源氏物語 第49帖 宿木(31)
移り香の歌
思いのほかに情けないお心ですね」と、すべて書き写せないほど、たいそう気の毒なことを申し上げるが、中の君が何とも答えないのさえたいそう悔しくて、匂宮は、ほかの人に馴れ親しんだ袖の移り香を、我が身にしみて恨んだことよと詠む。中の君は呆れるほど言い続けられて、言いようもなく、どうしようかと、見慣れた仲の衣と頼みにしていたのに、これくらいのことで掛け離れてしまうのでしょうかと返して泣く様子がこの上なく哀れなのを見るにつけても、こうだからこそだと、匂宮はますます不快で、自分もほろほろと涙をこぼすのは色めいたお心である。本当にひどい過ちがあっても、ひたすら疎み果てることはできそうになく、可憐で心苦しい様子をしていらっしゃるので、恨みきることもできず、言いさしながら一方ではなだめる。翌日も心のどかにお休みになって起き、お手水やお粥などもこちらで差し上げる。お部屋の調度なども、あれほど輝くばかりに高麗や唐土の錦や綾を裁ち重ねた六の君の所を見た目には、世の常の住み慣れた心地がして、女房たちの姿も糊気の落ちた者が混じっていたりして、たいそう静かに見回される。中の君は柔らかな薄色の衣に撫子の細長を重ねてくつろいでいらっしゃるご様子が、何事もたいそう端正で大げさなほどに盛んな六の君のご装いや何やかやと比べても見劣りはしない。慕わしく趣深いのは、志がおろそかでないので恥じることはないのだろう、ふっくらと可愛らしく太っていらした人が少しほっそりして、色はいよいよ白くなって上品で美しい、このような移り香などがはっきりしない時でさえ、愛嬌があって可憐なところなどがやはり人よりずっとまさってお思いになるにつけては、これを兄弟などではない人が身近に話を交わして、何かにつけて自然と声や気配を聞き慣れたら、どうしてただではいられよう、必ずそう思い寄るに違いないことなのだと、ご自分のたいそう隈なく行き届いた好色の心の癖から思い知られるので、いつも心にかけて、はっきりした手紙などがありはしないかと、身近な御厨子や小唐櫃などのようなものもさりげなく見るが、そうしたものもない。
- 1思思おもいのののほかほかほかにににうかりうかりうかりけるけるける御心御心みこころかなかなかな」」」とととすべてすべてすべてまねぶまねぶまねぶべくべくべくもももあらあらあらずずず、、、いといといといとほしげいとほしげいとおしげににに聞聞きこえええ給給たまへへえどどどともともともかくかくかくもももいらへいらへいらえ給給たまははわぬぬぬさへさへさへいといといとねたくねたくねたくててて、、、「「「またまたまた人人ひとににになれなれなれけるけるける袖袖そでのののうつりうつりうつりがががををを我我わががが身身みにににしめしめしめてててうらみうらみうらみつるつるつるかなかなかな」」」。。。女女おんなはははあさましうあさましうあさましゅうのたまひのたまひのたまいつゞくるつゞくるつづくるににに、、、いふいふいうべきべきべきかたかたかたもももなくなくなくいかゞいかゞいかがはははとてとてとて、、、「「「見見みなれなれなれぬるぬるぬる中中なかののの衣衣ころもとととたのみたのみたのみしししをををかばかりかばかりかばかりにてにてにてやややかけかけかけはなれはなれはなれなななむむん」」」とてとてとてうちうちうち泣泣なききき給給たまへへえるるるけしきけしきけしきののの限限かぎりなうなうのう哀哀あわれなるなるなるををを見見みるるるにににももも、、、かゝれかゝれかかればばばぞぞぞかしかしかしととといとゞいとゞいとど心心こころやましくやましくやましくててて、、、我我わもももほろほろほろほろほろほろとととこぼしこぼしこぼし給給たまふふうぞぞぞ色色いろめかしきめかしきめかしき御心御心みこころなるなるなるややや。。。誠誠まことにににいみじきいみじきいみじきあやまちあやまちあやまちありありありともともともひたぶるひたぶるひたぶるにににはははえええぞぞぞうとみうとみうとみはつはつはつまじくまじくまじく、、、らうたげらうたげろうたげににに心苦心苦こころぐるしきしきしきさまさまさまのののししし給給たまへへえれれればばばえええももも怨怨うらみみみはてはてはて給給たまははわずずず、、、のたまひのたまひのたまいさしさしさしつゝつゝつつかつかつかつはははこしらへこしらへこしらえ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。又又またののの日日ひももも心心こころのどかのどかのどかににに大大おお殿殿とのごもりごもりごもり起起おきききててて御御おんてうづてうづちょうず御御おんかゆかゆかゆなどなどなどもももこなたこなたこなたにににまゐらまゐらまいらすすす。。。御御おんしつらひしつらひしつらいなどなどなどもももさばかりさばかりさばかり輝輝かがやくくくばかりばかりばかり高高こ麗麗まもろこしもろこしもろこしののの錦錦にしき綾綾あやをををたちたちたちかさねかさねかさねたるたるたるめめめうつしうつしうつしにににははは、、、よよよのののつねつねつねにににうちうちうちなれなれなれたるたるたる心心こころちちちしししててて人々人々ひとびとのののすがたすがたすがたもももなえなえなえばみばみばみたるたるたるうちうちうちまじりまじりまじりなどなどなどしししててていといといとしづかしづかしずかににに見見みまはさまはさまわさるるる。。。
- 2君君きみはははなよゝかなよゝかなよよかなるなるなるうすうすうす色色いろどもどもどもににに撫撫なで子子しこのののほそながほそながほそなが襲襲かさねねねてててうちうちうち亂亂みだれれれ給給たまへへえるるる御御おんさまさまさまののの、、、何何なに事事こともももいといといとうるはしくうるはしくうるわしくことごとしきことごとしきことごとしきまでまでまで盛盛さかりなるなるなる人人ひとののの御御おんよそひよそひよそい、、、何何なにくれくれくれににに思思おもひひいくらぶれくらぶれくらぶれどどどけけけ劣劣おとりりりてててもももおぼえおぼえおぼえずずず。。。なつかしうなつかしうなつかしゅうをかしきをかしきおかしきははは志志こころざしのののおろかおろかおろかならならならぬぬぬにににはぢはぢはじなきなきなきなななめりめりめりかしかしかし、、、まろまろまろににに美美うつくしくくしくくしくこえこえこえ給給たまへへえりりりししし人人ひとののの少少すこしししほそやぎほそやぎほそやぎたるたるたるににに色色いろはははいよいよいよいよいよいよ白白しろうううなりなりなりてててあてあてあてにににをかしげをかしげおかしげなりなりなり、、、かゝるかゝるかかる御御おんうつりうつりうつりがががなどなどなどのののいちじるからいちじるからいちじるからぬぬぬをりをりおりだにだにだに愛愛あいぎやうぎやうきょうづきづきずきらうたきらうたきろうたき所所ところなどなどなどののの猶猶なお人人ひとにににははは多多おおくくくまさりまさりまさりててておぼさおぼさおぼさるゝるゝるるまゝまゝままにににはははこれこれこれをををはらからはらからはらからなどなどなどにににはははあらあらあらぬぬぬ人人ひとのののけけけぢかくぢかくじかくいひいひいい通通かよひひいてててことことことにににふれふれふれつゝつゝつつおのづからおのづからおのずから聲聲こえけはひけはひけはいをををももも聞聞きききき見見み馴馴なれれれむむんはははいかでいかでいかでかかかたゞたゞただにににももも思思おもははわむむん、、、必必かならずずずしかしかしか思思おもひひいよりよりよりぬぬぬべきべきべきことことことなるなるなるをををととと我我わがががいといといとくまくまくまなきなきなき御心御心みこころならひならひならいにににおぼしおぼしおぼし知知しらららるれるれるればばば、、、常常つねににに心心こころをををかけかけかけてててしるきしるきしるきさまさまさまなるなるなる文文ふみなどなどなどやややあるあるあるととと近近ちかきききみみみ厨厨ず子子しこここからからからびつびつびつなどなどなどやうやうようのののものものものをををもももさりげなくさりげなくさりげなくててて見見み給給たまへへえどどど、、、さるさるさるものものものもももなしなしなし。。。
現代語訳
「思いのほかに情けないお心ですね」と、すべて書き写すことができないほど、たいそう気の毒なことを申し上げなさるが、中の君が何ともお答えにならないのさえたいそう悔しくて、「ほかの人に馴れ親しんだ袖の移り香を、我が身にしみて恨んだことよ」。女は呆れるほどおっしゃり続けるので、言いようもなく、どうしようかと思って、「見慣れた仲の衣と頼みにしていたのに、これくらいのことで掛け離れてしまうのでしょうか」と言って泣いていらっしゃる様子がこの上なく哀れなのを見るにつけても、こうだからこそだと、匂宮はますます不快で、ご自分もほろほろと涙をこぼしなさるのは、色めいたお心であるよ。本当にひどい過ちがあっても、ひたすら疎み果てることはできそうになく、可憐で心苦しい様子をしていらっしゃるので、恨みきることもおできにならず、言いさしながら、一方ではなだめ申し上げなさる。翌日も心のどかにお休みになって起き、お手水やお粥なども、こちらで差し上げる。お部屋の調度なども、あれほど輝くばかりに高麗や唐土の錦や綾を裁ち重ねた所を見た目には、世の常の住み慣れた心地がして、女房たちの姿も糊気の落ちた者が混じっていたりして、たいそう静かに見回される。
君は柔らかな薄色の衣どもに、撫子の細長を重ねてくつろいでいらっしゃるご様子が、何事もたいそう端正で、大げさなほどに盛んな六の君のご装いや、何やかやと比べてお思いになっても、見劣りするとも思われない。慕わしく趣深いのは、志がおろそかでないので恥じることはないのだろう、ふっくらと可愛らしく太っていらっしゃった人が少しほっそりして、色はいよいよ白くなって、上品で美しい、このような移り香などがはっきりしない時でさえ、愛嬌があって可憐なところなどが、やはり人よりずっとまさってお思いになるにつけては、これを兄弟などではない人が身近に話を交わして、何かにつけて自然と声や気配を聞き見慣れたら、どうしてただでいられよう、必ずそう思い寄るに違いないことなのにと、ご自分のたいそう隈なく行き届いたお心の癖から思い知られなさるので、いつも心にかけて、はっきりした様子の手紙などがありはしないかと、身近な御厨子や小唐櫃などのようなものも、さりげなくご覧になるが、そうしたものもない。
意訳
匂宮は、他の男の移り香を恨む歌を詠み、中の君はこれくらいで仲が離れるのかと泣いて返す。匂宮も泣き、恨みきれずになだめる。翌日も匂宮は二条院に留まる。豪華な六の君の住まいと比べ、中の君の住まいは落ち着いているが、中の君の美しさは劣らない。匂宮は、中の君に親しく接する男なら必ず恋をするだろうと、自分の性分から推し量り、薫の手紙を探すが見つからない。
語釈・文法注
文法
- 「見なれぬる中の衣」(見なれぬる中の衣とたのみしを)
- 見慣れた仲(中)の衣。夫婦の仲を衣にたとえる。
- 「なえばみたる」(人々のすがたもなえばみたるうちまじり)
- 着慣れて糊気が落ちた衣を着ている。
- 「くまなき御心ならひ」(我がいとくまなき御心ならひに)
- 隈なく行き届く心の癖。色好みの経験から何でも見通す性分。
解説
匂宮は、自分が色好みだからこそ、薫も中の君に恋をするに違いないと推し量る。自分の心で他人を測る匂宮の疑いは、皮肉にも事実を言い当てている。
華やかな六の君の住まいと、落ち着いた中の君の住まいの対比が描かれる。匂宮は、豪華さよりも中の君の柔らかな美しさに心を引かれる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1034–1035頁(コマ228)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日