源氏物語 第51帖 浮舟(8)
格子からのぞく匂宮
大内記は「ここからおいでくださいませ」と案内してお入れ申し上げる。宮はそっと上がって、格子の隙間があるのを見つけてお寄りになると、伊予簾がさらさらと鳴るのも気が引ける。新しく美しく造ってあるが、さすがに粗いところがあって隙間があったのを、誰が来て見ようかと気を許して穴もふさがないのだろう。几帳の帷子を打ちかけて押しやってある。灯火を明るくともして、物を縫う人が三四人座っている。かわいらしい女童が糸を縒っている。この子の顔は、まず以前の灯火の光でご覧になったその子である。見間違いかとやはり疑わしいが、右近と名乗った若い女房もいる。浮舟は腕を枕にして、灯火を眺めている目もと、髪のこぼれかかった額つきが、たいそう上品で優美で、対の御方(中の君)によく似ている。この右近が物を折りながら、「このようにお移りになったら、すぐにはお帰りになれないでしょうに、殿はこの司召の時期を過ごして、ついたち頃には必ずおいでになるだろうと、昨日のお使いも申していました。お手紙にはどう申し上げなさったのでしょう」と言うが、浮舟は返事もせず、たいそう物思いに沈んでいる様子である。「ちょうどその時に隠れておしまいになったようなのが見苦しいこと」と言うと、向かいの女房が、「それは、このようにお移りになりましたとお便りを申し上げなさるのがよいでしょう。軽々しく、どうして音沙汰なしで隠れなさいましょう。お参詣の後は、そのまま京へお移りなさいませ。こうして心細いようですが、思うままで気楽なお住まいに慣れて、かえって旅の心地がするでしょうね」などと言う。またある女房は、「やはりしばらくこうしてお待ち申し上げなさるのが、穏やかで体裁もよいでしょう。京へなどお迎え申し上げなさった後、穏やかに親にもお会いなさいませ。このおとど(乳母)がたいそうせっかちで、急にこのように申し上げなさったようですね。昔も今も、我慢してのんびりしている人こそ、幸せを見届けなさるのです」などと言うようだ。
- 1これこれこれよりよりよりおはしまさおはしまさおわしまさむむん」」」とととしるべしるべしるべしししててて入入いれれれ奉奉たてまつるるる。。。やをらやをらやおらのぼりのぼりのぼりててて格格こう子子しのののひまひまひまあるあるあるををを見見みつけつけつけててて寄寄よりりり給給たまふふうににに、、、伊伊い豫豫よすすすはははさらさらさらさらさらさらととと鳴鳴なるるるもももつゝましつゝましつつまし。。。新新あたらしうしうしゅう淸淸きよげげげににに造造つくりりりたれたれたれどどど、、、さすがさすがさすがにににあらあらしくあらあらしくあらあらしくてててひまひまひまありありありけるけるけるををを、、、誰誰たれかかかははは來來きててて見見みむむんとととうちうちうちとけとけとけててて穴穴あなもももふたがふたがふたがぬぬぬなるなるなるべしべしべし。。。几几き帳帳ちょうのののかたびらかたびらかたびら打打うちちち懸懸かけけけててておしおしおしやりやりやりたりたりたり。。。火火ひあかうあかうあこうともともともしししててて物物もの縫縫ぬふふう人人ひと三三み四四よ人人たり居居いだりだりだり。。。わらはわらはわらわのののをかしげをかしげおかしげなるなるなる絲絲いとをををぞぞぞよるよるよる。。。これこれこれががが顏顏かおまづまづまずかのかのかのほほほかげかげかげににに見見みたまひたまひたまいしししそれそれそれなりなりなり。。。うちつけうちつけうちつけめめめかかかととと猶猶なお疑疑うたがはしきはしきわしきににに、、、右右う近近こんととと名名なのりのりのりししし若若わかききき人人ひともももありありあり君君きみはははかひなかひなかいなをををまくらまくらまくらにてにてにて、、、火火ひをををながめながめながめたるたるたるまみまみまみ、、、髮髮かみのののこぼれこぼれこぼれかゝりかゝりかかりたるたるたる額額ひたいつきつきつき、、、いといといとあてやかあてやかあてやかににになまめきなまめきなまめきててて、、、對對たいののの御御おん方方かたにににいといといとようようようおぼえおぼえおぼえたりたりたり。。。このこのこの右右う近近こん物物もの折折おるるるとてとてとて、、、「「「かくかくかくててて渡渡わたらららせせせ給給たまひひいなななばばば、、、とみとみとみにににしもしもしも得得え歸歸かえりりり渡渡わたらららせせせ給給たまははわじじじををを、、、殿殿とのはははこのこのこのつかさつかさつかさめしめしめしのののほどほどほどすぐしすぐしすぐしててて、、、ついたちついたちついたち頃頃ごろにににははは必必かならずずずおはしましおはしましおわしましなななむむんととと、、、きのふきのふきのうののの御御おんつかひつかひつかいももも申申もうしししけりけりけり。。。御御おん文文ふみにににはははいかゞいかゞいかが聞聞きこえええさせさせさせ給給たまへへえりりりけむけむけん」」」ととといへいへいえどどど、、、いらへいらへいらえもももせせせずずず、、、いといといと物物もの思思おもひひいたるたるたるけしきけしきけしきなりなりなり。。。
- 2「「「折折おりしもしもしもはひはひはいかくれかくれかくれさせさせさせ給給たまへへえるるるやうやうようならならならむむんががが、、、見見み苦苦ぐるしさしさしさ」」」ととといへいへいえばばば、、、向向むかひひいたるたるたる人人ひと、、、「「「それそれそれはははかくかくかくなむなむなん渡渡わたりりり給給たまひひいぬるぬるぬるととと御御おんせうそこせうそこしょうそこ聞聞きこえええさせさせさせ給給たまひひいつつつらむらむらんこそこそこそよからよからよからめめめ。。。輕輕かろ々々がろしうしうしゅういかでいかでいかでかかかははは音音おとなくなくなくてててははははひはひはいかくれかくれかくれさせさせさせ給給たまははわむむん。。。御御おん物物ものまうでまうでもうでののの後後のちははは、、、やがてやがてやがて渡渡わたりりりおはしましおはしましおわしましねねねかしかしかし。。。かくかくかくててて心心こころぼそきぼそきぼそきやうやうようなれなれなれどどど心心こころにににまかせまかせまかせててて安安やすらからからかなるなるなる御御おん住住すまひひいにににならひならひならいててて、、、なかなかなかなかなかなか旅旅たび心地心地ここちすすすべしべしべしややや」」」などなどなどいふいふいう。。。またまたまたあるあるあるははは、、、「「「猶猶なお暫暫しばしししかくかくかくててて待待まちちち聞聞きこえええさせさせさせ給給たまははわむむんぞぞぞ、、、のどやかのどやかのどやかにににさまさまさまよかるよかるよかるべきべきべきややや。。。京京きょうへへへなどなどなど迎迎むかへへえ奉奉たてまつらららせせせ給給たまへへえらららむむん後後のち、、、おだしくおだしくおだしくててて親親おやにににももも見見みえええ奉奉たてまつらららせせせ給給たまへへえかしかしかし。。。このこのこのおとゞおとゞおとどのののいといといと急急きゅうにににものものものししし給給たまひひいててて、、、俄俄にわかにににかうかうこう聞聞きこえええなしなしなし給給たまふふうなななめりめりめりかしかしかし。。。昔昔むかしももも今今いまももも物物ものねんじねんじねんじしししててて長長のど閑閑かなるなるなる人人ひとこそこそこそ、、、さいはひさいはひさいわいははは見見みはてはてはて給給たまふふうなれなれなれ」」」などなどなどいふいふいうなりなりなり。。。
現代語訳
「ここからおいでくださいませ」と案内してお入れ申し上げる。そっと上がって、格子の隙間があるのを見つけてお寄りになると、伊予簾がさらさらと鳴るのも気が引ける。新しく美しく造ってあるが、さすがに粗いところがあって隙間があったのを、誰が来て見ようかと気を許して、穴もふさがないのだろう。几帳の帷子を打ちかけて押しやってある。灯火を明るくともして、物を縫う人が三四人座っている。かわいらしい女童が糸を縒っている。この子の顔は、まず以前の灯火の光でご覧になったその子である。見間違いかとやはり疑わしいが、右近と名乗った若い女房もいる。君は腕を枕にして、灯火を眺めている目もと、髪のこぼれかかった額つきが、たいそう上品で優美で、対の御方にたいそうよく似ている。この右近が物を折るといって、「このようにお移りになったら、すぐにはお帰りになれないでしょうに、殿はこの司召の時期を過ごして、ついたち頃には必ずおいでになるだろうと、昨日のお使いも申していました。お手紙にはどう申し上げなさったのでしょう」と言うが、返事もせず、たいそう物思いに沈んでいる様子である。
「ちょうどその時に隠れておしまいになったようなのが、見苦しいこと」と言うと、向かいの人が、「それは、このようにお移りになりましたとお便りを申し上げなさるのがよいでしょう。軽々しく、どうして音沙汰なしで隠れなさいましょう。お参詣の後は、そのままお移りなさいませ。こうして心細いようですが、思うままで気楽なお住まいに慣れて、かえって旅の心地がするでしょうね」などと言う。またある者は、「やはりしばらくこうしてお待ち申し上げなさるのが、穏やかで体裁もよいでしょう。京へなどお迎え申し上げなさった後、穏やかに親にもお会いなさいませ。このおとどがたいそうせっかちでいらっしゃって、急にこのように申し上げなさったようですね。昔も今も、我慢してのんびりしている人こそ、幸せを見届けなさるのです」などと言うようだ。
意訳
匂宮は格子の隙間から中をのぞく。女房たちが縫い物をし、二条院で見た女童もいる。浮舟は腕を枕に灯火を眺めており、その姿は中の君によく似ている。右近たちは、母の勧めで石山詣でに出かける話をしており、薫が来月初めに来るはずなのに留守にするのは見苦しいと言い、また京に迎えられるまで辛抱して待つのがよいなどと話している。
語釈・文法注
文法
- 「伊豫す」(伊豫すはさらさらと鳴るもつゝまし)
- 伊予簾。伊予国産の篠竹で編んだ簾。
- 「うちつけめ」(うちつけめかと猶疑はしきに)
- 一目見ただけの見間違い。
- 「物ねんじ」(昔も今も物ねんじして長閑なる人こそ)
- 物念じ。じっと我慢すること。
解説
匂宮ののぞき見は、かつて薫が宇治で大君・中の君をのぞき見た場面を思わせる。同じ宇治の邸で、物語は繰り返されながら新たな局面へと進む。
女房たちの会話から、浮舟が薫を待つ身であることが分かる。匂宮は、薫の女を奪おうとしていることを、ここではっきりと知る。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1114–1117頁(コマ268–269)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
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