源氏物語 第51帖 浮舟(20)
宇治橋の歌
薫は「誰かがどのようなことを申し上げたことがあるのか。少しでもいいかげんな気持ちなら、これほどまでに参れる身分や道の有様でもないのに」などと、月の初めの夕月夜に、少し端近に臥して外を眺めていらっしゃる。男は過ぎ去った昔の哀れも思い出しなさり、女は今から加わった身のつらさを嘆き加えて、互いに物思いに沈んでいる。山の方は霞が隔てて、寒い洲崎に立っている鵲の姿も所柄たいそう趣深く見えるうえに、宇治橋がはるばると見渡され、柴を積んだ舟があちこちに行き交っているなど、ほかでは見慣れないことばかり取り集めた所なので、ご覧になるたびに、やはりその昔のことが今のことのような心地がして、それほどでもない人と向かい合っていても、珍しい仲の哀れも多く添いそうな所である。まして恋しい人になぞらえられるのも並々でなく、だんだん物の心を知り、都に慣れていく様子の趣深いのも、この上なく見まさりした心地がなさるが、女は様々な思いを集めた心の中に催される涙が、ともすればこぼれ出るのを、薫は慰めかねなさりつつ、「宇治橋の長きちぎりは朽ちせじをあやぶむかたに心さわぐな。そのうちおわかりになるでしょう」とおっしゃる。浮舟は「絶間のみ世にはあやうき宇治橋を朽ちせぬものと猶たのめとや」。薫は以前よりもたいそう見捨てがたく、しばらくでも留まっていたいとお思いになるが、人の噂がうるさいので、今さらのことだ、安心できる様子になってからなどとお思いなおしになって、明け方にお帰りになった。たいそうよく大人びたものだなと、心苦しくお思い出しになることが以前にまさった。二月の十日頃に、内裏で作文の会をなさるというので、この宮も大将も参り合わせなさった。季節にかなった楽の調べに、宮のお声はたいそうすばらしく、「梅が枝」などをお謡いになる。何事も人よりこの上なくまさっていらっしゃるご様子なのに、つまらないことに思い焦がれていらっしゃることだけが罪深いのだった。雪が急に降り乱れ、風なども激しかったので、管弦の遊びは早く終わった。
- 1人人ひとのののいかにいかにいかに聞聞きこえええ知知しらせらせらせたるたるたることことことのののあるあるある、、、少少すこしししもももおろかおろかおろかならならならむむん志志こころざしにてにてにてははは、、、かうかうこうまでまでまで參參まいりりりくくくべきべきべき身身みののの程程ほど、、、道道みちののの有有あり樣樣さまにににもももあらあらあらぬぬぬををを」」」などなどなどついついついたちたちたち頃頃ごろののの夕夕ゆうづくづくずく夜夜よににに、、、少少すこしししはしはしはし近近ちかくくく臥臥ふしししててて眺眺ながめめめいだしいだしいだし給給たまへへえりりり。。。男男おとこははは過過すぎぎぎにににししし方方かたののの哀哀あわれをををもももおぼしおぼしおぼし出出いでででゝゝて、、、女女おんなははは今今いまよりよりよりそひそひそいたるたるたる身身みのののうさうさうさををを歎歎なげききき加加くわへへえててて、、、かたみかたみかたみににに物物もの思思おもははわししし。。。山山やまののの方方かたははは霞霞かすみ隔隔へだてててゝゝて寒寒さむききき洲洲す崎崎さきににに立立たてててるるるかさゝぎかさゝぎかささぎのののすがたすがたすがたももも處處ところからからからはははいといといとをかしうをかしうおかしゅう見見みゆるゆるゆるににに、、、宇宇う治治じ橋橋ばしのののはるばるはるばるはるばるととと見見み渡渡わたさささるゝるゝるるににに、、、柴柴しばつみつみつみ船船ぶねののの所所ところ々々どころににに行行ゆきききちがひちがひちがいたるたるたるなどなどなど、、、ほかほかほかにてにてにてははは目目めなれなれなれぬぬぬ事事ことどもどもどものみのみのみ取取とりりり集集あつめめめたるたるたる所所ところなれなれなればばば、、、見見み給給たまふふう度度たびごとごとごとににに猶猶なおそのそのそのかみかみかみののの事事ことののの唯唯ただ今今いまののの心地心地ここちしししててて、、、いといといとかゝらかゝらかからぬぬぬ人人ひとををを見見みかはしかはしかわしたらたらたらむむんだにだにだに、、、珍珍めずらしきしきしきなかなかなかののの哀哀あわれ多多おおくくくそひそひそいぬぬぬべきべきべきほどほどほどなりなりなり、、、まいてまいてまいて戀戀こいしきしきしき人人ひとににによそへよそへよそえられられられたるたるたるもももこよなからこよなからこよなからずずず、、、やうやうやうやうようよう物物ものののの心心こころ知知しりりり、、、都都みやこなれなれなれ行行ゆくくくありさまありさまありさまのののをかしきをかしきおかしきももも、、、こよなくこよなくこよなくみみみまさりまさりまさりしししたるたるたる心地心地ここちししし給給たまふふうににに、、、女女おんなはははかきかきかきあつめあつめあつめたるたるたる心心こころのののうちうちうちににに催催もよおさささるゝるゝるる淚淚なみだ、、、ともともともすれすれすればばば出出いでででたつたつたつををを、、、慰慰なぐさめめめかねかねかね給給たまひひいつゝつゝつつ、、、
- 2「「「宇宇う治治じ橋橋ばしののの長長ながきききちぎりちぎりちぎりははは朽朽くちちちせせせじじじをををあやぶむあやぶむあやぶむかたかたかたににに心心こころさわぐさわぐさわぐななな。。。今今いま見見み給給たまひひいてててむむん」」」とととののの給給たまふふう。。。「「「絕絕たえ間間まのみのみのみ世世よにににはははあやうきあやうきあようき宇宇う治治じ橋橋ばしををを朽朽くちちちせせせぬぬぬものものものととと猶猶なおたのめたのめたのめとととややや」」」。。。さきざきさきざきさきざきよりよりよりもももいといといと見見み捨捨すてててがたくがたくがたく、、、しばししばししばしももも立立たちちちとまらとまらとまらまほしくまほしくまほしくおぼさおぼさおぼさるれるれるれどどど、、、人人ひとののの物物ものいひいひいいののの安安やすからからからぬぬぬににに、、、今今いまさらさらさらなりなりなり、、、心安心安やすきききさまさまさまにてにてにてこそこそこそなどなどなどおぼしおぼしおぼしなしなしなしててて曉曉あかつきにににかへりかへりかえり給給たまひひいぬぬぬいといといとようようようもももおとなびおとなびおとなびたりたりたりつるつるつるかなかなかなととと心苦心苦こころぐるしくしくしくおぼしおぼしおぼし出出いづるづるずることことこと、、、ありありありしししにににまさりまさりまさりけりけりけり。。。きさらぎきさらぎきさらぎののの十十とお日日かのののほどほどほどににに、、、內內うちににに文文ふみ作作つくらららせせせ給給たまふふうとてとてとてこのこのこの宮宮みやももも大大たい將將しょうももも參參まいりりりあひあひあい給給たまへへえりりり。。。をりをりおりにににあひあひあいたるたるたるものものものゝゝのしらべしらべしらべどもどもどもににに宮宮みやののの御御おん聲聲こえはははいといといとめでたくめでたくめでたくててて梅梅うめがががえええなどなどなど謠謠うたひひい給給たまふふう。。。何何なに事事ことももも人人ひとよりよりよりはははこよなうこよなうこよのう勝勝まさりりり給給たまへへえるるる御御おんさまさまさまにてにてにて、、、すゞろすゞろすずろなるなるなることことことおぼしおぼしおぼしいらいらいらるるるのみのみのみなむなむなん、、、罪罪つみ深深ふかかりかりかりけるけるける雪雪ゆき俄俄にわかににに降降ふりりりみだれみだれみだれ、、、風風かぜなどなどなど烈烈はげしけれしけれしければばば御御おんあそびあそびあそび疾疾とくくくやみやみやみぬぬぬ。。。
現代語訳
「誰かがどのようなことを申し上げたことがあるのか。少しでもいいかげんな気持ちなら、これほどまでに参れる身分や道の有様でもないのに」などと、月の初めの夕月夜に、少し端近に臥して外を眺めていらっしゃる。男は過ぎ去った昔の哀れも思い出しなさり、女は今から加わった身のつらさを嘆き加えて、互いに物思いに沈んでいる。山の方は霞が隔てて、寒い洲崎に立っている鵲の姿も所柄たいそう趣深く見えるうえに、宇治橋がはるばると見渡され、柴を積んだ舟があちこちに行き交っているなど、ほかでは見慣れないことばかり取り集めた所なので、ご覧になるたびに、やはりその昔のことが今のことのような心地がして、それほどでもない人と向かい合っていても、珍しい仲の哀れも多く添いそうな所である。まして恋しい人になぞらえられるのも並々でなく、だんだん物の心を知り、都に慣れていく様子の趣深いのも、この上なく見まさりした心地がなさるが、女は様々な思いを集めた心の中に催される涙が、ともすればこぼれ出るのを、慰めかねなさりつつ、
「宇治橋のように長い契りは朽ちることはないのに、危ぶむ方に心を騒がせなさるな。そのうちおわかりになるでしょう」とおっしゃる。「途絶えてばかりで世に危うい宇治橋を、朽ちないものとやはり頼めとおっしゃるのですか」。以前よりもたいそう見捨てがたく、しばらくでも留まっていたいとお思いになるが、人の噂がうるさいので、今さらのことだ、安心できる様子になってからなどとお思いなおしになって、明け方にお帰りになった。たいそうよく大人びたものだなと、心苦しくお思い出しになることが以前にまさった。二月の十日頃に、内裏で作文の会をなさるというので、この宮も大将も参り合わせなさった。季節にかなった楽の調べに、宮のお声はたいそうすばらしく、「梅が枝」などをお謡いになる。何事も人よりこの上なくまさっていらっしゃるご様子なのに、つまらないことに思い焦がれていらっしゃることだけが罪深いのだった。雪が急に降り乱れ、風なども激しかったので、管弦の遊びは早く終わった。
意訳
夕月夜、薫と浮舟は端近で宇治の景色を眺める。霞の山、洲崎の鵲、宇治橋、柴舟。薫は大君を偲びつつ、浮舟が大人びて見まさりしたと思う。涙ぐむ浮舟に、薫は宇治橋の長い契りを歌い、浮舟は絶え間の多い宇治橋を頼めるかと返す。薫は名残を惜しみつつ明け方に帰る。二月十日頃、宮中の作文の会に匂宮と薫が参り合わせ、匂宮は「梅が枝」を美しく謡う。
語釈・文法注
文法
- 「かさゝぎ」(寒き洲崎に立てるかさゝぎのすがたも)
- 鵲。七夕に天の川に橋を架けるという鳥。
- 「柴つみ船」(柴つみ船の所々に行きちがひたるなど)
- 柴を積んだ舟。宇治川の名物。
- 「梅がえ」(梅がえなど謠ひ給ふ)
- 催馬楽「梅が枝」。春の歌。
解説
宇治橋の贈答は、浮舟の巻を代表する場面である。薫の「朽ちせじ」と浮舟の「絶間のみ」。二人の歌の食い違いは、薫の信頼と浮舟の不安の隔たりを示している。
夕月夜の宇治の風景描写は美しい。霞、鵲、宇治橋、柴舟。この静かな美しさの中で、浮舟の心は激しく揺れている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1128–1129頁(コマ275)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日