源氏物語 第49帖 宿木(39)
浮舟の身の上
中の君は「さあ、亡き父宮のお許しもなかったことを、こうまで漏らし申し上げるのも一方ではたいそう口が軽いのですが、変化の工匠をお求めになるお気の毒さに、こうして」と言って、「たいそう遠い所に長年過ごしていたのを、母である人がたいそう嘆かわしいことに思って強いて訪ねて寄ってきたのを、きまり悪く応対もできずにおりましたところに、来たのです。ほのかだったからか、何事も思っていたよりは見苦しくなく見えました。この娘をどのように扱おうかと嘆いているようでしたが、仏にするのはこの上ないことでしょう。そこまではどうでしょうか」などと申し上げる。薫は、さりげなくこの煩わしい恋心を何とかして放してしまいたいと中の君が思っていると見るのはつらいが、さすがに哀れである。あるまじきこととは深く思っていらっしゃるものの、あらわにきまり悪い扱いはなさらないのも、自分の心を分かっていらっしゃるからだろうと思う心のときめきに、夜もすっかり更けていくので、中の君は人目がたいそうきまり悪く思われて、薫の油断を見て奥に入ってしまったので、男君はもっともだと返す返す思うが、やはりたいそう恨めしく残念で、心を鎮めようもない心地がして涙がこぼれるのも見苦しいので、万事に思い乱れるが、ひたすら浅はかな振る舞いはやはりたいそう嫌で、自分のためにもつまらないだろうから、こらえ返していつもより嘆きがちに出ていった。こうばかり思っていてはどうしたらよいだろう、苦しいことになりそうだ、どうしたら世間の非難のない形で、それでも思う心がかなうことをできるだろうなどと、恋の道に身を入れて練れた心ではないからか、自分のためにも人のためにも穏やかでないことを、むやみに思い明かしなさる。
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現代語訳
中の君は「さあ、昔の父宮のお許しもなかったことを、こうまでも漏らし申し上げるのも、一方ではたいそう口が軽いのですが、変化の工匠をお求めになるお気の毒さにこそ、こうして」と言って、「たいそう遠い所に長年過ごしてまいりましたのを、母である人がたいそう嘆かわしいことに思って、強いて訪ねて寄ってきましたのを、きまり悪くお返事もできずにおりましたところに、来たのです。ほのかだったからでしょうか、何事も思っていたよりは見苦しくなく見えました。この娘をどのように扱おうかと嘆いているようでしたが、仏にするのは、この上ないことでございましょう。そこまでは、どうでしょうか」などと申し上げなさる。薫は、さりげなくて、このような煩わしい心を何とかして放してしまいたいとお思いになっていると見るのはつらいけれど、さすがに哀れである。あるまじきこととは深くお思いになっているものの、あらわにきまり悪い扱いはおできにならないのも、自分の心を分かっていらっしゃるからこそだろうと思う心のときめきに、夜もすっかり更けていくので、
中の君は、内では人目がたいそうきまり悪く思われなさって、薫の油断を見て奥にお入りになってしまったので、男君はもっともだとは返す返す思うけれど、やはりたいそう恨めしく残念なので、心を鎮めようもない心地がして、涙がこぼれるのも見苦しいので、万事に思い乱れるけれど、ひたすら浅はかな振る舞いは、やはりたいそう嫌で、自分のためにもつまらないだろうから、こらえ返して、いつもより嘆きがちにお出になった。こうばかり思っていては、どうしたらよいだろう、苦しいことになりそうだ、どうしたら世間の非難のない様子で、それでも思う心がかなうことをできるだろうなどと、恋の道に身を入れて練れた心ではないからだろうか、自分のためにも人のためにも穏やかでないことを、むやみに思い明かしなさる。
意訳
中の君は、異母妹は遠い地方で育ち、母親が身の振り方を案じて訪ねてきたと語る。思ったより見苦しくない娘で、母は扱いに困っているようだが、仏(本尊)にするのはもったいないと言う。薫は、中の君が自分の恋心をそらそうとしていると察してつらいが、中の君が自分を突き放さないことに胸をときめかせる。夜が更け、中の君は奥に入り、薫は涙をこらえて帰る。
語釈・文法注
文法
- 「いと遠き所」(いと遠き所に年頃へにけるを)
- 常陸国。浮舟は母とともに受領の継父のもとで育った。
- 「けしように」(けしようにはしたなきさまには)
- 顕証に。あらわに。
- 「おりたちれんじたる心」(おりたちれんじたる心ならねばにや)
- 恋の道に身を入れて練れた心。薫が恋に不慣れなことを言う。
解説
中の君は、浮舟の話をすることで薫の関心を自分からそらそうとする。薫はそれを察しながらも、中の君への思いを捨てられない。浮舟は、中の君と薫の間の緊張を解くための存在として、物語に登場する。
薫は「おりたちれんじたる心」ではないと語り手は言う。恋に不慣れな薫は、世間の非難を避けつつ思いを遂げる方法を探して悩む。その不器用さが、のちの浮舟との関係にも影を落とす。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1042–1043頁(コマ232)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日