源氏物語 第51帖 浮舟(13)
物忌の一日
この女房たちも皆精進潔斎して身を清めているのに、「それなら今日はお移りになれそうにないのですね。たいそう残念なこと」と言う。日が高くなったので格子などを上げて、右近だけが近くでお仕えした。母屋の簾は皆下ろして、物忌などと書かせて付けてある。母君が自分でおいでになるかもしれないと思って、夢見が騒がしかったと言いなすのだった。御手水などを差し上げる様子はいつものようだが、宮は浮舟の給仕を心外にお思いになって、「そなたがお使いになったら(私も使おう)」とおっしゃる。女は、たいそう体裁よく奥ゆかしい人(薫)を見慣れているのに、わずかの間も見ないでは死んでしまいそうに思い焦がれる人を、愛情が深いとはこのようなことを言うのだろうかと思い知られるにつけても、妙な身の上だな、誰でも噂が立ったらどうお思いになるだろうと、まずあの上(中の君)のお心を思い出し申し上げるが、宮は素性を知らないので、「返す返すたいそう情けない。やはりありのままにおっしゃい。たいそう卑しい身分の者であっても、ますます愛しく思うだろう」と、無理にお尋ねになるが、その答えは全くしない。ほかのことはたいそう趣深く、親しげな様子でお答え申し上げなどして、なびいているのを、宮はこの上なく愛しいとばかりご覧になる。日が高くなる頃に迎えの人が来た。車が二台、馬に乗った人々でいつもの荒々しい者が七八人、男たちも大勢で、品のない様子でさえずりながら入ってきたので、女房たちは決まり悪がって、「向こうに隠れよ」と言わせなどする。右近は、どうしよう、殿がおいでになると言ったら、京にそれほどの方がいらっしゃるかいらっしゃらないか、自然と聞き伝わって、隠れようのないこともあるだろうと思って、ほかの女房たちにも特に相談せず返事を書く。「昨夜から穢れにおなりになって、たいそう残念なことをお嘆きのようでしたが、今夜夢見が騒がしくお見えになったので、今日だけ慎みなさいませと申して、物忌でございます。
- 1このこのこの人々人々ひとびとももも皆皆みなさうじさうじそうじししし、、、きよまはりきよまはりきよまわりてててあるあるあるににに、、、「「「さらばさらばさらばけふけふきょうははは得得え渡渡わたらららせせせ給給たまふふうまじきまじきまじきなななめりめりめりななな。。。いといといと口口くち惜惜おしきしきしきことことこと」」」ととといふいふいう。。。日日ひたかくたかくたかくなれなれなればばば格格こう子子しなどなどなどあげあげあげててて右右う近近こんぞぞぞ近近ちかくくく仕仕つこうううまつりまつりまつりけるけるける。。。ももも屋屋やののの簾簾す垂垂だれははは皆皆みなおろしおろしおろし渡渡わたしししててて物物もの忌忌いみなどなどなどかゝかゝかかせせせてててつけつけつけたりたりたり。。。母母はは君君ぎみもももやややみづからみづからみずからおはするおはするおわするとてとてとて、、、夢夢ゆめ見見みさわがしかりさわがしかりさわがしかりつつつととといひいひいいなすなすなすなりなりなりけりけりけり。。。御御おんてうづてうづちょうずなどなどなど參參まいりりりたるたるたるさまさまさまははは例例れいのののやうやうようなれなれなれどどど、、、まかなひまかなひまかないめざましうめざましうめざましゅうおぼさおぼさおぼされれれててて、、、「「「そこそこそこにににあらはあらはあらわせせせ給給たまははわゞゞば」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。女女おんないといといとさまさまさまようようよう心心こころにくきにくきにくき人人ひとををを見見み習習ならひひいたるたるたるににに、、、時時ときのののまままももも見見みざらざらざらむむんははは死死しぬぬぬべしべしべしとととおぼしおぼしおぼしこがるゝこがるゝこがるる人人ひとををを、、、志志こころざし深深ふかしししとととははは、、、かゝるかゝるかかるをををいふいふいうにににやややあらあらあらむむんととと思思おもひひい知知しらららるゝるゝるるにににももも怪怪あやしかりしかりしかりけるけるける身身みかなかなかな。。。誰誰たれももも物物ものののの聞聞きこえええあらあらあらばばば、、、いかにいかにいかにおぼさおぼさおぼさむむんととと、、、まづまづまずかのかのかのうへうへうえののの御心御心みこころををを思思おもひひい出出いででで聞聞きこゆれゆれゆれどどど、、、知知しらららぬぬぬををを、、、「「「返返かえすすすがへすがへすがえすいといといと心心こころうううししし。。。猶猶なおあらあらあらむむんまゝまゝままにににのたまへのたまへのたまえ。。。いみじきいみじきいみじきげすげすげすととといふいふいうともともとも、、、いよいよいよいよいよいよ哀哀あわれなるなるなるべきべきべき」」」ととと、、、わりなうわりなうわりのう問問とひひい給給たまへへえどどど、、、そのそのそのいらへいらへいらえははは絕絕たえええてててせせせずずず。。。
- 2ことことことことことことはははいといといとをかしくをかしくおかしく、、、けぢかきけぢかきけじかきさまさまさまにににいらへいらへいらえ聞聞きこえええなどなどなどしししててて、、、なびきなびきなびきたるたるたるををを、、、いといといと限限かぎりなうなうのうらうたしらうたしろうたしとととのみのみのみ見見み給給たまふふう。。。日日ひ高高たかくくくなるなるなる程程ほどににに迎迎むかへへえののの人人ひときたりきたりきたり。。。車車くるま二二ふたつ、、、馬馬うまなるなるなる人々人々ひとびとののの例例れいののの荒荒あららからからかなるなるなる七七しち八八はち人人にん、、、をのこをのこおのこどもどもどもおほくおほくおおく、、、しなじなしからしなじなしからしなじなしからぬぬぬけはひけはひけはい、、、さへづりさへづりさえずりつゝつゝつつ入入いりりりきたれきたれきたればばば、、、人々人々ひとびと片片かた腹腹はら痛痛いたがりがりがりつゝつゝつつ、、、「「「あなたあなたあなたにににかくれかくれかくれよよよ」」」ととといはいはいわせせせなどなどなどすすす。。。右右う近近こん、、、いかにいかにいかにせせせむむん、、、殿殿とのなむなむなんおはするおはするおわするととといひいひいいたらたらたらむむんににに、、、京京きょうにににさばかりさばかりさばかりののの人人ひとのののおはしおはしおわしおはせおはせおわせずずず、、、おのづからおのづからおのずから聞聞きききき通通かよひひいててて、、、かくれかくれかくれなきなきなきことことこともももこそこそこそあれあれあれととと思思おもひひいててて、、、このこのこの人々人々ひとびとにににもももことことことにににいひいひいい合合あわせせせずずず、、、返返かえり事事ごとかくかくかく。。。「「「よべよべよべよりよりより穢穢けがれれれさせさせさせ給給たまひひいててて、、、いといといと口口くち惜惜おしきしきしき事事ことをををおぼしおぼしおぼし歎歎なげくくくめりめりめりしししににに、、、こよひこよひこよい夢夢ゆめ見見みさわがしくさわがしくさわがしく見見みえええさせさせさせ給給たまへへえれれればばば、、、けふけふきょうばかりばかりばかりつゝしまつゝしまつつしませせせ給給たまへへえとてとてとてなむなむなん、、、物物もの忌忌いみにてにてにて侍侍はべるるる。。。
現代語訳
この人々も皆精進潔斎して身を清めているのに、「それなら今日はお移りになれそうにないのですね。たいそう残念なこと」と言う。日が高くなったので格子などを上げて、右近だけが近くでお仕えした。母屋の簾は皆下ろして、物忌などと書かせて付けてある。母君が自分でおいでになるかもしれないと思って、夢見が騒がしかったと言いなすのだった。御手水などを差し上げる様子はいつものようだが、宮はその給仕を心外にお思いになって、「そなたがお使いになったら」とおっしゃる。女は、たいそう体裁よく奥ゆかしい人を見慣れているのに、わずかの間も見ないでは死んでしまいそうに思い焦がれなさる人を、愛情が深いとはこのようなことを言うのだろうかと思い知られるにつけても、妙な身の上だな、誰でも噂が立ったらどうお思いになるだろうと、まずあの上のお心を思い出し申し上げるが、知らないので、「返す返すたいそう情けない。やはりありのままにおっしゃい。たいそう卑しい身分の者であっても、ますます愛しく思うだろう」と、無理にお尋ねになるが、その答えは全くしない。
ほかのことはたいそう趣深く、親しげな様子でお答え申し上げなどして、なびいているのを、この上なく愛しいとばかりご覧になる。日が高くなる頃に迎えの人が来た。車が二台、馬に乗った人々でいつもの荒々しい者が七八人、男たちも大勢で、品のない様子で、さえずりながら入ってきたので、女房たちは決まり悪がって、「向こうに隠れよ」と言わせなどする。右近は、どうしよう、殿がおいでになると言ったとしても、京にそれほどの方がいらっしゃるかいらっしゃらないか、自然と聞き伝わって、隠れようのないこともあるだろうと思って、この人々にも特に相談せず、返事を書く。「昨夜から穢れにおなりになって、たいそう残念なことをお嘆きのようでしたが、今夜夢見が騒がしくお見えになったので、今日だけ慎みなさいませと申して、物忌でございます。
意訳
石山詣でのために潔斎していた女房たちは、物忌で出かけられないことを残念がる。右近だけが二人に仕え、物忌の札を掲げる。浮舟は、薫とは違う匂宮の激しい愛に戸惑いつつ、中の君に申し訳なく思う。匂宮は素性を問いただすが、浮舟は答えない。それでも打ち解けてなびく浮舟を、匂宮はこの上なく愛しく思う。母の迎えの車と東国の男たちが来るが、右近は穢れと悪夢を理由に物忌だと返事を書く。
語釈・文法注
文法
- 「さうじ」(この人々も皆さうじし、きよまはりてあるに)
- 精進。参詣の前に身を清めること。
- 「まかなひ」(まかなひめざましうおぼされて)
- 給仕。ここでは浮舟が手水の世話をすること。
- 「しなじなしからぬ」(しなじなしからぬけはひ)
- 品々しからぬ。品のない。
解説
浮舟は、静かな薫とは違う匂宮の激しい愛に、「志深しとはかゝるをいふにや」と心を動かされる。浮舟の心が匂宮に傾き始める決定的な場面である。
浮舟は素性を問う匂宮に答えない。中の君の異母妹という身の上を明かせない浮舟の沈黙は、自分の存在を主張できない立場を象徴している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1120–1121頁(コマ271)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日