源氏物語 第49帖 宿木(35)
胸を病む中の君
中の君はそのまま端に御褥を差し出させて、「たいそう気分の悪い時なので、お話し申し上げられません」と女房を通して申し上げたのを聞くと、薫はひどくつらくて涙が落ちそうなのを、人目を憚って強いて紛らわして、「ご病気の時は見知らぬ僧なども近く参り寄るのに、医師などの仲間としてでも御簾の内には控えられないものでしょうか。こう人づてのお便りではかいのない心地がします」と申し上げて、たいそう不機嫌なご様子なので、先夜の様子を見た女房たちが、本当にたいそう見苦しいようですと言って、母屋の御簾を下ろして夜居の僧の座に薫をお入れするので、中の君は本当に気分もたいそう苦しいが、人がこう言うのに、嫌に目立つようなのもまたどうかと気が引けるので、気が進まないながら少しにじり出て対面した。たいそうほのかに時々おっしゃる気配が、昔の人(大君)が病み始めた頃がまず思い出されるのも不吉に悲しくて、薫は心が暗くなる気がして、すぐには物も言えず、ためらいながら申し上げる。中の君がこの上なく奥に引っ込んでいらっしゃるのもたいそうつらくて、御簾の下から几帳を少し押し入れて、いつものように馴れ馴れしげに近寄るのがたいそう苦しいので、中の君は困ったことと思って、少将の君という女房を近くに呼び寄せて、「胸が痛い。しばらく押さえて」とおっしゃるのを聞いて、薫は「胸は押さえるとたいそう苦しいものですのに」と嘆いて居直る様子も、本当にまた穏やかでない。「どうしてこうもいつも悩ましくお思いなのでしょう。人に尋ねましたところ、しばらくは気分も悪いが、また具合のよい折もあるなどと教えてくれました。あまり子どもっぽく振る舞っていらっしゃるのでしょう」とおっしゃるので、中の君はたいそう恥ずかしくて、「胸はいつとなくこうなのです。昔の人もそうでいらっしゃいました。長生きできない人のすることだと人も言うようです」とおっしゃる。
- 1やがてやがてやがてはしはしはしににに御御おんしとねしとねしとねさしさしさし出出いださささせせせ給給たまひひいててて「「「いといといと惱惱なやましきましきましき程程ほどにてにてにてなむなむなんえええ聞聞きこえええさせさせさせぬぬぬ」」」ととと人人ひとしししててて聞聞きこえええ出出いだししし給給たまへへえるるるををを聞聞きくくくににに、、、いみじういみじういみじゅうつらくつらくつらくててて淚淚なみだののの落落おちちちぬぬぬべきべきべきををを人人ひとめめめにににつゝめつゝめつつめばばばしひてしひてしいて紛紛まぎらはしはしわしててて「「「惱惱なやままませせせ給給たまふふうをりをりおりははは知知しらららぬぬぬ僧僧そうなどなどなどももも近近ちかくくく參參まいりりりよるよるよるををを、、、くすしくすしくすしなどなどなどのののつらつらつらにてにてにてもももみみみ簾簾すののの內內うちにににははは侍侍さぶらふふうまじうまじうまじゅうやややははは。。。かくかくかく人人ひとづてづてずてなるなるなる御御おんせうそこせうそこしょうそこなむなむなんかひかひかいなきなきなき心心こころちちちするするする」」」ととと聞聞きこえええ給給たまひひいててて、、、いといといとものものものしげしげしげなるなるなる御御おん氣色氣色けしきなるなるなるををを一一ひと夜夜よ物物もののののけしきけしきけしき見見みししし人々人々ひとびと、、、げにげにげにやややいといといと見見み苦苦ぐるしうしうしゅう侍侍はべるるるめりめりめりとてとてとて、、、ももも屋屋やののの御御み簾簾すうちうちうちおろしおろしおろしてててよゐよゐよいののの僧僧そうののの座座ざににに入入いれれれ奉奉たてまつるるるををを、、、女女おんな君君ぎみ誠誠まことににに心心こころちちちもももいといといと苦苦くるしけれしけれしけれどどど、、、人人ひとのののかうかうこういふいふいうににに、、、うたてうたてうたてけちえんけちえんけちえんならならならむむんももも又又またいかゞいかゞいかがとととつゝましけれつゝましけれつつましければばば、、、物物ものうううながらながらながら少少すこしししゐざりゐざりいざり出出いでででゝゝてたいめたいめたいめししし給給たまへへえりりり。。。いといといとほのかほのかほのかににに、、、時々時々ときどきものものもののののたまふたまふたまう御御おんけはひけはひけはいののの昔昔むかしののの人人ひとのののなやみなやみなやみそめそめそめ給給たまへへえりりりしししころころころ、、、まづまづまず思思おもひひい出出いでででらるゝらるゝらるるもももゆゝしうゆゝしうゆゆしゅう悲悲かなしうしうしゅうてててかきかきかきくらすくらすくらす心心こころちちちししし給給たまへへえばばば、、、とみとみとみににに物物ものもももいはいはいわれれれずずず、、、ためらひためらひためらいつゝつゝつつぞぞぞ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 2こよなくこよなくこよなくおくおくおくまりまりまり給給たまへへえるるるもももいといといとつらくつらくつらくててて、、、すすすのののしたしたしたよりよりより几几き帳帳ちょうををを少少すこしししおしおしおし入入いれれれててて例例れいのののなれなれしげなれなれしげなれなれしげににに近近ちかづきづきずきよりよりより給給たまふふうがががいといといと苦苦くるしけれしけれしければばば、、、わりなしわりなしわりなしとととおぼしおぼしおぼしててて少少しょう將將しょうののの君君きみととといふいふいう人人ひとををを近近ちこううう召召めしししよせよせよせててて、、、「「「胸胸むねなむなむなんいたきいたきいたき。。。しばししばししばしおさへおさへおさえててて」」」とととのたまふのたまふのたまうををを聞聞きききき給給たまひひいててて、、、「「「胸胸むねはははおさへおさへおさえたるたるたるいといといと苦苦くるしうしうしゅう侍侍はべるるるものものものををを」」」ととと打打うちちち歎歎なげきききてててゐゐいなほりなほりなおり給給たまふふう程程ほどももも、、、げにげにげにぞぞぞまたまたまたやすからやすからやすからぬぬぬ。。。「「「いかいかいかなれなれなればばばかくかくかくしもしもしも常常つねににに惱惱なやましうしうしゅうはははおぼさおぼさおぼさるるるらむらむらん。。。人人ひとににに問問とひひい侍侍はべりりりしかしかしかばばば、、、しばししばししばしこそこそこそ心心こころちちちもももあしかあしかあしかなれなれなれさてさてさて又又またよろしきよろしきよろしきをりをりおりありありありなどなどなどこそこそこそ敎敎おしへへへ侍侍はべりりりしかしかしか。。。あまりあまりあまりわかわかしくわかわかしくわかわかしくもてもてもてなさなさなさせせせ給給たまふふうなななめりめりめりかしかしかし」」」とととのたまふのたまふのたまうににに、、、いといといとはづかしうはづかしうはずかしゅうててて、、、「「「胸胸むねはははいついついつととともももなくなくなくかくかくかくこそこそこそははは侍侍はべれれれ。。。昔昔むかしののの人人ひともももさささこそこそこそはははものものものししし給給たまひひいしかしかしか。。。長長ながかるかるかるまじきまじきまじき人人ひとのののするするするわざわざわざとととかかか人人ひともももいひいひいい侍侍はべるるるめるめるめる」」」とととぞぞぞのたまふのたまふのたまう。。。
現代語訳
中の君はそのまま端に御褥を差し出させなさって、「たいそう気分の悪い時でございますので、お話し申し上げられません」と女房を通して申し上げなさったのを聞くと、薫はひどくつらくて、涙が落ちそうなのを、人目を憚るので強いて紛らわして、「ご病気でいらっしゃる折は、見知らぬ僧なども近く参り寄りますのに、医師などの仲間としてでも、御簾の内にはお控えできないものでしょうか。このように人づてのお便りでは、かいのない心地がいたします」と申し上げなさって、たいそう不機嫌なご様子なので、先夜の様子を見た女房たちが、本当にたいそう見苦しいようでございますと言って、母屋の御簾を下ろして、夜居の僧の座にお入れ申し上げるので、女君は本当に気分もたいそう苦しいけれど、人がこう言うのに、嫌に目立つようなのもまたどうかと気が引けるので、気が進まないながら少しにじり出て対面なさった。たいそうほのかに、時々物をおっしゃる気配が、昔の人が病み始めなさった頃が、まず思い出されるのも不吉に悲しくて、薫は心が暗くなる心地がなさるので、すぐには物も言えず、ためらいながら申し上げなさる。
中の君がこの上なく奥に引っ込んでいらっしゃるのもたいそうつらくて、簾の下から几帳を少し押し入れて、いつものように馴れ馴れしげに近寄りなさるのがたいそう苦しいので、中の君は困ったこととお思いになって、少将の君という女房を近くに呼び寄せて、「胸が痛い。しばらく押さえて」とおっしゃるのをお聞きになって、薫は「胸は押さえると、たいそう苦しゅうございますのに」と嘆いて居直りなさる様子も、本当にまた穏やかでない。「どうしてこうもいつも悩ましくお思いなのでしょう。人に尋ねましたところ、しばらくは気分も悪いものだが、そうしてまた具合のよい折もあるなどと教えてくれました。あまり子どもっぽく振る舞っていらっしゃるのでしょう」とおっしゃるので、中の君はたいそう恥ずかしくて、「胸はいつとなくこうなのでございます。昔の人もそうでいらっしゃいました。長生きできない人のすることだとか、人も言うようです」とおっしゃる。
意訳
中の君は体調を理由に人づてで応対しようとするが、薫は涙をこらえて不満を述べる。女房たちの取りなしで、薫は母屋の御簾の前の僧の座に通され、中の君はにじり出て対面する。中の君のほのかな声に、薫は大君の病の始まりを思い出して悲しむ。薫が几帳を押し入れて近寄ると、中の君は女房の少将の君を呼んで胸を押さえさせる。薫は懐妊の苦しみを子どもっぽいと言い、中の君は姉も胸を病んでいたと答える。
語釈・文法注
文法
- 「よゐの僧の座」(よゐの僧の座に入れ奉るを)
- 夜居の僧の座。病人のために夜通し祈祷する僧の座。
- 「くすしなどのつら」(くすしなどのつらにても)
- 医師などの仲間として。病人のそばに近寄れる立場。
- 「長かるまじき人のするわざ」(長かるまじき人のするわざとか)
- 長生きできない人のすること。姉の早世を思い起こさせる。
解説
薫は、中の君の声に大君の病の始まりを重ねる。大君を失った悲しみが、中の君への恋心と入り混じっている。
中の君は女房を呼んで胸を押さえさせ、薫との間に第三者を置く。前回の出来事を繰り返さないための、中の君の知恵である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1038–1039頁(コマ230)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日