源氏物語 第51帖 浮舟(4)
卯槌の歌
立文は続けて「このようにばかりつくづくと物思いにふけっていらっしゃるよりは、時々はそちらに参られて、お心もお慰めなさいませと思いますのに、気が引けて恐ろしいものと懲りておしまいになって、気の進まないことと嘆いていらっしゃるようです。若君の御前にといって卯槌を差し上げなさいます。大きい御前(匂宮)がご覧にならない間にお見せくださいませ」と、細々と、正月の言忌もできず、嘆かわしそうな様子が不体裁なのも、宮は繰り返し不審にご覧になって、「今はおっしゃいよ。誰のだ」とおっしゃると、中の君は「昔あの山里にいた人の娘が、事情があって、この頃あそこにいると聞きました」と申し上げなさるので、宮は、並の女房とは見えない手紙の書きぶりをと合点なさって、あの厄介なことがあった人とお思い合わせになった。卯槌は趣深く、所在ない人の手すさびと見えた。股になった枝に山橘を作って貫き添えた枝に、「まだふりぬものにはあれど君がため深きこころにまつと知らなむ」と、格別でもないのを、宮は、あの思い続けている人のものだろうかとお思い寄りになると、お目が留まって、「返事をなさい。情けない。隠しなさるべき手紙でもないようなのに、どうしてご機嫌が悪いのか。退出しよう」と言ってお立ちになった。中の君は少将などに、「たいそう気の毒なことだった。幼い者が受け取ったのを、皆どうして見なかったのか」などと忍んでおっしゃる。少将は「見ておりましたら、どうして差し上げましょう。すべてこの子は思慮がなく出しゃばりでございます。将来が見えて、人はおっとりしているのこそ好ましいのです」などと憎むので、中の君は「お黙り。幼い者を怒りなさるな」とおっしゃる。
- 1かくかくかくてててのみのみのみつくづくつくづくつくずくとととながめながめながめさせさせさせ給給たまふふうよりよりよりははは、、、時々時々ときどきははは渡渡わたりりり參參まいらららせせせ給給たまひひいててて御心御心みこころももも慰慰なぐさめめめさせさせさせ給給たまへへえととと思思おもひひい侍侍はべるるるににに、、、つゝましくつゝましくつつましく恐恐おそろしきしきしきものものものにににおぼしおぼしおぼしこりこりこりてててなむなむなん、、、物憂物憂うききき事事ことににに歎歎なげかかかせせせ給給たまふふうめるめるめる。。。若若わか君君きみのののおおお前前まえにににとてとてとて、、、卯卯う槌槌ずち參參まいらららせせせ給給たまふふう。。。おほきおほきおおきおおおまへまへまえののの御御ご覽覽らんぜぜぜざらざらざらむむん程程ほどににに御御ご覽覽らんぜぜぜさせさせさせ給給たまへへえ」」」とととなむなむなん、、、こまごまこまごまこまごまととと、、、ことことこといみいみいみもももえええしししあへあへあえずずず、、、物物ものなげかしげなげかしげなげかしげなるなるなるさまさまさまのののかたくなしげかたくなしげかたくなしげなるなるなるももも、、、うちうちうち返返かえしししうちうちうち返返かえししし怪怪あやしししととと御御ご覽覽らんじじじててて、、、「「「今今いまはははのたまへのたまへのたまえかしかしかし。。。誰誰たがががぞぞぞ」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「昔昔むかしかのかのかの山山やま里里ざとにににありありありけるけるける人人ひとのののむすめむすめむすめののの、、、さるさるさるやうやうようありありありててて、、、このこのこの頃頃ころかしこかしこかしこににに侍侍はべるるるとととなむなむなん聞聞きききき侍侍はべりりりししし」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、おしなべておしなべておしなべて仕仕つこうううまつるまつるまつるとととははは見見みえええぬぬぬ文文ふみがきがきがきをををととと心心こころえええ給給たまふふうににに、、、かのかのかの煩煩わずらはしきはしきわしきことことことゝゝとあるあるあるにににおぼしおぼしおぼしあはせあはせあわせつつつ。。。
- 2卯卯う槌槌ずちをかしうをかしうおかしゅう、、、つれづれつれづれつれずれなりなりなりけるけるける人人ひとのののしわざしわざしわざととと見見みえええたりたりたり。。。またまたまたぶりぶりぶりににに山山やまたちばなたちばなたちばなつくりつくりつくりててて、、、つらぬきつらぬきつらぬき添添そへへえたるたるたる枝枝えだににに、、、「「「まだまだまだふりふりふりぬぬぬものものものにににはははあれあれあれどどど君君きみがががためためため深深ふかきききこゝろこゝろこころにににまつまつまつととと知知しらららなむなむなん」」」ととと、、、ことことことなるなるなることことことなきなきなきををを、、、かのかのかの思思おもひひいわたるわたるわたる人人ひとのののにににやややとととおぼしおぼしおぼしよりよりよりぬるぬるぬるににに、、、御御おん目目めとまりとまりとまりててて、、、「「「返返かえり事事ごとししし給給たまへへえ。。。なさけなさけなさけなしなしなし。。。かくいかくいかくい給給たまふふうべきべきべき文文ふみにににもももあらあらあらざざざめるめるめるをををなどなどなど御御おん氣色氣色けしきのののあしきあしきあしき、、、まかりまかりまかりなななむむんよよよ」」」とてとてとて立立たちちちたまひたまひたまいぬぬぬ。。。女女おんな君君きみ少少しょう將將しょうなどなどなどしししててて、、、「「「いとほしくいとほしくいとおしくもももありありありつるつるつるかなかなかな。。。幼幼おさなききき人人ひとののの取取とりりりつつつらむらむらんををを、、、人人ひとはははいかでいかでいかでかかか見見みざりざりざりつるつるつるぞぞぞ」」」などなどなど忍忍しのびびびてててのたまふのたまふのたまう。。。「「「見見み給給たまへへえましかましかましかばばば、、、いかでいかでいかでかかかははは參參まいらららせせせましましまし。。。すべてすべてすべてこのこのこのこここははは心心こころちちここちなうなうのうさしさしさしすぐしすぐしすぐしててて侍侍はべりりり。。。おひおひおいさきさきさき見見みえええててて人人ひとはははおほどかおほどかおおどかなるなるなるこそこそこそ、、、をかしけれをかしけれおかしけれ」」」などなどなどにくめにくめにくめばばば、、、「「「あなあなあなかまかまかま。。。幼幼おさなききき人人ひとななな腹腹はらだてだてだてそそそ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。
現代語訳
「このようにばかりつくづくと物思いにふけっていらっしゃるよりは、時々はそちらに参られて、お心もお慰めなさいませと思いますのに、気が引けて恐ろしいものと懲りておしまいになって、気の進まないことと嘆いていらっしゃるようです。若君の御前にといって、卯槌を差し上げなさいます。大きい御前がご覧にならない間にお見せくださいませ」と、細々と、正月の言忌もできず、嘆かわしそうな様子が不体裁なのも、繰り返し不審にご覧になって、「今はおっしゃいよ。誰のだ」とおっしゃると、「昔あの山里にいた人の娘が、事情があって、この頃あそこにいると聞きました」と申し上げなさるので、並の女房としてお仕えしているとは見えない手紙の書きぶりをと合点なさると、あの厄介なことがあった人とお思い合わせになった。
卯槌は趣深く、所在ない人の手すさびと見えた。股になった枝に山橘を作って貫き添えた枝に、「まだ古びてはいませんが、あなたのために、深い心で末長くとお待ちしていると知ってください」と、格別でもないのを、あの思い続けている人のものだろうかとお思い寄りになると、お目が留まって、「返事をなさい。情けない。隠しなさるべき手紙でもないようなのに、どうしてご機嫌が悪いのか。退出しよう」と言ってお立ちになった。女君は少将などに、「たいそう気の毒なことだった。幼い者が受け取ったのを、皆どうして見なかったのか」などと忍んでおっしゃる。「見ておりましたら、どうして差し上げましょう。すべてこの子は思慮がなく出しゃばりでございます。将来が見えて、人はおっとりしているのこそ好ましいのです」などと憎むので、「お黙り。幼い者を怒りなさるな」とおっしゃる。
意訳
立文には、浮舟が宇治で物思いに沈んでいること、若君への卯槌の贈り物が書かれていた。匂宮に問われた中の君は、宇治にいた人の娘がいると答え、匂宮は二条院で見た女だと気づく。卯槌に添えられた浮舟の歌にも目を留めた匂宮は、中の君に返事を促して立ち去る。中の君は女房に、女童が手紙を受け取ったことを嘆く。
語釈・文法注
文法
- 「卯槌」(若君のお前にとて、卯槌參らせ給ふ)
- 正月の初卯の日に、邪気を払うために贈った桃の木などで作った槌。
- 「こといみ」(こといみもえしあへず)
- 言忌。正月など祝いの時に不吉な言葉を避けること。
- 「またぶり」(またぶりに山たちばなつくりて)
- 股振り。二股に分かれた枝。
解説
浮舟の素朴な贈り物と歌が、匂宮の心を捉える。浮舟が中の君に宛てた好意の印が、皮肉にも浮舟を危険にさらすことになる。
匂宮は手紙の筆跡から、二条院で見た女が宇治にいることを確信する。薫の慎重な隠し事は、一通の手紙で崩れ去る。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1110–1113頁(コマ266–267)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日