源氏物語 第49帖 宿木(46)
菊と箏の琴
中の君は、秋の終わる野辺の様子も、篠薄がほのかに揺れる風によって知るのです、我が身一つの、と言って涙ぐむのが、さすがに恥ずかしいので扇で紛らわしていらっしゃる心の内も可憐に推し量られるが、匂宮は、こうだからこそ人(薫)も思い離れられないのだろうと疑わしいのが、ただならず恨めしいのだろう。菊がまだすっかり色変わりせず、わざわざ手入れさせているのはかえって遅いのに、どういう一株なのだろう、たいそう見どころがあって色変わりしているのを特に折らせて、「花の中にひとへに」と口ずさんで、「何某の親王がこの花を愛でた夕べだったよ、昔天人が天翔けて琵琶の手を教えたのは。何事も浅くなった世は嫌なものだ」と言って琵琶を置くのを、中の君は残念にお思いになって、「心こそ浅くもなったでしょうが、昔から伝わったことまでどうしてそうでしょう」と言って、知らない曲などを聞きたそうに思っていらっしゃるので、匂宮は「それなら一人で弾くのは寂しいので合わせてください」と言って人を呼んで箏の琴を取り寄せて弾かせようとするが、中の君は「昔は習う人もいらっしゃいましたが、しっかりと習い覚えずに終わってしまいましたので」と遠慮がちで手も触れないので、匂宮は「これくらいのことにも隔てをお置きになるのが情けない。この頃通う所(六の君)は、まだたいそう打ち解けるほどでもないが、未熟な初めての手も隠さないのに。すべて女は柔らかく素直なのがよいと、あの中納言も決めているようだった。あの君にはこうも慎みなさるまい、この上ないお仲のようだから」などと真剣に恨まれて、中の君は嘆いて少し調べを合わせる。弦が緩んでいたので、盤渉調に合わせる。掻き合わせなどの爪音が趣深く聞こえる。匂宮が「伊勢の海」を謡うお声が上品で趣深いのを、女房たちは物の後ろに近づいて参り、満面の笑みを浮かべている。
- 1「「「秋秋あきはづるはづるはずるのべのべのべののの氣色氣色けしきもももしのしのしのずゝきずゝきずすきほのめくほのめくほのめく風風かぜにににつけつけつけてててこそこそこそしれしれしれ。。。我我わががが身身みひとつひとつひとつののの」」」とてとてとて淚淚なみだぐまぐまぐまるゝるゝるるがががさすがさすがさすがににに恥恥はずかしけれしけれしければばば扇扇おうぎをををまぎらはしまぎらはしまぎらわしててておはするおはするおわする心心こころののの中中うちもももらうたくらうたくろうたくおしはからおしはからおしはからるれるれるれどどど、、、かゝるかゝるかかるにににこそこそこそ人人ひともももえええ思思おもひひいはなたはなたはなたざらざらざらめめめととと疑疑うたがはしきはしきわしきがががたゞたゞただならならならでででうらめしきうらめしきうらめしきなななめりめりめり。。。菊菊きくのののまだまだまだよくよくよくもももうつろひうつろひうつろいはてはてはてゞゞで、、、わざとわざとわざとつくろひつくろひつくろいたてたてたてさせさせさせ給給たまへへえるるるはははなかなかなかなかなかなかおそきおそきおそきににに、、、いかなるいかなるいかなるひとひとひともともともとにににかかかあらあらあらむむん。。。いといといと見見み所所どころありありありてててうつろひうつろひうつろいたるたるたるをををとりわきとりわきとりわきててて折折おらららせせせ給給たまひひいててて、、、「「「花花はなののの中中なかにににひとへひとへひとえににに」」」とととずじずじずじ給給たまひひいててて、、、「「「なにがしなにがしなにがしのののみこみこみこののの、、、このこのこの花花はなめでめでめでたるたるたる夕夕ゆうべぞぞぞかしかしかし、、、いにしへいにしへいにしえ天天てん人人にんのののかけりかけりかけりててて琵琵び琶琶はののの手手て敎敎おしへへへけるけるけるははは。。。何何なに事事ことももも淺淺あさくくくなりなりなりにににたるたるたる世世よははは物物ものうしうしうしややや」」」とてとてとて御御おん琴琴ことさしさしさしおきおきおき給給たまふふうををを、、、口口くち惜惜おしししとととおぼしおぼしおぼしててて、、、「「「心心こころこそこそこそ淺淺あさくくくもももあらあらあらめめめ、、、昔昔むかしををを傳傳つたへへえたらたらたらむむんことことことさへさへさへはははなどなどなどてててかかかさしもさしもさしも」」」とてとてとて、、、覺束覺束おぼつかなきなきなき手手てなどなどなどをををゆかしげゆかしげゆかしげにににおぼいおぼいおぼいたれたれたればばば「「「さらばさらばさらばひとりひとりひとりごとごとごとはははさうざうしきさうざうしきそうぞうしきにににさしさしさしいらへいらへいらえししし給給たまへへえかしかしかし」」」とてとてとて人人ひと召召めしししててて箏箏そうののの御御おん琴琴こととりとりとりよせよせよせさせさせさせててて彈彈ひかかかせせせたてまつりたてまつりたてまつり給給たまへへえどどど「「「昔昔むかしこそこそこそまねぶまねぶまねぶ人人ひとものものものししし給給たまひひいしかしかしかどどど、、、はかばかしうはかばかしうはかばかしゅう聞聞ききききもももとめとめとめずずずなりなりなりにににしししものものものををを」」」とてとてとてつゝましげつゝましげつつましげにてにてにて手手てもももふれふれふれ給給たまははわねねねばばば、、、
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現代語訳
中の君は「秋の終わる野辺の様子も、篠薄がほのかに揺れる風によって知るのです。我が身一つの」と言って涙ぐまれるのが、さすがに恥ずかしいので、扇で紛らわしていらっしゃる心の内も可憐に推し量られるが、匂宮は、こうだからこそ人も思い離れられないのだろうと疑わしいのが、ただならず恨めしいのであろう。菊がまだすっかり色変わりしきらず、わざわざ手入れさせなさっているのは、かえって遅いのに、どういう一株なのだろう。たいそう見どころがあって色変わりしているのを、特に折らせなさって、「花の中にひとへに」と口ずさみなさって、「何某の親王がこの花を愛でた夕べだったよ、昔天人が天翔けて琵琶の手を教えたのは。何事も浅くなってしまった世は嫌なものだ」と言って御琴を置きなさるのを、中の君は残念にお思いになって、「心こそ浅くもなったでしょうが、昔を伝えたようなことまでも、どうしてそうでしょう」と言って、おぼつかない手などを聞きたそうにお思いになっているので、匂宮は「それなら一人で弾くのは寂しいので、合わせてください」と言って人を呼んで箏の御琴を取り寄せさせて、お弾かせ申し上げなさるが、中の君は「昔は習う人もいらっしゃいましたが、しっかりと聞き覚えずに終わってしまいましたので」と言って、遠慮がちで手もお触れにならないので、
匂宮は「これくらいのことにも隔てをお置きになるのが情けない。この頃通う所は、まだたいそう打ち解けるほどでもないけれど、未熟な初めての手も隠さないのに。すべて女は、柔らかく素直なのがよいと、あの中納言も決めているようだった。あの君には、また、こうも慎みなさるまい。この上ないお仲のようだから」などと真剣に恨まれて、中の君は嘆いて、少し調べを合わせなさる。弦が緩んでいたので、盤渉調にお合わせになる。掻き合わせなど、爪音が趣深く聞こえる。匂宮が「伊勢の海」を謡いなさるお声が上品で趣深いのを、女房たちは物の後ろに近づいて参り、満面の笑みを浮かべていた。
意訳
中の君は涙を扇で隠しながら秋の野辺の歌を返し、匂宮はその可憐さゆえに薫も離れられないのだろうと疑う。匂宮は色変わりした菊を折らせて古歌を口ずさみ、昔は天人が琵琶を教えたが今は浅い世だと琵琶を置く。中の君が続きを聞きたがると、匂宮は箏の琴を合わせるよう求める。中の君がためらうと、六の君でさえ隠さないのに、薫にはこう隠さないだろうと恨む。中の君は嘆いて箏を合わせ、匂宮は「伊勢の海」を謡う。女房たちは喜ぶ。
語釈・文法注
文法
- 「花の中にひとへに」(「花の中にひとへに」とずじ給ひて)
- 「是花中偏愛菊、此花開後更無花」(元稹)の一節。菊を愛でる詩。
- 「天人のかけりて琵琶の手敎へける」(いにしへ天人のかけりて琵琶の手敎へけるは)
- 天人が降りてきて琵琶の秘曲を伝えたという伝説。
- 「伊勢の海」(伊勢の海謠ひ給ふ)
- 催馬楽の曲名。
解説
匂宮は、六の君は未熟な手も隠さないと言って中の君を責める。他の妻と比べられる中の君の屈辱は大きいが、中の君は嘆きながらも箏を合わせる。夫婦の不和と和解が、音楽を通して描かれる。
匂宮は薫の名を出して中の君を責める。薫への疑いが、匂宮の言葉の端々に表れる。女房たちは二人の合奏を喜ぶが、その裏には緊張が潜んでいる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1048–1051頁(コマ235–236)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日