源氏物語 第51帖 浮舟(21)
宇治の橋姫の歌
この宮の宿直所に人々が参られる。食事などを召し上がって、お休みになっていた。大将が人に何か言おうとして、少し端近にお出になると、雪がだんだん積もり、星の光にぼんやりとしているのに、「闇はあやなし」と思われる匂いと様子で、「衣かたしきこよひもや」と口ずさみなさるのも、ちょっとしたことを口ずさみにおっしゃるのも、不思議にしみじみとした気配の添う人柄で、たいそう奥深い様子である。よりによってその歌をと、宮は寝たふりをしてお心が騒ぐ。いいかげんには思っていないようだ、片敷く袖を自分だけが思いやっている気がしていたのに、同じ心なのも哀れだ、つらいことだな、これほどの本来の人をさしおいて、自分の方にまさる思いはどうしてつくだろうかと妬ましくお思いになる。翌朝、雪がたいそう高く積もっているので、詩文を奉ろうとして御前に参られた宮のお姿は、この頃たいそう盛りに美しい。あの君も同じ年頃で、もう二つ三つまさっている違いか、少し大人びた様子や心づかいなどは、わざわざ作り上げたように、上品な男の手本にしてよいようでいらっしゃる。帝の婿として不足はないと世の人も道理と思った。学才なども、公の方面でも後れをとらずにいらっしゃる。詩の講評が終わって皆退出なさる。宮の詩を優れていると吟じて騒ぐが、宮は何とも聞き入れなさらず、どんな気持ちでこのようなことをしているのだろうと、上の空でぼんやりしていらっしゃる。あの人(薫)のご様子にもいっそう驚かれなさったので、呆れるほど工夫して宇治においでになった。京では友を待つほどに消え残った雪が、山深く入るにつれてやや降り積もっている。いつもより険しい稀な細道を分けていらっしゃる間、御供の人も泣き出しそうなほど恐ろしく、厄介なことまで思う。案内の内記は式部少輔を兼ねていた。どちらもどちらも仰々しい官職であるのに、たいそう似合わしく裾を引き上げなどした姿もおかしかった。
- 1このこのこの宮宮みやののの御御おんとのとのとのゐゐいどころどころどころににに人々人々ひとびと參參まいりりり給給たまふふう。。。物物ものまゐりまゐりまいりなどなどなどしししててて、、、うちうちうちやすみやすみやすみ給給たまへへえりりり。。。大大たい將將しょう人人ひとににに物物もののたまはのたまはのたまわむむんとてとてとて、、、すこしすこしすこしはしはしはし近近ちかくくく出出いででで給給たまへへえるるるににに、、、雪雪ゆきやうやうやうやうようようつもりつもりつもり、、、星星ほしののの光光ひかりにににおぼおぼしきおぼおぼしきおぼおぼしきををを、、、やみやみやみはははあやなしあやなしあやなしととと覺覺おぼゆるゆるゆるにほひにほひにおいありさまありさまありさまにてにてにて、、、「「「衣衣ころもかたしきかたしきかたしきこよひこよひこよいもももややや」」」とととうちうちうちずじずじずじ給給たまへへえるるるももも、、、はかなきはかなきはかなきことことことををを口口くちすさびすさびすさびにににのたまへのたまへのたまえるるるももも怪怪あやしくしくしく哀哀あわれなるなるなる氣色氣色けしきそへそへそえるるる人人ひとざまざまざまにてにてにて、、、いといといと物物もの深深ふかげげげなりなりなり。。。ことことことしもしもしもこそこそこそあれあれあれととと宮宮みやはははねねねたるたるたるやうやうようにてにてにて御心御心みこころさわぐさわぐさわぐ、、、おろかおろかおろかにににははは思思おもははわぬぬぬなななめりめりめりかしかしかし。。。かたしくかたしくかたしく袖袖そでををを我我わのみのみのみ思思おもひひいやるやるやる心地心地ここちしししつるつるつるををを、、、同同おなじじじ心心こころなるなるなるももも哀哀あわれなりなりなり、、、侘侘わびしくしくしくもももあるあるあるかなかなかな、、、かばかりかばかりかばかりなるなるなる本本もとつつつ人人ひとをををおきおきおきててて、、、我我わががが方方かたにににまさるまさるまさる思思おもひひいははは、、、いかでいかでいかでかかかつくつくつくべきべきべきぞぞぞととと妬妬ねとうううおぼさおぼさおぼさるるる。。。つとめてつとめてつとめて雪雪ゆきのののいといといと高高たこううう積積つもりりりたるたるたるににに、、、文文ふみ奉奉たてまつりりり給給たまははわむむんとてとてとておおお前前まえににに參參まいりりり給給たまへへえるるる御御おんかたちかたちかたち、、、このこのこの頃頃ごろいみじくいみじくいみじくさかりさかりさかりににに淸淸きよげげげなりなりなり。。。かのかのかの君君きみももも同同おなじじじほどほどほどにてにてにて、、、今今いまふたつふたつふたつみつみつみつまさるまさるまさるけぢめけぢめけじめにににややや少少すこしししねびねびねびまされまされまされるるる氣色氣色けしき用用よう意意いなどなどなどぞぞぞ殊殊こと更更さらにににももも作作つくりりりたらたらたらむむんやうやうようににに、、、あてあてあてなるなるなる男男おとこのののほんほんほんにににしししつつつべくべくべく物物ものししし給給たまふふう。。。
- 2みかどみかどみかどののの御御おん聟聟むこにてにてにてあかあかあかぬぬぬことことことなしなしなしとととぞぞぞ世世よののの人人ひともももことわりことわりことわりけるけるける。。。さえさえさえなどなどなどももも、、、おほやけおほやけおおやけおほやけしきおほやけしきおおやけしきかたかたかたももも後後おくれれれずずずぞぞぞおはすおはすおわすべきべきべき。。。文文ふみ講講こうじじじ果果はてててゝゝて皆皆みな人人ひとまかでまかでまかで給給たまふふう。。。宮宮みやののの御御おん文文ふみををを勝勝すぐれれれたりたりたりとととずじずじずじ罵罵ののしれれれどどど、、、なになになにとととももも聞聞きききき入入いれれれ給給たまははわずずず、、、いかいかいかなるなるなる心地心地ここちにてにてにて、、、かゝるかゝるかかる事事ことをををもももしししいづいづいずらむらむらんととと空空そらにににのみのみのみ思思おもほしほしおしほれほれほれたりたりたり。。。かのかのかの人人ひとののの御御おん氣色氣色けしきにににもももいとゞいとゞいとど驚驚おどろかかかれれれ給給たまひひいけれけれければばば、、、あさましうあさましうあさましゅうたばかりたばかりたばかりててておはしましおはしましおわしましたりたりたり。。。京京きょうにににははは友友とも待待まつつつばかりばかりばかり消消きえええ殘殘のこりりりたるたるたる雪雪ゆき、、、山山やま深深ふかくくく入入いるるるまゝまゝままにににやゝやゝやや降降ふりりり積積つもりりりたりたりたり常常つねよりよりよりももも、、、わりなきわりなきわりなきまれまれまれののの細細ほそ道道みちをををわけわけわけ給給たまふふう程程ほど、、、御御おん供供ともののの人人ひとももも泣泣なきききぬぬぬばかりばかりばかりおそろしうおそろしうおそろしゅう、、、煩煩わずらはしきはしきわしきとととをををさへさへさへ思思おもふふう。。。しるべしるべしるべののの內內ない記記きははは式式しき部部ぶののの少少しょう輔輔ふをををなむなむなんかけかけかけたりたりたりけるけるける。。。いづいづいず方方かたもももいづいづいず方方かたもももことごとしかることごとしかることごとしかるべきべきべきつかさつかさつかさながらながらながら、、、いといといとつぎづきしくつぎづきしくつぎずきしく引引ひきききあげあげあげなどなどなどしししたるたるたる姿姿すがたもももをかしかりをかしかりおかしかりけりけりけり。。。
現代語訳
この宮の宿直所に人々が参られる。食事などを召し上がって、お休みになっていた。大将が人に何か言おうとして、少し端近にお出になると、雪がだんだん積もり、星の光にぼんやりとしているのに、「闇はあやなし」と思われる匂いと様子で、「衣かたしき今宵もや」と口ずさみなさるのも、ちょっとしたことを口ずさみにおっしゃるのも、不思議にしみじみとした気配の添う人柄で、たいそう奥深い様子である。よりによってその歌をと、宮は寝たふりをしてお心が騒ぐ。いいかげんには思っていないようだ、片敷く袖を自分だけが思いやっている気がしていたのに、同じ心なのも哀れだ、つらいことだな、これほどの本来の人をさしおいて、自分の方にまさる思いはどうしてつくだろうかと妬ましくお思いになる。翌朝、雪がたいそう高く積もっているので、詩文を奉ろうとして御前に参られたお姿は、この頃たいそう盛りに美しい。あの君も同じ年頃で、もう二つ三つまさっている違いか、少し大人びた様子や心づかいなどは、わざわざ作り上げたように、上品な男の手本にしてよいようでいらっしゃる。
帝の婿として不足はないと世の人も道理と思った。学才なども、公の方面でも後れをとらずにいらっしゃるはずである。詩の講評が終わって皆退出なさる。宮の詩を優れていると吟じて騒ぐが、何とも聞き入れなさらず、どんな気持ちでこのようなことをしているのだろうと、上の空でぼんやりしていらっしゃる。あの人のご様子にもいっそう驚かれなさったので、呆れるほど工夫しておいでになった。京では友を待つほどに消え残った雪が、山深く入るにつれてやや降り積もっている。いつもより険しい稀な細道を分けていらっしゃる間、御供の人も泣き出しそうなほど恐ろしく、厄介なことまで思う。案内の内記は式部少輔を兼ねていた。どちらもどちらも仰々しい官職であるのに、たいそう似合わしく裾を引き上げなどした姿もおかしかった。
意訳
雪の夜、宮中の宿直所で、薫は端近に出て「衣かたしき今宵もや我を待つらむ宇治の橋姫」を口ずさむ。寝たふりをしていた匂宮は、薫が浮舟を深く思っていると知って心が騒ぎ、妬ましく思う。翌朝の作文の会で、匂宮の詩はほめられるが、匂宮は上の空である。薫の様子に焦った匂宮は、雪の中を無理に工夫して宇治へ向かう。
語釈・文法注
文法
- 「やみはあやなし」(やみはあやなしと覺ゆるにほひありさまにて)
- 「春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やは隠るる」(古今集)による。闇でも香りは隠れない。
- 「衣かたしきこよひもや」(衣かたしきこよひもやとうちずじ給へる)
- 「さむしろに衣かたしき今宵もや我を待つらむ宇治の橋姫」(古今集)による。宇治で待つ女を思う歌。
- 「本つ人」(かばかりなる本つ人をおきて)
- もとからの人。浮舟の最初の男である薫のこと。
解説
薫の口ずさんだ「宇治の橋姫」の歌は、匂宮に浮舟への薫の思いを悟らせる。何気ない一言が、匂宮の嫉妬と焦燥を燃え上がらせる。
薫と匂宮の比較は、物語の重要な主題である。手本のような薫と、情熱的な匂宮。宮廷での二人の姿が、浮舟をめぐる対立の背景を形作る。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1128–1131頁(コマ275–276)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日