源氏物語 第49帖 宿木(30)
薫の移り香
匂宮は、打ち解けにくい六の君の所に慣れていらしたので、万事が気安く慕わしく思われるままに、並々でないことを尽きることなく約束するのを聞くにつけても、中の君は、男はこうも口がうまいものなのだろうかと、無理強いした薫のご様子も思い出されて、長年哀れなお心ばえとは思い続けてきたが、こういう方面では哀れもあるまじきことと思うにつけ、匂宮の将来の約束は、いやどうだろうと思いながらも少し耳にとまった。それにしても、呆れるほど油断させて入ってきた時のことよ、亡き姉君と疎遠なまま終わったことなどを語ったお心ばえは本当にめったにないものだったが、やはり打ち解けるべきではなかったのだなどと、ますます用心されるにつけても、匂宮が長く途絶えなさることはひどく恐ろしく思われるので、口に出しては言わないが、これまでよりは少しまつわりつくように振る舞うのを、匂宮はますますこの上なく哀れとお思いになるが、あの薫の移り香がたいそう深くしみていて、世の常の香を衣に薫きしめたのとも違うはっきりした匂いなので、その道の達人でいらっしゃるから、妙だと咎め立てて、どういうことかと様子を探ると、全くかけ離れたことでもないので、中の君は言いようもなく困ってたいそう苦しいと思っている。匂宮は、やはりそうか、きっとそういうことはあるだろう、まさかただでは思うまいと思い続けていたことだとお心が騒いだ。実は単衣の衣なども着替えていたが、不思議に心ならずも身にしみていた。匂宮は「これほどなら、何もなかったはずはあるまい」とあれこれ聞き苦しくおっしゃり続けるので、中の君は情けなくて身の置き所もない。匂宮は「私が思い申し上げる気持ちは格別なのに、私の方が先にと、このように背くのは身分の低い者のすることだ。またお心を移すほど長く途絶えたでしょうか。
- 1うちうちうち解解とけけけぬぬぬ所所ところにににならひならひならい給給たまひひいてててよろづよろづよろずのののことことこと心心こころ安安やすくくくなつかしうなつかしうなつかしゅうおぼさおぼさおぼさるゝるゝるるまゝまゝままににに、、、おろかおろかおろかならならならぬぬぬことことことゞゞどもももををを盡盡つくせせせずずずのたまひのたまひのたまい契契ちぎるるるををを聞聞きくくくにににつけつけつけてててももも、、、かくかくかくのみのみのみことことことよきよきよきわざわざわざにににやややあらあらあらむむんとととあながちあながちあながちなりなりなりつるつるつる人人ひとののの御御おんけしきけしきけしきももも思思おもひひい出出いでででられられられててて、、、年年とし頃頃ごろ哀哀あわれなるなるなる御御おん心心こころばへばへばえとととははは思思おもひひい渡渡わたりりりつれつれつれどどどかゝるかゝるかかるかたかたかたざまざまざまにてにてにてははは哀哀あわれをををもももあるあるあるまじきまじきまじきことことことととと思思おもふふうにににぞぞぞ、、、このこのこの御御おん行行ゆくくくさきさきさきのののたのめたのめたのめはははいでやいでやいでやととと思思おもひひいながらながらながらももも少少すこししし耳耳みみとまりとまりとまりけるけるける、、、さてもさてもさてもあさましうあさましうあさましゅうたゆめたゆめたゆめたゆめたゆめたゆめててて入入いりりり來來きたりたりたりしししほどほどほどよよよ、、、昔昔むかしののの人人ひとにににうとくうとくうとくててて過過すぎぎぎにににしししことことことなどなどなど語語かたりりり給給たまひひいししし心心こころばへばへばえはははげにげにげにありがたかりありがたかりありがたかりけれけれけれどどど、、、猶猶なおうちうちうちとくとくとくべくべくべくあらあらあらざりざりざりけりけりけりかしかしかしなどなどなどいよいよいよいよいよいよ心心こころづかひづかひずかいせせせらるゝらるゝらるるにににももも、、、久久ひさしくしくしくとだえとだえとだえ給給たまははわむむん事事ことはははいといといと物物もの恐恐おそろしかるしかるしかるべくべくべく覺覺おぼえええ給給たまへへえばばば、、、ことことことににに出出いでででゝゝてはははいはいはいわねねねどどど過過すぎぎぎぬるぬるぬる方方かたよりよりよりははは少少すこしししまつはしまつはしまつわしざまざまざまにににもてもてもてなしなしなし給給たまへへえるるるををを、、、
- 2宮宮みやはははいとゞいとゞいとど限限かぎりなうなうのう哀哀あわれとととおぼしおぼしおぼしたるたるたるににに、、、かのかのかの人人ひとののの御御おんうつりうつりうつりがががのののいといといと深深ふこうううしみしみしみ給給たまへへえるるるががが世世よののの常常つねののの香香こうのののかかかにににいれいれいれたきたきたきしめしめしめたるたるたるにににももも似似にずずずしるきしるきしるき匂匂におひひいなるなるなるををを、、、そのそのその道道みちののの人人ひとにににしししおはすれおはすれおわすればばば怪怪あやしししととと咎咎とがめめめいでいでいで給給たまひひいててて、、、いかなりいかなりいかなりしししことことことぞぞぞとととけしきけしきけしきとりとりとり給給たまふふうににに、、、殊殊ことのののほかほかほかにににもてもてもてはなれはなれはなれぬぬぬことことことにににしししあれあれあればばばいはいはいわむむんかたかたかたなくなくなくわりなくわりなくわりなくててていといといと苦苦くるしししととと覺覺おぼえええたるたるたるををを、、、されされさればばばよよよ必必かならずずずさるさるさることことことはははありありありなななむむん、、、よもよもよもたゞたゞただにににははは思思おもははわじじじととと思思おもひひい渡渡わたるるることことことぞぞぞかしかしかしととと御心御心みこころさわぎさわぎさわぎけりけりけり。。。さるはさるはさるはひとへひとへひとえののの御御おんぞぞぞなどなどなどもももぬぎぬぎぬぎかへかへかえ給給たまひひいてててけれけれけれどどど怪怪あやしうしうしゅう心心こころよりよりより外外ほかにににぞぞぞ身身みにににしみしみしみにににけるけるける。。。「「「かばかりかばかりかばかりにてにてにてはははのこりのこりのこりありありありてててしもしもしもあらあらあらじじじ」」」ととと萬萬よろずににに聞聞ききききにくゝにくゝにくくのたまひのたまひのたまいつゞくるつゞくるつづくるににに、、、心心こころうくうくうくててて身身みぞぞぞおきおきおきどころどころどころなきなきなき。。。「「「思思おもひひい聞聞きこゆるゆるゆるさまさまさまことことことなるなるなるものものものををを、、、我我わこそこそこそさきさきさきににになどなどなどかやうかやうかようにににうちうちうち背背そむくくくきはきはきわゝゝはことことことにににこそこそこそあれあれあれ。。。又又また御心御心みこころおきおきおき給給たまふふうばかりばかりばかりのののほどほどほどやややはははへへへぬるぬるぬる。。。
現代語訳
匂宮は、打ち解けにくい所に慣れていらっしゃって、万事が気安く慕わしくお思いになるままに、並々でないことどもを尽きることなく約束なさるのを聞くにつけても、中の君は、こうばかり口のうまいものなのだろうかと、無理強いした人のご様子も思い出されて、長年哀れなお心ばえとは思い続けてきたけれど、このような方面では哀れもあるまじきことと思うにつけ、この匂宮の将来の約束は、いやどうだろうと思いながらも、少し耳にとまったのだった、それにしても、呆れるほど油断させて入ってきた時のことよ、昔の人と疎遠なまま終わったことなどを語りなさったお心ばえは、本当にめったにないものだったが、やはり打ち解けるべきではなかったのだなどと、ますます用心されるにつけても、匂宮が長く途絶えなさることはひどく恐ろしく思われなさるので、口に出しては言わないけれど、これまでよりは少しまつわりつくように振る舞っていらっしゃるのを、
匂宮はますますこの上なく哀れとお思いになっているところに、あの薫の移り香がたいそう深くしみていらっしゃるのが、世の常の香を衣に入れて薫きしめたのにも似ず、はっきりした匂いなのを、その道の人でいらっしゃるので、妙だと咎め立てなさって、どういうことだったのかと様子を探りなさると、全くかけ離れたことでもないので、言いようもなく困って、たいそう苦しいと思っているのを、匂宮は、やはりそうか、きっとそういうことはあるだろう、まさかただでは思うまいと思い続けていたことだと、お心が騒いだ。実は単衣のお召し物なども着替えていらっしゃったが、不思議に心ならずも身にしみていたのだった。匂宮は「これほどなら、何もなかったはずはあるまい」と、あれこれ聞き苦しくおっしゃり続けるので、中の君は情けなくて身の置き所もない。匂宮は「私が思い申し上げる様子は格別なのに、私の方が先にと、このように背くのは、身分の低い者のすることです。またお心を置きなさるほど長く途絶えたでしょうか。
意訳
匂宮は中の君に将来を誓う。中の君は、薫に裏切られたと思い、匂宮の約束に少し心が動く。匂宮の途絶えを恐れ、中の君は以前より甘えるように振る舞う。ところが匂宮は、中の君の衣に深くしみた薫の移り香に気づき、二人の仲を疑う。中の君は着替えていたのに香りが消えず、身の置き所もない。匂宮は激しく問い詰める。
語釈・文法注
文法
- 「ことよきわざ」(かくのみことよきわざにやあらむ)
- 口のうまいこと。男の言葉巧みさ。
- 「たゆめたゆめて」(あさましうたゆめたゆめて入り來たりしほどよ)
- 油断させに油断させて。
- 「うち背くきは」(かやうにうち背くきはゝことにこそあれ)
- 夫に背くのは身分の低い者のすること。
解説
薫の体から放つ香りは、隠しごとを許さない。かつて中の君が大君の衣に薫の香りを感じ取ったように、今度は匂宮が中の君の衣に薫の香りを見つける。薫の香りが、再び人間関係を揺るがす。
匂宮は自分が六の君のもとへ通っていながら、中の君の不実を激しく責める。匂宮の身勝手さが露わになる一方で、中の君への執着の強さも示されている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1032–1035頁(コマ227–228)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日