源氏物語 第51帖 浮舟(2)
薫の思案
薫は、さてしばらくは人の知らないような住まいに置いて、だんだんとそのような扱いに、あの人の心も落ち着かせ、自分のためにも人の非難がないように、ほどほどにしておくのがよいだろう。急に何者か、いつからかなどと聞きとがめられるのも騒がしく、初めの考えに違うだろう。また宮の御方(中の君)がお聞きになってお思いになることも、もとの所(宇治)からはっきりと連れ出して、昔を忘れた顔をするのも、たいそう本意でないなどとお思い静めになるのも、いつものたいそうのんびりしすぎた性格からであろう。移すべき所を用意なさって、忍んで造らせなさった。少し暇がないようにもおなりになったが、宮の御方には、やはり怠りなく心を寄せてお仕えなさることは同じである。拝見する人も不思議なほどに思うが、中の君は世の中をだんだんお分かりになり、人の有様を見聞きなさるにつれて、これこそは本当に昔を忘れない心の長さが、名残まで浅くない例なのだろうと感慨も少なくなく、年とともに人柄も世の評判も格別でいらっしゃるので、宮のお心があまりに頼りない時々は、思いがけなかった宿縁だな、故姫君のお考えどおりにもならず、このように物思いの絶えない方に縁づいてしまったことよとお思いになる折々が多い。けれども対面なさることは難しい。年月も昔からあまりに隔たっていき、内々の心を深く知らない人は、平凡なただ人こそ、それほどの縁を尋ねた親しさを忘れないのがふさわしいが、かえってこのように身分に限りのある間柄で、例に違った有様だなどと言い思うのも気が引けるので、宮が絶えずお疑いになっているのを、ますます苦しくお憚りになりつつ、自然と疎遠になっていくが、それでも絶えず同じ心は変わりなさらないのだった。宮も浮気なご性分こそ見るのがつらい折もあるが、若君がたいそうかわいらしくご成長なさるにつれて、ほかにはこのような子も生まれまいと、大切にお思いになって、打ち解けて親しい方面では人にまさってお扱いになるので、中の君は以前よりは少し物思いが静まってお過ごしになる。
- 1さてさてさてしばししばししばしははは人人ひとののの知知しるるるまじきまじきまじきすみすみすみどころどころどころしししててて、、、やうやうやうやうようようさるさるさる方方かたににに、、、かのかのかの心心こころをををももものどめのどめのどめ置置おききき、、、我我わがががためためためにににももも人人ひとのののもどきもどきもどきあるあるあるまじくまじくまじく、、、なのめなのめなのめにてにてにてこそこそこそよからよからよからめめめ。。。俄俄にわかににに何何なに人人びとぞぞぞ、、、いついついつよりよりよりなどなどなど聞聞きききき咎咎とがめめめられられられむむんももも物物もの騷騷さわがしくしくしく、、、初初はじめののの心心こころにににたがふたがふたがうべしべしべし。。。又又また宮宮みやののの御御おん方方かたののの聞聞ききききおぼさおぼさおぼさむむんことことことももも、、、もともともとののの所所ところをををきはぎはしうきはぎはしうきわぎわしゅうゐゐいてててはなれはなれはなれ、、、昔昔むかしをををわすれわすれわすれ顏顏がおならならならむむんももも、、、いといといとほいほいほいなしなしなしなどなどなどおぼしおぼしおぼししづむるしづむるしずむるももも例例れいのののいといといとのどけさのどけさのどけさ過過すぎぎぎたるたるたる心心こころからからからなるなるなるべしべしべし。。。わたすわたすわたすべきべきべき所所ところおぼしおぼしおぼし設設もうけけけててて忍忍しのびびびてててぞぞぞ造造つくらららせせせ給給たまひひいけるけるける。。。少少すこししし暇暇いとまなきなきなきやうやうようにににもももなりなりなり給給たまひひいにににたれたれたれどどど、、、宮宮みやののの御御おん方方かたにににははは猶猶なおたゆみたゆみたゆみなくなくなく心心こころよせよせよせ仕仕つこうううまつりまつりまつり給給たまふふうことことこと同同おなじじじやうやうようなりなりなり。。。見見み奉奉たてまつるるる人人ひとももも怪怪あやしきしきしきまでまでまで思思おもへへえどどど、、、世世よののの中中なかをををやうやうやうやうようようおぼしおぼしおぼし知知しりりり、、、人人ひとのののありさまありさまありさまををを見見み聞聞きききき給給たまふふうまゝまゝままににに、、、これこれこれこそこそこそははは誠誠まことににに昔昔むかしををを忘忘わすれれれぬぬぬ心心こころながさながさながさののの名名な殘殘ごりさへさへさへ淺淺あさからからからぬぬぬためしためしためしなななめれめれめれととと哀哀あわれもももすくなからすくなからすくなからずずず、、、ねびねびねびまさりまさりまさり給給たまふふうまゝまゝままににに人人ひとがらがらがらももも世世よのののおぼえおぼえおぼえももも、、、さまさまさまことことことにににものものものししし給給たまへへえばばば、、、宮宮みやののの御心御心みこころのののあまりあまりあまりたのもしげたのもしげたのもしげなきなきなき時々時々ときどきははは思思おもははわずずずなりなりなりけるけるける宿宿すく世世せかなかなかな、、、故故こ姫姫ひめ君君ぎみのののおぼしおぼしおぼしおきておきておきてしししまゝまゝままにににもももあらあらあらででで、、、かくかくかく物物もの思思おもひひい憚憚はばかるるるべきべきべき方方かたにににしもしもしもかゝりかゝりかかりそめそめそめけむけむけんよよよとととおぼすおぼすおぼすをりをりをりをりおりおり多多おおくくくなむなむなん。。。
- 2されどされどされどたいたいたい面面めんししし給給たまふふうことことことはははかたしかたしかたし。。。年年とし月月つきもももあまりあまりあまり昔昔むかしををを隔隔へだててて行行ゆききき、、、うちうちうちうちうちうちののの御心御心みこころををを深深ふこううう知知しらららぬぬぬ人人ひとははは、、、なほなほしきなほなほしきなおなおしきたゞたゞただ人人びとこそこそこそ、、、さばかりさばかりさばかりのののゆかりゆかりゆかり尋尋たずねねねたるたるたるむつびむつびむつびをををももも忘忘わすれれれぬぬぬににに、、、つきづきしけれつきづきしけれつきずきしけれ、、、なかなかなかなかなかなかかうかうこう限限かぎりあるあるあるほどほどほどににに、、、例例れいにににたがひたがひたがいたるたるたるありさまありさまありさまぞぞぞなどなどなどいひいひいい思思おもははわむむんもももつゝましけれつゝましけれつつましければばば宮宮みやののの絕絕たえええずずずおぼしおぼしおぼし疑疑うたがひひいたるたるたるををを、、、いよいよいよいよいよいよ苦苦くるしうしうしゅうおぼしおぼしおぼし憚憚はばかりりり給給たまひひいつゝつゝつつ、、、おのづからおのづからおのずから疎疎うときききさまさまさまににになりなりなり行行ゆくくくををを、、、さりとてもさりとてもさりとても絕絕たえええずずず同同おなじじじ心心こころののの變變かわりりり給給たまははわぬぬぬなりなりなりけりけりけり宮宮みやもももあだあだあだなるなるなる御御おん本本ほんじやうじやうじょうこそこそこそ見見みまうきまうきもうきふしふしふしもももまじれまじれまじれ、、、若若わか君君きみのののいといといと美美うつくしうくしうくしゅうおよすけおよすけおよすけ給給たまふふうまゝまゝままににに、、、ほかほかほかにににはははかゝるかゝるかかる人人ひとももも出出いでででくくくまじきまじきまじきにににやややととと、、、やんごとなきやんごとなきやんごとなきものものものにににおぼしおぼしおぼしててて、、、うちうちうちとけとけとけなつかしきなつかしきなつかしき方方かたにににははは人人ひとにににまさりまさりまさりてててもてもてもてなしなしなし給給たまへへえばばば、、、ありありありしししよりよりよりははは少少すこししし物物もの思思おもひひい靜靜しずまりまりまりてててすぐしすぐしすぐし給給たまふふう。。。
現代語訳
さてしばらくは、人の知らないような住まいにして、だんだんとそのような扱いに、あの人の心も落ち着かせ、自分のためにも人の非難がないように、ほどほどにしておくのがよいだろう。急に何者か、いつからかなどと聞きとがめられるのも騒がしく、初めの考えに違うだろう。また宮の御方がお聞きになってお思いになることも、もとの所からはっきりと連れ出して、昔を忘れた顔をするのも、たいそう本意でないなどとお思い静めになるのも、いつものたいそうのんびりしすぎた性格からであろう。移すべき所を用意なさって、忍んで造らせなさった。少し暇がないようにもおなりになったが、宮の御方には、やはり怠りなく心を寄せてお仕えなさることは同じである。拝見する人も不思議なほどに思うが、中の君は世の中をだんだんお分かりになり、人の有様を見聞きなさるにつれて、これこそは本当に昔を忘れない心の長さが、名残まで浅くない例なのだろうと感慨も少なくなく、年とともに人柄も世の評判も格別でいらっしゃるので、宮のお心があまりに頼りない時々は、思いがけなかった宿縁だな、故姫君のお考えどおりにもならず、このように物思いの憚られる方に縁づいてしまったことよとお思いになる折々が多い。
けれども対面なさることは難しい。年月も昔からあまりに隔たっていき、内々のお心を深く知らない人は、平凡なただ人こそ、それほどの縁を尋ねた親しさを忘れないのがふさわしいが、かえってこのように身分に限りのある間柄で、例に違った有様だなどと言い思うのも気が引けるので、宮が絶えずお疑いになっているのを、ますます苦しくお憚りになりつつ、自然と疎遠になっていくが、それでも絶えず同じ心は変わりなさらないのだった。宮も浮気なご性分こそ見るのがつらい折もまじるが、若君がたいそうかわいらしくご成長なさるにつれて、ほかにはこのような子も生まれまいかと、大切なものにお思いになって、打ち解けて親しい方面では人にまさってお扱いになるので、以前よりは少し物思いが静まってお過ごしになる。
意訳
薫は、浮舟をしばらく人目につかない所に置き、世間の非難を受けないよう穏やかに扱おうと考え、京に浮舟を移す邸を忍んで造らせる。薫は中の君への心遣いも変わらず、中の君は薫の誠実さに感じ入り、匂宮の浮気に悩むときは、大君の意図どおり薫と結ばれていればと思うこともある。しかし匂宮の疑いを憚って二人は疎遠になる。匂宮は若君をかわいがり、中の君も少し心が落ち着く。
語釈・文法注
文法
- 「もどき」(我がためにも人のもどきあるまじく)
- 非難。
- 「きはぎはしう」(もとの所をきはぎはしうゐてはなれ)
- 際々しう。はっきりと、きっぱりと。
- 「およすけ」(若君のいと美くしうおよすけ給ふまゝに)
- 成長する、大人びる。
解説
薫の「のどけさ過ぎたる心」が、語り手によって批判的に描かれる。慎重すぎる薫のこの性格が、匂宮に先を越される原因となっていく。
中の君は、薫と結ばれていればという思いを抱きつつも、若君を通じて匂宮との絆を深めていく。宇治の姉妹のうち、生き残った中の君の安定と、浮舟の不安定さが対照される。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1108–1111頁(コマ265–266)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日