源氏物語 第49帖 宿木(27)
腹帯のしるし
好色で目に余るような心はないと安心してお思いください」と言って、たいそうのどかに振る舞っているが、何か月も悔しいと思い続けてきた心の内が苦しいまでになっていく様子をこまごまと言い続けて、許しそうな様子もないので、中の君はどうしようもなく、ひどいと言っても世の常の言葉では足りない、かえって全く事情を知らない人よりも恥ずかしく不快で泣いてしまったので、薫は「これはどうしたことです。ああ子どもっぽい」とは言いながら、言いようもなく可憐で心苦しいものの、用意深く気後れするほどの様子などが、宇治で見た頃よりこの上なく大人びてまさっていらしたのを見るにつけ、自分の心から他人のものにして、こうも穏やかでなく物思いをすることだと悔しいにも、また本当に声を上げて泣けてしまう。近くに控える女房が二人ほどいるが、見知らぬ男が入ってきたのならこれはどういうことかと参り寄るだろうが、こうして疎遠でなく話し合うお仲のようなので、何かわけがあるのだろうと思うにつけきまり悪いので、知らぬ顔でそっと退いてしまったのは気の毒なことだ。男君は昔を悔いる心のこらえがたさなどもたいそう鎮めがたかったようだが、昔でさえめったにないお心の用意なので、やはり思うままには振る舞わなかった。このような方面のことは詳しくは語り続けられなかった。かいのないことなのに人目もつまらないと思うので、万事思い返して出ていった。まだ宵と思っていたが、暁近くなってしまったので、見咎める人もいるかもしれないと煩わしいのも、女のためを思えば気の毒だからである。悩ましげだと聞いていたご気分はもっともだった。ひどく恥ずかしいと思っていらした腰の帯のしるし(懐妊)に、多くは心苦しく思われてやめてしまったことだ、例の愚かしい心だと思うが、情けないことはやはりたいそう本意に背くだろう。
- 1すきずきしくすきずきしくすきずきしくめざましきめざましきめざましき心心こころはははあらあらあらじじじととと心心こころ安安やすくくくおぼせおぼせおぼせ」」」とてとてとていといといとのどやかのどやかのどやかにににもてもてもてなしなしなし給給たまへへえれれれどどど、、、月月つき頃頃ごろ悔悔くやしししととと思思おもひひい渡渡わたるるる心心こころのののうちうちうちののの苦苦くるしきしきしきまでまでまでなりなりなり行行ゆくくくさまさまさまをををつぶつぶつぶつぶつぶつぶととといひいひいいつゞけつゞけつづけ給給たまひひいててて、、、許許ゆるすすすべきべきべきけしきけしきけしきにににもももあらあらあらぬぬぬににに、、、せむせむせむ方方かたなくなくなくいみじいみじいみじとととももも世世よののの常常つねなりなりなり、、、なかなかなかなかなかなかむげむげむげににに心心こころ知知しらららざらざらざらむむん人人ひとよりよりよりももも恥恥はずかしうしうしゅう心心こころづきなくづきなくずきなくてててないないない給給たまひひいぬるぬるぬるををを、、、「「「こここはははなぞなぞなぞ。。。あなあなあなわかわかしわかわかしわかわかし」」」とととはははいひいひいいながらながらながらいひいひいい知知しらららずずずらうたげらうたげろうたげににに心苦心苦こころぐるしきしきしきものものものからからから用用よう意意い深深ふかくくく恥恥はずかしげしげしげなるなるなるけはひけはひけはいなどなどなどののの、、、見見みししし程程ほどよりよりよりもももこよなくこよなくこよなくねびねびねびまさりまさりまさり給給たまへへえりりりけるけるけるなどなどなどををを見見みるるるににに、、、心心こころからからからよそよそよそ人人びとにににしなししなししなしてててかくかくかく安安やすからからからずずず物物ものををを思思おもふふうことことことととと悔悔くやしきしきしきにににももも又又またげにげにげにねねねはははなかれなかれなかれけりけりけり。。。近近ちこうううさぶらふさぶらふさぶらう女房女房にょうぼう二二ふた人人りばかりばかりばかりあれあれあれどどど、、、すゞろすゞろすずろなるなるなる男男おとこののの入入いりりり來來きたるたるたるならならならばばばこそこそこそはははこここはははいかなるいかなるいかなることことことぞぞぞとととももも參參まいりりりよらよらよらめめめ、、、かくかくかくうとからうとからうとからずずず聞聞きこえええかはしかはしかわし給給たまふふう御御おんなからひなからひなからいなななめれめれめればばばさるさるさるやうやうようこそこそこそはははあらあらあらめめめととと思思おもふふうにににかたはらいたけれかたはらいたけれかたわらいたければばば、、、知知しらららずずずがほがほがおにてにてにてやをらやをらやおらしぞきしぞきしぞきぬるぬるぬるぞぞぞいとほしきいとほしきいとおしきややや。。。
- 2男男おとこ君君ぎみはははいにしへいにしへいにしえををを悔悔くゆるゆるゆる心心こころののの忍忍しのびびびがたきがたきがたきなどなどなどもももいといといとしづめしづめしずめがたかりがたかりがたかりぬぬぬべかべかべかめれめれめれどどど、、、昔昔むかしだにだにだにありがたかりありがたかりありがたかりししし御心御心みこころののの用用よう意意いなれなれなればばば猶猶なおいといといと思思おもひひいのののまゝまゝままにににももももてもてもてなしなしなし聞聞きこえええ給給たまははわざりざりざりけりけりけり。。。かやうかやうかようのののすぢすぢすじはははこまかこまかこまかにににもももえええなむなむなんまねびまねびまねびつゞけつゞけつづけざりざりざりけるけるける。。。かひかひかいなきなきなきものものものからからから人人ひとめめめのののあいなきあいなきあいなきををを思思おもへへえばばば、、、萬萬よろずににに思思おもひひい返返かえしししててて出出いででで給給たまひひいぬぬぬ。。。まだまだまだよひよひよいととと思思おもひひいつれつれつれどどど、、、曉曉あかつき近近ちこうううなりなりなりにににけるけるけるををを、、、見見み咎咎とがむるむるむる人人ひともももやややあらあらあらむむんとととわづらはしきわづらはしきわずらわしきももも、、、女女おんなののの御御おんためためためのののいとほしきいとほしきいとおしきぞぞぞかしかしかし。。。惱惱なやましげましげましげににに聞聞きききき渡渡わたるるる御御おん心心こころちちちはははことわりことわりことわりなりなりなりけりけりけり。。。いといといと恥恥はずかしししととと思思おもひひい給給たまへへえりりりつるつるつる腰腰こしのののしるししるししるしににに多多おおくくくははは心苦心苦こころぐるしうしうしゅう覺覺おぼえええてててもももやみやみやみぬるぬるぬるかなかなかな例例れいのののをこがましをこがましおこがましののの心心こころやややととと思思おもへへえどどどなさけなさけなさけなからなからなからむむんことことことははは猶猶なおいといといとほいほいほいなかるなかるなかるべしべしべし。。。
現代語訳
「好色で目に余るような心はあるまいと、安心してお思いください」と言って、たいそうのどかに振る舞っていらっしゃるが、何か月も悔しいと思い続けてきた心の内が苦しいまでになっていく様子を、こまごまと言い続けなさって、許しそうな様子でもないので、中の君はどうしようもなく、ひどいと言っても世の常の言葉であり、かえって全く事情を知らないような人よりも恥ずかしく不快で、泣いてしまわれたので、薫は「これはどうしたことです。ああ子どもっぽい」とは言いながら、言いようもなく可憐で心苦しいものの、用意深く気後れするほどの様子などが、宇治で見た頃よりこの上なく大人びてまさっていらっしゃったのを見るにつけ、自分の心から他人のものにして、こうも穏やかでなく物思いをすることだと悔しいにつけても、また本当に声を上げて泣けてしまうのだった。近くに控える女房が二人ほどいるが、見知らぬ男が入ってきたのならば、これはどういうことかとも参り寄るだろうが、こうして疎遠でなく話し合いなさるお仲のようなので、何かわけがあるのだろうと思うにつけ、きまり悪いので、知らぬ顔でそっと退いてしまったのは、気の毒なことであるよ。
男君は、昔を悔いる心のこらえがたさなども、たいそう鎮めがたかったようだが、昔でさえめったにないお心の用意だったので、やはり思うままにはお振る舞い申し上げなさらなかった。このような方面のことは、詳しくは語り続けられなかった。かいのないことなのに、人目もつまらないと思うので、万事思い返してお出になった。まだ宵と思っていたが、暁近くなってしまったので、見咎める人もいるかもしれないと煩わしいのも、女のおためを思うと気の毒だからであるよ。悩ましげだと聞き続けていたご気分はもっともだった。たいそう恥ずかしいと思っていらっしゃった腰の帯のしるしに、多くは心苦しく思われて、やめてしまったことよ、例の愚かしい心だと思うけれど、情けないことは、やはりたいそう本意に背くだろう。
意訳
薫は好色な心はないと言いながら、何か月も積もった悔いを語り続け、中の君は恥ずかしさと不快さに泣く。薫は中の君の大人びた美しさを見て、自分から他人のものにしたことを悔やみ、声を上げて泣く。女房たちは二人の仲を察して退く。薫は思いを遂げようとはせず、夜明け近くに帰る。中の君が懐妊の帯をしていたことに気づき、心苦しく思ってやめたのだった。
語釈・文法注
文法
- 「ない給ひぬる」(恥しう心づきなくてない給ひぬるを)
- 泣い給ひぬる。泣いてしまわれた。
- 「まねびつゞけざりける」(かやうのすぢはこまかにもえなむまねびつゞけざりける)
- 語り伝え続けなかった。語り手が詳細を控える。
- 「腰のしるし」(いと恥しと思ひ給へりつる腰のしるしに)
- 懐妊した女性が締める腹帯。中の君の懐妊を薫が知る。
解説
薫は中の君と一夜を過ごしながら、関係を結ばない。大君の時と同じく、薫の自制が働く。その理由の一つは中の君の懐妊であった。腹帯の存在が、薫の衝動を押しとどめる。
語り手は「このような方面のことは詳しく語れない」と述べて、二人の夜を曖昧にする。この曖昧さが、のちに匂宮が二人の仲を疑う余地を生む。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1030–1031頁(コマ226)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日