源氏物語 第49帖 宿木(37)
人形の願い
「それも本当にご存じのことがあってこそと、おろそかには思いません」などとおっしゃって、やはりたいそう恨めしげだが、聞く人がいるので思うままにもどうして言い続けられよう。外の方を眺めやると、だんだん暗くなってきて虫の声ばかりがはっきりして、築山の方は小暗くて何の区別も見えないのに、薫がたいそうまじめな様子で寄りかかっていらっしゃるのも、中の君は煩わしいとばかり内心ではお思いになる。薫は「恋しさの限りだにある」などとたいそう忍びやかに口ずさんで、「思い悩んでおります。音無しの里も探したいのですが、あの宇治の山里のあたりに、わざわざ寺などはなくても、昔を思わせる人形を作ったり絵にも描きとめたりして勤行しようと思うようになりました」とおっしゃると、中の君は「哀れなお願いですが、また嫌な御手洗川に近い心地がいたします。人形こそ思いやると気の毒でございます。黄金を求める絵師もいるかもしれないなどと、気がかりでございますよ」とおっしゃるので、薫は「そうです、その工匠も絵師も、どうして心にかなうはずがありましょう。近い世に花を降らせた工匠もいたそうですが、そのような変化の人がいればよいのに」などと、あれこれと忘れようのないことを嘆く様子がたいそう心深げなのも、中の君は気の毒で煩わしくて、もう少しにじり寄って、「人形のついでに、たいそう妙な、思いも寄らないことを思い出しました」とおっしゃる気配が少し親しげなのも、薫はたいそううれしく哀れで、「何のことでしょう」と言うままに几帳の下から手を捕らえると、中の君はたいそう煩わしく思うが、何とかしてこういう心をやめさせて穏やかにいたいと思うので、この近くにいる女房がどう思うだろうかとつまらなくて、さりげなく振る舞っていらっしゃる。
- 1それそれそれもももげにげにげに御御ご覽覽らんじじじしるしるしるかたかたかたありありありてててこそこそこそはははとととおろかおろかおろかにににやややははは思思おもひひい侍侍はべるるる」」」などなどなどのたまひのたまひのたまいててて、、、猶猶なおいといといとものものものうらめしげうらめしげうらめしげなれなれなれどどど聞聞きくくく人人ひとあれあれあればばば思思おもふふうまゝまゝままにににもももいかでいかでいかでかかかはははつゞけつゞけつづけ給給たまははわむむん。。。とととののの方方かたをををながめながめながめいだしいだしいだしたれたれたればばば、、、やうやうやうやうようよう暗暗くろうううなりなりなりにににたるたるたるににに蟲蟲むしののの聲聲こえばかりばかりばかりまぎれまぎれまぎれなくなくなくててて、、、山山やまののの方方かたををおぐらくぐらくおぐらくててて何何なにのののあやめあやめあやめももも見見みえええぬぬぬににに、、、いといといとまめやかまめやかまめやかなるなるなるさまさまさましししてててよりよりよりゐゐい給給たまへへえるるるももも煩煩わずらはしはしわしとととのみのみのみ內內うちにににはははおぼさおぼさおぼさるるる。。。「「「限限かぎりだにだにだにあるあるある」」」などなどなど、、、いといといと忍忍しのびびびやかやかやかにににうちうちうちずじずじずじててて「「「思思おもひひい給給たまへへえわびわびわびててて侍侍はべりりり。。。音音おとなしなしなしののの里里さとももももとめもとめもとめまほしきまほしきまほしきををを、、、かのかのかの山山やま里里ざとのののわたりわたりわたりににに、、、わざとわざとわざと寺寺てらなどなどなどはははなくなくなくともともとも昔昔むかし覺覺おぼゆるゆるゆる人人ひとがたがたがたをををもももつくりつくりつくり繪繪えにににももも書書かきききとめとめとめててて行行おこなひひい侍侍はべらららむむんとととなむなむなん思思おもひひい給給たまへへえなりなりなりにににたるたるたる」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「哀哀あわれなるなるなる御御おん願願ねがひひいににに又又またうたてうたてうたてみたらしみたらしみたらし川川がわ近近ちかききき心心こころちちちするするする。。。人人ひとがたがたがたこそこそこそ思思おもひひいやりやりやりいとほしういとほしういとおしゅう侍侍はべれれれ。。。こがねこがねこがねもとむるもとむるもとむる繪繪え師師しもももこそこそこそなどなどなど、、、うしろめたううしろめたううしろめとうぞぞぞ侍侍はべるるるややや」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、
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現代語訳
「それも本当にご存じのことがあってこそと、おろそかに思いましょうか」などとおっしゃって、やはりたいそう恨めしげだが、聞く人がいるので、思うままにはどうして言い続けなさろう。外の方を眺めやっていると、だんだん暗くなってきたうえに、虫の声ばかりがはっきりして、築山の方は小暗くて、何の区別も見えないのに、たいそうまじめな様子で寄りかかっていらっしゃるのも、中の君は煩わしいとばかり内心ではお思いになる。薫は「恋しさの限りだにある」などと、たいそう忍びやかに口ずさんで、「思い悩んでおります。音無しの里も探したいのですが、あの山里のあたりに、わざわざ寺などはなくても、昔を思わせる人形を作ったり、絵にも描きとめたりして、勤行しようと思うようになりました」とおっしゃると、中の君は「哀れなお願いですが、また嫌な御手洗川に近い心地がいたします。人形こそ、思いやると気の毒でございます。黄金を求める絵師もいるかもしれないなどと、気がかりでございますよ」とおっしゃるので、
薫は「そうです、その工匠も絵師も、どうして心にかなうことがありましょう。近い世に花を降らせた工匠もいたそうですが、そのような変化の人がいればよいのに」などと、あれこれと忘れようのない旨を嘆きなさる様子がたいそう心深げなのも、中の君は気の毒で煩わしくて、もう少しにじり寄って、「人形のついでに、たいそう妙な、思いも寄らないことを思い出しました」とおっしゃる気配が少し親しげなのも、薫はたいそううれしく哀れで、「何のことでしょう」と言うままに、几帳の下から手を捕らえると、中の君はたいそう煩わしく思われるが、何とかしてこういう心をやめさせて穏やかにいたいと思うので、この近くにいる女房がどう思うだろうかということもつまらなくて、さりげなく振る舞っていらっしゃる。
意訳
夕暮れ、虫の声の中で薫は大君への恋しさを口ずさみ、宇治に大君の人形を作ったり絵に描いたりして供養したいと語る。中の君は、人形は禊で流されるものだから気の毒だと答える。薫が忘れられない思いを嘆くので、中の君は話題を変えようと、人形のついでに妙なことを思い出したと言ってにじり寄る。薫は喜んで几帳の下から中の君の手を捕らえ、中の君はさりげなくやり過ごす。
語釈・文法注
文法
- 「限だにある」(「限だにある」など)
- 「恋しさの限りだにある世なりせば年経て物は思はざらまし」(古今六帖)の一節。
- 「人がた」(昔覺ゆる人がたをもつくり)
- 人形。大君に似せた像。のちに浮舟が「人形」と呼ばれる由来となる。
- 「みたらし川」(又うたてみたらし川近き心ちする)
- 御手洗川。禊で人形に罪を移して流す川。人形は川に流されるもの。
解説
薫は大君の人形を作りたいと言う。この「人形」という言葉が、次の場面で浮舟の存在を引き出す。浮舟はのちに大君の「人形」として薫に迎えられ、宇治川に身を投げることになる。御手洗川に流される人形のイメージは、浮舟の運命を予告している。
中の君は、薫の恋心をそらすために浮舟の話を持ち出す。妹を守るための話題転換が、浮舟の悲劇の始まりとなる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1040–1041頁(コマ231)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日