源氏物語 第51帖 浮舟(14)
絵と歌の契り
右近は「返す返す残念で、何かの妨げのように拝見しております」と書いて、迎えの人々に食事などさせて帰した。尼君にも、今日は物忌でおいでになれないと言わせた。いつもは暮らしにくく霞んでいる山際を眺めあぐねていらっしゃるのに、日が暮れていくのをわびしいとばかりお思いになる人(匂宮)に引かれ申し上げて、たいそうあっけなく暮れてしまった。紛れることもなく、のどかな春の日に、見ても見ても飽きず、どこがとも思われる欠点もなく、愛嬌があって親しみやすく美しい。実はあの対の御方(中の君)には劣っている。大殿の君(六の君)の盛りに美しくいらっしゃるあたりと比べたら、比べものにならないほどの人だが、比類なくお思いになる時なので、まだ見たことのない美しさとばかりご覧になる。女はまた、大将殿をたいそう清らかで、ほかにこのような人がいるだろうかと見ていたが、細やかに匂い立つような美しさでは、この宮はこの上なくいらっしゃると見る。宮は硯を引き寄せて、手習などなさる。たいそう美しく書き散らし、絵なども見どころ多くお描きになるので、若い心には思いも移ってしまいそうだ。「心ならずも会えない間は、これをご覧なさいよ」と言って、たいそう美しい男女が一緒に添い臥している姿をお描きになって、「いつもこうしていたいものだ」などとおっしゃるにつけても、涙が落ちた。「長き夜をたのめてもなほ悲しきはただあす知らぬ命なりけり。たいそうこのように思うのが不吉だ。心のままに身を全く任せられず、万事工夫する間に、本当に死んでしまいそうに思われる。つれなかったあの時のご様子を、かえってどうして尋ねたのだろう」などとおっしゃる。女は宮が濡らしなさった筆を取って、「心をばなげかざらまし命のみさだめなき世と思はましかば」と書いたのを、心変わりを恨めしく思うに違いないとご覧になるにつけても、たいそう愛しい。どんな人の心変わりを見慣れてなどと微笑んで、大将がここに移し始めなさった頃のことを、返す返す知りたがってお尋ねになるのを、浮舟は苦しがって言えないのを、そうおっしゃるのがと恨んでいる様子も子どもっぽい。
- 1返返かえすすすがへすがへすがえす口口くち惜惜おしくしくしく、、、物物もののののさまたげさまたげさまたげのののやうやうようににに見見み奉奉たてまつりりり侍侍はべるるる」」」ととと書書かきききててて、、、人々人々ひとびとににに物物ものなどなどなどくはくはくわせせせてててやりやりやりつつつ。。。尼尼あま君君ぎみにににもももけふけふきょうははは物物もの忌忌いみにてにてにて渡渡わたりりり給給たまははわぬぬぬととといはいはいわせせせたりたりたり。。。例例れいはははくらしくらしくらし難難がたくくくのみのみのみ霞霞かすめめめるるる山山やまぎはぎはぎわををを眺眺ながめめめ侘侘わびびび給給たまふふうににに、、、暮暮くれれれ行行ゆくくくははは侘侘わびしくしくしくのみのみのみおぼしおぼしおぼしいらるゝいらるゝいらるる人人ひとにににひかひかひかれれれ奉奉たてまつりりりててて、、、いといといとはかなうはかなうはかのう暮暮くれれれぬぬぬまぎるゝまぎるゝまぎるることことことなくなくなく、、、のどけきのどけきのどけき春春はるののの日日ひににに見見みれれれどもどもども見見みれれれどもどもどもあかあかあかずずず、、、そのそのそのことことことぞぞぞととと覺覺おぼゆるゆるゆるくまくまくまなくなくなく、、、愛愛あいぎやうぎやうぎょうづきづきずきなつかしくなつかしくなつかしくをかしげをかしげおかしげなりなりなり。。。さるはさるはさるはかのかのかの對對たいののの御御おん方方かたにににははは劣劣おとりりりたりたりたり。。。大大おお殿殿とのののの君君きみののの盛盛さかりににににほひにほひにおい給給たまへへえるるるあたりあたりあたりにてにてにてははは、、、こよなかるこよなかるこよなかるべきべきべき程程ほどののの人人ひとををを、、、たぐひたぐひたぐいなくなくなくおぼさおぼさおぼさるゝるゝるる程程ほどなれなれなればばば、、、まだまだまだ知知しらららずずずをかしをかしおかしとととのみのみのみ見見み給給たまふふう。。。女女おんなはははまたまたまた大大たい將將しょう殿殿どのをををいといといときよげきよげきよげににに、、、又又またかゝるかゝるかかる人人ひとあらあらあらむむんやややととと見見みしかしかしかどどど、、、こまやかこまやかこまやかににに匂匂におひひい淸淸きよらなるらなるらなることことことははは、、、こよなくこよなくこよなくおはしおはしおわしけりけりけりととと見見みるるる。。。硯硯すずりひきひきひきよせよせよせててて、、、手手て習習ならいなどなどなどししし給給たまふふう。。。いといといとをかしげをかしげおかしげににに書書かきききすさびすさびすさび、、、繪繪えなどなどなどををを見見み所所どころ多多おおくくく書書かききき給給たまへへえれれればばば、、、若若わかききき心地心地ここちにににははは思思おもひひいもももうつりうつりうつりぬぬぬべしべしべし。。。
- 2「「「心心こころよりよりよりほかほかほかににに得得え見見みざらざらざらむむんほどほどほどははは、、、これこれこれををを見見みたまへたまへたまえよよよ」」」とてとてとて、、、いといといとをかしげをかしげおかしげなるなるなるをとこをとこおとこをんなをんなおんな、、、諸諸もろ共共ともにににそひそひそい臥臥ふしししたるたるたるかたかたかたををを書書かききき給給たまひひいててて、、、「「「常常つねにににかくかくかくてててあらあらあらばやばやばや」」」などなどなどのたまふのたまふのたまうももも、、、なみだなみだなみだおちおちおちぬぬぬ。。。「「「長長ながききき夜夜よをををたのめたのめたのめてててもももなほなほなお悲悲かなしきしきしきはははたゞたゞただあすあすあす知知しらららぬぬぬ命命いのちなりなりなりけりけりけり。。。いといといとかうかうこう思思おもふふうこそこそこそゆゝしけれゆゝしけれゆゆしけれ。。。心心こころににに身身みをををももも更更さらににに得得えまかせまかせまかせずずず、、、萬萬よろずにににたばからたばからたばからむむんほどほどほど誠誠まことににに死死しぬぬぬべくべくべくなむなむなん覺覺おぼゆるゆるゆる。。。つらかりつらかりつらかりししし御御おん有有あり樣樣さまををを、、、なかなかなかなかなかなか何何なにににに尋尋たずねねねけむけむけん」」」などなどなどのたまふのたまふのたまう。。。女女おんなぬらしぬらしぬらし給給たまへへえるるる筆筆ふでをををとりとりとりててて、、、「「「心心こころをををばばばなげかなげかなげかざらざらざらましましまし命命いのちのみのみのみさだめさだめさだめなきなきなき世世よととと思思おもははわましかましかましかばばば」」」とととあるあるあるををを、、、かはらかはらかわらむむんをををばばばうらめしううらめしううらめしゅう思思おもふふうべかりべかりべかりけりけりけりととと見見み給給たまふふうにににももも、、、いといといとらうたしらうたしろうたし。。。いかいかいかなるなるなる人人ひとののの心心こころがはりがはりがわりををを見見みならひならひならいてててなどなどなどほゝゑみほゝゑみほほえみててて、、、大大たい將將しょうのののこゝこゝここににに渡渡わたしししそめそめそめ給給たまひひいけむけむけんほどほどほどををを返返かえすすすがへすがへすがえすゆかしがりゆかしがりゆかしがり給給たまひひいててて問問とひひい給給たまふふうををを、、、苦苦くるしししがりがりがりてててえええいはいはいわぬぬぬことことことををを、、、かうかうこうのたまふのたまふのたまうこそこそこそとととうちうちうちゑじゑじえじたるたるたるさまさまさまももも若若わかびびびたりたりたり。。。
現代語訳
「返す返す残念で、何かの妨げのように拝見しております」と書いて、人々に食事などさせて帰した。尼君にも、今日は物忌でおいでになれないと言わせた。いつもは暮らしにくく霞んでいる山際を眺めあぐねていらっしゃるのに、日が暮れていくのをわびしいとばかり焦れていらっしゃる人に引かれ申し上げて、たいそうあっけなく暮れてしまった。紛れることもなく、のどかな春の日に、見ても見ても飽きず、どこがとも思われる欠点もなく、愛嬌があって親しみやすく美しい。実はあの対の御方には劣っている。大殿の君の盛りに美しくいらっしゃるあたりと比べたら、比べものにならないほどの人だが、比類なくお思いになる時なので、まだ見たことのない美しさとばかりご覧になる。女はまた、大将殿をたいそう清らかで、ほかにこのような人がいるだろうかと見ていたが、細やかに匂い立つような美しさでは、この上なくいらっしゃると見る。硯を引き寄せて、手習などなさる。たいそう美しく書き散らし、絵なども見どころ多くお描きになるので、若い心には思いも移ってしまいそうだ。
「心ならずも会えない間は、これをご覧なさいよ」と言って、たいそう美しい男と女が一緒に添い臥している姿をお描きになって、「いつもこうしていたいものだ」などとおっしゃるにつけても、涙が落ちた。「長い将来を約束しても、やはり悲しいのは、ただ明日を知らない命であることだ。たいそうこのように思うのが不吉だ。心のままに身を全く任せられず、万事工夫する間に、本当に死んでしまいそうに思われる。つれなかったあの時のご様子を、かえってどうして尋ねたのだろう」などとおっしゃる。女は濡らしなさった筆を取って、「心変わりを嘆きはしないでしょうに、命だけが定めない世だと思えるのでしたら」と書いたのを、心変わりを恨めしく思うに違いないとご覧になるにつけても、たいそう愛しい。どんな人の心変わりを見慣れてなどと微笑んで、大将がここに移し始めなさった頃のことを返す返す知りたがってお尋ねになるのを、苦しがって言えないのを、そうおっしゃるのがと恨んでいる様子も子どもっぽい。
意訳
右近は母への返事を出し、迎えの者たちを帰す。春の一日、匂宮と浮舟は飽きることなく共に過ごす。匂宮の目には浮舟が比類なく美しく見え、浮舟も匂宮の匂い立つ美しさは薫以上だと思う。匂宮は男女が寄り添う絵を描いて「いつもこうしていたい」と言い、明日をも知れぬ命を嘆く歌を詠む。浮舟は、命だけが定めないなら心変わりは嘆かないと返し、匂宮は薫のことを問うが、浮舟は答えられない。
語釈・文法注
文法
- 「大殿の君」(大殿の君の盛ににほひ給へるあたりにては)
- 夕霧の娘の六の君。匂宮の北の方。
- 「長き夜をたのめても」(長き夜をたのめてもなほ悲しきは)
- 長い未来を約束しても。
- 「うちゑじたる」(かうのたまふこそとうちゑじたるさまも若びたり)
- 恨み言を言う。すねる。
解説
匂宮が描いた男女の添い臥しの絵は、二人の愛の象徴であると同時に、それが絵空事にすぎないことをも暗示する。
匂宮の「あす知らぬ命」と浮舟の「さだめなき世」。二人の歌は、愛の歓びの中に死の影を宿している。後の浮舟の入水を思えば、この贈答は痛切な予言となる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1120–1123頁(コマ271–272)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日