源氏物語 第51帖 浮舟(24)
中空の歌
時方は「ほかの人を寄せるな」と言った。人目も絶えて、二人は気楽に語らって日を暮らしなさる。宮は、あの人(薫)がいらっしゃった時に、このようにして会ったのだろうとお思いやりになって、ひどくお恨みになる。薫が女二の宮をたいそう大切にして、妻としてお持ち申し上げていらっしゃる様子なども語りなさる。あの耳に留めなさった一言(宇治の橋姫の歌)はおっしゃらないのが憎らしいことよ。時方が御手水やお果物などを取り次いで差し上げるのをご覧になって、「たいそう大事にされているらしい客人の主人は、ここに来て姿を見せるなよ」とお戒めになる。侍従は色好みの若い女房の心地で、たいそうおもしろいと思って、この大夫と話をして日を暮らした。雪が降り積もっているので、自分の住む方を見やりなさると、霞の絶え間に梢ばかりが見える。山は鏡を懸けたように、きらきらと夕日に輝いているのに、宮は昨夜分けてきた道の難儀なことなどを、哀れを多く加えて語りなさる。「峯の雪みぎはのこほりふみわけて君にぞまどふ道はまどはず」。「木幡の里に馬はあれど」などと、粗末な硯を召し出して手習をなさる。浮舟は「ふりみだれ汀にこほる雪よりもなかぞらにてぞ我はけぬべき」と書いて消した。この「中空」を宮がお咎めになる。本当に憎らしく書いてしまったものだと、恥ずかしくて破いた。そうでなくても見る甲斐のあるご様子を、ますます哀れにすばらしいと人の心に深く思われようと、尽くしなさる言葉や様子は言いようもない。御物忌は二日と取り計らいなさったので、心のどかなままに、互いに哀れとばかり深く思いがまさっていく。右近はいつものように万事言い紛らわして、お召し物などを差し上げた。今日は乱れた髪を少し梳かせて、濃い紫の衣に紅梅の織物など、取り合わせ趣深く着替えて座っていらっしゃる。侍従も粗末な裳を着ていたのを、鮮やかなものに着替えたので、宮はその裳を取りなさって浮舟にお着せになって、御手水を差し上げさせなさる。女一の宮にこの人を差し上げたら、たいそう大切なものとしてお扱いになるだろう。
- 1ほかほかほかののの人人ひとよすよすよすななな」」」ととといひいひいいたりたりたり。。。人人ひと目目めももも絕絕たえええててて心心こころやすくやすくやすく語語かたらひらひらいくらしくらしくらし給給たまふふう。。。かのかのかの人人ひとのののものものものししし給給たまへへえりりりけむけむけんににに、、、かくかくかくててて見見みえええけむけむけんかしかしかしとととおぼしおぼしおぼしやりやりやりててて、、、いみじくいみじくいみじく怨怨うらみみみ給給たまふふう。。。二二にののの宮宮みやをををいといといとやんごとなくやんごとなくやんごとなくててて、、、もちもちもち奉奉たてまつりりり給給たまへへえるるる有有あり樣樣さまなどなどなどももも語語かたりりり給給たまふふう。。。かのかのかの耳耳みみとゞめとゞめとどめ給給たまひひいししし一一ひとことことことははは、、、のたまひのたまひのたまい出出いでででぬぬぬぞぞぞにくきにくきにくきややや。。。時時とき方方かた御御おんてうづてうづちょうず御御おんくだものくだものくだものなどなどなど、、、とりとりとりつきつきつきててて參參まいるるるををを御御ご覽覽らんじじじててて、、、「「「いみじくいみじくいみじくかしづかかしづかかしずかるるるめるめるめるまらうどまらうどまろうどのののぬしぬしぬし、、、きききてててななな見見みえええそそそややや」」」ととといましめいましめいましめ給給たまふふう。。。侍侍じ從從じゅう色色いろめかしきめかしきめかしきわかうどわかうどわこうどののの心地心地ここちににに、、、いといといとをかしうをかしうおかしゅうととと思思おもひひいててて、、、このこのこの大大たい夫夫ふとととぞぞぞ物物もの語語がたりしししてててくらしくらしくらしけるけるける。。。雪雪ゆきののの降降ふりりり積積つもれれれるるるににに、、、我我わがががすむすむすむ方方かたををを見見みやりやりやり給給たまへへえばばば、、、霞霞かすみのののたえだえたえだえたえだえににに木木こ末末ずえばかりばかりばかり見見みゆゆゆ。。。山山やまははは鏡鏡かがみををを懸懸かけけけたるたるたるやうやうようににに、、、きらきらきらきらきらきらととと夕夕ゆう日日ひにににかゞやきかゞやきかがやきたるたるたるににに、、、よべよべよべわけわけわけこここししし道道みちのののわりなきわりなきわりなきなどなどなど、、、哀哀あわれおほうおほうおおうそへそへそえててて語語かたりりり給給たまふふう。。。「「「峯峯みねののの雪雪ゆきみぎはみぎはみぎわのののこほりこほりこおりふみふみふみわけわけわけててて君君きみにににぞぞぞまどふまどふまどう道道みちはははまどはまどはまどわずずず」」」。。。木木こ幡幡はたののの里里さとににに馬馬うまはははあれあれあれどどどなどなどなど、、、あやしきあやしきあやしき硯硯すずりめしめしめし出出いでででゝゝて手手て習習ならいししし給給たまふふう。。。
- 2「「「ふりふりふりみだれみだれみだれ汀汀みぎわにににこほるこほるこおる雪雪ゆきよりよりよりもももなかなかなかぞらぞらぞらにてにてにてぞぞぞ我我わはははけけけぬぬぬべきべきべき」」」ととと書書かきききけちけちけちたりたりたり。。。このこのこの中中なか空空ぞらををを咎咎とがめめめ給給たまふふう。。。げにげにげににくゝにくゝにくくももも書書かきききてててけるけるけるかなかなかなととと、、、恥恥はずかしくしくしくてててひきひきひきやりやりやりつつつ。。。さらさらさらでででだにだにだに見見みるるるかひかひかいあるあるある御御おんさまさまさまををを、、、いよいよいよいよいよいよあはれあはれあわれにににいみじいみじいみじととと人人ひとののの心心こころにににしめしめしめられられられむむんととと盡盡つくししし給給たまふふう言言ことののの葉葉は氣色氣色けしきいはいはいわむむんかたかたかたなしなしなし。。。御御おん物物もの忌忌いみ二二ふつ日日かとととたばかりたばかりたばかり給給たまへへえれれればばば、、、心心こころのどかのどかのどかなるなるなるまゝまゝままににに、、、かたみかたみかたみににに哀哀あわれとととのみのみのみ深深ふかくくくおぼしおぼしおぼしまさるまさるまさる。。。右右う近近こんはははよろづよろづよろずににに例例れいのののいひいひいいまぎらはしまぎらはしまぎらわしててて、、、御御おんぞぞぞなどなどなど奉奉たてまつりりりたりたりたり。。。けふけふきょうははは亂亂みだれれれたるたるたる髮髮かみ少少すこしししけづらけづらけずらせせせててて、、、こきこきこききぬきぬきぬににに紅紅こう梅梅ばいののの織織おり物物ものなどなどなど、、、あはひあはひあわいをかしくをかしくおかしく着着きかへかへかえててて居居い給給たまへへえりりり。。。侍侍じ從從じゅうもももあやしきあやしきあやしきしびらしびらしびら着着きたりたりたりしししをををあざやきあざやきあざやきたれたれたればばば、、、そのそのそのもももをををとりとりとり給給たまひひいててて君君きみににに着着きせせせ給給たまひひいててて、、、御御おん手手て水水みずまゐらまゐらまいらせせせ給給たまふふう。。。姫姫ひめ宮宮みやにににこれこれこれををを奉奉たてまつりりりたらたらたらばばば、、、いみじきいみじきいみじきものものものにににききき給給たまひひいてててむむんかしかしかし。。。
現代語訳
「ほかの人を寄せるな」と言った。人目も絶えて、気楽に語らって日を暮らしなさる。あの人がいらっしゃった時に、このようにして会ったのだろうとお思いやりになって、ひどくお恨みになる。女二の宮をたいそう大切にして、妻としてお持ち申し上げていらっしゃる様子なども語りなさる。あの耳に留めなさった一言は、おっしゃらないのが憎らしいことよ。時方が御手水やお果物などを取り次いで差し上げるのをご覧になって、「たいそう大事にされているらしい客人の主人は、ここに来て姿を見せるなよ」とお戒めになる。侍従は色好みの若い女房の心地で、たいそうおもしろいと思って、この大夫と話をして日を暮らした。雪が降り積もっているので、自分の住む方を見やりなさると、霞の絶え間に梢ばかりが見える。山は鏡を懸けたように、きらきらと夕日に輝いているのに、昨夜分けてきた道の難儀なことなどを、哀れを多く加えて語りなさる。「峰の雪や汀の氷を踏み分けて、あなたに迷うけれど、道には迷わない」。「木幡の里に馬はあれど」などと、粗末な硯を召し出して手習をなさる。
「降り乱れて汀に凍る雪よりも、中空で私は消えてしまいそうです」と書いて消した。この「中空」をお咎めになる。本当に憎らしく書いてしまったものだと、恥ずかしくて破いた。そうでなくても見る甲斐のあるご様子を、ますます哀れにすばらしいと人の心に深く思われようと、尽くしなさる言葉や様子は言いようもない。御物忌は二日と取り計らいなさったので、心のどかなままに、互いに哀れとばかり深く思いがまさっていく。右近はいつものように万事言い紛らわして、お召し物などを差し上げた。今日は乱れた髪を少し梳かせて、濃い紫の衣に紅梅の織物など、取り合わせ趣深く着替えて座っていらっしゃる。侍従も粗末な裳を着ていたのを、鮮やかなものに着替えたので、その裳を取りなさって君にお着せになって、御手水を差し上げさせなさる。女一の宮にこの人を差し上げたら、たいそう大切なものとしてお扱いになるだろう。
意訳
人目のない家で、匂宮と浮舟は語らって過ごす。匂宮は薫のことを恨み、薫が女二の宮を大切にしていると話すが、宇治の橋姫の歌のことは言わない。夕日に輝く雪の山を見ながら、匂宮は雪の道を分けてきた苦労を歌に詠み、浮舟は中空で消えてしまいそうだと書いて消す。匂宮はその「中空」を咎める。物忌と称した二日間、二人は愛を深める。匂宮は浮舟に侍従の裳を着せて手水の世話をさせ、女一の宮に仕えさせたらさぞ重宝されるだろうと思う。
語釈・文法注
文法
- 「木幡の里に馬はあれど」(木幡の里に馬はあれどなど)
- 「山科の木幡の里に馬はあれど徒歩よりぞ来る君を思へば」(拾遺集)による。
- 「なかぞら」(なかぞらにてぞ我はけぬべき)
- 中空。どっちつかずの状態。薫と匂宮の間で揺れる浮舟の心を表す。
- 「しびら」(侍從もあやしきしびら着たりしを)
- 女房が腰に着ける簡略な裳。
解説
浮舟の「なかぞら」の歌は、薫と匂宮の間で宙吊りになった自分の身を詠んでいる。匂宮がそれを咎めるのは、浮舟の心が薫にも残っていることを感じ取ったからである。
匂宮は浮舟に裳を着せて給仕させ、女一の宮に仕えさせたらと思う。愛しながらも、浮舟を女房程度の身分と見る匂宮の意識が垣間見える。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1132–1133頁(コマ277)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日