源氏物語 第49帖 宿木(23)
六の君の美しさ
匂宮は六の君のご様子を昼に見申し上げると、ますますお志がまさった。背丈もちょうどよい人の容姿がたいそう清らかで、髪の下がり端や頭の形などが、ほかの人より格別に、ああすばらしいとお見えになった。顔の色合いがあまりなほど匂い立って、ものものしく気高い顔の目元はたいそう気後れするほど才気があり、すべて何事も備わって、美しい人と言うのに物足りないところがない。二十歳を一つ二つ過ぎていらした。幼い年頃ではないので未熟で物足りないところもなく、鮮やかな盛りの花と見える。この上なく大切に育てられたので欠点がない。本当に親としては心も惑わされたにちがいない。ただ、柔らかく愛嬌があり可憐なことでは、あの対の御方(中の君)がまず思い出される。物をおっしゃる受け答えなども、恥じらってはいるがあまりおぼつかなくもない。すべてたいそう見どころが多く才気がありそうである。よい若女房が三十人ほど、童が六人、不出来な者もなく、装束なども、普通の美しさは見慣れているとお思いだろうと、わざと変わった趣向まで好みを凝らしていた。三条殿(雲居の雁)腹の大君を春宮に差し上げた時よりも、この六の君のことを格別に考えていらっしゃるのも、匂宮の世の評判やご様子のためだろう。こうして後、匂宮は二条院に気安く渡れない。軽々しいお身の上ではないので、思うままに昼の間なども出かけられず、そのまま同じ南の町に、昔のようにいらして、暮れるとまた素通りして二条院へ渡ることもできないなどして、待ち遠しくなる折々があるのを、中の君は、こうなることとは思っていたが、さしあたってはこうも名残ないものだろうか、本当に分別のある人は、人数にも入らない身を知らずに交わるべき世ではなかったのだと、返す返すも山道を分け出てきた頃が現実とも思えず悔しく悲しいので、やはり何とかしてこっそり宇治に帰りたい、すっかり背くわけではなくても、しばらく心を慰めたい、憎らしく振る舞いでもすれば嫌なことにもなろうが、などと心一つで思い余って、恥ずかしいが中納言殿にお手紙を差し上げた。
- 1宮宮みやははは女女おんな君君ぎみののの御御おんありさまありさまありさまひるひるひるみみみ聞聞きこえええ給給たまふふうにににいとゞいとゞいとど御御おん志志こころざしまさりまさりまさりにににけりけりけり。。。おほきさおほきさおおきさよきよきよき程程ほどなるなるなる人人ひとのののやうだいやうだいようだいいといといと淸淸きよげげげにてにてにて、、、髮髮かみのののさがりさがりさがりばばばかしらかしらかしらつきつきつきなどなどなどぞぞぞものものものよりよりよりことことことにににあなあなあなめでためでためでたととと見見みえええ給給たまひひいけるけるける。。。色色いろあひあひあいあまりあまりあまりなるなるなるまでまでまで匂匂におひひいててて、、、ものものものものしくものしくものしくけだかきけだかきけだかき顏顏かおのののまみまみまみいといといと恥恥はずかしげしげしげにににらうらしうらうらしうろうらしゅう、、、すべてすべてすべて何何なに事事こともももたらひたらひたらいてててかたちかたちかたちよきよきよき人人ひとととといはいはいわむむんににに飽飽あかかかぬぬぬ所所ところなしなしなし。。。はたちはたちはたちにににひとつひとつひとつふたつふたつふたつぞぞぞあまりあまりあまりたまへたまへたまえりりりけるけるける。。。いはけなきいはけなきいわけなき程程ほどならならならねねねばばばかたなりかたなりかたなりににに飽飽あかかかぬぬぬ所所ところなくなくなく、、、あざやかあざやかあざやかににに盛盛さかりののの花花はなととと見見みえええ給給たまへへえりりり。。。限限かぎりなくなくなくもてもてもてかしづきかしづきかしずき給給たまへへえるるるにににかたほかたほかたほならならならずずず。。。げにげにげに親親おやにてにてにてははは心心こころももも惑惑まどはしはしわし給給たまひひいつつつべかりべかりべかりけりけりけり。。。唯唯ただやはらかやはらかやわらかにににあいぎやうあいぎやうあいきょうづきづきずきらうたきらうたきろうたきことことことはははかのかのかの對對たいののの御御おん方方かたはははまづまづまずおぼしおぼしおぼし出出いでででられられられけるけるける。。。物物もののたまふのたまふのたまういらへいらへいらえなどなどなどももも、、、はぢらひはぢらひはじらい給給たまへへえれれれどどど又又またあまりあまりあまり覺束覺束おぼつかなくなくなくはははあらあらあらずずず。。。すべてすべてすべていといといとみどころみどころみどころおほくおほくおおくかどかどしげかどかどしげかどかどしげなりなりなり。。。よきよきよき若若わか人人うどどもどもども三三さん十十じゅう人人にんばかりばかりばかり、、、わらはわらはわらわ六六ろく人人にん、、、かたほかたほかたほなるなるなるなくなくなく、、、さうぞくさうぞくそうぞくなどなどなどももも例例れいののの麗麗うるはしきはしきわしきことことことはははめめめなれなれなれててておぼさおぼさおぼさるるるべかべかべかめれめれめればばば、、、引引ひきききたがへたがへたがえ心心こころ得得えぬぬぬまでまでまでこのみこのみこのみそしそしそし給給たまへへえるるる。。。三三さん條條じょう殿殿どの腹腹ばらのののおほいおほいおおい君君きみををを春春とう宮宮ぐうににに參參まいらせらせらせ給給たまへへえるるるよりよりよりももも、、、このこのこの御御おんことことことをををばばばいといといとことことことににに思思おもひひいおきおきおきててて聞聞きこえええ給給たまへへえるるるももも、、、宮宮みやののの御御おんおぼえおぼえおぼえありさまありさまありさまからからからなななめりめりめり。。。
- 2かくかくかくてててのちのちのち二二に條條じょう院院いんにににえええ心心こころ安安やすくくくももも渡渡わたりりり給給たまははわずずず。。。かろらかかろらかかろらかなるなるなる御御おん身身みならならならねねねばばばおぼすおぼすおぼすまゝまゝままににに晝晝ひるののの程程ほどなどなどなどもももえええ出出いででで給給たまははわねねねばばば、、、やがてやがてやがて同同おなじじじ南南みなみののの町町まちににに年年とし頃頃ごろありありありしししやうやうようにににおはしましおはしましおわしましててて、、、暮暮くるれるれるればばば又又またえええひきひきひきよぎよぎよぎてててももも渡渡わたりりり給給たまははわずずずなどなどなどしししててて待待まち遠遠どおににになるなるなるをりをりをりをりおりおりあるあるあるををを、、、かゝらかゝらかからむむんずるずるずる事事こととととははは思思おもひひいしかしかしかどどどさしさしさしあたりあたりあたりてててはははいといといとかうかうこうしもしもしもやややははは名名な殘殘ごりなかるなかるなかるべきべきべき、、、げにげにげに心心こころあらあらあらむむん人人ひとははは數數かずならならならぬぬぬ身身みををを知知しらららでででまじらふまじらふまじらうべきべきべき世世よにににもももあらあらあらざりざりざりけりけりけりととと、、、かへすがへすかへすがへすかえすがえすももも山山やま路路じわけわけわけ出出いでででけむけむけん程程ほどうつゝうつゝうつつとととももも覺覺おぼえええずずず悔悔くやしくしくしく悲悲かなしけれしけれしければばば、、、猶猶なおいかでいかでいかで忍忍しのびびびててて渡渡わたりりりなななむむん、、、むげむげむげににに背背そむくくくさまさまさまにににはははあらあらあらずずずともともともしばししばししばし心心こころをををももも慰慰なぐさめめめばやばやばや、、、にくげにくげにくげにににもてもてもてなしなしなしなどなどなどもももせせせばばばこそこそこそうたてうたてうたてもももあらあらあらめめめなどなどなど心心こころひとつひとつひとつににに思思おもひひいあまりあまりあまりててて、、、恥恥はずかしけれしけれしけれどどど中中ちゅう納納な言言ごん殿殿どのににに御御おん文文ふみ奉奉たてまつれれれ給給たまふふう。。。
現代語訳
匂宮は女君のご様子を昼に見申し上げなさると、ますますお志がまさった。背丈もちょうどよい程の人の容姿がたいそう清らかで、髪の下がり端や頭の形などが、ほかの人より格別に、ああすばらしいとお見えになった。顔の色合いがあまりなほど匂い立って、ものものしく気高い顔の目元は、たいそう気後れするほど才気があり、すべて何事も備わって、美しい人と言うのに物足りないところがない。二十歳を一つ二つ過ぎていらっしゃった。幼い年頃ではないので、未熟で物足りないところもなく、鮮やかな盛りの花とお見えになった。この上なく大切にお育てになったので、欠点がない。本当に親としては心も惑わされなさったにちがいない。ただ、柔らかく愛嬌があり可憐なことでは、あの対の御方がまず思い出されなさるのだった。物をおっしゃる受け答えなども、恥じらっていらっしゃるが、またあまりおぼつかなくもない。すべてたいそう見どころが多く、才気がありそうである。よい若女房が三十人ほど、童が六人、不出来な者もなく、装束なども、例の美しいことは見慣れていらっしゃるとお思いだろうと、わざと変わった、分からないほどまでに好みを凝らしていらっしゃった。三条殿腹の大君を春宮に差し上げなさった時よりも、この六の君のことを格別にお考えおきになっているのも、匂宮の世の評判やご様子のためであろう。
こうして後、匂宮は二条院に気安くはお渡りになれない。軽々しいお身の上ではないので、思うままに昼の間なども出かけられないので、そのまま同じ南の町に、長年いたように住んでいらっしゃって、暮れるとまた素通りして二条院へもお渡りになれないなどして、待ち遠しくなる折々があるのを、中の君は、こうなることとは思っていたが、さしあたっては、こうまで名残のないものだろうか、本当に分別のある人は、人数にも入らない身を知らずに交わるべき世ではなかったのだと、返す返すも山道を分け出てきた頃が現実とも思えず、悔しく悲しいので、やはり何とかしてこっそり宇治に帰ろう、すっかり背くわけではなくても、しばらく心を慰めたい、憎らしく振る舞いなどでもすれば嫌なことにもなろうが、などと心一つで思い余って、恥ずかしいけれど、中納言殿にお手紙を差し上げなさる。
意訳
昼に見た六の君は、二十一、二歳の盛りの美しさで、気高く才気があり、匂宮の心はますます惹かれる。ただ、柔らかな愛嬌では中の君が勝ると匂宮は思う。夕霧は六の君を春宮に入った姉以上に大切にし、女房や童も豪華に揃える。匂宮は六条院から離れられず、二条院への訪れが途絶えがちになる。中の君は宇治へ帰りたいと思い、恥を忍んで薫に手紙を送る。
語釈・文法注
文法
- 「らうらしう」(いと恥しげにらうらしう)
- らうらうしう。才気があって気が利く様子。
- 「三條殿腹のおほい君」(三條殿腹のおほい君を春宮に參らせ給へる)
- 雲居の雁の生んだ長女。春宮に入内している。
- 「同じ南の町」(やがて同じ南の町に年頃ありしやうにおはしまして)
- 六条院の南の町。匂宮が幼い頃から住んでいた所。
解説
六の君は、気高く華やかな盛りの花として描かれる。匂宮が中の君に感じる「やはらかにあいぎやうづきらうたき」魅力とは、まったく異なる美しさである。二人の女性の対比が鮮やかである。
中の君は思い余って薫に手紙を書く。宇治に帰りたいという願いを、匂宮ではなく薫に託す。この手紙が、薫と中の君の関係を大きく動かすことになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1026–1027頁(コマ224)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日