源氏物語 第49帖 宿木(59)
大君に似た横顔
女房たちがほめていた装束は、本当にたいそうさっぱりとしていて、弁の尼の容貌もやはり由緒ありげで清らかである。尼君が「昨日お着きになるかとお待ち申し上げていましたのに、どうして今日もこう日が高くなってから」と言うようなので、この老女房は「たいそう妙に苦しそうにばかりしていらっしゃったので、昨日はこの泉川のあたりに泊まって、今朝もひどくご気分が悪くてためらっていらして」などと答えて起こすと、姫君は今起き上がって座った。尼君に恥じらって横を向いている横顔が、こちらからはたいそうよく見える。本当にたいそう由緒ある目元のあたり、生え際のあたり、あの大君をも詳しくつくづくとはご覧にならなかったお顔だが、これを見るにつけてただ大君と思い出されるので、例によって涙が落ちた。尼君に返事をする声や気配はほのかだが、宮の御方(中の君)にもたいそうよく似ていると聞こえる。哀れな人だなあ、こういう人がいたのに今まで尋ねもせずに過ごしてきたことよ、これより劣った身分のゆかりであっても、これほど大君に似通っている人を見たら、おろそかには思えない心地がするのに、ましてこれは八の宮に認められはしなかったが、本当に亡き宮の御子だったのだと見なしなさると、この上なく哀れにうれしく思われる。今すぐにでも這い寄って、この世にいらしたのですねと言って慰めたい、蓬莱まで尋ねて簪だけを得て見た帝はやはりたいそうもどかしかったろう、これは別人だが慰めどころのありそうな様子だと思われるのは、この人に宿縁がおありだったのだろうか。尼君は少し話をしてすぐに奥に入った。女房たちが咎めた香りから、近くで薫がのぞいていらっしゃるのだろうと察したので、打ち解けた話もしなかったのだろう。日も暮れていくので、薫もそっと出て衣などを着て、いつも呼び出す障子口に尼君を呼び出して、様子などを尋ねる。
- 1譽譽ほめめめつるつるつるさうぞくさうぞくそうぞく、、、げにげにげにいといといとかはらかかはらかかわらかにてにてにて、、、みめみめみめももも猶猶なおよしよししくよしよししくよしよししく淸淸きよげげげにににぞぞぞあるあるある。。。「「「きのふきのふきのうおはしおはしおわしつきつきつきなななむむんととと待待まちちち聞聞きこえええさせさせさせしししををを、、、などなどなどかかかけふけふきょうももも日日ひたけたけたけてててははは」」」ととといふいふいうめれめれめればばば、、、このこのこのおいおいおい人人びと、、、「「「いといといと怪怪あやしうしうしゅう苦苦くるしげしげしげにににのみのみのみせせせさせさせさせ給給たまへへえれれればばば、、、きのふきのふきのうはははこのこのこのいづみいづみいずみ河河がわのののわたりわたりわたりにににとゞまりとゞまりとどまりててて、、、けさけさけさもももむげむげむげににに御御おん心心こころちちちためらひためらひためらいててて」」」などなどなど、、、いらへいらへいらえててておこせおこせおこせばばば、、、今今いまぞぞぞおきおきおきゐゐいたるたるたる、、、尼尼あま君君ぎみをををはぢらひはぢらひはじらいててて、、、そばみそばみそばみたるたるたるかたはらかたはらかたわらめめめ、、、これこれこれよりよりよりはははいといといとよくよくよく見見みゆゆゆ。。。誠誠まことにににいといといとよしよしよしあるあるあるまみまみまみののの程程ほど、、、かんざしかんざしかんざしのののわたりわたりわたり、、、かれかれかれをををももも委委くわしくしくしくつくづくつくづくつくずくとととしもしもしも見見み給給たまははわざりざりざりししし御御おんかほかほかおなれなれなれどどど、、、これこれこれををを見見みるるるにににつけつけつけててて唯唯ただそれそれそれととと思思おもひひい出出いでででらるゝらるゝらるるににに例例れいののの淚淚なみだおちおちおちぬぬぬ尼尼あま君君ぎみのののいらへいらへいらえうちうちうちするするする聲聲こえけはひけはひけはいのののほのかほのかほのかなれなれなれどどど宮宮みやののの御御おん方方かたにににもももいといといとよくよくよく似似にたりたりたりととと聞聞きこゆゆゆ。。。哀哀あわれなりなりなりけるけるける人人ひとかなかなかな、、、かゝりかゝりかかりけるけるけるものものものををを今今いままでまでまで尋尋たずねねねもももしらしらしらででで過過すぐしししけるけるけることことことよよよ、、、これこれこれよりよりより口口くち惜惜おしからしからしからむむんきはきはきわのののしなしなしなならならならむむんゆかりゆかりゆかりにてにてにてだにだにだに、、、かばかりかばかりかばかり通通かよひひい聞聞きこえええたらたらたらむむん人人ひとををを見見みてててははは、、、おろかおろかおろかにににえええ思思おもふふうまじきまじきまじき心心こころちちちするするするににに、、、ましてましてましてこれこれこれははは知知しららられれれ奉奉たてまつらららざりざりざりけれけれけれどどど誠誠まことににに故故こ宮宮みやののの御御み子子こにににこそこそこそはははありありありけれけれけれととと見見みなしなしなし給給たまひひいてててははは限限かぎりなうなうのう哀哀あわれにににうれしくうれしくうれしく覺覺おぼえええ給給たまふふう。。。
- 2只只ただ今今いまもももはひはひはいよりよりよりててて世世よののの中中なかにににおはしおはしおわしけるけるけるものものものをををととといひいひいい慰慰なぐさめめめまほしまほしまほし、、、蓬蓬ほう萊萊らいまでまでまで尋尋たずねねねててて、、、かんざしかんざしかんざしのののかぎりかぎりかぎりををを傳傳つたへへえててて見見み給給たまひひいけむけむけん帝帝みかどははは猶猶なおいといといといぶせかりいぶせかりいぶせかりけむけむけん、、、これこれこれはははことことこと人人びとなれなれなれどどど慰慰なぐさめめめ所所どころありありありぬぬぬべきべきべきさまさまさまなりなりなりととと覺覺おぼゆるゆるゆるははは、、、このこのこの人人ひとににに契契ちぎりのののおはしおはしおわしけるけるけるにににやややあらあらあらむむん。。。尼尼あま君君ぎみははは物物もの語語がたり少少すこししししししてててとくとくとく入入いりりりぬぬぬ。。。人人ひとののの咎咎とがめめめつるつるつるかをりかをりかおりををを近近ちかくくくててて覗覗のぞききき給給たまふふうなななめりめりめりととと心心こころ得得えてててけれけれければばば、、、打打うちちち解解とけけけごとごとごとももも語語かたらはらはらわずずずなりなりなりぬるぬるぬるなるなるなるべしべしべし。。。日日ひももも暮暮くれれれもてもてもて行行ゆけけけばばば君君きみもももやをらやをらやおら出出いでででゝゝて御御おんぞぞぞなどなどなど着着き給給たまひひいてててぞぞぞ、、、例例れい召召めししし出出いづるづるずるさうじさうじそうじ口口ぐちににに尼尼あま君君ぎみ召召めししし出出いででで給給たまひひいててて、、、ありさまありさまありさまなどなどなど問問とひひい給給たまふふう。。。
現代語訳
女房たちがほめていた装束は、本当にたいそうさっぱりとしていて、尼の容貌もやはり由緒ありげで清らかである。尼君が「昨日お着きになるかとお待ち申し上げておりましたのに、どうして今日もこう日が高くなってから」と言うようなので、この老女房は「たいそう妙に苦しそうにばかりしていらっしゃいましたので、昨日はこの泉川のあたりに泊まって、今朝もひどくご気分がすぐれずためらっていらっしゃって」などと答えて起こすと、姫君は今起き上がって座った。尼君に恥じらって横を向いている横顔が、こちらからはたいそうよく見える。本当にたいそう由緒ある目元のあたり、生え際のあたり、あの大君をも詳しくつくづくとはご覧にならなかったお顔だけれど、これを見るにつけて、ただ大君と思い出されるので、例によって涙が落ちた。尼君に返事をする声や気配はほのかだが、宮の御方にもたいそうよく似ていると聞こえる。哀れな人であることよ、こういう人がいたのに、今まで尋ねもせずに過ごしてきたことよ、これより劣った身分の品の縁者であっても、これほど大君に似通い申し上げているような人を見たら、おろそかには思えない心地がするのに、ましてこれは、八の宮に認められ申し上げはしなかったけれど、本当に亡き宮の御子だったのだと見なしなさると、この上なく哀れにうれしく思われなさる。
今すぐにでも這い寄って、この世にいらっしゃったのですねと言って慰めたい、蓬莱まで尋ねて、簪だけを伝えて見なさったという帝は、やはりたいそうもどかしかったろう、これは別人だけれど慰めどころのありそうな様子だと思われるのは、この人に宿縁がおありだったのだろうか。尼君は少し話をして、すぐに奥に入った。女房たちが咎めた香りから、近くで薫がのぞいていらっしゃるのだろうと察したので、打ち解けた話もしなくなったのだろう。日も暮れていくので、薫もそっと出て、お召し物などをお着になって、いつも呼び出す障子口に尼君を呼び出しなさって、様子などをお尋ねになる。
意訳
弁が浮舟のもとに来て、遅い到着を尋ねる。起き上がった浮舟が恥じらって横を向くと、その横顔が薫からよく見える。目元や生え際は大君そっくりで、薫は涙を落とす。声は中の君に似ている。薫は、八の宮の娘と確信し、今すぐ近寄って慰めたいと思う。楊貴妃の簪しか得られなかった玄宗皇帝より、自分は慰めを得られそうだと思う。弁は薫ののぞき見を察して早々に退き、薫は弁を呼んで様子を尋ねる。
語釈・文法注
文法
- 「かたはらめ」(そばみたるかたはらめ、これよりはいとよく見ゆ)
- 横顔。
- 「蓬萊まで尋ねて、かんざしのかぎりを傳へて見給ひけむ帝」(蓬萊まで尋ねて)
- 長恨歌で、玄宗皇帝が方士に楊貴妃の魂を蓬莱に尋ねさせ、形見の簪を得た故事。
- 「慰め所」(これはこと人なれど慰め所ありぬべきさまなり)
- 心の慰めとなるところ。浮舟は大君の身代わりとして慰めになるという薫の思い。
解説
浮舟の横顔が大君そっくりであることに、薫は涙を流す。声は中の君に似ている。浮舟は、姉妹の面影を併せ持つ女性として薫の前に現れる。
薫は長恨歌の玄宗皇帝と自分を比べ、簪よりも生きた身代わりの方が慰めになると思う。浮舟は一人の女性としてではなく、大君の「形代」として見られている。この視線が、浮舟の悲劇の出発点となる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1062–1065頁(コマ242–243)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日