源氏物語 第51帖 浮舟(22)
橘の小島
あちらでは、おいでになるとはあったが、このような雪ではと気を許していたところに、夜が更けてから右近に知らせてきた。浮舟も呆れるほど哀れと思った。右近は、どうおなりになるご様子なのだろうと一方では苦しいが、今夜は気兼ねも忘れてしまいそうだ。断る方法もないので、同じように親しく思っている若い女房で、心ざまの思慮深い者に相談して、「たいそう困ったことです。同じ心で隠してください」と言ったのだった。一緒にお入れ申し上げる。道中で濡れなさったお召し物の香りが、所狭いほど匂うのも、扱いに困りそうだが、あの人(薫)のご様子に似せて紛らわしたのだった。夜のうちにお帰りになるのも、かえって中途半端だろうから、ここの人目もたいそう気が引けるので、宮は時方に工夫させなさって、川の向こうの人の家に連れていこうと計画していたので、先に遣わしていた時方が、夜更けに参った。「たいそうよく準備してございます」と申させる。これはどうなさることかと右近もたいそう心あわただしいので、寝ぼけて起きた心地もわなないて、妙な子どもが雪遊びをしている様子のように震え上がった。どうしてなどとも言わせなさらず、宮は浮舟を抱いてお出になった。右近はここの留守役に残って、侍従をお供に差し上げる。たいそう頼りないものと明け暮れ見やる小さな舟にお乗りになって、漕ぎ渡りなさる間、遠い岸に漕ぎ離れたように心細く思われて、ぴったりと寄り添って抱かれているのも、宮はたいそう愛しいとお思いになる。有明の月が澄んで昇り、水面も曇りないところに、船頭が「これが橘の小島です」と申して、御舟をしばらく止めたのをご覧になると、大きな岩のような様子で、洒落た常緑樹の蔭が茂っている。「あれをご覧なさい。たいそうはかないものだが、千年も経そうな緑の深さを」とおっしゃって、「年ふともかはらむものかたちばなの小島のさきに契るこころは」。
- 1かしこかしこかしこにににはははおはせおはせおわせむむんとととありありありつれつれつれどどど、、、かゝるかゝるかかる雪雪ゆきにににはははとととうちうちうち解解とけけけたるたるたるににに、、、夜夜よ更更ふけけけててて右右う近近こんにににせうそこせうそこしょうそこしししたりたりたり。。。あさましうあさましうあさましゅう哀哀あわれととと君君きみももも思思おもへへえりりり。。。右右う近近こんいかにいかにいかになりなりなりはてはてはて給給たまふふうべきべきべき御御おん有有あり樣樣さまにににかかかととと、、、かつかつかつははは苦苦くるしけれしけれしけれどどど、、、こよひこよひこよいはははつゝましさつゝましさつつましさももも忘忘わすれれれぬぬぬべしべしべし。。。いひいひいいかへさかへさかえさむむん方方かたもももなけれなけれなければばば、、、同同おなじじじやうやうようににに睦睦むつましくましくましくおぼいおぼいおぼいたるたるたる若若わかききき人人ひとののの、、、心心こころざまざまざまあうなからあうなからおうなからぬぬぬををを語語かたらひらひらいててて、、、「「「いみじくいみじくいみじくわりなきわりなきわりなきことことこと、、、同同おなじじじ心心こころにににもてもてもてかくしかくしかくし給給たまへへえ」」」ととといひいひいいてててけりけりけり。。。諸諸もろ共共ともににに入入いれれれ奉奉たてまつるるる。。。道道みちののの程程ほどにににぬれぬれぬれ給給たまへへえるるる御御おんぞぞぞのののかかかののの、、、所所ところせうせうしょう匂匂におふふうももも、、、もてもてもてわづらひわづらひわずらいぬぬぬべけれべけれべけれどどど、、、かのかのかの人人ひとののの御御おんけはひけはひけはいににに似似にせせせてててなむなむなん、、、もてもてもてまぎらはしまぎらはしまぎらわしけるけるける。。。夜夜よののの程程ほどににに立立たちちち歸歸かえりりり給給たまははわむむんももも、、、なかなかなかなかなかなかなるなるなるべけれべけれべければばば、、、こゝこゝここののの人人ひとめめめもももいといといとつゝましさつゝましさつつましさににに、、、時時とき方方かたにににたばからたばからたばからせせせ給給たまひひいててて、、、河河かわよりよりよりをちをちおちなるなるなる人人ひとののの家家いえにににゐゐいててておはせおはせおわせむむんとととかまへかまへかまえたりたりたりけれけれければばば、、、さきさきさきだてゝだてゝだてて遣遣つかわしししたりたりたりけるけるける夜夜よふくるふくるふくるほどほどほどににに參參まいれれれりりり。。。
- 2「「「いといといと能能よくくく用用よう意意いしししててて侍侍さぶらふふう」」」ととと申申もうさささすすす。。。こここはははいかにいかにいかにししし給給たまふふうことことことにににかかかととと右右う近近こんもももいといといと心心こころあわたゞしけれあわたゞしけれあわただしければばば、、、ねねねおびれおびれおびれててて起起おきききたるたるたる心地心地ここちもももわなゝかわなゝかわななかれれれてててあやしあやしあやしわらはべわらはべわらわべののの雪雪ゆき遊遊あそびびびしししたるたるたるけはひけはひけはいのののやうやうようにににぞぞぞ、、、ふるひふるひふるいあがりあがりあがりけるけるける。。。いかでいかでいかでかかかなどなどなどもももいひいひいいあへあへあえさせさせさせ給給たまははわずずず、、、かきかきかきいだきいだきいだきててて出出いででで給給たまひひいぬぬぬ。。。右右う近近こんはははこゝこゝここのののうしろみうしろみうしろみにににとゞまりとゞまりとどまりててて、、、侍侍じ從從じゅうをををぞぞぞ奉奉たてまつるるる。。。いといといとはかなげはかなげはかなげなるなるなるものものものとととあけくれあけくれあけくれ見見みいだすいだすいだす。。。ちひさきちひさきちいさき船船ふねににに乘乘のりりり給給たまひひいててて、、、さしさしさし渡渡わたりりり給給たまふふうほどほどほど、、、遙遙はるかならならならむむん岸岸きしにににしもしもしも漕漕こききき離離はなれれれたらたらたらむむんやうやうようににに心心こころぼそくぼそくぼそく覺覺おぼえええててて、、、つとつとつとつきつきつきててていだかいだかいだかれれれたるたるたるももも、、、いといといとらうたしらうたしろうたしとととおぼすおぼすおぼす。。。有有あり明明あけののの月月つきすみすみすみのぼりのぼりのぼりててて、、、水水みずのののおもておもておもてもももくもりくもりくもりなきなきなきににに「「「これこれこれなむなむなん橘橘たちばなののの小小こ島島じま」」」ととと申申もうしししててて、、、御御おん船船ふねしばししばししばしさしさしさしとゞめとゞめとどめたるたるたるををを見見み給給たまへへえばばば、、、大大おおきやかきやかきやかなるなるなる岩岩いわのののさまさまさましししててて、、、ざれざれざれたるたるたる常常とき盤盤は木木ぎののの蔭蔭かげ繁繁しげれれれりりり。。。「「「かれかれかれ見見み給給たまへへえ。。。いといといとはかなけれはかなけれはかなけれどどど、、、千千ち年年とせももも經經ふべきべきべき綠綠みどりののの深深ふかさささををを」」」とととのたまひのたまひのたまいててて、、、「「「年年としふふふともともともかはらかはらかわらむむんものものものかかかたちばなたちばなたちばなののの小小こ島島じまのののさきさきさきににに契契ちぎるるるこゝろこゝろこころははは」」」。。。
現代語訳
あちらでは、おいでになるとはあったが、このような雪ではと気を許していたところに、夜が更けてから右近に知らせてきた。呆れるほど哀れと君も思った。右近は、どうおなりになるご様子なのだろうと一方では苦しいが、今夜は気兼ねも忘れてしまいそうだ。断る方法もないので、同じように親しく思っている若い人で、心ざまの思慮深い者に相談して、「たいそう困ったことです。同じ心で隠してください」と言ったのだった。一緒にお入れ申し上げる。道中で濡れなさったお召し物の香りが、所狭いほど匂うのも、扱いに困りそうだが、あの人のご様子に似せて紛らわしたのだった。夜のうちにお帰りになるのも、かえって中途半端だろうから、ここの人目もたいそう気が引けるので、時方に工夫させなさって、川の向こうの人の家に連れていこうと計画していたので、先に遣わしていた者が、夜更けに参った。
「たいそうよく準備してございます」と申させる。これはどうなさることかと右近もたいそう心あわただしいので、寝ぼけて起きた心地もわなないて、妙な子どもが雪遊びをしている様子のように震え上がった。どうしてなどとも言わせなさらず、抱いてお出になった。右近はここの留守役に残って、侍従をお供に差し上げる。たいそう頼りないものと明け暮れ見やる小さな舟にお乗りになって、漕ぎ渡りなさる間、遠い岸に漕ぎ離れたように心細く思われて、ぴったりと寄り添って抱かれているのも、たいそう愛しいとお思いになる。有明の月が澄んで昇り、水面も曇りないところに、「これが橘の小島です」と申して、御舟をしばらく止めたのをご覧になると、大きな岩のような様子で、洒落た常緑樹の蔭が茂っている。「あれをご覧なさい。たいそうはかないものだが、千年も経そうな緑の深さを」とおっしゃって、「年が経っても変わるものか、橘の小島の崎で約束する心は」。
意訳
雪の夜更け、匂宮が宇治に着き、右近は若い女房の侍従と示し合わせて匂宮を迎え入れる。匂宮は時方に用意させた川向こうの家に浮舟を連れ出すことにし、浮舟を抱いて小舟に乗る。心細く匂宮にすがりつく浮舟を、匂宮は愛しく思う。有明の月の下、舟は橘の小島に差しかかり、匂宮は常緑樹に託して変わらぬ愛を誓う歌を詠む。
語釈・文法注
文法
- 「あうなからぬ」(心ざまあうなからぬを語らひて)
- 思慮が浅くない、しっかりしている。
- 「ねおびれて」(ねおびれて起きたる心地も)
- 寝怯ゆ。寝ぼける。
- 「橘の小島」(これなむ橘の小島と申して)
- 宇治川の中にあったとされる小島。歌枕。
解説
浮舟が匂宮に抱かれて小舟で宇治川を渡る場面は、物語屈指の名場面である。遠い岸へ漕ぎ離れる心細さは、浮舟の運命そのものを象徴している。
匂宮は常緑の橘に永遠の愛を誓う。しかし「はかなけれど」と前置きする匂宮の言葉には、その愛の危うさも透けて見える。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1130–1131頁(コマ276)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日