源氏物語 第49帖 宿木(36)
薫の訴え
本当に誰も千年の松ではない世なのにと思うと、薫はたいそう心苦しく哀れなので、この呼び寄せた女房が聞いているのも憚らず、聞き苦しい筋のことは選んで控えながら、昔から思い申し上げている様子などを中の君のお耳一つには分からせつつ、ほかの人は不都合にも聞かないような様子で、たいそう見苦しくなく言いなしなさるのを、少将の君は本当にめったにないお心ばえだと聞いていた。何事につけても亡き姉君のことを尽きることなく思っていらっしゃる。薫は「幼い頃から世の中を思い離れて終わってしまおうという心構えばかり身につけてまいりましたのに、そうなるべき縁だったのでしょうか、疎遠ながら並々でなく思い始め申し上げた一事に、あの本意の聖心はさすがに違ってしまったのでしょう、慰めにと、あちこちに関わって人の様子を見たら紛れることもあろうかなどと思い寄る折々もございますが、全くほかには靡きそうにもありませんでした。万事に思い悩みましては、心の引かれる方が強くないことですので、好色めいているとお思いだろうと恥ずかしいのですが、あるまじき心が少しでもございましたら目に余るでしょうが、ただこれくらいの程度で、時々思うことも申し上げ承りなどして、隔てなく言葉を交わすのを、誰が咎め立てましょう。世の人に似ない私の心のほどは誰にも非難されまいと存じますので、やはり安心してお思いください」などと、恨んだり泣いたりして申し上げる。中の君が「不安にお思い申し上げているのなら、こうして妙だと人も見て思うほどまでお話し申し上げましょうか。長年あれこれにつけて分かっていることどもがございましたからこそ、格別の頼みの人として、今はこちらからまでお便りを申し上げたのです」とおっしゃると、薫は「そのような折も覚えておりませんのに、たいそう大したことのように思い置いておっしゃるのですね。この宇治へのお出立の準備のためにやっと私をお使いになろうというのでしょう。
- 1げにげにげに誰誰たれもももちとせちとせちとせののの松松まつならならならぬぬぬよよよをををととと思思おもふふうにににははは、、、いといといと心苦心苦こころぐるしうしうしゅう哀哀あわれなれなれなればばば、、、このこのこの召召めしししよせよせよせたるたるたる人人ひとのののきかきかきかむむんもももつゝまつゝまつつまれれれずずず、、、かたはらいたきかたはらいたきかたわらいたきすぢすぢすじのののことことことをををこそこそこそえりえりえりとゞむれとゞむれとどむれ昔昔むかしよりよりより思思おもひひい聞聞きこゆるゆるゆるさまさまさまなどなどなどをををかのかのかの御御おんみゝみゝみみひとつひとつひとつにににははは心心こころ得得えさせさせさせながらながらながら人人ひとははは又又またかたはかたはかたわにににももも聞聞きくくくまじきまじきまじきさまさまさまににに、、、よくよくよくめやすくめやすくめやすくぞぞぞいひいひいいなしなしなし給給たまふふうををを、、、げにげにげに有有あり難難がたききき御御おん心心こころばへばへばえにににもももととと聞聞きききき居居いたりたりたりけりけりけり何何なに事事ことにににつけつけつけてててももも故故こ君君ぎみののの御御おん事事ことをををぞぞぞ盡盡つくせせせずずず思思おもひひい給給たまへへえるるる。。。「「「いはけなかりいはけなかりいわけなかりしししほどほどほどよりよりより世世よののの中中なかををを思思おもひひい離離はなれれれててて止止やみみみぬぬぬべきべきべき心心こころづかひづかひずかいをををのみのみのみならひならひならい侍侍はべりりりしししををを、、、さるべきさるべきさるべきにににややや侍侍はべりりりけむけむけん、、、うときうときうときものものものからからからおろかおろかおろかならならならずずず思思おもひひいそめそめそめ奉奉たてまつりりりしししひとひとひとふしふしふしににに、、、かのかのかのほいほいほいのののひじりひじりひじり心心こころはははさすがさすがさすがにににたがひたがひたがいやややしししにににけむけむけん、、、慰慰なぐさめめめばかりばかりばかりににに此處此處ここにににももも彼處彼處かしこにににももも行行ゆきききかゝづらひかゝづらひかかずらいててて人人ひとののの有有あり樣樣さまををを見見みむむんにににつけつけつけててて紛紛まぎるゝるゝるることことこともももやややあらあらあらむむんなどなどなど思思おもひひいよるよるよるをりをりをりをりおりおり侍侍はべれれれどどど、、、更更さらにににほかほかほかざまざまざまにににははは靡靡なびくくくべうべうびょうももも侍侍はべらららざりざりざりけりけりけり。。。
- 2よろづよろづよろずににに思思おもひひい給給たまへへえわびわびわびてててははは心心こころのののひくひくひく方方かたののの强强つよからからからぬぬぬわざわざわざなりなりなりけれけれければばば、、、すきすきすきがましきがましきがましきやうやうようにににおぼさおぼさおぼさるるるらむらむらんととと恥恥はずかしけれしけれしけれどどど、、、あるあるあるまじきまじきまじき心心こころのののかけかけかけてててももも侍侍はべらららばばばこそこそこそめざましからめざましからめざましからめめめ、、、唯唯ただかばかりかばかりかばかりののの程程ほどにてにてにて時々時々ときどき思思おもふふうことことことをををももも聞聞きこえええさせさせさせ承承うけたまわりりりなどなどなどしししててて隔隔へだてててなくなくなくのたまひのたまひのたまい通通かよははわむむんををを誰誰たれかかかははは咎咎とがめめめいづいづいずべきべきべき。。。世世よののの人人ひとににに似似にぬぬぬ心心こころのののほどほどほどははは皆皆みな人人ひとにににもどかもどかもどかるるるまじくまじくまじく侍侍はべるるるををを猶猶なおうしろうしろうしろやすくやすくやすくををを思思おもほしほしおしたれたれたれ」」」などなどなど怨怨うらみみみゝゝみなきなきなきみみみ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。「「「うしろめたくうしろめたくうしろめたく思思おもひひい聞聞きこえええばばば、、、かくかくかく怪怪あやしししととと人人ひとももも見見み思思おもひひいぬぬぬべきべきべきまでまでまでははは聞聞きこえええ侍侍はべるるるべくべくべくややや。。。年年とし頃頃ごろこなたこなたこなたかなたかなたかなたにににつけつけつけつゝつゝつつ見見み知知しるるることことことゞゞどもももののの侍侍はべりりりしかしかしかばばばこそこそこそ、、、さまさまさまことことことなるなるなるたのもしたのもしたのもし人人びとにてにてにて今今いまはははこれこれこれよりよりよりなどなどなどさへさへさへ驚驚おどろかしかしかし聞聞きこゆれゆれゆれ」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば「「「さやうさやうさようなるなるなる折折おりももも覺覺おぼえええ侍侍はべらららぬぬぬものものものををを、、、いといといとかしこきかしこきかしこきことことことにににおぼしおぼしおぼしおきおきおきてててのたまはするのたまはするのたまわするややや、、、このこのこの御御おん山山やま里里ざといでたちいでたちいでたちいそぎいそぎいそぎににに辛辛からうじてうじてうじてめしめしめしつかはせつかはせつかわせ給給たまふふうべきべきべき。。。
現代語訳
本当に誰も千年の松ではない世なのにと思うと、たいそう心苦しく哀れなので、薫はこの呼び寄せた女房が聞くのも憚らず、聞き苦しい筋のことは選んで控えるものの、昔から思い申し上げている様子などを、あのお耳一つには分からせながら、ほかの人はまた不都合にも聞かないような様子で、たいそう見苦しくなく言いなしなさるのを、少将の君は本当にめったにないお心ばえだと聞いていたのだった。何事につけても、亡き君のことを尽きることなく思っていらっしゃる。「幼かった頃から、世の中を思い離れて終わってしまおうという心構えばかりを身につけてまいりましたのに、そうなるべき縁だったのでございましょうか、疎遠ながら並々でなく思い始め申し上げた一事に、あの本意の聖心は、さすがに違ってしまったのでしょうか、慰めにと、ここにもあちらにも関わって、人の様子を見たら紛れることもあろうかなどと思い寄る折々もございますが、全くほかの方には靡きそうにもございませんでした。
万事に思い悩みましては、心の引かれる方が強くないことでございますので、好色めいているとお思いだろうと恥ずかしいのですが、あるまじき心が少しでもございましたら、目に余ることでしょうが、ただこれくらいの程度で、時々思うことも申し上げ、承りなどして、隔てなく言葉を交わしなさるのを、誰が咎め立てましょうか。世の人に似ない心のほどは、誰にも非難されまいと存じますので、やはり安心してお思いください」などと、恨んだり泣いたりして申し上げなさる。中の君が「不安にお思い申し上げているのならば、このように妙だと人も見て思うほどまで、お話し申し上げましょうか。長年あれこれにつけて分かっていることどもがございましたからこそ、格別の頼みの人として、今はこちらからまでも、お便りを申し上げたのです」とおっしゃると、薫は「そのような折も覚えておりませんのに、たいそう大したことのようにお思い置いておっしゃるのですね。この山里へのお出立の準備のために、やっと私をお使いになろうというのでしょう。
意訳
薫は中の君の命を思って哀れになり、女房の少将の君に聞かれても差し支えない言い方で、長年の思いを語る。幼い頃から出家を願っていたが、大君に心を寄せてから聖心が揺らぎ、他の女性で紛らわそうとしても心は動かなかったと言い、隔てなく語り合いたいだけだから安心してほしいと泣く。中の君は、信頼しているからこそ自分から手紙を送ったと答え、薫は宇治行きのためかと皮肉を言う。
語釈・文法注
文法
- 「ちとせの松ならぬよを」(げに誰もちとせの松ならぬよを)
- 千年の松ではない世。「憂くも世に思ふ心にかなはぬか誰も千年の松ならなくに」(古今六帖)による。
- 「ひじり心」(かのほいのひじり心はさすがにたがひやしにけむ)
- 聖心。出家を願う心。
- 「怨みゝなきみ」(など怨みゝなきみ聞え給ふ)
- 恨んだり泣いたりしながら。
解説
薫は女房の前で巧みに言葉を選び、中の君にだけ真意が伝わるように語る。薫の言葉の巧みさは、かつて大君を説得しようとした時以上に洗練されている。
薫は「あるまじき心」はないと言いながら、隔てなく語り合いたいと願う。その願い自体が、すでに後見の範囲を超えている。中の君はそれを知りながら、薫を拒みきれない。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1038–1041頁(コマ230–231)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日