源氏物語 第49帖 宿木(15)
身にしむ秋の風
父宮と姉君のお二人を頼みにして、あのような山里に年月を過ごしてきたが、ただいつとなく所在なくもの寂しくはあっても、こうまで心にしみて世をつらいものとは思い知らなかったのに、続いて呆れるような父と姉の死を思った頃は、世にまた留まって片時も過ごせるとは思えず、恋しく悲しいことの類はあるまいと思ったが、命長く今まで生き長らえていると、人が思っていたよりは人並みにもなるような有様を、長く続くものとは思わないものの、見ている限りは憎げのない匂宮のお心ばえや扱いに、だんだん思うことも薄らいで過ごしてきたのに、この節の身のつらさは言いようもなく、これで最後かと思われることだった。すっかり世を去ってしまった父や姉よりは、それでも匂宮は時々はどうして来ないことがあろうと思うべきなのに、今宵こうして見捨てて出かけなさるつらさに、過去も未来もすべて乱れて心細くひどいのが、我ながら晴らしようもなく情けない、自然と生き長らえたらなどと慰めようと思うにつけても、さらに姨捨山の月ばかり澄み昇って、夜が更けるにつれて万事に思い乱れる。松風の吹いてくる音も、荒々しかった宇治の山おろしに比べればたいそうのどかで慕わしく感じのよい住まいだが、今宵はそうも思われず、椎の葉の音には劣って思われる。中の君は、山里の松の陰でもこれほど身にしみる秋の風はなかった、過去のことは忘れてしまったのだろうかと詠む。老女房たちなどは「もうお入りください。月を見るのは忌むものですのに。呆れたことに、ちょっとした果物さえご覧にならないので、どうおなりになるでしょう。ああ見苦しい。不吉に思い出されることもございますのに。たいそう困ったことです」などと言う。若い女房たちは「情けない世だこと」と嘆いて「この宮のことよ、それでもこうしておろそかになり果てることはまさかないでしょう。
- 1二二ふた所所ところをををたのみたのみたのみ聞聞きこえええさせさせさせてててさるさるさる山山やま里里ざとににに年年とし經經へしかしかしかどどど、、、唯唯ただいついついつとととなくなくなくつれづれつれづれつれずれにににすごうすごうすごうはははありありありながらながらながらいといといとかくかくかく心心こころにににしみしみしみててて世世よをををうきうきうきものものものとととももも思思おもひひい知知しらららざりざりざりしししににに、、、打打うちちち續續つづきききあさましきあさましきあさましき御御おん事事ことどもどもどもををを思思おもひひいししし程程ほどははは世世よににに又又またとまりとまりとまりててて片片かた時時ときふふふべくべくべくもももおぼえおぼえおぼえずずず戀戀こいしうしうしゅう悲悲かなしきしきしきことことことのののたぐひたぐひたぐいあらあらあらじじじととと思思おもひひいしししををを、、、命命いのち長長ながくくくててて今今いままでまでまでもももながらふれながらふれながらうればばば人人ひとののの思思おもひひいたりたりたりししし程程ほどよりよりよりははは人人ひとかずかずかずにににもももなるなるなるやうやうようなるなるなる有有あり樣樣さまををを長長ながかるかるかるべきべきべきことことことゝゝとははは思思おもははわねねねどどど、、、見見みるるるかぎりかぎりかぎりはははにくげにくげにくげなきなきなき御御おん心心こころばへばへばえもてもてもてなしなしなしなるなるなるににに、、、やうやうやうやうようよう思思おもふふうことことこと薄薄うすらぎらぎらぎてててありありありへへへつるつるつるををを、、、このこのこのふしふしふしののの身身みのののうさうさうさはははたたたいはいはいわむむんかたかたかたなくなくなく限限かぎりととと覺覺おぼゆるゆるゆるわざわざわざなりなりなりけりけりけり。。。ひたすらひたすらひたすら世世よににになくなくなくなりなりなり給給たまひひいにににししし人々人々ひとびとよりよりよりはははさりともさりともさりともこれこれこれははは時々時々ときどきもももなどなどなどかかかはははとととももも思思おもふふうべきべきべきををを、、、今今こ宵宵よいかくかくかく見見み捨捨すてててゝゝて出出いででで給給たまふふうつらさつらさつらさにににきききしししかたかたかた行行ゆくくくさきさきさき皆皆みなかきかきかきみだりみだりみだり心心こころ細細ぼそくくくいみじきいみじきいみじきががが我我わががが心心こころながらながらながら思思おもひひいやるやるやるかたかたかたなくなくなく心心こころ憂憂うくくくもももあるあるあるかなかなかな、、、おのづからおのづからおのずからながらへながらへながらへばばばなどなどなど慰慰なぐさめめめむむんことことことをををおもふおもふおもうににに、、、更更さらににに姨姨おば捨捨すて山山やまののの月月つきのみのみのみすみすみすみのぼりのぼりのぼりててて夜夜よ更更ふくるくるくるまゝまゝままににによろづよろづよろず思思おもひひい亂亂みだれれれたまふたまふたまう。。。
- 2松松まつ風風かぜののの吹吹ふきききくるくるくる音音おとももも、、、あらましかりあらましかりあらましかりししし山山やまおろしおろしおろしににに思思おもひひいくらぶれくらぶれくらぶればばばいといといとのどかのどかのどかににに懷懷なつかしうかしうかしゅうめやすきめやすきめやすき御御おん住住すまひまひまいなれなれなれどどど、、、今今こ宵宵よいはははさささもももおぼえおぼえおぼえずずず、、、椎椎しいののの葉葉はのののおとおとおとにににははは劣劣おとりりりててておぼゆおぼゆおぼゆ。。。「「「山山やま里里ざとのののまつまつまつのののかげかげかげにににもももかくかくかくばかりばかりばかり身身みにににしむしむしむあきあきあきののの風風かぜはははなかりなかりなかりききき。。。きききしししかたかたかたははは忘忘わすれれれにににけるけるけるにににやややあらあらあらむむん」」」。。。おいおいおいびとびとびとどもどもどもなどなどなど「「「今今いまはははいらいらいらせせせ給給たまひひいねねね。。。月月つき見見みるるるははは忌忌いみみみ侍侍はべるるるものものものををを。。。あさましうあさましうあさましゅうはかなきはかなきはかなき御御おんくだものくだものくだものをををだにだにだに御御ご覽覽らんじじじ入入いれれれねねねばばばいかいかいかならならならせせせ給給たまははわむむん。。。あなあなあな見見み苦苦ぐるしししややや。。。ゆゝしうゆゝしうゆゆしゅう思思おもひひい出出いでででらるゝらるゝらるることことことももも侍侍はべるるるををを。。。いといといとこそこそこそわりなけれわりなけれわりなけれ」」」などなどなどいふいふいう。。。若若わかききき人々人々ひとびとははは「「「心心こころうううののの世世よややや」」」とととうちうちうち歎歎なげきききててて「「「このこのこの御御おんことことことよよよ、、、さりともさりともさりともかくかくかくててておろかおろかおろかにににはははよもよもよもなりなりなりはてはてはて給給たまははわじじじ。。。
現代語訳
父宮と姉君のお二人をお頼み申し上げて、あのような山里に年月を過ごしたけれど、ただいつとなく所在なく、もの寂しくはありながらも、たいそうこうまで心にしみて世をつらいものとも思い知らなかったのに、続いて呆れるようなお二人のご不幸を思った頃は、世にまた留まって片時も過ごせるとは思われず、恋しく悲しいことの類はあるまいと思ったのに、命長くて今までも生き長らえていると、人が思っていたよりは人並みにもなるような有様を、長く続くものとは思わないけれど、見ている限りは憎げのない匂宮のお心ばえやお扱いなので、だんだん思うことも薄らいで過ごしてきたのに、この節の身のつらさは、また言いようもなく、これで最後かと思われることであった。すっかり世を去ってしまわれた人々よりは、それでもこの方は、時々はどうして来ないことがあろうかとも思うべきなのに、今宵こうして見捨ててお出かけになるつらさに、過去も未来もすべて乱れて、心細くひどいのが、我ながら晴らしようもなく情けないことよ、自然と生き長らえたならばなどと慰めようと思うにつけても、さらに姨捨山の月ばかり澄み昇って、夜が更けるにつれて、万事に思い乱れていらっしゃる。
松風の吹いてくる音も、荒々しかった山おろしに比べれば、たいそうのどかで慕わしく感じのよいお住まいだけれど、今宵はそうも思われず、椎の葉の音には劣って思われる。「山里の松の陰でも、これほど身にしみる秋の風はなかった。過去のことは忘れてしまったのだろうか」。老女房たちなどは「もうお入りくださいませ。月を見るのは忌むものでございますのに。呆れたことに、ちょっとした果物さえご覧にならないので、どうおなりになるでしょう。ああ見苦しい。不吉に思い出されることもございますのに。たいそう困ったことです」などと言う。若い女房たちは「情けない世だこと」と嘆いて、「この宮のことよ、それでも、こうしておろそかになり果てなさることは、まさかないでしょう。
意訳
中の君は、宇治で父と姉を頼りに暮らした日々、二人を失った悲しみ、匂宮のもとで少しずつ癒やされた日々を思い返し、今夜の匂宮の出立が最もつらいと感じる。十六夜の月を見ながら、二条院の松風よりも宇治の椎の葉の音が恋しいと思い、身にしみる秋の風を詠む。老女房たちは月を見るのは不吉だと中に入るよう勧め、若い女房たちは匂宮の心変わりを案じる。
語釈・文法注
文法
- 「姨捨山の月」(更に姨捨山の月のみすみのぼりて)
- 「わが心慰めかねつ更級や姨捨山に照る月を見て」(古今集)による。慰めがたい心。
- 「椎の葉のおと」(椎の葉のおとには劣りておぼゆ)
- 宇治の山荘の椎の葉音。椎本の帖を思い起こさせる。
- 「月見るは忌み侍る」(月見るは忌み侍るものを)
- 月を見ることは不吉とされた。特に一人で見ることは物思いを誘う。
解説
中の君は、宇治での苦しみより、二条院で匂宮を待つ苦しみの方がつらいと感じる。「身にしむあきの風はなかりき」という歌に、都での孤独が凝縮されている。
老女房の「ゆゝしう思ひ出でらるゝこと」は、大君の死を指す。食を絶って衰弱した大君と、果物も口にしない中の君の姿が重なり、周囲は不安を募らせる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1016–1019頁(コマ219–220)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日