源氏物語 第49帖 宿木(47)
夕霧の迎え
女房は「二心がおありなのはつらいけれど、それももっともなことなので、やはり我が御前は幸運な方と申し上げましょう。このようなご様子に交わりなさるはずもなかった長年のお住まいに、また帰りたそうにお思いになっておっしゃるのが、たいそう情けないことです」などと、ずけずけ言うので、若い女房たちは「ああやかましい」と制する。匂宮は中の君に琴を教えなどしながら、三四日籠っていらして、物忌みなどを口実になさるのを、あちら(夕霧)の邸では恨めしく思って、大臣は宮中から退出したそのままここ二条院に参ったので、匂宮は大げさな様子で「何しに来たのだ」と不機嫌になるが、あちらの寝殿に渡って対面した。夕霧は「特別なことがない限りこの院を見ずに久しくなりますのも哀れで」など昔のお話を少し申し上げて、そのまま匂宮を引き連れて出ていった。ご子息の殿方や、ほかの上達部や殿上人などもたいそう多く引き続いていらっしゃる、そのご威勢のものものしさを見ると、中の君は並ぶべくもないのがつらかった。女房たちはのぞいて拝見して、「何と清らかでいらっしゃる大臣でしょう。あれほどどなたも若く盛りで美しくいらっしゃるご子息たちも、似ていらっしゃる方はいませんでした。ああすばらしい」と言う者もいれば、また「あれほど高貴なご様子で、わざわざお迎えに参られたのは憎らしい。穏やかでない世だこと」などと嘆く者もいるだろう。中の君ご自身も、昔を思い出すのをはじめとして、あの華やかなお仲間に交わるべくもない、かすかな身の評判よと、いよいよ心細いので、やはり気安く宇治に籠っているのだけが見苦しくないだろうなどと、ますます思われる。はかなく年も暮れた。正月の末頃から中の君がいつもと違う様子で苦しまれるので、匂宮はまだご覧になったことのないことで、どうなるのだろうとお嘆きになって、御修法などをあちこちでたくさんさせなさる。
- 1「「「ふたふたふたごゝろごゝろごころおはしますおはしますおわしますはははつらけれつらけれつらけれどどど、、、それそれそれもももことわりことわりことわりなれなれなればばば猶猶なおわがわがわがおおお前前まえをををばばばさいはひさいはひさいわいびとびとびとゝゝとこそこそこそ申申もうさささめめめ。。。かゝるかゝるかかる御御おんありさまありさまありさまにににまじらひまじらひまじらい給給たまふふうべくべくべくもももあらあらあらざりざりざりししし年年とし頃頃ごろののの御御おん住住すまひまひまいををを又又また歸歸かえりりりなななまほしげまほしげまほしげにににおぼしおぼしおぼしてててのたまはするのたまはするのたまわするこそこそこそいといといと心心こころうけれうけれうけれ」」」などなどなど、、、たゞたゞただいひいひいいにににいへいへいえばばば、、、若若わかききき人々人々ひとびとははは、、、「「「あなあなあなかまかまかまややや」」」ととと制制せいすすす。。。御御おんことことことどもどもども敎敎おしへへへ奉奉たてまつりりりなどなどなどしししつゝつゝつつ、、、三三み四四よ日日か籠籠こもりりりおはしおはしおわしててて、、、御御おん物物もの忌忌いみなどなどなどことことことつけつけつけ給給たまふふうををを、、、かのかのかの殿殿とのにににはははうらめしくうらめしくうらめしくおぼしおぼしおぼしててて、、、おとゞおとゞおとどうちうちうちよりよりより出出いででで給給たまひひいけるけるけるまゝまゝままににに此處此處ここににに參參まいりりり給給たまへへえれれればばば、、、宮宮みやことごとしげことごとしげことごとしげなるなるなるさまさまさましししててて、、、「「「何何なにしししにににいましいましいましつるつるつるぞぞぞとととよよよ」」」とととむつかりむつかりむつかり給給たまへへえどどど、、、あなたあなたあなたににに渡渡わたりりり給給たまひひいてててたいめたいめたいめししし給給たまふふう。。。「「「ことことことなるなるなることことことなきなきなき程程ほどはははこのこのこの院院いんををを見見みででで久久ひさしうしうしゅうなりなりなり侍侍はべるるるももも哀哀あわれにににこそこそこそ」」」などなどなど昔昔むかしののの御御おん物物もの語語がたりなどなどなど少少すこししし聞聞きこえええ給給たまひひいててて、、、やがてやがてやがてひきひきひきつれつれつれ聞聞きこえええ給給たまひひいててて出出いででで給給たまひひいぬぬぬ御御み子子こどもどもどもののの殿殿とのばらばらばら、、、さらさらさらぬぬぬ上上かん達達だち部部め殿殿てん上上じょう人人びとなどなどなどもももいといといと多多おおくくくひきひきひき續續つづききき給給たまへへえるるる、、、御御おんいきほひいきほひいきおいこちたきこちたきこちたきををを見見みるるるににに、、、ならぶならぶならぶべくべくべくもももあらあらあらぬぬぬぞぞぞくしいたかりくしいたかりくしいたかりけるけるける。。。
- 2人々人々ひとびとのぞきのぞきのぞきててて見見み奉奉たてまつりりりててて、、、「「「さささももも淸淸きよらにらにらにおはしおはしおわしけるけるけるおとゞおとゞおとどかなかなかな。。。さばかりさばかりさばかりいづれいづれいずれととともももなくなくなく若若わこうううさかりさかりさかりにてにてにて淸淸きよげげげにににおはさうずるおはさうずるおわそうずる御御み子子こどもどもどもののの似似に給給たまふふうべきべきべきもももなかりなかりなかりけりけりけり。。。あなあなあなめでためでためでたややや」」」ととといふいふいうもももありありあり、、、又又また「「「さばかりさばかりさばかりやんごとなげやんごとなげやんごとなげなるなるなる御御おんさまさまさまにてにてにて、、、わざとわざとわざと御御おん迎迎むかえににに參參まいりりり給給たまへへえるるるこそこそこそにくけれにくけれにくけれ。。。やすげやすげやすげなななののの世世よややや」」」などなどなど打打うちちち歎歎なげくくくもももあるあるあるべしべしべし。。。御御おん自自みずからららもももきききししし方方かたををを思思おもひひい出出いづるづるずるよりよりよりはじめはじめはじめ、、、かのかのかの華華はなやかやかやかなるなるなる御御おんなからひなからひなからいににに立立たちちちまじるまじるまじるべくべくべくもももあらあらあらずずず、、、かすかかすかかすかなるなるなる身身みのののおぼえおぼえおぼえをををととといよいよいよいよいよいよ心心こころぼそけれぼそけれぼそければばば、、、猶猶なお心心こころ安安やすくくく籠籠こもりりり居居いなななむむんのみのみのみこそこそこそめやすからめやすからめやすからめめめなどなどなどいとゞいとゞいとど覺覺おぼえええ給給たまふふう。。。はかなくはかなくはかなくててて年年としももも暮暮くれれれぬぬぬむつきむつきむつきのののつごもりつごもりつごもりがたがたがたよりよりより例例れいならならならぬぬぬさまさまさまににに惱惱なやみみみ給給たまふふうををを、、、宮宮みや又又また御御ご覽覽らんじじじ知知しらららぬぬぬことことことにてにてにて、、、いかならいかならいかならむむんとととおぼしおぼしおぼし歎歎なげきききててて、、、みみみずずずほふほふほうなどなどなど所所ところ々々どころにてにてにてあまたあまたあまたせせせさせさせさせ給給たまふふう。。。
現代語訳
女房は「二心がおありなのはつらいけれど、それももっともなことなので、やはり我が御前を、幸運な方と申し上げましょう。このようなご様子に交わりなさるはずもなかった長年のお住まいに、また帰りたそうにお思いになっておっしゃるのが、たいそう情けないことです」などと、ずけずけと言うので、若い女房たちは「ああ、やかましい」と制する。匂宮は御琴などを教え申し上げたりしながら、三四日籠っていらっしゃって、御物忌みなどを口実になさるのを、あちらの邸では恨めしくお思いになって、大臣は宮中から退出なさったそのままここに参上なさったので、匂宮は大げさな様子で「何しに来なさったのだ」と不機嫌になりなさるが、あちらに渡りなさって対面なさる。夕霧は「特別なことがない限り、この院を見ずに久しくなりますのも、哀れでございます」など昔のお話などを少し申し上げなさって、そのまま匂宮を引き連れ申し上げてお出になった。ご子息の殿方や、そのほかの上達部や殿上人なども、たいそう多く引き続いていらっしゃる、そのご威勢のものものしさを見ると、中の君は並ぶべくもないのがつらかった。
女房たちはのぞいて拝見して、「何と清らかでいらっしゃる大臣でしょう。あれほど、どなたとも区別なく若く盛りで美しくいらっしゃるご子息たちも、似ていらっしゃる方はいませんでした。ああすばらしい」と言う者もあり、また「あれほど高貴なご様子で、わざわざお迎えに参られたのは憎らしいこと。穏やかでない世だこと」などと嘆く者もいるだろう。中の君ご自身も、昔を思い出すのをはじめとして、あの華やかなお仲間に立ち交わるべくもない、かすかな身の評判よと、いよいよ心細いので、やはり気安く籠っているのだけが見苦しくないだろうなどと、ますます思われなさる。はかなく年も暮れた。正月の末頃から、いつもと違う様子でお苦しみになるのを、匂宮はまだご覧になったことのないことで、どうなるのだろうとお嘆きになって、御修法などをあちこちでたくさんおさせになる。
意訳
年配の女房は、匂宮の二心は仕方ないから中の君は幸運だと言い、宇治に帰りたがる中の君を責める。匂宮は三四日二条院に籠り、夕霧が自ら迎えに来る。夕霧は大勢の子息や殿上人を連れ、その威勢に中の君は自分の身のはかなさを思い知る。女房たちは夕霧の立派さをほめたり、迎えに来たことを恨んだりする。年が明け、正月末から中の君は産気づき、匂宮は修法を行わせる。
語釈・文法注
文法
- 「さいはひびと」(猶わがお前をばさいはひびとゝこそ申さめ)
- 幸運な人。
- 「あなかまや」(「あなかまや」と制す)
- ああやかましい。黙りなさい。
- 「くしいたかりける」(ならぶべくもあらぬぞくしいたかりける)
- 屈し甚かりける。ひどく気が滅入った。
解説
夕霧が自ら婿を迎えに来る。その威勢は、後見のない中の君の立場の弱さを浮き彫りにする。中の君は華やかな世界に自分の居場所はないと感じる。
正月末、中の君の出産が近づく。匂宮は初めての経験に慌て、修法を行わせる。中の君の出産は、二条院での立場を大きく変えることになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1050–1051頁(コマ236)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日