源氏物語 第51帖 浮舟(19)
薫と匂宮のはざま
浮舟は、匂宮が「私は長年連れ添う人をも皆思い変わってしまいそうな気がする」とおっしゃったのを、本当にその後ご気分が悪いといって、どこにもいつものお出歩きをなさらず、御修法などで騒いでいるらしいのを聞くにつけ、また薫とのことをどう聞いてお思いになるだろうと思うのもたいそう苦しい。この人(薫)はまた、たいそう様子が格別に思慮深く、優美な様子で、久しく訪れなかった間の怠りなどをおっしゃるのも言葉多くはなく、恋しい悲しいと深入りして言わないが、いつも会えない恋の苦しさを、体裁よい程度におっしゃるのは、ひどく言うよりもまさって、たいそう哀れと人が思うにちがいない様子を身につけていらっしゃる人柄である。優美な方面はもちろん、行く末長く人が頼りにできる心ばえなど、この上なくまさっていらっしゃる。思いがけない心の様子などを漏れ聞かれた時は、並々でなくひどいことになるだろう、妙に正気もなく思い焦がれる人を哀れと思うのも、それはたいそうあってはならない軽いことだ、この人につらいと思われて忘れられてしまう心細さは、たいそう深く身にしみるだろうから、思い乱れている様子を、薫は、何か月かの間にこの上なく物の心を知り、大人びたのだ、所在ない住まいの間に思い残すことはあるまいとご覧になるのも心苦しいので、いつもより心を留めてお話しになる。「造らせている所がだんだんよく仕上がってきた。先日見たが、ここよりは身近な水辺で花もご覧になれるだろう。三条宮も近い。明け暮れ気がかりな隔ても自然となくなるだろうから、この春のうちに、よければ移そう」と思っておっしゃるのも、あの人(匂宮)が、のどかに暮らせる所を用意したと昨日もおっしゃっていたのに、こうしたことも知らないで、そうお思いなのだろうと、哀れに思いながらも、そちらに靡くべきではないと思うにつけて、あの方のご様子が面影に思われるので、我ながらもいやな情けない身だと思い続けて泣いた。薫は「あなたのお心がこのようではなく、おっとりしていたのこそ、のどかでうれしかったのに。
- 1我我わははは年年とし頃頃ごろ見見みるるる人人ひとをををももも皆皆みな思思おもひひい變變かわりりりぬぬぬべきべきべき心地心地ここちなむなむなんするするするとととのたまひのたまひのたまいしししををを、、、げにげにげにそのそのその後後のち御御おん心心こころちちここち苦苦くるしししとてとてとて、、、いづくいづくいずくにににもももいづくいづくいずくにににももも例例れいののの御御おん有有あり樣樣さまならならならででで、、、みずほふみずほふみずほうなどなどなど騷騷さわぐぐぐなるなるなるををを聞聞きくくくににに、、、又又またいかにいかにいかに聞聞ききききててておぼさおぼさおぼさむむんととと思思おもふふうもももいといといと苦苦くるししし。。。このこのこの人人ひとはははたたた、、、いといといとけはひけはひけはいことことことににに心心こころ深深ふかくくく、、、なまめかしきなまめかしきなまめかしきさまさまさましししててて久久ひさしかりしかりしかりつるつるつる程程ほどのののをこたりをこたりおこたりなどなどなどのたまふのたまふのたまうもももことことこと多多おおからからからずずず、、、戀戀こいししし悲悲かなしししとととおりおりおりたゝたゝたたねねねどどど、、、常常つねにににあひあひあい見見みぬぬぬ戀戀こいののの苦苦くるしさしさしさををを、、、さまさまさまよきよきよき程程ほどにににうちうちうちのたまへのたまへのたまえるるる、、、いみじくいみじくいみじくいふいふいうにににははは勝勝まさりりりててて、、、いといといと哀哀あわれととと人人ひとののの思思おもひひいぬぬぬべきべきべきさまさまさまをををしめしめしめ給給たまへへえるるる人人ひとがらがらがらなりなりなり。。。えんえんえんなるなるなる方方かたはははさるさるさるものものものにてにてにて行行ゆくくく末末すえ長長ながくくく人人ひとのののたのみたのみたのみぬぬぬべきべきべき心心こころばへばへばえなどなどなど、、、こよなくこよなくこよなくまさりまさりまさり給給たまへへえりりり。。。思思おもははわずずずなるなるなるさまさまさまののの心心こころばへばへばえなどなどなど漏漏もりりり聞聞きかかかせせせたらたらたらむむん時時とき、、、なのめなのめなのめならならならずずずいみじくいみじくいみじくこそこそこそあべけれあべけれあべけれ、、、あやしうあやしうあやしゅううつしうつしうつしごゝろごゝろごころもももなうなうのう覺覺おぼしししいらるゝいらるゝいらるる人人ひとををを哀哀あわれととと思思おもふふうももも、、、それそれそれはははいといといとあるあるあるまじくまじくまじく輕輕かろきききことことことぞぞぞかしかしかし、、、このこのこの人人ひとににに憂憂うしししととと思思おもははわれれれててて忘忘わすれれれ給給たまひひいなななむむん心心こころぼそさぼそさぼそさははは、、、いといといと深深ふこうううしみしみしみぬぬぬべけれべけれべければばば、、、
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現代語訳
「私は長年連れ添う人をも皆思い変わってしまいそうな気がする」とおっしゃったのを、本当にその後ご気分が悪いといって、どこにもいつものお出歩きをなさらず、御修法などで騒いでいるらしいのを聞くにつけ、またどう聞いてお思いになるだろうと思うのもたいそう苦しい。この人はまた、たいそう様子が格別に思慮深く、優美な様子で、久しく訪れなかった間の怠りなどをおっしゃるのも言葉多くはなく、恋しい悲しいと深入りして言わないが、いつも会えない恋の苦しさを、体裁よい程度におっしゃるのは、ひどく言うよりもまさって、たいそう哀れと人が思うにちがいない様子を身につけていらっしゃる人柄である。優美な方面はもちろん、行く末長く人が頼りにできる心ばえなど、この上なくまさっていらっしゃる。思いがけない心の様子などを漏れ聞かれた時は、並々でなくひどいことになるだろう、妙に正気もなく思い焦がれる人を哀れと思うのも、それはたいそうあってはならない軽いことだ、この人につらいと思われて忘れられてしまう心細さは、たいそう深く身にしみるだろうから、
思い乱れている様子を、何か月かの間にこの上なく物の心を知り、大人びたのだ、所在ない住まいの間に思い残すことはあるまいとご覧になるのも心苦しいので、いつもより心を留めてお話しになる。「造らせている所がだんだんよく仕上がってきた。先日見たが、ここよりは身近な水辺で花もご覧になれるだろう。三条宮も近い。明け暮れ気がかりな隔ても自然となくなるだろうから、この春のうちに、よければ移そう」と思っておっしゃるのも、あの人が、のどかに暮らせる所を用意したと昨日もおっしゃっていたのに、こうしたことも知らないで、そうお思いなのだろうと、哀れに思いながらも、そちらに靡くべきではないと思うにつけて、あの方のご様子が面影に思われるので、我ながらもいやな情けない身だと思い続けて泣いた。「あなたのお心がこのようではなく、おっとりしていたのこそ、のどかでうれしかったのに。
意訳
浮舟は、匂宮が病と称して籠もっていると聞き、薫とのことをどう思うかと苦しむ。薫は言葉少なに会えない苦しさを語り、その思慮深さと頼もしさは匂宮にまさる。浮舟は、匂宮とのことが薫に知られれば大変なことになり、薫に見捨てられる心細さは耐えられないと思い乱れる。薫はそれを浮舟が大人びたと誤解し、京に造らせている邸に春のうちに移そうと語る。浮舟は匂宮も同じことを言っていたのを思い出し、匂宮の面影に心を乱されて泣く。
語釈・文法注
文法
- 「おりたゝねど」(戀し悲しとおりたゝねど)
- 下り立つ。深入りする、熱心にふるまう。
- 「うつしごゝろ」(あやしううつしごゝろもなう覺しいらるゝ人)
- 正気。
- 「三條宮」(三條宮も近き程なり)
- 薫の母女三の宮の邸。薫の住まい。
解説
薫と匂宮は、偶然にも同じように浮舟を京に移そうとしている。二人の男の申し出の間で、浮舟の心は引き裂かれていく。
薫は浮舟の思い乱れる様子を「ねびまさりにけり」と誤解する。何も知らない薫の善意の解釈が、悲劇の皮肉を深めている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1126–1129頁(コマ274–275)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日