源氏物語 第49帖 宿木(25)
御簾の内の対面
薫は「わざわざお呼びくださったわけではありませんが、いつになくお許しくださったうれしさに、すぐにも参りたく思いましたが、匂宮がいらっしゃると承ったので、折が悪いだろうかと今日にいたしました。それでは長年の誠意のしるしもだんだん現れてきたのでしょうか。隔てが少し薄らいだ御簾の内ですね。珍しいことです」とおっしゃるので、中の君はやはりたいそう恥ずかしく、言い出す言葉もない心地がするが、「先日うれしく聞きました心の内を、いつものようにただ胸にしまったまま過ごしてしまったら、感謝の気持ちの一端だけでもどうしてお伝えできようかと残念で」とたいそう遠慮がちにおっしゃるのが、ひどく奥に退いて途切れ途切れにほのかに聞こえるので、薫はもどかしくて、「たいそう遠いですね。まじめに申し上げ承りたい世の話もございますのに」とおっしゃると、なるほどとお思いになって少し身じろぎしてお寄りになる気配を聞くにつけても、薫はふと胸がつぶれるが、さりげなくますます心を鎮めた様子で、匂宮のお心が思いのほかに浅かったのだと思われる様子で、一方では匂宮を悪く言い、また慰めもして、あれこれと静かに申し上げている。中の君は、匂宮への恨めしさなどは口に出して話すべきことでもないので、ただ世の中はつらいものだとでもいうように思わせて言葉少なに紛らわしながら、宇治にちょっと連れて行ってほしいと、たいそう熱心におっしゃる。薫は「それこそは、私一人の心に任せてはお仕えできないことでございます。やはり匂宮にただ素直に申し上げなさって、そのご意向に従うのがよいでしょう。そうでなければ少しでも行き違いがあって、軽々しいなどとお思いになったら、たいそうまずいことになります。そうでさえなければ、道中のお送り迎えも私が自ら出てお仕えするのに、何の憚りがございましょう。
- 1「「「わざとわざとわざと召召めしししとととはははべらべらべらざりざりざりしかしかしかどどど例例れいならならならずずず許許ゆるさささせせせ給給たまへへえりりりしししよろこびよろこびよろこびにににすなはちすなはちすなわちももも參參まいらららまほしくまほしくまほしく侍侍はべりりりしししををを、、、宮宮みや渡渡わたらららせせせ給給たまふふうととと承承うけたまわりりりしかしかしかばばば折折おり惡惡あしくしくしくやややはははとてとてとてけふけふきょうににになしなしなし侍侍はべりりりにににけるけるける。。。さささははは年年とし頃頃ごろのののしるししるししるしもももやうやうやうやうようようあらはれあらはれあらわれ侍侍はべるるるにににややや。。。隔隔へだて少少すこしししうすらぎうすらぎうすらぎ侍侍はべりりりにににけるけるける御御み簾簾すのののうちうちうちよよよ。。。珍珍めずしくしくしく侍侍はべるるるわざわざわざかなかなかな」」」とととのたまふのたまふのたまうににに、、、猶猶なおいといといとはづかしくはづかしくはずかしくいひいひいい出出いでででむむん言言ことののの葉葉はもももなきなきなき心心こころちちちすれすれすれどどど、、、「「「一一ひと日日ひ嬉嬉うれしくしくしく聞聞きききき侍侍はべりりりししし心心こころののの中中うちををを、、、例例れいののの唯唯ただむすぼゝれむすぼゝれむすぼおれながらながらながら過過すぐししし侍侍はべりりりなななばばば思思おもひひい知知しるるるかたかたかたはしはしはしをををだにだにだにいかでいかでいかでかかかはははととと口口くち惜惜おしさしさしさににに」」」ととといといといとつゝましげつゝましげつつましげにににのみのみのみのたまふのたまふのたまうががが、、、いたくいたくいたくしぞきしぞきしぞきてててたえだえたえだえたえだえほのかほのかほのかににに聞聞きこゆれゆれゆればばば心心こころもとなくもとなくもとなくててて、、、「「「いといといと遠遠とおくくくももも侍侍はべるるるかなかなかな。。。まめやかまめやかまめやかににに聞聞きこえええさせさせさせ承承うけたまわらららまほしきまほしきまほしき世世よののの物物もの語語がたりももも侍侍はべるるるものものものををを」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、げにげにげにとととおぼしおぼしおぼしててて少少すこしししみじろきみじろきみじろきよりよりより給給たまふふうけはひけはひけはいををを聞聞きききき給給たまふふうにににもももふとふとふと胸胸むねうちうちうちつぶるれつぶるれつぶるれどどど、、、さりげなくさりげなくさりげなくいとゞいとゞいとどしづめしづめしずめたるたるたるさまさまさましししててて宮宮みやののの御御おん心心こころばへばへばえ思思おもははわずずずににに淺淺あそうううおはしおはしおわしけりけりけりとととおぼしくおぼしくおぼしく、、、かつかつかつはははいひいひいいもももうとめうとめうとめ又又またなぐさめなぐさめなぐさめもももかたがたかたがたかたがたにににしづしづしづしづしずしずととと聞聞きこえええ給給たまひひいつゝつゝつつおはすおはすおわす。。。
- 2女女おんな君君ぎみははは、、、人人ひとののの御御おんうらめしさうらめしさうらめしさなどなどなどははは打打うちちち出出いででで語語かたらひらひらい聞聞きこえええ給給たまふふうべきべきべき事事ことにににもももあらあらあらねねねばばば、、、唯唯ただ世世よやややははは憂憂うきききなどなどなどやうやうようににに思思おもははわせせせてててことことことずくなずくなずくなににに紛紛まぎらはしはしわしつゝつゝつつ、、、山山やま里里ざとにににあからさまあからさまあからさまににに渡渡わたししし給給たまへへえとととおぼしくおぼしくおぼしくいといといとねんごろねんごろねんごろににに思思おもひひいてててのたまふのたまふのたまう。。。「「「それそれそれはははしもしもしも心心こころひとつひとつひとつにににまかせまかせまかせてててはははえええ仕仕つこうううまつるまつるまつるまじきまじきまじきことことことににに侍侍はべるるるなりなりなり。。。猶猶なお宮宮みやににに唯唯ただ心心こころ美美うつくしうくしうくしゅう聞聞きさせさせさせ給給たまひひいてててそのそのその御御おんけしきけしきけしきにににえええたがひたがひたがいてててなむなむなんよくよくよく侍侍はべるるるべきべきべき。。。さらさらさらずずずははは少少すこしししもももたがひたがひたがいめめめありありありててて心心こころ輕輕かろくくくもももなどなどなどおぼしおぼしおぼしものものものせせせむむんにににいといといとあしうあしうあしゅう侍侍はべりりりなななむむん。。。さささだにだにだにあるあるあるまじうまじうまじゅうははは道道みちのののほどほどほどののの御御おんおくりおくりおくりむかへむかへむかえもももおりおりおりたちたちたちててて仕仕つこうううまつらまつらまつらむむんににに何何なにののの憚憚はばかりりりかかかははは侍侍はべらららむむん。。。
現代語訳
薫は「わざわざお呼びくださったわけではございませんでしたが、いつになくお許しくださいましたうれしさに、すぐにも参りたく存じましたが、匂宮がいらっしゃると承りましたので、折が悪いだろうかと、今日にいたしました。それでは長年の誠意のしるしも、だんだん現れてまいりましたのでしょうか。隔てが少し薄らぎました御簾の内ですね。珍しいことでございます」とおっしゃるので、中の君はやはりたいそう恥ずかしく、言い出す言葉もない心地がするけれど、「先日うれしくお聞きしました心の内を、いつものようにただ胸にしまったまま過ごしてしまいましたら、感謝の気持ちの一端だけでも、どうしてお伝えできようかと残念で」と、たいそう遠慮がちにばかりおっしゃるのが、ひどく奥に退いて、途切れ途切れにほのかに聞こえるので、薫はもどかしくて、「たいそう遠いですね。まじめに申し上げ、承りたい世のお話もございますのに」とおっしゃると、中の君はなるほどとお思いになって、少し身じろぎしてお寄りになる気配をお聞きになるにつけても、薫はふと胸がつぶれるが、さりげなく、ますます心を鎮めた様子で、匂宮のお心が思いのほかに浅くていらっしゃったのだと思われる様子で、一方では匂宮を悪く言い、また慰めもして、あれこれと静かに申し上げていらっしゃる。
女君は、匂宮への恨めしさなどは、口に出してお話し申し上げるべきことでもないので、ただ世の中はつらいものだとでもいうように思わせて、言葉少なに紛らわしながら、山里にちょっと連れて行ってほしいと思っていらっしゃる様子で、たいそう熱心に思っておっしゃる。薫は「それこそは、私一人の心に任せては、お仕えできないことでございます。やはり匂宮にただ素直に申し上げなさって、そのご意向に背かないでいらっしゃるのがよいでしょう。そうでなければ、少しでも行き違いがあって、心が軽いなどとお思いになるのでは、たいそうまずいことになりましょう。そうでさえなければ、道中のお送り迎えも、私が自ら出てお仕えいたしますのに、何の憚りがございましょう。
意訳
薫は御簾の内に通されたことを喜ぶ。中の君は恥じらいながら感謝を述べるが、声が遠くて聞き取りにくく、薫が言うと中の君は少し身を寄せる。薫は胸がつぶれる思いを抑え、匂宮の浅はかさを批判しつつ慰める。中の君は宇治へ連れて行ってほしいと頼むが、薫は匂宮の許しを得なければならないと諭す。
語釈・文法注
文法
- 「しぞきて」(いたくしぞきてたえだえほのかに聞ゆれば)
- 退いて。奥に引き下がって。
- 「いひもうとめ」(かつはいひもうとめ又なぐさめも)
- 言い疎め。匂宮を悪く言って疎ませる。
- 「あからさまに」(山里にあからさまに渡し給へ)
- ちょっとの間、一時的に。
解説
中の君が身を寄せると、薫は胸がつぶれる。抑えてきた思いが、わずかな距離の変化で揺さぶられる。薫は心を鎮めて匂宮を批判し、中の君を慰めるが、その言葉には微妙な下心も混じっている。
薫は、中の君の宇治行きには匂宮の許しが必要だと諭す。後見として正しい助言だが、薫自身が中の君を連れ出したい思いを抑えているとも読める。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1028–1029頁(コマ225)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日