源氏物語 第49帖 宿木(57)
垣間見る浮舟
この寝殿はまだ造りかけで簾もかけず、格子を下ろし籠めた中の二間に立てて隔てた障子の穴から、薫はのぞく。衣ずれが鳴るので、上着を脱いで直衣と指貫だけを着ている。一行はすぐには降りず、尼君に便りをして、このような高貴な方がいらっしゃるのはどなたかなどと尋ねているのだろう。薫は車がその人のものと聞いた時から、決してその人に私がいるとおっしゃるなと、まず口止めさせていたので、皆そう心得て、「早くお降りなさい。客人はいらっしゃいますが別の方に」と言わせた。若い女房がいて、まず降りて簾を巻き上げるようだ。前駆たちの様子よりは、この女房は物慣れて見苦しくない。また年配の女房がもう一人降りて「早く」と言うと、「何だか丸見えの気がする」と言う声が、ほのかだがたいそう上品に聞こえる。「いつものことで、こちらは以前も格子を下ろし籠めてばかりいたようです。それならまたどこが丸見えなのでしょう」と得意げに言う。遠慮がちに降りるのを見ると、まず頭の形や姿がほっそりとして、上品な様子はたいそうよく大君が思い出されるに違いない。扇をしっかり差し隠しているので顔は見えないのがもどかしくて、胸がつぶれる思いで見ていらっしゃる。車は高く、降りる所は低いのを、この女房たちは楽々と降りたが、たいそう苦しげにしばらくためらってから降りて、膝行して入る。濃い色の袿に撫子と思われる細長、若苗色の小袿を着ている。四尺の屏風をこの障子に添えて立ててあるが、上から見える穴なので残すところなく見える。姫君はこちらを不安げに思って、向こうを向いて横になった。「本当にお苦しそうでいらっしゃいましたね。泉川の舟渡りも、本当に今日はたいそう恐ろしゅうございました。この二月には水が少なかったので、よかったのでした。
- 1このこのこの寢寢しん殿殿でんはははまだまだまだあらはあらはあらわにてにてにて簾簾す垂垂だれもももかけかけかけずずず、、、おろしおろしおろし籠籠こめめめたるたるたる中中なかののの二二ふたまままににに立立たててて隔隔へだてててたるたるたるさうじさうじそうじののの穴穴あなよりよりより覗覗のぞききき給給たまふふう。。。御御おんぞぞぞののの鳴鳴なれれればばば、、、ぬぎぬぎぬぎおきおきおきてててなほしなほしなおし指指さし貫貫ぬきのののかぎりかぎりかぎりををを着着きてててぞぞぞおはするおはするおわする。。。とみとみとみにににもももおりおりおりででで尼尼あま君君ぎみにににせうそこせうそこしょうそこしししててて、、、かくかくかくやんごとなげやんごとなげやんごとなげなるなるなる人人ひとのののおはするおはするおわするをををたれたれたれぞぞぞなどなどなどあないあないあないするするするなるなるなるべしべしべし。。。君君きみははは車車くるまをををそれそれそれととと聞聞きききき給給たまへへえるるるよりよりより、、、ゆめゆめゆめそのそのその人人ひとにににまろまろまろありありありとととののの給給たまふふうなななととと、、、まづまづまず口口くちがためがためがためさせさせさせ給給たまひひいてててけれけれければばば皆皆みなさささ心心こころ得得えててて、、、「「「はやはやはやおりおりおりさせさせさせ給給たまへへえ。。。まらうどまらうどまろうどはははものものものししし給給たまへへえどどどことことこと方方かたににになむなむなん」」」ととといはいはいわせせせたりたりたり。。。若若わかききき人人ひとのののあるあるある、、、まづまづまずおりおりおりててて簾簾す垂垂だれうちうちうちあぐあぐあぐめりめりめり。。。御御ご前前ぜんどもどもどものののさまさまさまよりよりよりはははこのこのこのおもとおもとおもとなれなれなれてててめやすしめやすしめやすし。。。又又またおとなびおとなびおとなびたるたるたる人人ひと今今いま一一ひと人人りおりおりおりててて、、、「「「早早はよううう」」」ととといふいふいうににに、、、「「「怪怪あやしくしくしくあらはあらはあらわなるなるなる心心こころちちちこそこそこそすれすれすれ」」」ととといふいふいう聲聲こえ、、、ほのかほのかほのかなれなれなれどどどいといといとあてやかあてやかあてやかににに聞聞きこゆゆゆ。。。「「「例例れいののの御御おんことことことこなたこなたこなたはははさきざきさきざきさきざきもももおろしおろしおろしこめこめこめてててのみのみのみこそこそこそははは侍侍はべるるるめれめれめれ。。。さてさてさてははは又又またいづくいづくいずくのののあらはあらはあらわなるなるなるべきべきべきぞぞぞ」」」ととと心心こころをををやりやりやりててていふいふいう。。。
- 2つゝましげつゝましげつつましげにににおるゝおるゝおるるををを見見みれれればばばまづまづまずかしらかしらかしらつきつきつきやうだいやうだいようだいほそやかほそやかほそやかににに、、、あてあてあてなるなるなる程程ほどはははいといといとようようよう物物もの思思おもひひい出出いでででられられられぬぬぬべしべしべし。。。扇扇おうぎをををつとつとつとさしさしさしかくしかくしかくしたれたれたればばば顏顏かおははは見見みえええぬぬぬ程程ほど心心こころもとなくもとなくもとなくててて胸胸むね打打うちちち潰潰つぶれれれつゝつゝつつ見見み給給たまふふう。。。車車くるまはははたかくたかくたかく、、、おるゝおるゝおるる所所ところはははくだりくだりくだりたるたるたるをををこのこのこの人々人々ひとびとははは安安やすらからからかにににおりおりおりなしなしなしつれつれつれどどど、、、いといといと苦苦くるしげしげしげにににやゝやゝやや見見みててて久久ひさしくしくしくおりおりおりてててゐざりゐざりいざり入入いるるる。。。濃濃こきききうちきうちきうちきににに瞿瞿なで麥麥しことととおぼしきおぼしきおぼしき細細ほそ長長なが、、、わかなへわかなへわかなえ色色いろののの小小こうちきうちきうちき着着きたりたりたり。。。四四し尺尺しゃくののの屏屏びょう風風ぶをををこのこのこのさうじさうじそうじにににそへそへそえててて建建たてててたるたるたるががが、、、かみかみかみよりよりより見見みゆるゆるゆる穴穴あななれなれなればばば殘殘のこるるるべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。こなたこなたこなたをををばばばうしろめたげうしろめたげうしろめたげににに思思おもひひいててて、、、あなたあなたあなたざまざまざまににに向向むきききてててぞぞぞそひそひそいふしふしふしぬるぬるぬる。。。「「「さささももも心心こころ苦苦ぐるしげしげしげにににおはしましおはしましおわしましつるつるつるかなかなかな。。。いづみいづみいずみ河河がわののの船船ふなわたりわたりわたりももも誠誠まことにににけふけふきょうはははいといといと恐恐おそろしうしうしゅうこそこそこそありありありつれつれつれ。。。このこのこの二二きさ月月らぎにににははは水水みずのののすくなかりすくなかりすくなかりしかしかしかばばばよかりよかりよかりしししなりなりなりけりけりけり。。。
現代語訳
この寝殿はまだ造りかけで、簾もかけず、格子を下ろし籠めた中の二間に立てて隔てた障子の穴から、薫はのぞきなさる。お召し物の衣ずれが鳴るので、脱ぎ置いて、直衣と指貫だけを着ていらっしゃる。一行はすぐには降りず、尼君に便りをして、このように高貴そうな方がいらっしゃるのは、どなたかなどと尋ねているのだろう。薫は車がその人のものとお聞きになった時から、決してその人に私がいるとおっしゃるなと、まず口止めさせなさっていたので、皆そう心得て、「早くお降りなさいませ。客人はいらっしゃいますが、別の方に」と言わせた。若い女房がいて、まず降りて簾を巻き上げるようだ。前駆たちの様子よりは、この女房は物慣れて見苦しくない。また年配の女房がもう一人降りて、「早く」と言うと、「何だか丸見えの心地がするわ」と言う声が、ほのかだがたいそう上品に聞こえる。「いつものことで、こちらは以前も格子を下ろし籠めてばかりいたようでございます。それなら、またどこが丸見えなのでしょう」と得意げに言う。
遠慮がちに降りるのを見ると、まず頭の形や姿がほっそりとして、上品な様子は、たいそうよく大君が思い出されるに違いない。扇をしっかり差し隠しているので、顔は見えないのがもどかしくて、胸がつぶれる思いでご覧になる。車は高く、降りる所は低くなっているのを、この女房たちは楽々と降りたけれど、たいそう苦しげに、しばらくためらってから降りて、膝行して入る。濃い色の袿に、撫子と思われる細長、若苗色の小袿を着ている。四尺の屏風をこの障子に添えて立ててあるが、上から見える穴なので、残すところなく見える。姫君は、こちらを不安げに思って、向こうを向いて横になった。「本当にお苦しそうでいらっしゃいましたね。泉川の舟渡りも、本当に今日はたいそう恐ろしゅうございました。この二月には水が少なかったので、よかったのでした。
意訳
薫は造りかけの寝殿の障子の穴から浮舟の一行をのぞく。自分がいることを口止めさせ、浮舟は降りるのをためらう。浮舟の声は上品で、扇で顔を隠しながら降りる姿は細く、大君を思わせる。浮舟は旅に疲れて苦しげに膝行して入り、撫子の細長に若苗色の小袿を着ている。薫は胸を高鳴らせて見つめる。女房たちは泉川の舟渡りの怖さを語る。
語釈・文法注
文法
- 「ゐざり入る」(いと苦しげにやゝ見て久しくおりてゐざり入る)
- 膝行して入る。貴婦人の室内での移動の仕方。
- 「瞿麥」(濃きうちきに瞿麥とおぼしき細長)
- 撫子。表紅梅、裏青の襲の色目。
- 「いづみ河」(いづみ河の船わたりも)
- 泉川。木津川。初瀬から宇治へ向かう途中で渡る。
解説
薫は、かつて大君と中の君を垣間見たように、障子の穴から浮舟をのぞく。宇治十帖の物語は、垣間見によって新たな女性を見出す形で展開していく。
浮舟は扇で顔を隠し、薫は顔を見られずにもどかしく思う。まだ顔も見ていない女性に、薫は大君の面影を重ねている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1060–1063頁(コマ241–242)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日