源氏物語 第51帖 浮舟(3)
宇治からの正月の文
正月の一日を過ぎた頃、匂宮が二条院にお越しになって、若君が一つ年をとられたのをあやしかわいがりなさる昼頃、小さな女童が、緑の薄様の包み文の大きいものに、小さい髭籠を小松に付けたものと、また生真面目な立文を取り添えて、無遠慮に走って参る。中の君に差し上げると、宮が「それはどこからだ」とおっしゃる。女童は「宇治から大輔のおとどにといって、使いが持て余していましたのを、いつものように御前でご覧になるだろうと思って取りました」と言うのも、たいそうせわしない様子で、「この籠は金属で作って色を塗った籠だったのね。松もたいそうよく似せて造った枝ですよ」と笑って言い続けるので、宮もお笑いになって、「さあ、私も一緒にもてはやそう」とお取り寄せになるのを、中の君はたいそう決まり悪くお思いになって、「手紙は大輔のもとへやりなさい」とおっしゃる。お顔が赤くなったので、宮は、大将がさりげなくよこした手紙で、宇治の名乗りもふさわしいとお思い寄りになって、この手紙をお取りになった。さすがにそれだったらとお思いになると、たいそう気が引けるので、「開けて見るよ。お恨みになるかな」とおっしゃると、中の君は「見苦しいこと。どうしてその女同士の中で書き交わした内々の手紙をご覧になるのですか」とおっしゃるが、騒がない様子なので、「それなら見るよ。女の手紙の書き方はどんなものか」と言ってお開けになると、たいそう若々しい筆跡で、「ご無沙汰のまま年も暮れてしまいました。山里のうっとうしさこそ、峰の霞も絶え間なくて」とあって、端に、「これを若君の御前に。粗末なものでございますが」と書いてある。特に洗練された点も見えないが、心当たりがないのにお目をお留めになって、この立文をご覧になると、確かに女の筆跡で、「年が改まって何事もございませんか。ご自身にも、どんなに頼もしいお喜びが多いことでしょう。こちらではたいそう立派なお住まいの心深いのを、やはりふさわしくないと拝見しております。
- 1むむむ月月つきののの一一つい日日たち過過すぎぎぎたるたるたる頃頃ころ渡渡わたりりり給給たまひひいててて、、、若若わか君君きみののの年年としまさりまさりまさり給給たまへへえるるるをををもてもてもてあそびあそびあそびうつくしみうつくしみうつくしみ給給たまふふう晝晝ひるつつつ方方かた、、、ちひさきちひさきちいさきわらはわらはわらわ、、、綠綠みどりのののうすうすうすえふえふようなるなるなるつゝみつゝみつつみ文文ぶみののの大大おおきやかきやかきやかなるなるなるににに、、、小小ちいさきききひげこひげこひげこををを小小こ松松まつにににつけつけつけたるたるたる、、、又又またすくずくしきすくずくしきすくずくしきたてたてたてぶみぶみぶみとりとりとり副副そへへえててて、、、あうなくあうなくおうなく走走はしりりりまゐるまゐるまいる。。。女女おんな君君きみににに奉奉たてまつれれればばば、、、宮宮みや「「「それそれそれはははいづくいづくいずくよりよりよりぞぞぞ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。「「「宇宇う治治じよりよりより大大たい輔輔ふのののおとゞおとゞおとどにににとてとてとて、、、もてもてもてわづらひわづらひわずらい侍侍はべりりりつるつるつるををを、、、例例れいのののおおお前前まえにてにてにてぞぞぞ御御ご覽覽らんぜぜぜむむんとてとてとて、、、とりとりとり侍侍はべりりりぬるぬるぬる」」」ととといふいふいうももも、、、いといといとあわたゞしきあわたゞしきあわただしき氣色氣色けしきにてにてにて、、、「「「このこのこのこここはははかねかねかねををを造造つくりりりててて、、、色色いろどりどりどりたるたるたるこここなりなりなりけりけりけり。。。松松まつもももいといといとようようよう似似にててて造造つくりりりたるたるたる枝枝えだぞぞぞとととよよよ」」」ととと、、、ゑみゑみえみててていひいひいいつゞくれつゞくれつづくればばば、、、宮宮みやももも笑笑わらひひい給給たまひひいててて、、、「「「いでいでいで我我わももももてもてもてはやしはやしはやしてててむむん」」」とととめすめすめすををを、、、女女おんな君君きみいといといとかたはらいたくかたはらいたくかたわらいたくおぼしおぼしおぼしててて、、、「「「文文ふみははは大大たい輔輔ふがりがりがりやれやれやれ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。御御おん顏顏かおののの赤赤あかみみみたれたれたればばば、、、宮宮みや、、、大大たい將將しょうのののさりげなくさりげなくさりげなくしししなしなしなしたるたるたる文文ふみにてにてにて、、、宇宇う治治じののの名名なのりのりのりもももつきづきしつきづきしつきずきしとととおぼしおぼしおぼしよりよりよりててて、、、このこのこの文文ふみをををとりとりとり給給たまひひいつつつ。。。
- 2さすがさすがさすがにににそれそれそれならならならむむん時時ときにににとととおぼすおぼすおぼすににに、、、いといといとまばゆけれまばゆけれまばゆければばば「「「あけあけあけててて見見みむむんよよよ、、、怨怨えんじじじやややししし給給たまははわむむんとととするするする」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「見見み苦苦ぐるしうしうしゅう。。。何何なにかかかはははそのそのその女女おんなどちどちどちののの中中なかににに書書かききき通通かよははわしししたらたらたらむむんうちとけうちとけうちとけ文文ぶみをををばばば御御ご覽覽らんぜぜぜむむん」」」とととのたまふのたまふのたまうががが、、、さわがさわがさわがぬぬぬ氣色氣色けしきなれなれなればばば、、、「「「さささばばば見見みむむんよよよ。。。女女おんなののの文文ふみがきがきがきははは、、、いかゞいかゞいかがあるあるある」」」とてとてとてあけあけあけ給給たまへへえれれればばば、、、いといといと若若わかやかやかやかなるなるなる手手てにてにてにて、、、「「「おぼつかなくおぼつかなくおぼつかなくててて年年としももも暮暮くれれれ侍侍はべりりりにににけるけるける。。。山山やま里里ざとのののいぶせさいぶせさいぶせさこそこそこそ峰峰みねののの霞霞かすみもももたえたえたえまままなくなくなくててて」」」とてとてとて、、、はしはしはしににに、、、「「「これこれこれ若若わか君君きみのののおおお前前まえににに、、、あやしうあやしうあやしゅう侍侍はべるるるめれめれめれどどど」」」ととと書書かきききたりたりたり。。。ことことことにににらうらうじきらうらうじきろうろうじきふしふしふしももも見見みえええねねねどどど、、、覺覺おぼえええなきなきなきををを御御おん目目めたてゝたてゝたてて、、、このこのこの立立たて文文ぶみををを見見み給給たまへへえばばば、、、げにげにげに女女おんなののの手手てにてにてにて、、、「「「年年とし改改あらたまりりりててて何何なに事事ことかかかさぶらふさぶらふさぶらう。。。御御おん私私わたくしにににももも、、、いかにいかにいかにたのもしきたのもしきたのもしき御御おん悅悅よろこび多多おおくくく侍侍はべらららむむん。。。こゝこゝここにににはははいといといとめでたきめでたきめでたき御御おん住住すまひひいののの心心こころ深深ふかきききををを猶猶なおふさはしからふさはしからふさわしからずずず見見み奉奉たてまつるるる。。。
現代語訳
正月の一日を過ぎた頃お越しになって、若君が一つ年をとられたのをあやしかわいがりなさる昼頃、小さな女童が、緑の薄様の包み文の大きいものに、小さい髭籠を小松に付けたものと、また生真面目な立文を取り添えて、無遠慮に走って参る。女君に差し上げると、宮が「それはどこからだ」とおっしゃる。「宇治から大輔のおとどにといって、使いが持て余しておりましたのを、いつものように御前でご覧になるだろうと思って取りました」と言うのも、たいそうせわしない様子で、「この籠は金属で作って色を塗った籠だったのね。松もたいそうよく似せて造った枝ですよ」と笑って言い続けるので、宮もお笑いになって、「さあ、私も一緒にもてはやそう」とお取り寄せになるのを、女君はたいそう決まり悪くお思いになって、「手紙は大輔のもとへやりなさい」とおっしゃる。お顔が赤くなったので、宮は、大将がさりげなくよこした手紙で、宇治の名乗りもふさわしいとお思い寄りになって、この手紙をお取りになった。
さすがにそれだったらとお思いになると、たいそう気が引けるので、「開けて見るよ。お恨みになるかな」とおっしゃると、「見苦しいこと。どうしてその女同士の中で書き交わしたような内々の手紙をご覧になるのですか」とおっしゃるが、騒がない様子なので、「それなら見るよ。女の手紙の書き方はどんなものか」と言ってお開けになると、たいそう若々しい筆跡で、「ご無沙汰のまま年も暮れてしまいました。山里のうっとうしさこそ、峰の霞も絶え間なくて」とあって、端に、「これを若君の御前に。粗末なものでございますが」と書いてある。特に洗練された点も見えないが、心当たりがないのにお目をお留めになって、この立文をご覧になると、確かに女の筆跡で、「年が改まって何事もございませんか。御自身にも、どんなに頼もしいお喜びが多いことでしょう。こちらではたいそう立派なお住まいの心深いのを、やはりふさわしくないと拝見しております。
意訳
正月、二条院で匂宮が若君と遊んでいると、女童が宇治からの手紙と、金属製の籠を小松に付けた贈り物を持ってくる。匂宮は薫からの手紙かと疑って取り上げ、中の君は顔を赤らめる。匂宮が開くと、若々しい筆跡で年賀と若君への贈り物の添え書きがあり、もう一通の立文には、宇治の住まいが浮舟にふさわしくないという女房の言葉が書かれていた。
語釈・文法注
文法
- 「ひげこ」(小きひげこを小松につけたる)
- 髭籠。竹で編み、編み残しの端を髭のように出した籠。
- 「立文」(すくずくしきたてぶみとり副へて)
- 書状を礼紙で包み、上下をひねった正式な手紙の形。
- 「らうらうじき」(ことにらうらうじきふしも見えねど)
- 洗練された、巧みな。
解説
宇治からの正月の贈り物が、偶然匂宮の手に渡る。女童の無邪気さが、浮舟の秘密を暴くきっかけとなる。物語は小さな偶然の連鎖で大きく動いていく。
中の君の赤らんだ顔が、匂宮の疑いを確信へと変える。言葉にしない動揺が、かえって真実を語ってしまう。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1110–1111頁(コマ266)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日