源氏物語 第49帖 宿木(20)
三日夜の餅
今宵はまだ更けないうちに匂宮はお出かけになるようだ。先払いの声が遠くなるにつれて、海人も釣りをするほど涙があふれるのも、我ながら憎らしい心だと思いながら、中の君は聞きながら臥せっている。初めから物思いをおさせになった有様などを思い出すのも疎ましいほどに思われる。この身重の悩みもどうなるのだろう、ひどく命短い一族なので、このような折にでもはかなくなってしまうのだろうかなどと思うと、命は惜しくないが、悲しくもあり、またたいそう罪深いことだとも聞くのにと、まどろめないままに思い明かす。その日は后の宮(明石の中宮)がご気分が悪いということで、誰もかれも参り集まったが、ちょっとしたお風邪でいらしたので格別のこともおありでないとのことで、大臣(夕霧)は昼に退出した。中納言の君(薫)を誘って同じ車で退出した。今宵の三日夜の儀式をどうしよう、清らかさを尽くそうとお思いのようだが、限りがあるだろう。この薫も気が引ける相手だが、親しい身内としては自分の方に然るべき人もおらず、宴の引き立て役にするには格別な人なのだからだろう。薫はいつになく忙しげに参って、人のもの(六の君の婿)になってしまったのを残念とも思わず、何やかやと一緒に世話をなさるのを、大臣は人知れず何となく悔しく思った。宵を少し過ぎた頃に匂宮がいらした。寝殿の南の廂の東寄りに御座所を設けた。御膳の台が八つ、例の御皿などがきちんと清らかで、また小さな台二つに華足の皿などをたいそう当世風にさせて、餅を差し上げた。珍しくもないことを書き置くのは憎らしい。大臣が渡ってきて、「夜もすっかり更けたので」と女房を通して匂宮を促すが、匂宮はたいそうふざけていてすぐには出ない。北の方(雲居の雁)のご兄弟の左衛門督や藤宰相などだけがいらっしゃる。やっとお出ましになった匂宮のご様子は、たいそう見るかいのある心地がする。
- 1今今こ宵宵よいはははまだまだまだふけふけふけぬぬぬにににいでいでいで給給たまふふうなりなりなり。。。御御おんさきさきさきののの聲聲こえののの遠遠とおくくくなるなるなるまゝまゝままにににあまあまあまももも釣釣つりするするするばかりばかりばかりににになるなるなるももも、、、我我わながらながらながらにくきにくきにくき心心こころかなかなかなととと思思おもふふう思思おもふふう聞聞きききき臥臥ふししし給給たまへへえりりり。。。はじめはじめはじめよりよりより物物ものををを思思おもははわせせせ給給たまひひいししし有有あり樣樣さまなどなどなどををを思思おもひひい出出いづるづるずるもももうとましきうとましきうとましきまでまでまでおもほゆおもほゆおもおゆ。。。このこのこのなやましきなやましきなやましき事事こともももいかならいかならいかならむむんとととすすすらむらむらん、、、いみじういみじういみじゅう命命いのち短短みじかきききぞうぞうぞうなれなれなればばば、、、かやうかやうかようならならならむむんついでついでついでにににもももやややはかなくはかなくはかなくなりなりなりなななむむんとととすすすらむらむらんなどなどなど思思おもふふうにににははは惜惜おしからしからしからねねねどどど、、、悲悲かなしうしうしゅうもももありありあり又又またいといといと罪罪つみ深深ふこうううもももあああなるなるなるものものものをををなどなどなどまどろままどろままどろまれれれぬぬぬまゝまゝままににに思思おもひひい明明あかししし給給たまふふう。。。そのそのその日日ひはははきさいきさいきさいののの宮宮みやなやましげなやましげなやましげにににおはしますおはしますおわしますとてとてとて、、、誰誰たれももも誰誰たれももも參參まいりりりつどひつどひつどい給給たまへへえれれれどどど、、、いさゝかいさゝかいささかなるなるなる御御おんかぜかぜかぜにににおはしましおはしましおわしましけれけれければばばことことことなるなるなることことこともももおはしまさおはしまさおわしまさずずずとてとてとて、、、おとゞおとゞおとどははは晝晝ひるまかでまかでまかで給給たまひひいにににけりけりけり。。。中中ちゅう納納な言言ごんののの君君きみさそひさそひさそい聞聞きこえええ給給たまひひいてててひとつひとつひとつ御御おん車車くるまにてにてにてぞぞぞまかでまかでまかで給給たまひひいにににけるけるける。。。今今こ宵宵よいののの儀儀ぎ式式しきいかならいかならいかならむむん、、、淸淸きよらららををを盡盡つくさささむむんとととおぼすおぼすおぼすべかべかべかめれめれめれどどど限限かぎりあらあらあらむむんかしかしかし。。。このこのこの君君きみももも心心こころ恥恥はずかしけれしけれしけれどどど、、、したしきしたしきしたしきかたかたかたののの覺覺おぼえええはははわがわがわがかたかたかたざまざまざまににに又又またさるべきさるべきさるべき人人ひともももおはせおはせおわせずずず、、、物物もののののはえはえはえにににせせせむむんににに心心こころことことことにににはははたたたおはするおはするおわする人人ひとなれなれなればばばなななめりめりめりかしかしかし。。。
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現代語訳
今宵はまだ更けないうちに、匂宮はお出かけになるようだ。先払いの声が遠くなるにつれて、海人も釣りをするほど涙があふれるのも、我ながら憎らしい心だと思い思い、中の君は聞きながら臥せっていらっしゃる。初めから物思いをおさせになった有様などを思い出すのも、疎ましいほどに思われる。この身重の悩みも、どうなろうとしているのだろう、ひどく命短い一族なので、このような折にでもはかなくなってしまうのだろうかなどと思うと、命は惜しくないけれど、悲しくもあり、またたいそう罪深いことでもあると聞くのにと、まどろめないままに思い明かしなさる。その日は后の宮がご気分が悪そうでいらっしゃるということで、誰もかれも参り集まりなさったが、ちょっとしたお風邪でいらっしゃったので、格別のこともおありでないということで、大臣は昼に退出なさった。中納言の君をお誘い申し上げて、同じ御車で退出なさった。今宵の儀式をどうしよう、清らかさを尽くそうとお思いのようだが、限りがあるだろう。この君も気が引ける相手だが、親しい身内としての評判は、自分の方にまた然るべき人もいらっしゃらず、宴の引き立て役にするには、格別でいらっしゃる人なのだからであろう。
薫はいつになく忙しげに参上なさって、人のものになってしまったのを残念とも思わず、何やかやと一緒に心を合わせて世話をなさるのを、大臣は人知れず何となく悔しくお思いになった。宵を少し過ぎた頃に匂宮がいらっしゃった。寝殿の南の廂の東寄りに御座所を設けた。御膳の台が八つ、例の御皿などがきちんと清らかで、また小さな台二つに華足の皿などを、たいそう当世風にさせなさって、餅を差し上げなさった。珍しくもないことを書き置くのは憎らしいことよ。大臣が渡っていらっしゃって、「夜もすっかり更けてしまったので」と女房を通して促し申し上げなさるが、匂宮はたいそうふざけていて、すぐにはお出にならない。北の方のご兄弟の左衛門督や藤宰相などだけがいらっしゃる。やっとお出ましになった匂宮のご様子は、たいそう見るかいのある心地がする。
意訳
匂宮が早く出かけ、中の君は涙に暮れて夜を明かす。懐妊の身で、短命の家系の自分も死ぬのではと思う。三日夜の儀式の日、夕霧は宮中から薫を連れて帰り、儀式の引き立て役にする。薫は六の君を逃したことを惜しむ様子もなく、熱心に手伝う。夜、三日夜の餅が華やかに整えられ、匂宮はなかなか出てこないが、やっと姿を現す。
語釈・文法注
文法
- 「あまも釣するばかり」(あまも釣するばかりになるも)
- 涙が海になって海人が釣りをするほど。涙が多いことの誇張。
- 「命短きぞう」(いみじう命短きぞうなれば)
- 族。一族。母も姉も若くして亡くなった。
- 「けそくの皿」(けそくの皿ども)
- 華足の皿。脚のついた飾りの台皿。
解説
中の君は懐妊の身で、出産で死ぬのではと恐れる。母も姉も早く亡くした中の君にとって、死は身近なものであった。匂宮の不在が、その不安をいっそう強める。
夕霧は、薫が六の君の婚儀を熱心に手伝うのを見て悔しく思う。薫を婿にできなかった無念が、夕霧の心に残っている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1022–1025頁(コマ222–223)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日