源氏物語 第49帖 宿木(58)
東国の女房たち
「いやもう、旅歩きは、東路を思えばどこが恐ろしいでしょう」などと、二人で苦しいとも思っていない様子で話しているのに、主人の姫君は物音も立てずにひれ伏している。腕を差し出しているのが、ふっくらとして美しい様子も、常陸殿などと言うべき人には見えず、本当に上品である。薫はだんだん腰が痛くなるほど立ちすくんでいるが、人の気配がしないようにと、なお動かずに見ていると、若い女房が「まあ、香ばしい。たいそうよい香の香りがする。尼君が薫いていらっしゃるのかしら」と驚く。老女房は「本当に、ああすばらしい物の香りよ。京の人はやはりたいそう優雅で当世風だ。天下にすばらしいものとお思いだったが、東国ではこのような薫物の香りはお合わせになれなかった。この尼君の住まいは、こうしてたいそうひっそりしていらっしゃるが、装束が申し分なく、鈍色や青色といってもたいそう清らかですね」などとほめている。あちらの簀子から童が来て、「お湯など差し上げてください」と言って、折敷なども続いて差し入れる。果物を取り寄せなどして召し上がる。姫君を起こそうとするが起きないので、二人で栗などのようなものをほろほろと食べるのも、薫は聞いたことのない心地なので、きまり悪くて退くが、また見たくなって、やはり立ち寄り立ち寄りしてご覧になる。これよりまさる身分の人々を、后の宮をはじめとして、あちこちで容貌のよい人も心の上品な人も、たくさん飽きるほど見慣れていらっしゃるだろうに、並々でなければ目も心も留まらず、あまり人に非難されるほどでいらっしゃるお心に、今は、それほど優れて見えることもない人なのに、こうして立ち去りがたく無理に見たいのも、たいそう妙な心である。尼君はこの殿の方にもお便りを申し上げたが、「ご気分が悪いといって、今お休みになっています」とお供の人々が心得て言ったので、尼君は、薫がこの姫君を尋ねたそうにお思いになりおっしゃっていたので、こういう機会に言葉をかけようとお思いになって日を暮らしていらっしゃるのかと思って、こうのぞいていらっしゃるとは知らず、いつもの荘園の管理人たちが持って参った破籠や何やらを姫君の方にも差し入れたのを、東国の者たちにも食べさせなどして、指図し終えて、化粧して客人の方に来た。
- 1いでいでいでやややありきありきありきははは、、、あづまあづまあずまぢぢじををを思思おもへへえばばばいつこいつこいつこかかか恐恐おそろしからしからしからむむん」」」などなどなど、、、ふたりふたりふたりしししててて苦苦くるしししとととももも思思おもひひいたらたらたらずずずいひいひいいゐゐいたるたるたるににに、、、しうしうしゅうはははおとおとおともももせせせでででひれひれひれふしふしふしたりたりたり。。。かひなかひなかいなをををさしさしさし出出いでででたるたるたるががが、、、まろらかまろらかまろらかにににをかしげをかしげおかしげなるなるなる程程ほどももも常常ひた陸陸ち殿殿どのなどなどなどいふいふいうべくべくべくももも見見みえええずずず誠誠まことにににあてあてあてなりなりなり。。。やうやうやうやうようよう腰腰こし痛痛いたきききまでまでまでたちたちたちすくみすくみすくみ給給たまへへえどどど人人ひとのののけはひけはひけはいせせせじじじとてとてとて猶猶なお動動うごかかかででで見見み給給たまふふうににに、、、若若わかききき人人ひと「「「あなあなあなかうばしかうばしこうばしややや。。。いみじきいみじきいみじきかうかうこうのののかかかこそこそこそすれすれすれ尼尼あま君君ぎみのののたきたきたき給給たまふふうにににやややあらあらあらむむん」」」とととおどろくおどろくおどろく。。。おいおいおい人人びと、、、「「「誠誠まことにににあなあなあなめでためでためでたのののものものものゝゝの香香かややや。。。京京きょうびとびとびとはははなほなほなおいといといとこそこそこそみやびかみやびかみやびかににに今今いまめかしけれめかしけれめかしけれ。。。てんがてんがてんがにににいみじきいみじきいみじきことことことゝゝとおぼしおぼしおぼしたりたりたりしかしかしかどどど、、、あづまあづまあずまにてにてにてかゝるかゝるかかるたきたきたきものものものゝゝの香香かはははえええあはせあはせあわせ出出いででで給給たまははわざりざりざりきききかしこかしこかしこののの尼尼あま君君ぎみのののすまひすまひすまいははは、、、かくかくかくいといといとかすかかすかかすかにににおはすれおはすれおわすれどどど、、、さうぞくさうぞくそうぞくのののあらまほしうあらまほしうあらまほしゅう、、、にびにびにび色色いろあをあをあお色色いろととといへいへいえどどどいといといときよらきよらきよらにににぞぞぞあるあるあるややや」」」などなどなど譽譽ほめめめ居居いたりたりたり。。。あなたあなたあなたのののすのこすのこすのこよりよりよりわらはわらはわらわきききててて、、、「「「御御おん湯湯ゆなどなどなど參參まいらせらせらせ給給たまへへえ」」」とてとてとてをしきをしきおしきどもどもどもゝゝもとりとりとりつゞきつゞきつづきてててさしさしさし入入いるるる。。。くだものくだものくだものとりとりとりよせよせよせなどなどなどしししてててものものものけけけ給給たまはるはるわる。。。これこれこれなどなどなどおこせおこせおこせどどど驚驚おどろかかかねねねばばば、、、ふたりふたりふたりしししててて栗栗くりなどなどなどやうやうようのののものものものにににやややほろほろほろほろほろほろとととくふくふくうももも聞聞きききき知知しらららぬぬぬ心心こころちちちにににはははかたはらいたくかたはらいたくかたわらいたくてててしぞきしぞきしぞき給給たまへへえどどど、、、又又またゆかしくゆかしくゆかしくなりなりなりつゝつゝつつ猶猶なおたちたちたちよりよりよりたちたちたちよりよりより見見み給給たまふふう。。。
- 2これこれこれよりよりよりまさるまさるまさるきはきはきわののの人々人々ひとびとををを、、、きさいきさいきさいののの宮宮みやをををはじめはじめはじめててて、、、こゝこゝここかしこかしこかしこにてにてにてかたちかたちかたちよきよきよきももも心心こころあてあてあてなるなるなるをををもももこゝらこゝらここらあくあくあくまでまでまで見見みならしならしならし給給たまふふうべけれべけれべけれどどど、、、おぼろけおぼろけおぼろけならならならでででははは目目めももも心心こころもももとゞまらとゞまらとどまらずずず、、、あまりあまりあまり人人ひとにににもどかもどかもどかるゝるゝるるまでまでまでものものものししし給給たまふふう御御おん心心こころちちちににに只只ただ今今いまははは、、、なになになにばかりばかりばかりすぐれすぐれすぐれててて見見みゆるゆるゆることことこともももなきなきなき人人ひとなれなれなれどどど、、、かくかくかくたちたちたちさりさりさりがたくがたくがたくあながちあながちあながちにににゆかしきゆかしきゆかしきもももいといといとあやしきあやしきあやしき心心こころなりなりなり尼尼あま君君ぎみはははこのこのこの殿殿とのののの御御おん方方かたにににももも御御おんせうそこせうそこしょうそこ聞聞きこえええ出出いだしししたりたりたりけれけれけれどどど「「「御御おん心心こころちちちなやましなやましなやましとてとてとて今今いまのののほどほどほどうちうちうちやすまやすまやすませせせ給給たまへへえるるるなりなりなり」」」ととと御御おん供供ともののの人々人々ひとびと心心こころしらひしらひしらいててていひいひいいたりたりたりけれけれければばば、、、このこのこの君君きみををを尋尋たずねねねまほしげまほしげまほしげにににおぼしおぼしおぼしのたまひのたまひのたまいしかしかしかばばば、、、かゝるかゝるかかる序序ついでににに物物ものいひいひいいふれふれふれむむんとととおぼすおぼすおぼすににによりよりよりててて、、、日日ひををを暮暮くらししし給給たまふふうにににやややととと思思おもひひいててて、、、かくかくかく覗覗のぞききき給給たまふふうらむらむらんとととははは知知しらららずずず、、、例例れいのののみさうみさうみそうのののあづかりあづかりあずかりどもどもどもののの參參まいれれれるるるわりごわりごわりごやややなになになにやややとととこなたこなたこなたにににももも入入いれれれたるたるたるををを、、、あづまあづまあずまびとびとびとゞゞどもももにににもももくはせくはせくわせなどなどなどことことことゞゞどももも行行おこなひひいおきおきおきててて、、、うちうちうちけさうじけさうじけそうじてててまらうどまらうどまろうどののの方方かたににに來來きたりたりたり。。。
現代語訳
「いやもう、旅歩きは、東路を思えば、どこが恐ろしいでしょう」などと、二人で苦しいとも思っていない様子で話していると、主人の姫君は物音も立てずにひれ伏している。腕を差し出しているのが、ふっくらとして美しい様子も、常陸殿などと言うべき人には見えず、本当に上品である。薫はだんだん腰が痛くなるほど立ちすくんでいらっしゃるが、人の気配がしないようにと、なお動かずにご覧になっていると、若い女房が「まあ、香ばしいこと。たいそうよい香の香りがするわ。尼君が薫いていらっしゃるのかしら」と驚く。老女房は「本当に、ああすばらしい物の香りよ。京の人はやはり、たいそう優雅で当世風なのね。天下にすばらしいものとお思いだったけれど、東国では、このような薫物の香りはお合わせになれなかった。この尼君の住まいは、こうしてたいそうひっそりしていらっしゃるけれど、装束が申し分なく、鈍色や青色といっても、たいそう清らかですね」などとほめていた。あちらの簀子から童が来て、「お湯など差し上げてください」と言って、折敷なども次々と差し入れる。果物を取り寄せなどして召し上がる。姫君を起こそうとするが起きないので、二人で栗などのようなものだろうか、ほろほろと食べるのも、薫は聞いたことのない心地なので、きまり悪くて退きなさるが、また見たくなっては、やはり立ち寄り立ち寄りしてご覧になる。
これよりまさる身分の人々を、后の宮をはじめとして、あちこちで容貌のよい人も心の上品な人も、たくさん飽きるほど見慣れていらっしゃるはずだが、並々でなければ目も心も留まらず、あまり人に非難されるほどでいらっしゃるお心に、今は、何ほども優れて見えることもない人なのに、こうして立ち去りがたく、無理に見たいのも、たいそう妙な心である。尼君はこの殿の方にもお便りを申し上げたが、「ご気分が悪いといって、今お休みになっています」とお供の人々が心得て言ったので、この姫君を尋ねたそうにお思いになりおっしゃっていたので、このような機会に言葉をかけようとお思いになって、日を暮らしていらっしゃるのかと思って、こうしてのぞいていらっしゃるとは知らず、いつもの荘園の管理人たちが持って参った破籠や何やらを、姫君の方にも差し入れたのを、東国の者たちにも食べさせなどして、指図し終えて、化粧して客人の方に来た。
意訳
女房たちは東国の旅に比べれば楽だと話すが、浮舟はひれ伏したままである。差し出した腕はふっくらと上品で、受領の娘には見えない。薫は腰が痛むのもこらえてのぞき続け、女房たちは薫の香りに驚く。女房たちが栗を食べる音を聞き、薫は退いてはまた見に寄る。多くの美しい女性を見てきた薫が、それほど優れても見えない浮舟に強く惹かれる。弁は薫ののぞき見を知らず、浮舟一行をもてなしてから浮舟のもとへ行く。
語釈・文法注
文法
- 「しうは」(しうはおともせでひれふしたり)
- 主は。主人の姫君。
- 「常陸殿」(常陸殿などいふべくも見えず)
- 常陸介の娘。受領の娘という身分の低さを表す呼び方。
- 「わりご」(例のみさうのあづかりどもの參れるわりご)
- 破籠。檜の薄板で作った弁当箱。
解説
浮舟に仕える女房たちは東国育ちで、栗をほろほろと食べる。都の貴族の目には珍しい光景であり、浮舟の育ちの違いを示す。それでも浮舟自身は、腕の様子から上品さがうかがえる。
語り手は、多くの高貴な女性に心を動かされなかった薫が、身分の低い浮舟に強く惹かれるのを「あやしき心」と評する。薫の心を動かすのは浮舟自身ではなく、大君の面影である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1062–1063頁(コマ242)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日