源氏物語 第51帖 浮舟(9)
匂宮が見た浮舟
右近は「どうしてこの乳母をお引き止め申し上げなかったのでしょう。年をとった人はうるさい心があるものですね」と憎むのは、乳母のような人を非難しているのだろう。宮は、本当に憎らしい者がいたなとお思い出しになるのも夢の心地がする。女房たちは聞き苦しいほど打ち解けたことなどを言って、「宮の上(中の君)こそたいそうすばらしいご幸運です。左大臣があれほど立派なご威勢で厳めしく騒ぎ立てなさるようですが、若君がお生まれになって後は、この上なく大切にされていらっしゃるそうです。このような出しゃばりな人がいらっしゃらないで、お心のどかに賢くふるまっていらっしゃるのでしょう」と言う。「殿さえ本気でお思い申し上げなさることが変わらなければ、劣り申し上げなさることがあるでしょうか」と言うのを、浮舟は少し起き上がって、「たいそう聞き苦しいこと。よその人にこそ劣るまいとも何とも思いましょうが、あの方のことは決して口にしないで。漏れ聞こえることでもあったら決まりが悪いでしょう」などと言う。宮は、どれほどの血筋なのだろう、たいそうよく似通った様子だなと思い比べると、こちらが気後れするほどの上品さでは、あちら(中の君)はこの上なくまさっている。この人はただ可憐で、細やかなところがたいそう趣深い。いいかげんに不十分なところを見つけたとしても、あれほど知りたいと思い込んでいた人を、その人と見てそのままやめなさるお心ではないので、まして隅々までご覧になると、何とかしてこの人を自分のものにしようと、むやみに思い惑いなさった。どこかへ行くようだ、親はいるのだろう、どうしてここでなくて、またいつ尋ね会えようか、今夜のうちにどうしようと心も上の空におなりになって、なおじっと見守っていらっしゃると、右近が「たいそう眠い。昨夜もわけもなく起き明かしてしまった。明朝のうちにもこれは縫ってしまおう。お急ぎになっても、お車は日が高くなってから来るでしょう」と言って、縫いかけのものなどを取りまとめて几帳に打ち懸けなどしつつ、うたた寝のように寄り臥した。浮舟も少し奥に入って臥す。
- 1右右う近近こん「「「などなどなどてててこのこのこのまゝまゝままををを留留とどめめめ奉奉たてまつらららずずずなりなりなりにににけむけむけん。。。老老おいいいぬるぬるぬる人人ひとはははむづかしきむづかしきむずかしき心心こころのののあるあるあるにににこそこそこそ」」」ととと憎憎にくむむむははは、、、めのとめのとめのとやうやうようののの人人ひとををを譏譏そしるるるなななめりめりめり。。。げにげにげににくきにくきにくきものものものありありありきききかしかしかしとととおぼしおぼしおぼし出出いづるづるずるももも夢夢ゆめののの心心こころちちここちぞぞぞするするする。。。かたはらいたきかたはらいたきかたわらいたきまでまでまで打打うちちち解解とけけけたるたるたることことことゞゞどもももをををいひいひいいててて、、、「「「宮宮みやのののうへうへうえこそこそこそいといといとめでたきめでたきめでたき御御おんさいはひさいはひさいわいなれなれなれ。。。左左ひだりのののおとゞおとゞおとどのののさばかりさばかりさばかりめでたきめでたきめでたき御御おん勢勢いきおひひいにてにてにていかめしういかめしういかめしゅう罵罵ののしりりり給給たまふふうなれなれなれどどど、、、若若わか君君きみ生生うまれれれ給給たまひひいててて後後のちははは、、、こよなくこよなくこよなくぞぞぞおはしますおはしますおわしますなるなるなる。。。かゝるかゝるかかるさかしらさかしらさかしら人人ひとどもどもどものののおはせおはせおわせででで御心御心みこころのどかのどかのどかにににかしこうかしこうかしこうもてもてもてなしなしなしててて、、、おはしますおはしますおわしますこそこそこそはははあああめれめれめれ」」」ととといふいふいう。。。「「「殿殿とのだにだにだにまめやかまめやかまめやかににに思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまふふう事事こと變變かわらららずずずばばば劣劣おとりりり聞聞きこえええ給給たまふふうべきべきべきことことことかはかはかは」」」ととといふいふいうををを、、、君君きみ少少すこししし起起おきききあがりあがりあがりててて、、、「「「いといといと聞聞ききききにくきにくきにくきことことこと、、、よそよそよそののの人人ひとにににこそこそこそ劣劣おとらららじじじととともももいかにいかにいかにとととももも思思おもははわめめめ。。。かのかのかの御御おん事事ことなななかけかけかけてててもももいひいひいいそそそ。。。漏漏もりりり聞聞きこゆるゆるゆるやうやうようもももあらあらあらばばば片片かた腹腹はら痛痛いたからからからむむん」」」などなどなどいふいふいう。。。
- 2何何なにばかりばかりばかりのののしぞくしぞくしぞくにににかかかはははあらあらあらむむん、、、いといといとよくよくよくももも似似に通通かよひひいたるたるたるけはひけはひけはいかなかなかなととと思思おもひひいくらぶるくらぶるくらぶるににに、、、心心こころ恥恥はずかしげしげしげにてにてにて、、、あてあてあてなるなるなる所所ところはははかれかれかれはははいといといとこよなしこよなしこよなし。。。これこれこれはははたゞたゞただらうたげらうたげろうたげににに、、、こまかこまかこまかなるなるなる所所ところぞぞぞいといといとをかしきをかしきおかしき。。。よろしうよろしうよろしゅうなりなりなりあはあはあわぬぬぬ所所ところををを見見みつけつけつけたらたらたらむむんにてにてにてだにだにだに、、、さばかりさばかりさばかりゆかしゆかしゆかしとととおぼしおぼしおぼししめしめしめたるたるたる人人ひとををを、、、それそれそれととと見見みてててさてさてさて止止やみみみ給給たまふふうべきべきべき御心御心みこころならならならねねねばばばましてましてましてくまくまくまもももなくなくなく見見み給給たまふふうににに、、、いかでいかでいかでかかかこれこれこれををを我我わががが物物ものにににはははなすなすなすべきべきべきととと、、、わりなくわりなくわりなくおぼしおぼしおぼし惑惑まどひひいぬぬぬ。。。物物ものへへへ行行ゆくくくべきべきべきなななめりめりめり、、、親親おやはははあるあるあるべしべしべし。。。いかでいかでいかでこゝこゝここならならならででで、、、又又またははは尋尋たずねねね逢逢あふふうべきべきべき。。。こよひこよひこよいののの程程ほどにににはははまたまたまたいかゞいかゞいかがすすすべきべきべきととと心心こころもももそらそらそらににになりなりなり給給たまひひいててて、、、猶猶なおまもりまもりまもり給給たまへへえばばば、、、右右う近近こん「「「いといといとねぶたしねぶたしねぶたし。。。よべよべよべもももすゞろすゞろすずろににに起起おききき明明あかしししてててききき。。。つとめてつとめてつとめてののの程程ほどにににもももこれこれこれははは縫縫ぬひひいてててむむん。。。急急いそがががせせせ給給たまふふうともともとも御御おん車車くるまははは日日ひたけたけたけてててぞぞぞあらあらあらむむん」」」ととといひいひいいててて、、、しししさしさしさしたるたるたるものものものどもどもどもとりとりとり具具ぐしししててて几几き帳帳ちょうににに打打うちちち懸懸かけけけなどなどなどしししつゝつゝつつ、、、うたゝうたゝうたたねねねのののさまさまさまににに寄寄よりりり臥臥ふしししぬぬぬ。。。君君きみももも少少すこししし奥奥おくににに入入いりりりててて臥臥ふすすす。。。
現代語訳
右近が「どうしてこのままの人をお引き止め申し上げなかったのでしょう。年をとった人はうるさい心があるものですね」と憎むのは、乳母のような人を非難しているのだろう。本当に憎らしい者がいたなとお思い出しになるのも、夢の心地がする。聞き苦しいほど打ち解けたことなどを言って、「宮の上こそたいそうすばらしいご幸運です。左大臣があれほど立派なご威勢で、厳めしく騒ぎ立てなさるようですが、若君がお生まれになって後は、この上なく大切にされていらっしゃるそうです。このような出しゃばりな人がいらっしゃらないで、お心のどかに賢くふるまっていらっしゃるのでしょう」と言う。「殿さえ本気でお思い申し上げなさることが変わらなければ、劣り申し上げなさることがあるでしょうか」と言うのを、君は少し起き上がって、「たいそう聞き苦しいこと。よその人にこそ劣るまいとも何とも思いましょうが、あの方のことは決して口にしないで。漏れ聞こえることでもあったら決まりが悪いでしょう」などと言う。
どれほどの血筋なのだろう、たいそうよく似通った様子だなと思い比べると、こちらが気後れするほどで、上品なところは、あちらがこの上なくまさっている。この人はただ可憐で、細やかなところがたいそう趣深い。いいかげんに不十分なところを見つけたとしても、あれほど知りたいと思い込んでいらした人を、その人と見てそのままやめなさるはずのお心ではないので、まして隅々までご覧になると、何とかしてこの人を自分のものにしようと、むやみに思い惑いなさった。どこかへ行くようだ、親はいるのだろう、どうしてここでなくて、またいつ尋ね会えようか、今夜のうちにどうしようと心も上の空におなりになって、なおじっと見守っていらっしゃると、右近が「たいそう眠い。昨夜もわけもなく起き明かしてしまった。明朝のうちにもこれは縫ってしまおう。お急ぎになっても、お車は日が高くなってから来るでしょう」と言って、縫いかけのものなどを取りまとめて、几帳に打ち懸けなどしつつ、うたた寝のように寄り臥した。君も少し奥に入って臥す。
意訳
女房たちは、乳母の性急さを非難し、中の君の幸運をうらやみ、薫の愛が変わらなければ浮舟も劣らないと噂する。浮舟は、中の君のことは口にするなとたしなめる。匂宮は、中の君と浮舟を見比べ、気品では中の君がまさるが、浮舟は可憐で細やかな美しさがあると思い、何としても自分のものにしたいと思い惑う。浮舟がどこかへ出かけると知った匂宮は焦り、やがて右近も浮舟も寝所に入る。
語釈・文法注
文法
- 「さかしら人」(かゝるさかしら人どものおはせで)
- 出しゃばりな人。夕霧の六の君方の人々を指す。
- 「しぞく」(何ばかりのしぞくにかはあらむ)
- 氏族。血筋、家柄。
- 「しさしたる」(しさしたるものどもとり具して)
- やりかけの、縫いかけの。
解説
浮舟が中の君の噂をたしなめる言葉には、異母姉への遠慮と敬意がにじむ。その慎み深さが、かえって匂宮の心を引きつける。
匂宮は、気品の中の君と可憐な浮舟を比べる。浮舟の魅力は、高貴さではなく、親しみやすい愛らしさにあった。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1116–1117頁(コマ269)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日