい」と侍従が言う。右近は「心配なお心のほどね。殿のご様子にまさる方は誰がいるでしょう。容貌などはともかく、お心ばえや気配などはね。やはりこのことはたいそう見苦しいことだわ。どうおなりになるのでしょう」と、二人で語り合う。
- 1盡盡つきききせせせぬぬぬ事事ことどもどもども書書かききき給給たまひひいててて、、、「「「ながめながめながめやるやるやるそなたそなたそなたののの雲雲くもももも見見みえええぬぬぬまでまでまで空空そらさへさへさへくるゝくるゝくるるころころころのののわびしさわびしさわびしさ」」」。。。筆筆ふでにににまかせまかせまかせててて書書かききき亂亂みだりりり給給たまへへえるるるしもしもしも見見みどころどころどころありありあり、、、をかしげをかしげおかしげなりなりなり。。。殊殊ことにににいといといと重重おもくくくなどなどなどはははあらあらあらぬぬぬ若若わかききき心心こころちちここちにににいといといとかゝるかゝるかかる心心こころををを思思おもひひいもももまさりまさりまさりぬぬぬべけれべけれべけれどどど、、、初初はじめよりよりより契契ちぎりりり給給たまひひいしししさまさまさまももも、、、さすがさすがさすがにににかれかれかれははは猶猶なおいといといと物物もの深深ふこううう、、、人人ひとがらがらがらのののめでたきめでたきめでたきなどなどなどももも世世よののの中中なかををを知知しりりりにににしししはじめはじめはじめなれなれなればばばにににややや、、、かゝるかゝるかかる憂憂うききき事事こと聞聞ききききつけつけつけててて思思おもひひい疎疎うとみみみ給給たまひひいなななむむん世世よにににははは、、、いかでいかでいかでかかかあらあらあらむむん、、、いつしかいつしかいつしかととと思思おもひひい惑惑まどふふう。。。おやおやおやにににももも思思おもははわずずずににに心心こころづきなしづきなしずきなしとととこそこそこそはははもてもてもてわづらはわづらはわずらわれれれめめめ。。。かくかくかく心心こころいらいらいられれれししし給給たまふふう人人ひとはははたたた、、、あだあだあだなるなるなる御心御心みこころののの本本ほんじやうじやうじょうとととのみのみのみ聞聞ききききしかしかしかばばば、、、かゝるかゝるかかる程程ほどこそこそこそあらあらあらめめめ、、、またまたまたかうかうこうながらながらながらももも京京きょうにににかくしかくしかくしすゑすゑすえ給給たまひひい、、、ながらへながらへながらへてててもももおぼしおぼしおぼしかずかずかずまへまへまえむむんにににつけつけつけてててははは、、、かのかのかのうへうへうえおぼさおぼさおぼさむむんことことこと、、、よろづよろづよろずかくれかくれかくれなきなきなき世世よなりなりなりけれけれければばば怪怪あやしかりしかりしかりししし夕夕ゆう暮暮ぐれのののしるべしるべしるべばかりばかりばかりにににだにだにだに、、、かうかうこうたづねたづねたずね出出いででで給給たまふふうめりめりめり。。。ましてましてまして我我わがががありさまありさまありさまのののともともともかくかくかくもももあらあらあらむむんををを聞聞きききき給給たまははわぬぬぬやうやうようはははありありありなななむむんやややととと思思おもひひいたどるたどるたどるににに、、、我我わががが心心こころもももきずきずきずありありありててて、、、かのかのかの人人ひとにににうとまうとまうとまれれれ奉奉たてまつらららむむん、、、猶猶なおいみじかるいみじかるいみじかるべしべしべしととと思思おもひひい亂亂みだるゝるゝるるをりをりおりしもしもしも、、、かのかのかの殿殿とのよりよりより御御おん使使つかいありありあり。。。
- 2これこれこれかれかれかれととと見見みるるるもももいといといとうたてうたてうたてあれあれあればばば猶猶なお事事こと多多おおかりかりかりつるつるつるををを見見みつゝつゝつつ臥臥ふししし給給たまへへえれれればばば、、、侍侍じ從從じゅう右右う近近こん見見み合合あわせせせててて、、、「「「猶猶なおうつりうつりうつりにににけりけりけり」」」ととといはいはいわぬぬぬやうやうようにてにてにていふいふいう、、、「「「ことわりことわりことわりぞぞぞかしかしかし。。。殿殿とのののの御御おんかたちかたちかたちをををたぐひたぐひたぐいおはしまさおはしまさおわしまさじじじととと見見みしかしかしかどどど、、、このこのこの御御おん有有あり樣樣さまはははいみじかりいみじかりいみじかりけりけりけり。。。うちうちうち亂亂みだれれれ給給たまへへえるるる愛愛あいぎやうぎやうぎょうよよよ、、、まろまろまろならならならばばばかばかりかばかりかばかりののの御御おん思思おもひひいををを見見みるるる見見みるるる、、、得得えかくかくかくてててあらあらあらじじじ、、、きさいきさいきさいののの宮宮みやにににももも參參まいりりりててて常常つねににに見見み奉奉たてまつりりりてててむむん」」」ととといふいふいう。。。右右う近近こん「「「うしろめたうしろめたうしろめたののの御心御心みこころのののほどほどほどややや。。。殿殿とのののの御御おんありさまありさまありさまにににまさりまさりまさり給給たまふふう人人ひとははは誰誰たれかかかはははあらあらあらむむん、、、かたちかたちかたちなどなどなどははは知知しらららずずず、、、御心御心みこころばへばへばへけはひけはひけはいなどなどなどよよよ。。。猶猶なおこのこのこの御御おん事事ことはははいといといと見見み苦苦ぐるしきしきしきわざわざわざかなかなかな。。。いかゞいかゞいかがならならならせせせ給給たまははわむむんとととすすすらむらむらん」」」ととと、、、ふたりふたりふたりしししてててかたらふかたらふかたらう。。。
現代語訳
尽きない思いを書きなさって、「眺めやるそちらの雲も見えないほど、空までも暗くなるこの頃のわびしさよ」。筆に任せて書き乱しなさったのがかえって見どころがあり、趣深い。特にたいそう重々しくなどはない若い心には、たいそうこのような心にも思いがまさりそうだが、初めから約束なさった様子も、さすがにあの方はやはりたいそう思慮深く、人柄のすばらしいことなども、男女の仲を知った初めだからだろうか、このようなつらいことを聞きつけて疎みなさるような世には、どうして生きていられよう、早くと思い惑う親にも、思いがけず気に入らないことと持て余されるだろう。このように焦れていらっしゃる人はまた、浮気なご性分とばかり聞いていたので、今のうちこそこうだろうが、またこのまま京に隠し据えなさり、長く人数に入れてくださるにつけても、あの上がどうお思いになるだろう、万事隠れのない世なので、妙だった夕暮れの手がかりだけでさえ、こうして尋ね出しなさったようだ、まして私の有様がどうなっても、お聞きにならないことはあるまいと考えをたどると、自分の心にも傷があって、あの人に疎まれ申し上げるのはやはりつらいだろうと思い乱れているちょうどその時、あの殿から御使いがある。
あれこれと見るのもたいそういやなので、やはり言葉の多かった方を見ながら臥していらっしゃると、侍従と右近は顔を見合わせて、「やはり心が移ってしまったのね」と、言わないふりをして言う。「無理もないわ。殿のご容貌を比べる人はいらっしゃるまいと見ていたけれど、このご様子はすばらしかった。打ち解けていらっしゃる時の愛嬌よ。私なら、これほどのご愛情を見ながら、とてもこうしてはいられない。后の宮に参ってでも、いつもお目にかかりたい」と言う。右近は「心配なお心のほどね。殿のご様子にまさる方は誰がいるでしょう。容貌などはともかく、お心ばえや気配などはね。やはりこのことはたいそう見苦しいことだわ。どうおなりになるのでしょう」と、二人で語り合う。
意訳
匂宮から思いのたけを綴った手紙と歌が届く。浮舟は匂宮に惹かれながらも、初めて契った薫の思慮深さを思い、匂宮とのことが知れて薫に疎まれることを恐れる。匂宮は浮気な性分と聞いており、中の君にも知られるだろうと思い乱れる。そこへ薫の使いも来るが、浮舟は匂宮の手紙を見て臥している。侍従は匂宮の魅力を称え、右近は薫こそ人柄がまさると言い、二人で浮舟の行く末を案じる。
語釈・文法注
文法
- 「心いられし給ふ」(かく心いられし給ふ人はた)
- 心焦られす。いらだつ、焦れる。
- 「おぼしかずまへむ」(ながらへてもおぼしかずまへむにつけては)
- 人数に入れる、一人前に扱う。
- 「きず」(我が心もきずありて)
- 傷。やましいところ、欠点。
解説
浮舟は、匂宮と薫の手紙を同時に受け取る。匂宮の情熱的な筆と、薫の誠実さ。浮舟の心は、二人の間で引き裂かれていく。
侍従は匂宮を、右近は薫を推す。二人の女房の意見の対立は、浮舟自身の心の分裂を映し出している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1134–1135頁(コマ278)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日