源氏物語 第49帖 宿木(9)
二条院への朝の訪れ
朝顔は「明くる間咲きて」とか、無常の世にもなぞらえられるのが心苦しいのだろう。格子も上げたまま、ほんのかりそめに横になりながら夜を明かしたので、この花の開く頃もただ一人で見ていた。薫は人を呼んで「北の院(二条院)に参るので、大げさでない車を出させよ」と言うと、「匂宮は昨日から内裏にいらっしゃるそうです。昨夜御車を連れて帰って参りました」と申し上げる。「それでもよい、あの対の御方がお加減が悪いというお見舞いを申し上げよう。今日は参内すべき日だから、日が高くならないうちに」と言って装束をつける。出かけるついでに庭に下りて花の中に混じっている姿も、わざわざ艶めかしく色めいて振る舞うわけではないが、不思議にただ見るだけで優美で気後れするほどで、ひどく気取った色好みたちとは比べようもなく、自然と趣深く見えた。朝顔を引き寄せると、露がひどくこぼれる。薫は、今朝の間だけの色を愛でようか、置く露が消えないうちに枯れていく花と見ながら、はかないなどと独り言を言って、折って持っていく。女郎花は見過ごして出かけた。夜が明けるにつれて霧が立ちこめた空が趣深いので、女たちはしどけなく朝寝をしているだろう、格子や妻戸などを叩いて咳払いをするのも初々しいだろう、朝早くに来てしまったものだと思いながら、人を呼んで中門の開いている所から見させると、「御格子は皆上げてあるようです。女房の気配などもいたしました」と申し上げるので、車を下りて霧の紛れに見苦しくなく歩み入るのを、女房たちは匂宮が忍び所からお帰りになったのかと見ると、露にしっとりと濡れた香りが例のたいそう格別に匂ってくるので、やはりすばらしい方だ。「お心をあまり抑えていらっしゃるのが憎らしい」などと、つまらないことに若い女房たちは言い合っている。驚いた顔もせず、ほどよく衣ずれの音を立てて御褥を差し出したりする様子もたいそう感じがよい。
- 1あくるあくるあくるまままさきさきさきてててとととかかか常常つねなきなきなき世世よにににもももなずらふるなずらふるなずらうるががが心苦心苦こころぐるしきしきしきなななめりめりめりかしかしかし。。。格格こう子子しもももあげあげあげながらながらながらいといといとかりそめかりそめかりそめにににうちうちうち臥臥ふしししつゝつゝつつ明明あかししし給給たまへへえばばば、、、このこのこの花花はなののの開開ひらくるくるくる程程ほどをををももも唯唯ただ一一ひと人人りのみのみのみぞぞぞ見見み給給たまひひいけるけるける。。。人人ひと召召めしししててて、、、「「「北北きたののの院院いんににに參參まいらららむむんににに、、、ことごとしからことごとしからことごとしからぬぬぬ車車くるまさしさしさしいださいださいださせよせよせよ」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば「「「宮宮みやははは昨日昨日きのうよりよりよりうちうちうちににになむなむなんおはしますおはしますおわしますなるなるなる。。。よべよべよべ御御おん車車くるまゐゐいてててかへりかへりかえり侍侍はべりりりにににききき」」」ととと申申もうすすす。。。「「「さばれさばれさばれ、、、かのかのかの對對たいののの御御おん方方かたののの惱惱なやみみみ給給たまふふうなるなるなるとぶらひとぶらひとぶらい聞聞きこえええむむん。。。今日今日きょうはははうちうちうちににに參參まいるるるべきべきべき日日ひなれなれなればばば日日ひたけたけたけぬぬぬさきさきさきににに」」」とととのたまひのたまひのたまいててて御御おんさうぞくさうぞくそうぞくししし給給たまふふう。。。出出いででで給給たまふふうまゝまゝままにににおりおりおりててて花花はなののの中中なかにににまじりまじりまじり給給たまへへえるるるさまさまさまももも殊殊こと更更さらにににえんえんえんだちだちだち色色いろめきめきめきてててももももてもてもてなしなしなし給給たまははわねねねどどど、、、怪怪あやしうしうしゅうたゞたゞただうちうちうち見見みるるるににになまめかしうなまめかしうなまめかしゅう耻耻はずかしげしげしげにてにてにていみじういみじういみじゅうけしきけしきけしきだつだつだつ色色いろごのみごのみごのみどもどもどもににになずらふなずらふなずらうべくべくべくもももあらあらあらずずず、、、おのづからおのづからおのずからをかしうをかしうおかしゅうぞぞぞ見見みえええ給給たまひひいけるけるける。。。朝朝あさ顏顏がおをををひきひきひきよせよせよせ給給たまふふうににに、、、露露つゆいたういたういとうこぼるこぼるこぼる。。。「「「けさけさけさのののまままののの色色いろにににやややめでめでめでむむんおくおくおく露露つゆののの消消きえええぬぬぬにににかゝるかゝるかかる花花はなとととみるみるみるみるみるみる。。。はかなはかなはかな」」」などなどなどひとりひとりひとりごちごちごちてててをりをりおりてててももも給給たまへへえりりり。。。女女おみ郞郞な花花へしをををばばばみみみすぎすぎすぎてててぞぞぞ出出いででで給給たまひひいぬるぬるぬる。。。
- 2明明あけけけはなるゝはなるゝはなるるまゝまゝままににに霧霧きりたちたちたちみちみちみちたるたるたる空空そらをかしきをかしきおかしきににに女女おんなどちどちどちはははしどけなくしどけなくしどけなくあさあさあさいいいししし給給たまへへえらららむむんかしかしかし、、、格格こう子子し妻妻つま戶戶どなどなどなどうちうちうちたゝきたゝきたたきこわこわこわづくらづくらずくらむむんこそこそこそうひうひしかるうひうひしかるういういしかるべけれべけれべけれ、、、あさまだきあさまだきあさまだきまだきまだきまだき來來きにににけりけりけりととと思思おもひひいながらながらながら、、、人人ひとめしめしめしててて中中ちゅう門門もんのののあきあきあきたるたるたるよりよりより見見みせせせ給給たまへへえばばば「「「みみみ格格こう子子しどもどもども皆皆みなまゐりまゐりまいりててて侍侍はべるるるべしべしべし。。。女房女房にょうぼうのののけはひけはひけはいなどなどなどししし侍侍はべりりりつつつ」」」ととと申申もうせせせばばば、、、おりおりおりててて霧霧きりのののまぎれまぎれまぎれにににさまさまさまよくよくよく步步あゆみみみ入入いりりり給給たまへへえるるるををを、、、宮宮みやののの忍忍しのびびびたるたるたる所所ところよりよりより歸歸かえりりり給給たまへへえるるるにににやややととと見見みるるるににに、、、露露つゆにににうちうちうちしめりしめりしめり給給たまへへえるるるかをりかをりかおり例例れいのののいといといとさまさまさまことことことににに匂匂におひひいくれくれくればばば猶猶なおめざましうめざましうめざましゅうおはすおはすおわすかしかしかし。。。「「「心心こころをををあまりあまりあまりをさめをさめおさめ給給たまへへえるるるこそこそこそにくけれにくけれにくけれ」」」などなどなどあいなくあいなくあいなく若若わかききき人々人々ひとびとなどなどなどははは聞聞きこえええあへあへあえりりり。。。驚驚おどろきききがほがほがおにににもももあらあらあらずずずよきよきよきほどほどほどににに打打うちちちそよめきそよめきそよめきててて御御おんしとねしとねしとねさしさしさし出出いでででなどなどなどするするするさまさまさまもももいといといとめやすしめやすしめやすし。。。
現代語訳
朝顔は「明くる間咲きて」とか、無常の世にもなぞらえられるのが心苦しいのであろう。格子も上げたまま、ほんのかりそめに横になりながら夜をお明かしになったので、この花の開く頃をも、ただ一人でご覧になっていた。薫は人を呼んで、「北の院に参るので、大げさでない車を出させよ」とおっしゃると、「匂宮は昨日から内裏にいらっしゃるそうです。昨夜、御車を連れて帰って参りました」と申し上げる。「それでもよい、あの対の御方がお加減が悪いそうなので、お見舞い申し上げよう。今日は参内すべき日なので、日が高くならないうちに」とおっしゃって、ご装束をおつけになる。お出かけになるついでに庭に下りて、花の中に混じっていらっしゃる様子も、わざわざ艶めかしく色めいて振る舞いなさるわけではないが、不思議にただ見るだけで優美で気後れするほどで、ひどく気取った色好みたちにはなぞらえようもなく、自然と趣深くお見えになった。朝顔を引き寄せなさると、露がひどくこぼれる。「今朝の間だけの色を愛でようか、置く露が消えないうちに枯れていく花と見ながら。はかない」などと独り言を言って、折って持っていらっしゃった。女郎花は見過ごしてお出かけになった。
夜が明けるにつれて、霧が立ちこめた空が趣深いので、女たちはしどけなく朝寝をしていらっしゃるだろう、格子や妻戸などを叩いて咳払いをするのも初々しいことだろう、朝早くに来てしまったことよと思いながら、人を呼んで、中門の開いている所から見させなさると、「御格子は皆上げてあるようでございます。女房の気配などもいたしました」と申し上げるので、車を下りて、霧の紛れに見苦しくなく歩み入りなさるのを、女房たちは、匂宮が忍び所からお帰りになったのだろうかと見ると、露にしっとりと濡れていらっしゃる香りが、例のたいそう格別に匂ってくるので、やはりすばらしくていらっしゃることよ。「お心をあまり抑えていらっしゃるのが憎らしい」などと、つまらないことに若い女房たちなどは言い合っている。驚いた顔もせず、ほどよく衣ずれの音を立てて、御褥を差し出したりする様子も、たいそう感じがよい。
意訳
夜明けに朝顔の咲く様子を一人眺めた薫は、匂宮が宮中にいると知って、中の君の見舞いに二条院へ向かう。出がけに露に濡れた朝顔を手折り、はかなさを歌に詠む。霧の中、薫は二条院に入り、女房たちはその香りに匂宮が帰ったかと思う。女房たちは薫の慎み深さを惜しみつつ、御褥を差し出して迎える。
語釈・文法注
文法
- 「あくるまさきて」(あくるまさきてとか常なき世にもなずらふるが)
- 朝顔は夜明けの間だけ咲いて、すぐしぼむ。無常のたとえ。
- 「北の院」(北の院に參らむに)
- 二条院。薫の三条の宮から見て北にあることからいう。
- 「あさまだき」(あさまだきまだき來にけりと)
- 朝早く。早すぎる訪問をためらう薫の心。
解説
薫は女郎花を見過ごし、朝顔だけを手折る。華やかな女郎花ではなく、はかない朝顔を選ぶところに、大君を偲ぶ薫の心がある。
若い女房たちは、薫が心を抑えすぎていると言い合う。薫と中の君の仲を望む女房たちの期待が、この後の場面の緊張を予感させる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1010–1013頁(コマ216–217)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日