源氏物語 第49帖 宿木(19)
ひぐらしの声
女郎花は一段と萎れております、朝露がどのように置いた名残なのでしょう」。上品に趣深く書いてある。匂宮は「恨みがましいのも煩わしいことだ。本当は気楽にしばらくいようと思っていた世なのに、思いのほかのことになった」などとおっしゃるが、またとない唯一の妻と思い慣れている臣下の仲こそ、このようなことの恨めしさなども見る人も苦しいものだが、考えてみればこれはたいそう仕方のないことで、ついにはこうなるはずの宮のお身の上である、親王と申し上げる中でも格別に世の人が思い申し上げているので、何人も何人も妻をお持ちになっても非難されることはないだろうから、人も中の君を気の毒になどとは思っていないのだろう、これほどものものしく大切に据えなさって、心苦しい方とおろそかならずお思いなのを幸運な方だと言う。中の君自身の心にも、あまりに慣れさせなさって、急にきまり悪い思いをするのが嘆かわしいのだろう、こういう男女の道をどうして人は浅からず思い悩むのだろうと、昔物語などを読むにも、人の身の上でも不思議に聞いていたのは、本当におろそかにできないことだったのだと、我が身のこととして何事も思い知られた。匂宮はいつもより哀れに打ち解けた様子で振る舞って、「全く何も召し上がらないそうなのがたいそうよくない」などとおっしゃって、由緒ある果物を取り寄せ、また然るべき人を呼んで特別に料理させたりしながら勧めるが、中の君はたいそう遠く思っているので、「見苦しいことだ」と嘆いていらっしゃるうちに、暮れたので夕方に寝殿へ渡った。風が涼しく大方の空も趣深い頃で、当世風を好むお心なので、ますます艶なるうえに、物思いの多い中の君の心の中は、万事に耐えがたいことばかり多かった。ひぐらしの鳴く声にも宇治の山の陰ばかり恋しくて、中の君は、他人事として聞いたなら何ということもないひぐらしの声が恨めしい秋の暮れだと詠む。
- 1女女おみ郞郞な花花へししをれしをれしおれぞぞぞまさるまさるまさるあさあさあさ露露つゆのののいかにいかにいかに置置おきききけるけるけるなごりなごりなごりなるなるなるらむらむらん」」」。。。あでやかあでやかあでやかにににをかしうをかしうおかしゅう書書かききき給給たまへへえりりり。。。「「「かごとかごとかごとがましげがましげがましげなるなるなるもももわづらはしわづらはしわずらわしややや。。。誠誠まことははは心心こころ安安やすくくくてててしばししばししばしはははあらあらあらむむんととと思思おもふふう世世よををを、、、思思おもいのののほかほかほかにににもももあるあるあるかなかなかな」」」などなどなどはははのたまへのたまへのたまえどどど又又また二二ふたつつつなくなくなくてててさるべきさるべきさるべきものものものににに思思おもひひいならひならひならいたるたるたるたゞたゞただ人人びとののの中中なかこそこそこそかやうかやうかようなるなるなることことことのののうらめしさうらめしさうらめしさなどなどなどももも見見みるるる人人ひと苦苦くるしくしくしくはははあれあれあれ、、、思思おもへへえばばばこれこれこれはははいといといとかたしかたしかたし、、、つひつひついにににかゝるかゝるかかるべきべきべき御御おん事事ことなりなりなり、、、宮宮みや達達たちととと聞聞きこゆるゆるゆる中中なかにににもももすぢすぢすじことことことににに世世よののの人人ひと思思おもひひい聞聞きこえええたれたれたればばば、、、いくいくいくたりたりたりもももいくいくいくたりたりたりもももえええ給給たまははわむむんことことことももももどきもどきもどきあるあるあるまじけれまじけれまじければばば、、、人人ひともももこのこのこの御御おん方方かたをををいとほしいとほしいとおしなどなどなど思思おもひひいたらたらたらぬぬぬなるなるなるべしべしべし、、、かばかりかばかりかばかりものものものものしくものしくものしくかしづきかしづきかしずきすゑすゑすえ給給たまひひいててて、、、心苦心苦こころぐるしきしきしきかたかたかたおろかおろかおろかならならならずずずおぼしおぼしおぼしたるたるたるをををぞぞぞさいはひさいはひさいわいおはしおはしおわしけるけるけるととときこゆるきこゆるきこゆる、、、みづからみづからみずからののの心心こころにににももも、、、あまりあまりあまりにににならはしならはしならわし給給たまひひいててて、、、俄俄にわかにににはしたなかるはしたなかるはしたなかるべきべきべきがががなげかしきなげかしきなげかしきなななめりめりめり、、、かゝるかゝるかかる道道みちをををいかいかいかなれなれなればばば淺淺あさからからからずずず人人ひとののの思思おもふふうらむらむらんととと、、、昔昔むかし物物もの語語がたりなどなどなどををを見見みるるるにににももも人人ひとののの上上うえなどなどなどにてにてにてもももあやしうあやしうあやしゅう聞聞きききき思思おもひひいしししはははげにげにげにおろかおろかおろかなるなるなるまじきまじきまじきわざわざわざなりなりなりけりけりけりととと、、、わがわがわが身身みににになしなしなしてててぞぞぞ何何なに事事ことももも思思おもひひい知知しららられれれ給給たまひひいけるけるける。。。
- 2宮宮みやははは常常つねよりよりよりももも哀哀あわれにににうちうちうち解解とけけけたるたるたるさまさまさまにににもてもてもてなしなしなし給給たまひひいててて、、、「「「むげむげむげににに物物もの參參まいらららざざざなるなるなるこそこそこそいといといとあしけれあしけれあしけれ」」」などなどなどのたまひのたまひのたまいててて、、、よしよしよしあるあるある御御おんくだものくだものくだもの召召めしししよせよせよせ、、、又又またさるべきさるべきさるべき人人ひとめしめしめしててて殊殊こと更更さらにににてうてうちょうぜぜぜさせさせさせ給給たまひひいなどなどなどしししつゝつゝつつそゞのかしそゞのかしそぞのかし聞聞きこえええ給給たまへへえどどどいといといとはるかはるかはるかにににのみのみのみおぼしおぼしおぼしたれたれたればばば「「「見見み苦苦ぐるしきしきしきわざわざわざかなかなかな」」」ととと歎歎なげききき聞聞きこえええ給給たまふふうににに、、、暮暮くれれれぬれぬれぬればばば夕夕ゆうつつつ方方かた寢寢しん殿殿でんへへへ渡渡わたりりり給給たまひひいぬぬぬ。。。風風かぜ涼涼すずしくしくしくおほかたおほかたおおかたののの空空そらをかしきをかしきおかしき頃頃ころなるなるなるににに、、、今今いまめかしきめかしきめかしきにににすゝみすゝみすすみ給給たまへへえるるる御心御心みこころなれなれなればばば、、、いとゞしくいとゞしくいとどしくえんえんえんなるなるなるににに、、、物物ものおもはしきおもはしきおもわしき人人ひとののの御心御心みこころののの中中うちはははよろづよろづよろずににに忍忍しのびびびがたきがたきがたき事事ことのみのみのみぞぞぞ多多おおかりかりかりけるけるける。。。ひぐらしひぐらしひぐらしののの鳴鳴なくくく聲聲こえにににももも山山やまののの陰陰かげのみのみのみ戀戀こいしくしくしくててて、、、「「「おほかたおほかたおおかたにににきかきかきかましましましものものものをををひぐらしひぐらしひぐらしののの聲聲こえうらめしきうらめしきうらめしき秋秋あきののの暮暮くれかなかなかな」」」。。。
現代語訳
「女郎花は一段と萎れております、朝露がどのように置いた名残なのでしょう」。上品に趣深く書いていらっしゃる。匂宮は「恨みがましいのも煩わしいことよ。本当は気楽にしばらくはいようと思っていた世なのに、思いのほかのことになったものだ」などとはおっしゃるけれど、またとない唯一の妻と思い慣れている臣下の仲こそ、このようなことの恨めしさなども、見る人も苦しいものだが、考えてみればこれはたいそう仕方のないことで、ついにはこうなるはずの宮のお身の上である、親王と申し上げる中でも格別に世の人がお思い申し上げているので、何人も何人も妻をお持ちになっても非難はないだろうから、人もこの中の君を気の毒になどとは思っていないのだろう、これほどものものしく大切に据えなさって、心苦しい方とおろそかならずお思いになっているのを、幸運でいらっしゃったと申し上げる、中の君ご自身の心にも、あまりに慣れさせなさって、急にきまり悪い思いをすることになるのが嘆かわしいのであろう、このような男女の道を、どうして人は浅からず思うのだろうと、昔物語などを見るにも、人の身の上などでも不思議に聞き思っていたのは、本当におろそかにはできないことだったのだと、我が身のこととして何事も思い知られなさった。
匂宮はいつもより哀れに打ち解けた様子で振る舞いなさって、「全く何も召し上がらないそうなのが、たいそうよくない」などとおっしゃって、由緒ある果物を取り寄せ、また然るべき人を呼んで、特別に料理させなさったりしながらお勧め申し上げなさるが、中の君はたいそう遠くばかりお思いになっているので、「見苦しいことよ」と嘆き申し上げなさるうちに、日が暮れたので、夕方、寝殿へお渡りになった。風が涼しく、大方の空も趣深い頃であるうえに、当世風に進んでいらっしゃるお心なので、ますます艶なるうえに、物思いの多い人のお心の中は、万事に耐えがたいことばかり多かった。ひぐらしの鳴く声にも、宇治の山の陰ばかりが恋しくて、「他人事として聞いたなら何ということもなかったのに、ひぐらしの声が恨めしい秋の暮れであることよ」。
意訳
落葉の宮の代筆の歌は、女郎花(六の君)が萎れていると恨みを込める。匂宮は煩わしがるが、親王が複数の妻を持つのは当然とされ、世間は中の君を気の毒とも思わず、むしろ大切にされて幸運だと言う。中の君は、急に冷たくされることを嘆き、男女の仲の苦しみを身をもって知る。匂宮は食事を取らない中の君を気づかうが、夕方には六の君のもとへ向かう。中の君はひぐらしの声に宇治を恋しく思う。
語釈・文法注
文法
- 「女郞花しをれぞまさる」(女郞花しをれぞまさるあさ露の)
- 女郎花(六の君)が萎れている。匂宮が中の君のもとへ帰ったことへの恨み。
- 「てうぜさせ」(殊更にてうぜさせ給ひなど)
- 調ぜさせ。料理させる。
- 「おほかたにきかましものを」(おほかたにきかましものをひぐらしの)
- 自分に関係のないことなら、ひぐらしの声も何とも思わなかったのに。
解説
世間の目から見れば、中の君は幸運な女性である。親王の妻となり、大切にされている。しかし中の君自身にとっては、匂宮が他の女性のもとへ通うことが耐えがたい苦しみである。世間の評価と本人の苦しみの隔たりが描かれる。
昔物語で読んだ恋の苦しみを、中の君は自分のこととして初めて理解する。物語を読む者と物語を生きる者の違いが、ここに示されている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1022–1023頁(コマ222)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日