源氏物語 第49帖 宿木(45)
蔦の文と篠薄の歌
匂宮は「趣深い蔦だね」とただならずおっしゃって、取り寄せてご覧になる。お手紙には「この頃いかがお過ごしでしょう。山里におりまして、ますます峰の朝霧に惑いましたが、お話は直接に。あちらの寝殿を堂にすることは阿闍梨に言いつけておきました。お許しがあってこそほかへ移すこともいたしましょう。弁の尼君に然るべき仰せはお遣わしください」などとある。匂宮は「よくもまあ平然と書いた手紙だね。私がいると聞いたのだろう」とおっしゃるのも、少しは本当にそうだったかもしれない。中の君は何事もない文面をうれしく思うが、匂宮が強いてこうおっしゃるのを困ったことと思って恨めしげに座っていらっしゃるご様子は、万の罪も許したくなるほど美しい。匂宮は「お返事を書きなさい。私は見ないよ」と言って、よそを向いた。甘えて書かないのも妙なので、中の君は「山里へのお出かけがうらやましゅうございます。あちらは本当にそのようにするのがよいと思っておりましたが、ことさらにまた岩の中を求めるよりは、荒らしてしまわないようにと思っておりますので、どうか然るべき様にしてくださればありがたく存じます」と申し上げる。匂宮は、こうして憎らしい様子もない親しさのようだと見ながら、ご自分の心の癖から、ただではあるまいとお思いになるのが穏やかでないのだろう。枯れがれの前栽の中に、尾花がほかより格別に手を差し出して招くのが趣深く見えるうえに、まだ穂の出かかったのも、露を貫き止める玉の緒がはかなげになびいたりして、いつものことながら夕風はやはり哀れである。匂宮は、穂に出ない物思いをしているらしい、篠薄が招く袂の露がしげくて、と詠む。親しみやすい程度のお召し物に直衣だけを着て、琵琶を弾いていらっしゃる。黄鐘調の掻き合わせをたいそう哀れに弾きなさるので、中の君も心を寄せていらっしゃることなので、恨みきることもできず、小さな御几帳の端から脇息に寄りかかって、ほのかに顔を出していらっしゃるのが、たいそう見たいほど可憐である。
- 1宮宮みや「「「をかしきをかしきおかしき蔦蔦つたかなかなかな」」」とととたゞたゞただならならならずずずのたまひのたまひのたまいてててめしめしめしよせよせよせててて見見み給給たまふふう。。。御御おん文文ふみにににははは「「「日日ひ頃頃ごろ何何なに事事ことかかかおはしますおはしますおわしますらむらむらん。。。山山やま里里ざとににに侍侍はべりりりててていとゞいとゞいとど峯峯みねののの朝朝あさ霧霧ぎりににに惑惑まどひひい侍侍はべりりりつるつるつる、、、御御おん物物もの語語がたりもももみづからみづからみずからなむなむなん。。。かしこかしこかしこののの寢寢しん殿殿でん、、、堂堂どうににになすなすなすべきべきべきことことこと阿阿あ闍闍ざ梨梨りににに物物ものしししつけつけつけ侍侍はべりりりにににききき。。。御御おん許許ゆるししし侍侍はべりりりてててこそこそこそはははほかほかほかににに移移うつすすすことことことももも物物ものししし侍侍はべらららめめめ。。。辨辨べんののの尼尼あま君君ぎみにににさるべきさるべきさるべきおほせおほせおおせごとごとごとはははつかはせつかはせつかわせ」」」などなどなどぞぞぞあるあるある。。。「「「よくよくよくもももつれなくつれなくつれなく書書かききき給給たまへへえるるる文文ふみかなかなかな。。。まろまろまろありありありとととぞぞぞ聞聞ききききつらむつらむつらむ」」」とととのたまふのたまふのたまうももも少少すこしししはははげにげにげにさささやややありありありつらむつらむつらむ。。。女女おんな君君ぎみはははことことことなきなきなきををを嬉嬉うれしししととと思思おもひひい給給たまふふうににに、、、あながちあながちあながちにににかくかくかくのたまふのたまふのたまうをををわりなしわりなしわりなしとととおぼしおぼしおぼしてててうちうちうち怨怨えんじじじててて居居い給給たまへへえるるる御御おんさまさまさま、、、萬萬よろずののの罪罪つみももも許許ゆるしししつつつべくべくべくをかしをかしおかし。。。「「「返返かえり事事ごと書書かいいいたまへたまへたまえ。。。見見みじじじややや」」」とてとてとてほかほかほかざまざまざまにににそむきそむきそむき給給たまへへえりりり。。。あまえあまえあまえててて書書かかかかざらざらざらむむんももも怪怪あやしけれしけれしければばば、、、「「「山山やま里里ざとののの御御おんありきありきありきののの羨羨うらやしくしくしくももも侍侍はべるるるかなかなかな。。。かしこかしこかしこはははげにげにげにさやうさやうさようにてにてにてこそこそこそよくよくよくととと思思おもひひい給給たまへへえしししををを、、、殊殊こと更更さらににに又又またいはほいはほいわおののの中中なかもとめもとめもとめむむんよりよりよりははは、、、あらしあらしあらしはつはつはつまじうまじうまじゅう思思おもひひい侍侍はべるるるををを、、、いかにいかにいかにもももさるべきさるべきさるべきさまさまさまににになさなさなさせせせ給給たまははわゞゞばおろかおろかおろかならならならずずずなむなむなん」」」ととと聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 2かうかうこうにくきにくきにくき氣色氣色けしきもももなきなきなき御御おんむつびむつびむつびなななめりめりめりととと見見み給給たまひひいながらながらながら我我わががが御心御心みこころならひならひならいににに、、、たゞたゞただならならならじじじとととおぼすおぼすおぼすががが安安やすからからからぬぬぬなるなるなるべしべしべし。。。かれがれかれがれかれがれなるなるなる前前せん栽栽ざいののの中中なかににに尾尾お花花ばなのののものものものよりよりよりことことことににに手手てをををさしさしさし出出いでででゝゝて招招まねくくくがががをかしうをかしうおかしゅう見見みゆるゆるゆるににに、、、またまたまたほほほににに出出いでででさしさしさしたるたるたるももも露露つゆをををつらぬきつらぬきつらぬきとむるとむるとむる玉玉たまののの緖緖おはかなげはかなげはかなげにににうちうちうちなびきなびきなびきなどなどなど、、、例例れいのののことことことなれなれなれどどど夕夕ゆう風風かぜなほなほなお哀哀あわれなりなりなりかしかしかし。。。「「「ほほほにににいでいでいでぬぬぬものものもの思思おもふふうらしらしらししのしのしのずゝきずゝきずすき招招まねくくくたもとたもとたもとののの露露つゆしげくしげくしげくしししててて」」」。。。なつかしきなつかしきなつかしきほどほどほどののの御御おんぞぞぞどもどもどもににに直直のう衣衣しばかりばかりばかり着着きたまひたまひたまいててて琵琵び琶琶はををを彈彈ひきききゐゐいたまへたまへたまえりりり。。。わうしきわうしきおうしき調調じょうのののかきかきかきあはせあはせあわせをををいといといと哀哀あわれにににひきひきひきなしなしなし給給たまへへえばばば、、、女女おんな君君ぎみももも心心こころににに入入いりりり給給たまへへえるるることことことにてにてにて物物ものゑんじゑんじえんじもももえええしししはてはてはて給給たまははわずずず、、、ちひさきちひさきちいさき御御おん几几き帳帳ちょうのののつまつまつまよりよりより脇脇きょう息息そくににによりよりよりかゝりかゝりかかりててて、、、ほのかほのかほのかにににさしさしさしいでいでいで給給たまへへえるるるいといといと見見みまほしくまほしくまほしくらうたげらうたげろうたげなりなりなり。。。
現代語訳
匂宮は「趣深い蔦だね」と、ただならずおっしゃって、取り寄せてご覧になる。お手紙には「この頃いかがお過ごしでしょう。山里におりまして、ますます峰の朝霧に惑いましたが、お話も直接に。あちらの寝殿を堂にすべきことは、阿闍梨に言いつけておきました。お許しがございましてこそ、ほかへ移すこともいたしましょう。弁の尼君に、然るべき仰せごとはお遣わしください」などとある。匂宮は「よくもまあ平然と書きなさった手紙だね。私がいると聞いたのだろう」とおっしゃるのも、少しは本当にそうだったかもしれない。女君は何事もない文面をうれしくお思いになるのに、匂宮が強いてこうおっしゃるのを困ったこととお思いになって、恨めしげに座っていらっしゃるご様子は、万の罪も許してしまいそうなほど美しい。「お返事をお書きなさい。私は見ないよ」と言って、よそを向きなさった。甘えて書かないのも妙なので、中の君は「山里へのお出かけがうらやましゅうございます。あちらは本当にそのようにするのがよいと思っておりましたが、ことさらにまた岩の中を求めるよりは、荒らしてしまわないようにと思っておりますので、どうか然るべき様にしてくださいましたら、ありがたく存じます」と申し上げなさる。
匂宮は、こうして憎らしい様子もない親しさのようだとご覧になりながら、ご自分のお心の癖から、ただではあるまいとお思いになるのが穏やかでないのであろう。枯れがれの前栽の中に、尾花がほかより格別に手を差し出して招くのが趣深く見えるうえに、まだ穂の出かかったのも、露を貫き止める玉の緒がはかなげになびいたりなど、いつものことながら夕風はやはり哀れであるよ。「穂に出ない物思いをしているらしい、篠薄が招く袂の露がしげくて」。親しみやすい程度のお召し物に直衣だけをお召しになって、琵琶を弾いていらっしゃる。黄鐘調の掻き合わせを、たいそう哀れに弾きなさるので、女君も心を寄せていらっしゃることなので、恨みきることもおできにならず、小さな御几帳の端から脇息に寄りかかって、ほのかに顔を出していらっしゃるのが、たいそう見たいほど可憐である。
意訳
匂宮は薫から届いた蔦に目を留め、手紙を読む。手紙は宇治の寝殿を堂にする相談だったが、匂宮は自分がいると知って平然と書いたのだろうと皮肉を言う。中の君は恨めしげに座り、匂宮に促されて返事を書く。匂宮は、穂に出ない物思いをしている篠薄と歌を詠んで中の君を疑い、琵琶を弾く。中の君は琵琶の音に恨みも消え、几帳の端から顔をのぞかせる。
語釈・文法注
文法
- 「いはほの中もとめむ」(殊更に又いはほの中もとめむよりは)
- 「いかならむ巌の中に住まばかは世の憂きことの聞こえこざらむ」(古今集)による。世を逃れる所。
- 「しのずゝき」(ほにいでぬもの思ふらししのずゝき)
- 篠薄。穂に出ない(表に出さない)恋を思っているらしいと中の君を疑う匂宮の歌。
- 「わうしき調」(わうしき調のかきあはせ)
- 黄鐘調。雅楽の調子の一つ。秋にふさわしい調べ。
解説
匂宮は薫と中の君の仲を疑いながら、中の君の美しさに惹かれずにはいられない。疑いと愛情が、匂宮の中で絡み合う。
匂宮の琵琶の音に、中の君の恨みも和らぐ。音楽が二人の心を結び直す。疑い合いながらも惹かれ合う夫婦の姿が描かれる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1048–1049頁(コマ235)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日