源氏物語 第51帖 浮舟(16)
霜の朝の別れ
宮は妻戸まで浮舟と一緒に連れていらして、出ていきかねていらっしゃる。「世に知らず惑ふべきかなさきに立つ涙も道をかきくらしつつ」。女も限りなく哀れと思った。「涙をもほどなき袖にせきかねていかに別れをとどむべき身ぞ」。風の音もたいそう荒々しく、霜の深い明け方に、それぞれの衣も冷ややかになった心地がして、御馬にお乗りになる時、引き返すような思いで呆れるほどつらいが、お供の人々はたいそう冗談ではないと思って、ただ急がせに急がせて出たので、宮は我にもなくお出かけになった。この五位二人が御馬の口取りをしてお仕えした。険しい山越えを終えてから、それぞれ馬に乗る。汀の氷を踏み鳴らす馬の足音さえ心細く物悲しい。昔もこの道ばかりは、このような山歩きをなさったので、不思議な縁の里だなとお思いになる。二条院にお着きになって、女君(中の君)がたいそうつらかったお隠し立てもつらいので、気楽なお部屋でお休みになったが、お眠りになれず、たいそう寂しいうえに物思いがつのるので、心弱く対の屋においでになった。中の君は何心もなく、たいそう清らかでいらっしゃる。珍しく美しいとご覧になった人よりも、またこちらはやはりめったにない様子をしていらっしゃるとご覧になるものの、たいそうよく似ているのを思い出しなさるにつけても胸がふさがるので、ひどく物思いをしている様子で、御帳台に入ってお休みになる。女君もお連れしてお入りになって、宮は「気分がたいそう悪い。どうなるのかと心細い。私がたいそう哀れとお見置き申し上げても、あなたのご様子はすぐに変わってしまうだろう。人の本意は必ずかなうものだそうだから」とおっしゃる。中の君は、けしからぬことをまじめにおっしゃることだと思って、「このように聞き苦しいことが漏れ聞こえたら、どのように私が申し上げたのかと、あの方もお思い寄りになるのが呆れることです。つらい身には、何でもないことも、たいそう苦しくて」と背を向けなさった。
- 1妻妻つま戶戶どににに諸諸もろ共共ともにににゐゐいててておはしおはしおわしててて、、、得得え出出いでででやりやりやり給給たまははわずずず。。。「「「世世よににに知知しらららずずず惑惑まどふふうべきべきべきかなかなかなさきさきさきににに立立たつつつ淚淚なみだももも道道みちをををかきかきかきくらしくらしくらしつゝつゝつつ」」」。。。女女おんなももも限限かぎりなくなくなく哀哀あわれととと思思おもひひいけりけりけり。。。「「「淚淚なみだをををもももほどほどほどなきなきなき袖袖そでにににせきせきせきかねかねかねててていかにいかにいかに別別わかれれれをををとゞむとゞむとどむべきべきべき身身みぞぞぞ」」」。。。風風かぜののの音音おともももいといといとあらましうあらましうあらましゅう、、、霜霜しもふかきふかきふかき曉曉あかつきにににおのおのおのがががきぬぎぬきぬぎぬきぬぎぬももも、、、ひやゝかひやゝかひややかににになりなりなりたるたるたる心地心地ここちしししててて御御おん馬馬うまににに乘乘のりりり給給たまふふう程程ほど引引ひききき返返かえすすすやうやうようにににあさましけれあさましけれあさましけれどどど、、、御御おん供供ともののの人々人々ひとびといといといと戯戯たわぶれれれにくしにくしにくしととと思思おもひひいててて、、、たゞたゞただいそがしいそがしいそがしにににいそがしいそがしいそがし出出いづれづれずればばば、、、我我わにににもももあらあらあらででで出出いででで給給たまひひいぬぬぬこのこのこの五五ご位位い二二ふた人人りなむなむなん御御おん馬馬うまののの口口くちにににははは侍侍さぶらひひいけるけるける。。。さかしきさかしきさかしき山山やまごえごえごえはてはてはてゝゝてぞぞぞ、、、おのおのおのおのおのおの馬馬うまにににははは乘乘のるるる。。。汀汀みぎわののの氷氷こおりををを踏踏ふみみみならすならすならす馬馬うまののの足足あし音音おとさへさへさへ心心こころぼそくぼそくぼそくものものものがなしがなしがなし。。。昔昔むかしもももこのこのこの道道みちにににのみのみのみこそこそこそははは、、、かゝるかゝるかかる山山やまぶみぶみぶみはははししし給給たまひひいしかしかしかばばば、、、怪怪あやしかりしかりしかりけるけるける里里さとののの契契ちぎりかなかなかなとととおぼすおぼすおぼす。。。
- 2二二に條條じょう院院いんにににおはしましおはしましおわしまし着着つきききててて、、、女女おんな君君きみのののいといといと心憂心憂うかりかりかりししし御御おん物物ものかくしかくしかくしもももつらけれつらけれつらければばば、、、心安心安やすききき方方かたににに大大おお殿殿との籠籠ごもりりりぬるぬるぬるににに寢寢ねられられられ給給たまははわずずず、、、いといといとさびしきさびしきさびしきににに物物もの思思おもひひいまされまされまさればばば、、、心心こころ弱弱よわくくく對對たいににに渡渡わたりりり給給たまひひいぬぬぬ。。。何何なに心心こころもももなくなくなく、、、いといといと淸淸きよげげげにてにてにておはすおはすおわす。。。珍珍めずらしくしくしくをかしをかしおかしととと見見み給給たまひひいししし人人ひとよりよりよりももも、、、又又またこれこれこれははは猶猶なおありがたきありがたきありがたきさまさまさまはははししし給給たまへへえりりりかしかしかしととと、、、見見み給給たまふふうものものものからからから、、、いといといとよくよくよく似似にたるたるたるををを思思おもひひい出出いででで給給たまふふうももも胸胸むねふたがれふたがれふたがればばば、、、痛痛いたくくく物物ものおぼしおぼしおぼしたるたるたるさまさまさまにてにてにて、、、みみみ帳帳ちょうににに入入いりりりててて大大おお殿殿とのごもるごもるごもる。。。女女おんな君君きみもももゐゐいててて入入いりりり聞聞きこえええ給給たまひひいててて、、、「「「心心こころちちここちこそこそこそいといといと惡惡あしけれしけれしけれ。。。いかいかいかならならならむむんとととするするするにににかかかととと心心こころぼそくぼそくぼそくなむなむなんあるあるある。。。まろまろまろはははいみじくいみじくいみじく哀哀あわれととと見見みおいおいおい奉奉たてまつるるるともともとも、、、御御おんありさまありさまありさまはははいといといとゝくゝくとくかはりかはりかわりなななむむんかしかしかし。。。人人ひとのののほいほいほいははは必必かならずずずかなふかなふかなうなれなれなればばば」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。けしからぬけしからぬけしからぬことことことをををももも、、、まめやかまめやかまめやかにににさへさへさへのたまふのたまふのたまうかなかなかなととと思思おもひひいててて、、、「「「かうかうこう聞聞ききききにくきにくきにくきことことことののの漏漏もりりり聞聞きこえええたらたらたらばばば、、、いかいかいかやうやうようににに聞聞きこえええなしなしなしたるたるたるにににかかかととと人人ひとももも思思おもひひいよりよりより給給たまははわむむんこそこそこそあさましけれあさましけれあさましけれ、、、心憂心憂うききき身身みにににははは、、、すゞろすゞろすずろなるなるなることことことももも、、、いといといとくるしくくるしくくるしく」」」とてとてとて背背そむききき給給たまへへえりりり。。。
現代語訳
妻戸まで一緒に連れていらして、出ていきかねていらっしゃる。「この世に例がないほど惑うことだろう。先立つ涙も、道を暗くかき曇らせて」。女も限りなく哀れと思った。「涙さえも、狭い袖にはせき止められないのに、どうしてお別れを止められる身でしょうか」。風の音もたいそう荒々しく、霜の深い明け方に、それぞれの衣も冷ややかになった心地がして、御馬にお乗りになる時、引き返すような思いで呆れるほどつらいが、お供の人々はたいそう冗談ではないと思って、ただ急がせに急がせて出たので、我にもなくお出かけになった。この五位二人が御馬の口取りをしてお仕えした。険しい山越えを終えてから、それぞれ馬に乗る。汀の氷を踏み鳴らす馬の足音さえ心細く物悲しい。昔もこの道ばかりは、このような山歩きをなさったので、不思議な縁の里だなとお思いになる。
二条院にお着きになって、女君のたいそうつらかったお隠し立てもつらいので、気楽なお部屋でお休みになったが、お眠りになれず、たいそう寂しいうえに物思いがつのるので、心弱く対の屋においでになった。何心もなく、たいそう清らかでいらっしゃる。珍しく美しいとご覧になった人よりも、またこちらはやはりめったにない様子をしていらっしゃるとご覧になるものの、たいそうよく似ているのを思い出しなさるにつけても胸がふさがるので、ひどく物思いをしている様子で、御帳台に入ってお休みになる。女君もお連れしてお入りになって、「気分がたいそう悪い。どうなるのかと心細い。私がたいそう哀れとお見置き申し上げても、あなたのご様子はすぐに変わってしまうだろう。人の本意は必ずかなうものだそうだから」とおっしゃる。けしからぬことを、まじめにまでおっしゃることだと思って、「このように聞き苦しいことが漏れ聞こえたら、どのように申し上げたのかと、あの方もお思い寄りになるのが呆れることです。つらい身には、何でもないことも、たいそう苦しくて」と背を向けなさった。
意訳
夜明け前、匂宮は妻戸で浮舟と別れを惜しみ、涙の歌を交わす。霜の深い明け方、供人に急かされて匂宮は宇治を去り、薫と共に通った昔を思いつつ山道を帰る。二条院に戻った匂宮は、浮舟のことを隠していた中の君を恨みつつも、寂しさに耐えかねて中の君のもとへ行く。匂宮は、自分が死んだら中の君は薫と結ばれるだろうとあてこすり、中の君は聞き苦しいと背を向ける。
語釈・文法注
文法
- 「きぬぎぬ」(おのがきぬぎぬも、ひやゝかになりたる心地して)
- 後朝。共寝した男女が翌朝別れること。またその時の衣。
- 「戲れにくし」(御供の人々いと戲れにくしと思ひて)
- 冗談ではすまない、深刻だ。
- 「人のほい」(人のほいは必ずかなふなれば)
- 人の本意。ここでは薫が中の君を望む気持ちを当てこすっている。
解説
霜深い明け方の別れと、汀の氷を踏み鳴らす馬の足音。宇治の冬の厳しさが、二人の恋の困難さを映し出している。
匂宮は中の君に、自分の死後は薫と結ばれるだろうと当てこする。自らの不実を棚に上げた匂宮の言葉に、中の君は深く傷つく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1122–1125頁(コマ272–273)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日