源氏物語 第49帖 宿木(52)
若君を見る薫
中の君は、今はいくら何でも面倒だったとりとめない恋心などは紛れてしまわれただろうと安心して対面した。けれども薫は以前のままの様子で、まず涙ぐんで「心にもない宮仕え(女二の宮との結婚)は、ますます思いのほかのものだと、世を思い乱れることばかりがまさってしまいました」と、遠慮なく嘆く。中の君は「たいそうとんでもないことです。人が自然とほのかにでも漏れ聞くかもしれません」などとはおっしゃるが、これほどすばらしいことにも慰まず、姉君を忘れがたく思っていらっしゃるだろう心の深さよと哀れに思うにつけ、並々でなく思い知られる。生きていらしたらと残念に思い出すが、それも自分の有様のように、人をうらやむことなく我が身を恨むことになっただろう、何事も人数に入らない身では世間並みの体裁もあるまいと思うにつけ、ますますあの打ち解けないまま終わろうとお思いになった姉君のお考えは、やはり格別に重々しく思い出される。薫が若君をしきりに見たがるので、中の君は恥ずかしいが、どうして隔てた顔をしようか、無理なこと一つで恨まれる以外は、何とかしてこの人のお心に背くまいと思って、自分では何ともお返事せず、乳母に若君を差し出させた。言うまでもないことなので、憎らしいはずがあろうか。不吉なほど色白で可愛らしく、高い声で何か言って笑っている顔を見ると、自分の子として見たく、うらやましいのも、世を思い離れにくくなったからだろうか。けれども、言うかいもなく亡くなった方が世間並みの有様で、このような子を残しておいてくださったらとばかり思われて、この頃面目の立つ女二の宮の方に早く子をなどとは思いも寄らないのは、あまりにどうしようもない君のお心のようだ。こう女々しくひねくれて語り伝えるのは気の毒なことだ。
- 1今今いまはははさりともさりともさりともむつかしかりむつかしかりむつかしかりしししすゞろすゞろすずろごとごとごとなどなどなどははは思思おもひひいまぎれまぎれまぎれ給給たまひひいにににたらたらたらむむんととと心心こころ安安やすくくくてててたいめたいめたいめししし給給たまへへえりりり。。。されどされどされどありありありしししながらながらながらののの氣色氣色けしきにににまづまづまず淚淚なみだぐみぐみぐみててて「「「心心こころにににもももあらあらあらぬぬぬまじらひまじらひまじらい、、、いとゞいとゞいとど思思おもいのののほかほかほかなるなるなるものものものにににこそこそこそととと、、、世世よををを思思おもひひい給給たまへへえ亂亂みだるゝるゝるることことことのみのみのみなむなむなんまさりまさりまさりにににたるたるたる」」」ととと、、、あいだちあいだちあいだちなくなくなくぞぞぞ憂憂うれへへえ給給たまふふう。。。「「「いといといとあるあるあるまじきまじきまじき御御おんことことことかなかなかな。。。人人ひともももこそこそこそおのづからおのづからおのずからほのかほのかほのかにににももも漏漏もりりり聞聞きききき侍侍はべれれれ」」」などなどなどはははのたまへのたまへのたまえどどど、、、かばかりかばかりかばかりめでたげめでたげめでたげなるなるなる事事ことどもどもどもにににもももなぐさまなぐさまなぐさまずずず忘忘わすれれれがたうがたうがとう覺覺おぼえええ給給たまふふうらむらむらん心心こころ深深ぶかさささよよよととと哀哀あわれににに思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまふふうににに、、、おろかおろかおろかにににもももあらあらあらずずず思思おもひひい知知しららられれれたまふたまふたまう。。。おはせおはせおわせましかましかましかばばばととと口口くち惜惜おしうしうしゅう思思おもひひい出出いででで聞聞きこえええ給給たまへへえどどど、、、それそれそれもももわがわがわが有有あり樣樣さまのののやうやうようにににうらやみうらやみうらやみなくなくなく身身みををを怨怨うらむむむべかりべかりべかりけるけるけるかしかしかし何何なに事事ことももも數數かずならならならでででははは世世よののの人人ひとめかしきめかしきめかしきことことこともももあるあるあるまじかりまじかりまじかりけりけりけりととと覺覺おぼゆるゆるゆるにににぞぞぞ、、、いとゞいとゞいとどかのかのかの打打うちちち解解とけけけはてはてはてゝゝてやみやみやみなななむむんととと思思おもひひい給給たまへへえりりりししし御御おん心心こころおきておきておきてははは猶猶なお殊殊ことににに重重おも々々おもしうしうしゅう思思おもひひい出出いでででられられられ給給たまふふう。。。
- 2若若わか君君ぎみをををせちせちせちにににゆかしがりゆかしがりゆかしがり聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、恥恥はずかしけれしけれしけれどどど何何なにかかかはははへだてへだてへだて顏顏がおにににもももあらあらあらむむん、、、わりなきわりなきわりなきことことことひとつひとつひとつにににつけつけつけててて怨怨うらみみみらるゝらるゝらるるよりよりよりほかほかほかにににはははいかでいかでいかでこのこのこの人人ひとののの御心御心みこころにににたがはたがはたがわじじじとととおぼしおぼしおぼしててて、、、自自みずからららはははともともともかくかくかくもももいらへいらへいらえ聞聞きこえええ給給たまははわででで、、、めのとめのとめのとしししてててさしさしさしいでいでいでさせさせさせ給給たまへへえりりり。。。さらさらさらなるなるなることことことなれなれなればばば、、、にくげにくげにくげならならならむむんやややははは。。。ゆゝしきゆゝしきゆゆしきまでまでまで白白しろくくく美美うつくしうくしうくしゅうててて、、、たかやかたかやかたかやかににに物物もの語語がたりししし、、、うちうちうちゑみゑみえみ給給たまへへえるるる顏顏かおををを見見みるるるににに我我わがががものものものにてにてにて見見みまほしうまほしうまほしゅう、、、うらやましきうらやましきうらやましきももも世世よののの思思おもひひいはなれはなれはなれがたくがたくがたくなりなりなりぬるぬるぬるにににやややあらあらあらむむん。。。されどされどされどいふかひいふかひいうかいなくなくなくなりなりなり給給たまひひいにににししし人人ひとののの世世よののの常常つねののの有有あり樣樣さまにてにてにてかやうかやうかようならならならむむん人人ひとをををもももとゞめとゞめとどめおきおきおき給給たまへへえらららましかましかましかばばばとととのみのみのみ覺覺おぼえええててて、、、このこのこの頃頃ころおもだゝしげおもだゝしげおもだたしげなるなるなる御御おんあたりあたりあたりににに、、、いつしかいつしかいつしかなどなどなどははは思思おもひひいよらよらよらぬぬぬこそこそこそあまりあまりあまりすべすべすべなきなきなき君君きみののの御心御心みこころなななめれめれめれかくかくかくめゝしくめゝしくめめしくねぢけねぢけねじけててて、、、まねびまねびまねびなすなすなすこそこそこそいとほしけれいとほしけれいとおしけれ。。。
現代語訳
中の君は、今はいくら何でも、面倒だったとりとめない恋心などは紛れてしまわれたでしょうと安心して、対面なさった。けれども薫は以前のままの様子で、まず涙ぐんで、「心にもない交わりは、ますます思いのほかのものだと、世を思い乱れることばかりがまさってしまいました」と、遠慮なく嘆きなさる。中の君は「たいそうとんでもないことです。人が自然とほのかにでも漏れ聞くかもしれません」などとはおっしゃるが、これほどすばらしいことどもにも慰まず、忘れがたく思われなさるのだろう心の深さよと、哀れにお思い申し上げなさるにつけ、並々でなく思い知られなさる。生きていらっしゃったらと残念に思い出し申し上げなさるが、それも自分の有様のように、人をうらやむことなく我が身を恨むことになっただろう、何事も人数に入らない身では世間並みの体裁もないものだったと思われるにつけて、ますますあの打ち解けないまま終わってしまおうとお思いになった姉君のお考えは、やはり格別に重々しく思い出されなさる。
薫が若君をしきりに見たがり申し上げなさるので、中の君は恥ずかしいけれど、どうして隔てた顔をしようか、無理なこと一つにつけて恨まれる以外は、何とかしてこの人のお心に背くまいとお思いになって、ご自分では何ともお返事申し上げなさらず、乳母に差し出させなさった。言うまでもないことなので、憎らしいはずがあろうか。不吉なほど色白で可愛らしく、高い声で何か言って笑っていらっしゃる顔を見ると、自分の子として見たく、うらやましいのも、世を思い離れにくくなってしまったからだろうか。けれども、言うかいもなく亡くなった方が、世間並みの有様で、このような子を残しておいてくださったならばとばかり思われて、この頃面目の立つ女二の宮のあたりに、早く子をなどとは思いも寄らないのは、あまりにどうしようもない君のお心のようだ。このように女々しくひねくれて語り伝えるのは、気の毒なことだ。
意訳
中の君は、結婚した薫の恋心も紛れただろうと安心して対面するが、薫は相変わらず涙ぐみ、心にもない結婚で世を思い乱れていると嘆く。中の君は薫の心の深さを哀れに思い、姉が生きていても自分と同じく苦しんだだろうと思って、独身を貫いた姉の考えの重さを改めて知る。薫が若君を見たがるので、乳母に抱かせて見せる。薫は色白の愛らしい若君を見てうらやましく思い、大君がこのような子を残してくれていたらと思う。
語釈・文法注
文法
- 「心にもあらぬまじらひ」(心にもあらぬまじらひ)
- 本意でない交わり。女二の宮との結婚を言う。
- 「あいだちなく」(あいだちなくぞ憂へ給ふ)
- 遠慮なく、無愛想に。
- 「まねびなす」(かくめゝしくねぢけて、まねびなすこそいとほしけれ)
- 語り伝える。語り手の言葉。
解説
中の君は、姉が独身を貫いた意味を、自分の結婚生活を通して理解する。後見のない女性が身分の高い男性と結婚しても、苦しみは避けられない。大君の選択は、中の君の経験によって裏づけられる。
薫は女二の宮との間に子を望まず、大君の子を夢見る。語り手は薫を「めゝしくねぢけて」と評する。薫の大君への執着は、もはや健全さを失いつつある。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1054–1057頁(コマ238–239)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日