源氏物語 第49帖 宿木(38)
異母妹の話
中の君は「長年この世にいるとも知らなかった人が、この夏頃遠い所から来て私を訪ねてきましたのを、疎遠に思うべきではないけれど、またいきなりそれほど親しくすることもあるまいと思っておりましたが、先日来たのが、不思議なほど昔の人(大君)のご様子に似通っていたので、しみじみと思われました。形見などと、こうお思いになりおっしゃるようですが、私はかえって何事も呆れるほど似ていないと皆女房たちも申しておりましたのに、それほど縁の深くない人が、どうしてああだったのでしょう」とおっしゃるのを、薫は夢物語かとまで思って聞く。「然るべき理由があればこそ、そのように親しまれるのでしょう。どうして今までこのようにほのめかしてくださらなかったのですか」とおっしゃると、中の君は「さあ、その理由もどういうことだったのか分かりません。頼りない有様で世に取り残されてさすらうのだろうとばかり父宮が気がかりにお思いだったことどもを、ただ私一人でかき集めて思い知らされますのに、またつまらないことまで添えて人も聞き伝えるのは、たいそう気の毒なことでしょう」とおっしゃる様子を見るに、八の宮が忍んで情けをかけた人が、忘れ形見を残していたのだろうと察した。似ているとおっしゃるゆかりに耳がとまって、薫は「これくらいなら、同じことなら言い終えてください」と知りたがるが、中の君はさすがにきまり悪くて、詳しくはお話しにならない。「訪ねようとお思いなら、そのあたりとはお教えできますが、詳しくはよく知らないのです。またあまり言うと、お心の劣りもしそうなことでして」とおっしゃると、薫は「世を海の中にも魂のありかを尋ねるには心の限り進みもしましょうが、それほどまでに思うべき人ではないようですが、こうも慰めようのないよりはと思い寄ります。人形という一方の願いだけなら、どうして宇治の山里の本尊とも思わないことがありましょう。やはり確かにおっしゃってください」と、いきなり責め立てる。
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現代語訳
中の君は「長年この世にいるとも知らなかった人が、この夏頃、遠い所からやって来て私を訪ねてまいりましたのを、疎遠に思うべきではないけれど、またいきなり、それほどどうして親しく思おうかと思っておりましたが、先日来ましたのが、不思議なほど昔の人のご様子に似通っていましたので、しみじみと思われました。形見などと、このようにお思いになりおっしゃるようですが、私はかえって何事も呆れるほどかけ離れていると、皆女房たちも申しておりましたのに、それほど縁の深くもない人が、どうしてああだったのでしょう」とおっしゃるのを、薫は夢物語かとまで思って聞く。「然るべき理由があればこそ、そのように親しまれるのでしょう。どうして今までこのようにほのめかしてくださらなかったのですか」とおっしゃると、中の君は「さあ、その理由も、どういうことだったのかも分かりません。頼りない有様で世に取り残されてさすらうのだろうとばかり、父宮が気がかりにお思いだったことどもを、ただ私一人でかき集めて思い知らされますのに、またつまらないことまで添えて、人も聞き伝えるのは、たいそう気の毒なことでしょう」とおっしゃる様子を見るにつけ、八の宮が忍んで情けをかけなさった人が、しのぶ草を摘み置いていたのだろうと察した。
似ているとおっしゃるゆかりに耳がとまって、薫は「これくらいでも、同じことなら言い終えてください」と知りたがりなさるが、中の君はさすがにきまり悪くて、詳しくは申し上げなさらない。「訪ねようとお思いになる心があるなら、そのあたりとはお教えできましょうが、詳しくはよく知らないのです。また、あまり言うと、お心の劣りもしそうなことでして」とおっしゃると、薫は「世を海の中にも、魂のありかを尋ねるには、心の限り進みもしましょうが、たいそうそれほどまでに思うべき人ではないようですが、こうも慰めようのないよりはと思い寄ります。一方の願いだけなら、どうして山里の本尊とも思わないことがありましょう。やはり確かにおっしゃってください」と、いきなり責め立て申し上げなさる。
意訳
中の君は、この夏、存在を知らなかった異母妹が訪ねてきて、不思議なほど大君に似ていたと語る。薫は夢のように聞き、八の宮が忍んで通った女性の娘だろうと察する。大君に似ているという言葉に心を奪われた薫は詳しく聞きたがるが、中の君は言葉を濁す。薫は、大君の人形として宇治の本尊にしてもよいと言い、確かな所在を教えてほしいと迫る。
語釈・文法注
文法
- 「しのぶ草摘み置きたりける」(しのぶ草摘み置きたりけるなるべし)
- 忘れ形見を残していた。八の宮の隠し子のこと。
- 「世をうみなかにもたまのありかたづね」(世をうみなかにもたまのありかたづねには)
- 長恨歌で、方士が楊貴妃の魂を海中の仙山に尋ねた故事を踏まえる。
- 「山里のほんぞん」(などてかは山里のほんぞんにも思ひ侍らざらむ)
- 宇治の山荘の本尊。大君の人形として浮舟を迎えるという薫の思い。
解説
浮舟の存在が初めて語られる。八の宮の隠し子で、大君に不思議なほど似ている女性。薫はたちまち心を奪われる。大君への思いが、見たこともない女性への関心へと転化していく。
薫は浮舟を「山里の本尊」にしたいと言う。浮舟は一人の女性としてではなく、大君の代わりとして求められる。この出発点が、浮舟の悲劇の根にある。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1040–1043頁(コマ231–232)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日