源氏物語 第49帖 宿木(54)
帝に盃を捧げる薫
大将(薫)の笛は、今日こそ世にない音色の限りを吹き立てた。殿上人の中でも唱歌に似つかわしい者たちは呼び出されて、たいそう趣深く遊ぶ。女二の宮の方から粉熟を差し上げる。沈の折敷四つ、紫檀の高坏、藤の斑濃の打敷に折り枝を刺繍してある。銀の様器、瑠璃の盃、瓶子は紺瑠璃である。兵衛督がお給仕申し上げる。帝に御盃を差し上げるのに、大臣(夕霧)が続けて務めるのは不都合だろう、親王たちの中にもまたふさわしい方がいらっしゃらないので、大将にお譲り申し上げると、薫は遠慮申し上げるが、帝のご意向もどうだったのか、御盃を捧げて「をし」とおっしゃる声づかいや振る舞いまで、いつもの公事ではあるが人に似ず見えるのも、今日はいっそう見る目のひいきも加わるのだろうか。帝から盃を返し賜って、下りて舞踏なさる様子はたいそう類がない。上臈の親王たちや大臣などがいただくのでさえめでたいことなのに、これはまして御婿として持てはやされていらっしゃるご寵愛は並々でなく珍しいが、身分に限りがあるので下座に帰り着く様子は、心苦しいほどに見えた。按察大納言は、自分こそこのような目を見たいと思っていたのに、悔しいことだと思っている。この女二の宮の母女御に昔思いを寄せていて、入内後もやはり思い離れない様子で便りを交わしたりして、ついには宮をいただこうという心がついて、御後見を望む様子を漏らし申し上げたが、帝はお聞き入れにさえならなかったので、たいそう不愉快に思って、「人柄は本当に格別な宿縁のようだが、どうして時の帝がこうも大げさに婿を大切になさるのか、またとあるまい。九重の内の帝のいらっしゃる御殿近くで、臣下が打ち解けてお仕えして、果ては宴だ何だと持てはやされることよ」などとひどく非難してつぶやき申し上げたが、さすがに見たかったので参って、心の内では腹を立てていた。
- 1大大たい將將しょうののの御御おん笛笛ふえはははけふけふきょうぞぞぞ世世よににになきなきなき音音ねのののかぎりかぎりかぎりははは吹吹ふきききたてたてたて給給たまひひいけるけるける。。。殿殿てん上上じょう人人びとののの中中なかにににもももさうがさうがそうがにににつきなからつきなからつきなからぬぬぬどもどもどもははは召召めししし出出いでででつゝつゝつつ、、、いといといとおもしろうおもしろうおもしろう遊遊あそぶぶぶ。。。宮宮みやののの御御おん方方かたよりよりよりふずくふずくふずくまゐりまゐりまいり給給たまふふう。。。沈沈じんののの折折おし敷敷き四四よつつつ、、、紫紫し檀檀たんのののたかつきたかつきたかつき、、、藤藤ふじのののむらごむらごむらごののの打打うち敷敷しきにににをりをりおりえだえだえだぬひぬひぬいたりたりたり。。。しろがねしろがねしろがねのののやうきやうきようき、、、瑠瑠る璃璃りののの御御おんさかづきさかづきさかずき、、、瓶瓶へい子子じははは紺紺こん瑠瑠る璃璃りなりなりなり。。。兵兵ひょう衛衛え督督のかみまかなひまかなひまかない仕仕つこうううまつりまつりまつり給給たまふふう。。。御御おん盃盃さかずきまゐりまゐりまいり給給たまふふうににに、、、おとゞおとゞおとどしきりしきりしきりてててはははびんなかるびんなかるびんなかるべしべしべし、、、宮宮みや達達たちののの御御おん中中なかににに、、、はたはたはたさるべきさるべきさるべきおはせおはせおわせねねねばばば大大たい將將しょうにににゆづりゆづりゆずり聞聞きこえええ給給たまふふうををを憚憚はばかりりり申申もうししし給給たまへへえどどど、、、御御おん氣色氣色けしきもももいかゞいかゞいかがありありありけむけむけん御御おん盃盃さかずき捧捧ささげげげててて、、、「「「をしをしをし」」」とととのたまへのたまへのたまえるるるこわこわこわづかひづかひずかいもてもてもてなしなしなしさへさへさへ例例れいのののおほやけおほやけおおやけごとごとごとなれなれなれどどど人人ひとににに似似にずずず見見みゆるゆるゆるももも、、、けふけふきょうはははいとゞいとゞいとどみみみなしなしなしさへさへさへ添添そふふうにににやややあらあらあらむむん。。。さしさしさし返返かえししし給給たまはりはりわりててて、、、おりおりおりててて舞舞ぶ踏踏とうししし給給たまへへえるるる程程ほどいといといとたぐひたぐひたぐいなしなしなし。。。上上じょう﨟﨟ろうのののみみみ子子こ達達たちおとゞおとゞおとどなどなどなどのののたまはりたまはりたまわり給給たまふふうだにだにだに、、、めでたきめでたきめでたきことことことなるなるなるををを、、、これこれこれはははましてましてまして御御おん婿婿むこにてにてにて、、、もてもてもてはやさはやさはやされれれ奉奉たてまつりりり給給たまへへえるるる御御おんおぼえおぼえおぼえおろかおろかおろかならならならずずず珍珍めずしきしきしきににに、、、かぎりかぎりかぎりあれあれあればばばくだりくだりくだりたるたるたる座座ざににに歸歸かえりりりつきつきつき給給たまふふう程程ほど、、、心苦心苦こころぐるしきしきしきまでまでまでぞぞぞなむなむなん見見みえええけるけるける。。。
- 2按按あ察察ぜちののの大大だい納納な言言ごんははは我我わこそこそこそかゝるかゝるかかるめめめももも見見みむむんととと思思おもひひいしかしかしか、、、ねたねたねたのののわざわざわざやややととと思思おもひひい居居い給給たまへへえりりり。。。このこのこの宮宮みやののの御御おん母母はは女女にょう御御ごをををぞぞぞ昔昔むかし心心こころかけかけかけ聞聞きこえええ給給たまへへえりりりけるけるけるををを參參まいりりり給給たまひひいててて後後のちももも猶猶なお思思おもひひいはなれはなれはなれぬぬぬさまさまさまににに聞聞きこえええかよはしかよはしかよわしなどなどなどししし給給たまひひいててて、、、はてはてはてははは宮宮みやをををえええ奉奉たてまつらららむむんののの心心こころつきつきつきたりたりたりけれけれければばば御御おん後後うしろ見見み望望のぞむむむ氣色氣色けしきもらしもらしもらし申申もうしししけれけれけれどどど、、、聞聞きこししし召召めしししだにだにだに傳傳つたへへえずずずなりなりなりにににけれけれければばばいといといと心心こころやましやましやましととと思思おもひひいててて「「「人人ひとがらがらがらはははげにげにげにちぎりちぎりちぎりことことことなななめれめれめれどどど、、、なぞなぞなぞ時時ときののの帝帝みかどのののかくかくかくおどろおどろしきおどろおどろしきおどろおどろしきまでまでまで、、、むこむこむこかしづきかしづきかしずきししし給給たまふふうべきべきべき、、、またまたまたあらあらあらじじじかしかしかし。。。九九ここの重重へののの內內うちにににおはしますおはしますおわします殿殿との近近ちかきききほどほどほどにてにてにて唯唯ただ人人びとののの打打うちちち解解とけけけ侍侍さぶらひひいててて、、、はてはてはてははは宴宴えんややや何何なにやややととともてもてもてさわがさわがさわがるゝるゝるることことことははは」」」などなどなどいみじういみじういみじゅうそしりそしりそしりつぶやきつぶやきつぶやき申申もうししし給給たまひひいけれけれけれどどど、、、さすがさすがさすがにににゆかしけれゆかしけれゆかしければばば參參まいりりりててて心心こころののの中中うちにににぞぞぞ腹腹はら立立だちちちゐゐい給給たまひひいけるけるける。。。
現代語訳
大将の御笛は、今日こそ世にない音色の限りを吹き立てなさった。殿上人の中でも、唱歌に似つかわしい者たちは呼び出されては、たいそう趣深く遊ぶ。宮の御方から粉熟を差し上げなさる。沈の折敷四つ、紫檀の高坏、藤の斑濃の打敷に折り枝を刺繍してある。銀の様器、瑠璃の御盃、瓶子は紺瑠璃である。兵衛督がお給仕申し上げなさる。御盃を差し上げなさるのに、大臣が続けて務めるのは不都合だろう、親王たちの御中にも、またふさわしい方がいらっしゃらないので、大将にお譲り申し上げなさるのを、遠慮申し上げなさるが、帝のご意向もどうだったのだろうか、御盃を捧げて「をし」とおっしゃった声づかいや振る舞いまでも、いつもの公事ではあるが人に似ずに見えるのも、今日はいっそう見る目のひいきまでも加わるのだろうか。盃を返し賜って、下りて舞踏なさる様子は、たいそう類がない。上臈の親王たちや大臣などがいただきなさるのでさえ、めでたいことなのに、これはまして御婿として持てはやされ申し上げなさるご寵愛は並々でなく珍しいが、身分に限りがあるので、下座に帰り着きなさる様子は、心苦しいほどに見えたのだった。
按察大納言は、自分こそこのような目を見たいと思っていたのに、悔しいことよと思っていらっしゃった。この宮の御母女御に昔思いを寄せ申し上げていらっしゃったのを、入内なさって後もやはり思い離れない様子で便りを交わしたりなさって、ついには宮をいただこうという心がついたので、御後見を望む様子を漏らし申し上げたが、帝はお聞き入れにさえならなかったので、たいそう不愉快だと思って、「人柄は本当に格別な宿縁のようだが、どうして時の帝がこうも大げさに婿を大切になさるのか、またとあるまい。九重の内の帝のいらっしゃる御殿近くで、臣下が打ち解けてお仕えして、果ては宴だ何だと持てはやされることよ」などと、ひどく非難してつぶやき申し上げなさったが、さすがに見たかったので参上して、心の内では腹を立てていらっしゃった。
意訳
薫は柏木の笛で世にない音色を吹き、宴は趣深く進む。女二の宮方から豪華な器で粉熟が出される。帝への盃は薫に譲られ、薫は盃を捧げ、返された盃を受けて舞踏する。婿として格別の栄誉を受けながら、身分ゆえに下座に戻る薫の姿は心苦しいほどである。女二の宮の母女御に思いを寄せ、女二の宮を望んでいた按察大納言は、帝の婿遇を非難しながらも宴に参じ、内心腹を立てている。
語釈・文法注
文法
- 「をし」(「をし」とのたまへるこわづかひ)
- 帝に盃を勧める時の作法の言葉。
- 「舞踏」(おりて舞踏し給へる程)
- 拝舞。賜り物に対する礼の作法。
- 「按察の大納言」(按察の大納言は我こそかゝるめも見むと思ひしか)
- 紅梅大納言。柏木の弟。女二の宮の母藤壺の女御に思いを寄せていた。
解説
薫は帝から格別の栄誉を受けるが、身分は臣下であり、下座に戻らねばならない。華やかな宴の中に、臣下の婿という立場の微妙さが描かれる。
按察大納言の嫉妬は、宴の華やかさの裏にある人間関係の複雑さを示す。薫の栄誉は、他の人々の失意の上に成り立っている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1056–1059頁(コマ239–240)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日